[アルコール依存症の治療について教えてください]
アルコール依存症は、お酒の飲む量やタイミングなどをコントロールできなくなった状態をいいます。意志や性格の問題ではなく、お酒を飲む人なら誰にでも起こり得る身近な病気であることと、不治の病ではなく、適切な治療を継続すれば回復可能な病気であることを知ってほしいです。このことを理解するのが、予防や治療の大切な第一歩です。
治療は、同じアルコールの問題を抱えた当事者同士がつながり、励まし支え合いながら回復を目指す「(自助グループへの参加など)集団精神療法」や、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」を主軸に、お酒を飲みたい気持ちを低減させる薬を使う薬物療法を併用するなど、患者さん一人一人の状態、状況に応じ、いくつかの治療法を組み合わせ、飲酒習慣の改善に取り組んでいきます。
治療を始めても、お酒を飲みたいという欲求はゼロにはなりません。その時に助けになるのが依存症の仲間や自助グループの存在です。しらふの状態を長期間保っている仲間にアドバイスをもらいながら、回復のための計画を立てていきます。同時に、自分の体験を語ることで自分の気持ちを人に明かす能力や、他者の体験を聞くことで共感や理解をする能力など、社会的な機能を取り戻し、育んでいきます。
依存症が初期の場合には、適切な指導によって「節酒」を試みることもできますが、多くの場合、依存症からの回復は節酒では難しく、「断酒」が必要となります。しかし、患者さんにとってはかなりハードルが高く、ドロップアウトする人や、「飲酒できないなら病院に行かない」という人も少なくありません。そこで近年は、入院しての断酒を基本的な治療としながらも、通院や節酒を治療の入り口や断酒へのステップとして取り入れるプログラムも登場し、治療の幅が広がっています。
アルコール依存症は「否認の病」ともいわれています。本人は病気であることを、なかなか認めません。そのためアルコール依存症は医療とつながりにくい病気です。本人、そして、家族だけでは対応し切れない病気だと考えてください。大切な人がアルコール依存症かもしれないと感じたら、大きな問題が起きる前に、地域の精神保健福祉センターや保健所、専門医療機関、自助グループなど、アルコール依存症問題の専門家に相談し、専門的な治療につなげることが重要です。
医療法人北仁会 いしばし病院
畠上 大樹 副院長