2017年12月13日水曜日

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)


ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 副院長

下痢が長く続いている場合、どのような病気が考えられますか。
 下痢には「機能性」の原因と「炎症性」の原因があります。繰り返す下痢の原因として頻度が高いのは、ストレスなどによって腸の機能的な異常が生じる「過敏性腸症候群」です。腸に炎症は起こしておらず、血液検査や内視鏡検査でも正常で、入院や手術が必要になるほど重症化することはありません。一方、腸の炎症によって下痢や腹痛を起こす疾患を総称して「炎症性腸疾患」と呼んでいます。過敏性腸症候群と異なり、悪化すると血便、発熱、体重減少などをきたし、入院や手術が必要になることもあります。慢性的な下痢の要因となる炎症性腸疾患は「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」が代表です。いずれも免疫の異常で発症すると考えられていますが、はっきりとした原因は明らかになっておらず、完全に治癒させることが難しいため厚生労働省から難病に指定されています。患者数が年々増加しており、まれな病気ではなくなってきています。

潰瘍性大腸炎とクローン病について教えてください。
 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、粘膜がはがれたり(潰瘍)、ただれたり(びらん)します。粘液が混じった血便を伴うのが典型的です。重症化すると炎症は大腸全体に広がり、腹痛や血便が頻回になって入院治療を要することもあります。しかし、90%の患者さんは軽症・中等症で、適切な内服薬や座薬などによって外来で治療が可能です。炎症がおさまり症状が消失(寛解)しても、再び症状が発現(再燃)することが多く、寛解と再燃を繰り返すため、寛解期にも治療の継続が必要です。大腸がんを合併するリスクがあるため、定期的な内視鏡検査も必要です。
 クローン病は、口から肛門まですべての消化管に炎症が起こりえます。症状は病変の部位によってさまざまですが、初期症状で多いのは下痢と腹痛です。痔ろうなどの肛門病変が多いのも特徴です。炎症を繰り返し、腸に狭窄をきたしたり、穴があいたりすると手術が必要になることもあります。生物学的製剤という薬剤の開発などにより、治療は進歩していますが、潰瘍性大腸炎と比べ症状は重いことが多いです。潰瘍性大腸炎同様、寛解と再燃を繰り返します。
 下痢や腹痛が続く場合、特に血便や発熱がみられる場合には専門医による検査をお勧めします。

2017年12月6日水曜日

精神科における漢方薬の処方


医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

漢方薬と西洋薬の違いについて教えてください。
 西洋薬は原因のはっきりしない不定愁訴(しゅうそ)などに対応しづらいのですが、体全体を治すという発想の漢方薬なら有効なケースがよくあります。漢方薬は西洋薬に比べ、一般的に即効性は劣るものの副作用が少ない傾向にあります。ただし、まったく副作用がないわけではありません。また、漢方薬の持つ神秘的なイメージから、漢方薬だけで治療を望む方もいらっしゃいますが、効果の切れ味という点では、西洋薬に軍配があがることが多く、例えば、統合失調症や双極性感情障害(躁うつ病)、軽症以外のうつ病、てんかんについては西洋薬による治療を第一とするのが一般的です。
 つまり、漢方薬も西洋薬もそれぞれ長所と短所を併せ持っているわけです。両者は効果、副作用、治療期間などの特徴が異なるので、患者さんの状態によって使い分けたり、併用したりすることが大切です。

精神科ではどのような時に漢方薬を処方するのですか。
 高齢者に多い認知症の治療では、患者さんの家族を困らせる攻撃性、幻覚、妄想など周辺症状を和らげるために抑肝散(よくかんさん)という漢方薬が使われています。
 生理が近づくとイライラしたり気分が落ち込んだり心身ともに不調になってしまう、こんな悩みを持つ女性は多いです。月経前症候群というこうした症状や更年期障害などに使われるのが加味逍遙散(かみしょうようさん)です。イライラだけでなく、肩こりや不安感など多岐にわたる不調を和らげます。
 痛みやまひなど何らかの身体的な症状が出ているのに、検査をしても異常が見つからず、他の精神疾患もない病態を身体表現性障害と呼びます。ストレスや不安などの心理的な要因が作用して、身体症状があらわれると考えられています。代表的な症状の一つであるのどの異物感には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、胸苦しさには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが有効です。
 その他、トラウマによるフラッシュバックに有効な漢方薬の処方として四物湯(しもつとう)と桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の組み合わせがあります。また、発達障害の方や、敏感で繊細な方は、西洋薬は刺激が強すぎて飲めないことがあり、漢方薬を中心に対応するケースもあります。

2017年11月22日水曜日

GERD(胃食道逆流症)


佐野内科医院 佐野 公昭 院長

GERDとはどのような病気ですか。
 GERD(「ガード」と読みます)は、胃食道逆流症の英語の頭文字をとった略語で、胃の内容物が食道に逆流して起こる病気の総称です。
 胃内容物の食道への逆流が頻繁に起こるようになると、胃液の中の酸や消化酵素のために、胸やけや口の中まで酸っぱい水が上がる感じの呑酸(どんさん)が起こります。また、胃酸のために食道粘膜がただれて食道炎が起こる場合もあります。内視鏡で食道炎が認められるものを「逆流性食道炎」、胸やけなどの症状があるものの内視鏡で食道炎が確認できないものを「非びらん性胃食道逆流症」(NERD「ナード」)といいます。
 逆流する主な原因は、食道と胃の間を閉じている下部食道括約筋の衰えです。年齢を重ねるにつれてこの筋肉が弱まって、食道と胃の間が開き、胃酸が逆流しやすくなります。加齢や腹圧の上昇などによって胃が食道側に飛び出す食道裂孔ヘルニアも原因の一つです。
 近年、アシッド・ポケットとよばれる酸性胃液の層が食後1時間ほど経ってから胃の上の方にできることが酸の逆流と関係していると考えられるなど、この分野の研究は著しく進歩しており、GERD診療もさらに発展していくことが期待されています。

GERDの治療について教えてください。
 第一の治療は生活習慣の改善です。脂肪の多い食事、甘いもの、柑橘類などの食べ過ぎは控えた方がいいでしょう。また、食後すぐに横になるのをやめ、就寝の少なくとも2時間前からはものを食べないようにします。就寝時は頭を高くしたり、体の左側を下にする姿勢にすると逆流しにくくなります。肥満やたばこもよくありません。減量や禁煙が望まれます。
 第二の治療は薬物療法です。胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、その強力な作用で症状を改善させる代表格です。2015年には従来のPPIより酸分泌抑制効果が強力なカルシウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)も登場しました。PPIが効きにくい患者さんの中には、飲み忘れがあったり、飲むタイミングが適切でない方も見受けられます。食後の服用が一般的ですが、効き目が悪ければ、食前の服用を勧めるケースもあります。ごく最近、一部のPPIで1日2回に分けて服用する方法が保険診療で認められ、以前の薬も工夫次第で効果が得られるようになりました。このほか、食道の粘膜を保護する薬や胃の動きをよくする薬、漢方薬なども使います。
 第三の治療は手術です。重症だったり、再発を繰り返す場合に行います。以前は開腹術が行われていましたが、最近は腹腔鏡を用いた手術や内視鏡的な治療も行われるようになってきています。

2017年11月15日水曜日

舌側矯正


宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。それによって歯列のでこぼこや、上顎(がく)前突、下顎前突、さらに顎の左右のズレを気にする方が増えてきました。
 先日、30代の女性から「長年、でごぼこの歯並びがコンプレックスです。矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談を受けました。この女性に限らず、同様の悩みを持つ人は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると装着の違和感などで劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及してきました。
 「STb」は、「ST」が大文字、「b」が小文字で表記されるのが正しく、「ST」は考案者2人の頭文字、「b」はブラケット(歯に付ける器具)の略です。「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、歯が早く動くともいわれており、より進化した次世代ブラケットといえます。
 「STb」の登場により、話すことが多い職業の人や舌の違和感に対する不安などの理由で、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、専門医に相談してみてください。

2017年11月8日水曜日

白内障手術の合併症


大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の手術について教えてください。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠くと近くの2カ所に焦点が合う多焦点眼内レンズや、従来の多焦点眼内レンズの弱点である夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする現象などを解消したレンズも使われています。これらは健康保険が適用されませんが、先進医療に該当するため、民間生命保険の先進医療特約の対象となることがあります。そのほか、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズなど、自由診療も含めて眼内レンズの選択肢は広がっており、患者のニーズに合ったものを選ぶことが可能です。

白内障の手術で合併症など注意すべき点はありますか。
 日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。患者への身体的な負担も少なく、基本的に安全性の高い治療法ですが、合併症の可能性はゼロではありません。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、また、水晶体の袋を支えるチン小帯が弱くなっているので、濁りが目の奥に落下することもあり、慎重な施術が要求されます。通常の症例に比べると手術時間が長くかかります。
 眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。大きな破嚢は、眼内レンズを挿入できないケースもあり、この場合には後日眼内レンズを目の中に縫い付ける方法で挿入します。
 重度の合併症としては、約4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースがあります。直ちに硝子体手術を行えば、視力を維持できる可能性が高まります。
 術後、数カ月から数年してまた物が見えにくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋が濁ってくるのが原因です。再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に取り除くことができます。外来でできる治療で、視力も翌日には回復します。

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