2021年11月10日水曜日

慢性硬膜下血腫

 ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長


慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。

 転んで頭を打ったり、強くぶつけたりした時、頭の中に出血する場合があります。けがをしてすぐに出血が起きた場合は、「急性の出血」あるいは「血腫」などといいます。一方、けがをしてすぐの検査では異常がなかったのに、受傷してから1〜2カ月ほど経ってから徐々に頭の中に血が溜まってくる病気があり、これを「慢性硬膜下血腫」といいます。

 慢性硬膜下血腫は、50歳以上の中高年の方に多くみられ、お酒をよく飲む方、肝臓の悪い方、治療で血液をサラサラにする薬を服用している方もかかりやすいとされます。軽いけがの後でも発症することがあるので注意が必要です。冬季の北海道は、特に雪道の転倒事故に気を付けてください。

 慢性硬膜下血腫は、出血が少ない場合はほぼ無症状です。ある程度、血が溜まってくると脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。頭痛や頭の重だるい感じが代表的な症状です。治療前には自覚症状を訴えていなかった患者さんでも、治療後に頭が軽くなったという方が少なくないです。圧迫が進むと、足元がおぼつかなくなるなどの歩行障害や手足のまひといった、脳梗塞などの脳血管障害と似た症状を示すことも多いです。高齢者の場合、認知症と間違われているケースもよくみられます。また。高齢者は圧迫による頭痛などの症状を自覚していない例もあり、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、家族など周りの人が注意する必要があります。


治療について教えてください。

 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りは経過観察をします。内服薬を使用して様子をみる場合もあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する効果のある漢方薬を使うケースも増えています。

 圧迫が強い時や、先に挙げた症状が出ている時は、手術を行います。脳外科の手術というと大変怖いイメージを持っている方も多いと思いますが、硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行うもので、体への負担も少なく、高齢者でも受けることができます。むやみに恐れる必要はありません。

 頭を打っても、軽いけがであれば、慌てて病院に行かなくても大丈夫です。しかし、1カ月以上経ってから、頭が痛くなってくるなどの症状が出てきた時は、我慢しないで脳外科医を受診するようにしてください。

2021年11月3日水曜日

膵囊胞性腫瘍

 ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長


膵囊胞(すいのうほう)性腫瘍とはどのような病気ですか。

 囊胞とは、内部に液体がたまった袋のことで、膵臓の中や周りに液体がたまった袋ができた状態を膵囊胞といいます。いくつかタイプがありますが、そのうち腫瘍によるものが膵囊胞性腫瘍です。一般的に無症状で、検診などで偶然発見されるケースが多く、全人口の約2〜3%の人が膵囊胞性疾患を合併しているという報告もあり、決してまれな病気ではありません。年齢とともにその割合は増加し、80歳以上では約1割の合併頻度ともいわれています。基本的に経過観察でよいものと、放置していると悪性になる可能性が高いものがあります。

 膵囊胞性腫瘍のなかで、よくみられるのは膵管内乳頭粘液性腫瘍で英語の頭文字をとってIPMNと呼ばれます。検診で膵囊胞を指摘された場合、IPMNの可能性が高いといえます。膵管は、樹木のように中心に幹になる部分(主膵管)があって、そこから枝分かれしていますが、IPMNは主膵管にも枝分かれした部分にもできます。前者を主膵管型IPMN、後者を分枝型IPMNと分類しています。悪性を示す重要な所見として注意が必要なのは、主膵管の太さ(10mm以上)や嚢胞内の腫瘍の存在や造影剤によって染まるのう胞壁、のう胞が3cmを超えるサイズ、膵炎や黄疸などの症状があるケースなどです。


治療について教えてください。

 IPMNの治療は、先に述べた悪性を示す所見を認め、がんの可能性が高い場合は手術を選択します。一方、がんの可能性の低いIPMNについては、MRIなどを使って、大きさに変化がないかを数年間にわたって経過観察することが推奨されています。観察途中で、がん化を疑う変化がみられた場合は手術を行います。

 IPMNは、良性の病変から悪性の病変までを含んだ、大腸ポリープのような病変と考えてもらえば分かりやすいかと思います。時間経過とともに段階的に悪性になっていくことが知られており、悪性になると周囲臓器に浸潤し、膵がんと同様の経過をたどります。ただ、悪性化の前段階で発見・治療が可能な「治癒が見込める膵がん」ということもできます。検診などで膵囊胞を指摘された場合は、決して放置しないで、まずは精密検査を受けることが大切です。

2021年10月27日水曜日

うつ病からの復職

 ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 小谷 育男 診療部長


うつ状態を来す病気や障がいについて教えてください。

 古典的なうつ病は、中高年で職場に過剰に適応するような働き方の人がかかるというのが典型的ですが、最近ではより若年の社会人・職業人としての経験が浅い人で、仕事には行けないが趣味的なことは病前と同様に楽しめたりする「新型うつ」や「ディスチミア親和型うつ」と呼ばれるような病像の方も増えています。

 ほかに、確かに初発がうつ状態であっても、気分が高揚したり、攻撃性や活動性が高まったりする躁(そう)状態が、目立たず気付きにくい形で病歴の中にある「双極性障害」の方もいます。また、職場不適応などで二次的にうつ状態を来す原因として軽度の知的障がいや、知的機能のアンバランスさや、「グレーゾーン」と呼ばれる境界知能に位置することが目立たない形で存在する場合も在り、うつをきっかけに受診したことで、こうした生きづらさの原因が明らかになるケースもあります。

 うつ状態の治療ですが、近年はさまざまな苦悩を和らげたり、回復するまでの期間を短くしたりする上で効果のある薬が充実してきました。ただ、本質的には休養や環境の調整が大切で、そこが十分にできないまま、焦って元の生活に戻ろうとして、かえって失敗してしまうケースも多くみられます。

 うつが重篤な時期には「思考抑制」といって物事を考えたり判断したりする機能も衰えますが、症状が改善するに従って思考抑制が取れ、状況が見えてきて焦燥が募るような心境になることも多々あります。患者さんご本人の心情に寄り添いながらも、焦ってしまって回復への道のりが台無しにならないよう、周囲の御家族や主治医、産業医などが協力して順当な判断をしていくことが大切です。

主治医や産業医との連携について教えてください。

 近年は事業所・職場のメンタルヘルス対策の態勢も整いつつありますが、力の入れようは個別の事業所によってさまざまで、専任の産業医がいない職場や北海道の職員の相談も首都圏等の遠隔地からの通信で対応しているケースもあり、中には大部分を外部機関に任せているようなところもあります。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、復職プログラムも遠隔からのカウンセリングに限定され、本人の回復度と不適合な内容で、かえって自信を失ったり自尊感情が低下して、回復が遠ざかる場合もあります。復職へ向けての進め方は、適宜、病状や職場の状況を踏まえて、主治医と産業医、職場の衛生担当者が協議しながら実情に即して進めていくことが、「コロナ前」と比べてもより重要になっているといえます。

2021年10月20日水曜日

在宅(訪問)診療の役割とメリット

 ゲスト/医療法人社団 慈昂会 新道東在宅診療クリニック 小関 至 院長


病院に通うのが大変になってきました。在宅で診てもらう方法はありますか?

 現在の医療制度には外来と病院入院のほかに、「在宅(訪問)診療」というシステムがあります。これは通院が困難などで自宅での療養を希望する患者さんのために、医師が患者さんの自宅などに訪問して診察を行うものです。“在宅”とは自宅はもちろん、老人ホームや高齢者住宅も含まれます。医療機関によって異なりますが、一般的には訪問看護や介護ケアの指導・指示、療養生活の助言など、医療面だけでなく介護や精神面からもトータルでサポートしていくのが特徴です。患者さんだけでなく、ご家族も含めて支援するのが在宅診療です。

 在宅診療は、急病時に駆け付ける往診と異なり、前もって定めた日程に沿って定期的な診療を行います。月2〜4回の訪問が一般的ですが、急に体調が悪くなったり、普段とは違う症状が出たりした場合は、電話相談や緊急往診など24時間365日対応するクリニックが多いです。また、万が一の際に入院や、在宅ではできない検査や治療を実施できる医療機関と連携し、緊急時のバックアップ体制も確保しています。

 在宅診療では、自宅・施設での点滴や採血、在宅酸素療法、がんの指導管理・緩和ケア、薬局との連携による薬の処方・配達・服薬指導など、基本的には通院・入院するのと同等の医療を受けることができます。また、ご本人やご家族が希望すれば、在宅での看取りも可能です。患者さんにとっては通院や入退院の負担が減り、自宅という自分の好きなように過ごせる環境で診療やケアを受けられることが、在宅診療の最大のメリットといえます。

 新型コロナの感染拡大が医療や介護のあり方にも影響を与えています。感染対策で患者さんが外来受診を控えていること、また、コロナ禍での面会禁止などの不便さを解消するために、通院治療・入院治療から在宅診療に切り替える患者さんが増えています。持病が重症化しても病院には行きたくない、自宅で人生の最期を過ごしたいと意思表示される人も増えてきており、高齢者を中心に在宅医療の利用は今後さらに増えると予想されています。一方で、在宅を望んでもいろいろな条件があって“無理”だと思っている人がまだまだ多いようです。必要とする人ならばほとんどのケースで、住み慣れたわが家での診療に切り替えられるという選択肢があることを知ってほしいと思います。在宅診療を検討している人は、今かかっている病院の先生に相談するか、在宅診療専門のクリニックなどに直接問い合わせてください。

2021年10月13日水曜日

統合失調症

 ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 玉城 元之 医長


統合失調症とはどのような病気ですか。

 統合失調症は、10代後半から40歳くらいまでに発症しやすい脳の病気です。実際にないものが見える幻覚や人の悪口などの被害妄想といった「陽性症状」と、喜怒哀楽の表現が乏しくなったり、考えがまとまらなくなる状態が続いたりする「陰性症状」、記憶力や注意・集中力、判断力が低下する「認知機能障害」という3つの症状が特徴的です。周囲から見ると病的であっても、本人が病気を自覚できないのも特徴の一つで、受診や治療を拒むケースも少なくありません。

 原因はまだ特定されていませんが、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰分泌の関与が指摘されています。また、過度なストレスが発症の引き金になるとも考えられています。

 統合失調症は100人に1人がかかる身近な病気です。決して特殊な病気ではありません。もし病気になったとしても、患者さん本人はもちろん、家族のせいではないことを理解してください。また、統合失調症は不治の病ではなく、回復可能な病気です。適切な治療と精神科リハビリを行うことによって、多くの患者さんが自立した社会生活に復帰していることも広く知ってもらいたいです。


治療について教えてください。

 代表的な治療として、薬による治療と精神科リハビリがあります。

 ドーパミンの活動を抑える「抗精神病薬」を中心に、不安や抑うつを和らげる薬や睡眠薬、抗精神病薬の副作用を抑える薬などが使われます。いったん回復し安定しても、また症状が悪化したり再発したりするのを防ぐために、服薬をきちんと継続することが大切です。抗精神病薬は、以前は飲み薬による投与が一般的でしたが、現在は1回の注射で2〜4週間効果が持続する注射剤が登場しています。

 症状が安定してきたら、回復の程度に応じた精神科リハビリを行なっていきます。具体的には、作業療法士の指導のもと、さまざまな軽作業を通じて生活リズムや認知機能の改善を目指す「作業療法」や、地域生活に必要なコミュニケーション能力や自立生活技能などを訓練する「社会生活技能訓練」などがあります。

 多くの病気と同様に、統合失調症も発症から治療を開始するまでの期間が短いほど治療効果が高くなり、社会復帰後の状態も良好であることが分かっています。早期発見、早期治療が大切です。

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