<非びらん性胃食道逆流症とは、どのような病気ですか>
胸やけしたり胃酸が込み上げたりするなどの逆流症状を来す疾患を「胃食道逆流症(GERD)」といいますが、その中で食道に炎症を認めるものを「逆流性食道炎」、炎症を認めないものを「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」と呼びます。
食生活の欧米化や、高齢社会が進んだことに加えて日本人のピロリ菌感染者が減少傾向にあることなどにより、今後、GERDの増加が予想されています。そして、GERDの患者さんの約3分の2がNERDであるとされており、その原因がまだ明らかになっていないため、治療に難渋するケースも多く、近年問題になっています。
NERDの患者さんは逆流性食道炎の患者さんと比べて、胃酸の逆流の程度は軽いのですが、それにもかかわらず逆流性食道炎の患者さんと同等以上の胸やけ症状を自覚することが特徴です。その理由として、胃酸以外の液体や気体の逆流の関与や、逆流に対する食道の知覚過敏、逆流が関与しない食道の運動機能異常などが考えられています。
<診断と治療について教えてください>
NERDの診断には、症状と逆流との関連性を評価する検査「食道pH・多チャンネルインピーダンスモニタリング」が有用ですが、国内では一部の限られた施設でしか実施されていません。そのため、逆流症状があっても内視鏡検査では食道に炎症所見が認められない場合、NERDと診断されることが一般的です。
NERDの治療は、逆流性食道炎と同様に第一選択薬に「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という強力な酸分泌抑制薬を使用します。しかし、約半数の患者さんには標準的なPPIによる治療は効果がないとされます。その場合は、PPIの投与量や投与方法を変更したり、さらに消化管運動改善薬や漢方薬を併用したりします。こうした内科的治療では効果が乏しく、逆流症状によって生活の質の著しい低下がみられるケースでは、逆流防止の外科手術が選択されることもあります。
NERDは「見えない現代病」とも呼ばれることがあり、病気としての認知度が低いです。検査を受けても病変が見つからず"気のせい”と診断されたり、胃炎など他の病気と間違われ不要な薬が処方されていたりすることもあるので注意が必要です。長引く逆流症状がある方は、あらためて専門医を受診することをお勧めします。
医療法人社団慈昂会
琴似駅前内科クリニック
髙柳 典弘 院長