2023年4月6日木曜日

不眠症

医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

不眠症について教えてください。

 日本では5人に1人の割合で不眠の訴えがみられます。そのうち日中の眠気などで生活に支障を来している場合には「不眠症」と診断されます。平均的な睡眠時間は、25歳で7時間、45歳で6.5時間、65歳では6時間程度です。適切な睡眠時間は人それぞれなので、これより短くても日中に支障がなければ問題ありません。

 不眠の原因はさまざまですが、生活習慣が原因の場合は「睡眠衛生指導」を行って習慣の改善を図ります。睡眠調整は「恒常性調節系(疲れたから眠る)」、「覚醒調節系(目を覚まさせる)」、「体内時計系(時間が来たから眠る)」の組み合わせで行われています。これらの仕組みの理解を基に〈朝日を浴びて体内時計を整える〉〈昼寝は午後3時前に30分以内とする〉〈夜には明るい光を見ない〉といった指導を行います。

 不眠の原因となる物質はニコチン、カフェイン、アルコールがよく知られています。ニコチンは吸入直後にはリラックス効果がありますが、この作用は急速に消失し覚醒作用だけが数時間持続してしまいます。また、カフェインは睡眠物質アデノシンの働きを妨げ、利尿作用もあることから不眠の原因となります。睡眠前4〜5時間はカフェイン摂取を避けてください。アルコールは睡眠導入には効果がありますが、睡眠後半では逆に睡眠が浅くなり、また利尿作用もあるためかえって不眠の原因となります。さらに、アルコールはすぐに耐性ができて、睡眠導入の効果が弱くなり摂取量が多くなってしまいます。

 眠れないからといって早くから寝ようとするのは逆効果です。普段寝る時間の2〜3時間前は“睡眠禁止ゾーン”と呼ばれる一日で一番眠れない時間帯です。早く床に就くと、この時間帯と重なり眠れず、余計に睡眠のことが気になり眠れなくなります。逆説的ですが、寝るのを遅くして布団の中にいる時間を短くし、睡眠の質を高める「睡眠制限法」という治療法もあります。

 睡眠薬にはいくつもの種類がありますが、現在大きく分けて「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬(きっこうやく)」という3つのタイプがあります。睡眠薬は依存性やふらつきが問題となりますが、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬はこれらの問題が比較的少ない睡眠薬です。いずれにしても睡眠薬なしで眠れるのがもっとも安全ですから、安易に薬に頼ろうとせず、まずは生活習慣を整える心掛けが大切といえます。

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