2016年9月14日水曜日

インターネット依存症


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

インターネット依存とはどのような病気ですか。
 インターネット依存(ネット依存)とは、オンラインゲームなど、スマートフォンやSNS、動画閲覧を中心にインターネットのサービスを長時間使い続け、なかなかやめられず、健康や生活に支障が出ている状態のことをいいます。ネット依存の疑いがある成人は国内で約421万人、また、中高生は約52万人に上るといわれ、年々増加傾向にあります。
 ネット依存は、常にネットのことが頭から離れない状態になり、「少しだけ」と思ってネットにアクセスしても、その時間が守れず、使用時間が長時間化します。使用出来ないと易怒的になり、感情を爆発させたり、他のことへの意欲をなくしたりするケースもあります。その結果、昼夜逆転などによる不登校や欠勤、成績低下のほか、睡眠障害やうつ状態を呈するなど精神面でのトラブルや、頭痛や肥満、視力の低下といった身体的な症状を引き起こしたりします。
 ネット依存は短期で至り、また依存期間が長いほど回復しにくくなるため、特に子どものネット依存には注意が必要です。不登校やネット依存の疑いで外来を訪れる子どもの特徴として、その背景に両親の不仲や離婚・放任など家庭にも問題があるケースも目立ちます。

インターネット依存の治療について教えてください。
 先ず発症予防が大切です。インターネット、スマホの使用開始年齢をなるべく遅らせること、使用開始時には使用時間や使用場所などルールを決め、ペアレンタルロックをしっかりかけること。ネット依存について勉強することが役に立つと思います。
 現代社会でネットの使用を完全に絶つのは難しいので、ネット依存に関しては使用の軽減が治療目標となります。まず、ネット依存という病気について正しく知ることが治療の第一歩です。ネットのために自分が何を犠牲にしているのかを理解してもらい、本人の「このままではいけない」「変わりたい」という気持ちを引き出すことが必要です。家族のケアも大切です。特に、子どものネット依存では、家族をはじめ周囲の人が、本人と一緒に考えて、乗り越えていく手助けをしてあげる必要があります。その上で、2週間ネット使用を休む、時間場所を制限するなどの対応方法を決めます。ただし、依存症が重度になる程、問題の自覚がなく、治療の意思がないことも多いのです。その場合は、親などの支援が重要となります。
 ネット依存に限らず、内観療法という認知療法が行われることもあります。これにより、自分のことを客観的に見られるようになり、親や周囲の責任だと思っていたことを、自分の問題として捉え、前向きに行動できるようになります。

2016年9月7日水曜日

「禁煙外来」のすすめ


ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

タバコが主な原因とされる病気について教えてください。
 タバコを長年吸っていると、咳や痰が出やすくなる・止まらなくなる、体を動かすと息切れがするなどの症状が出てきます。重症になると息苦しさなどで日常生活にも支障をきたすようになり、最後は慢性呼吸不全と診断され、呼吸器だけでなく心臓や消化器など全身に症状があらわれるなど、生命の危険にもつながる病気を引き起こします。
 これらは「慢性閉塞性疾患(COPD)」と呼ばれる、肺への空気の流れが悪くなりうまく息が吐き出せなくなる病気です。以前は「慢性肺気腫」と呼ばれていました。タバコ以外にも大気汚染や粉じんなどが原因となることもありますが、現在は90%以上が喫煙によるものと考えられています。タバコなどの有害な物質を吸い込み肺に炎症が起こった状態が続くことで、痰が増えて気管支が狭くなったり、肺胞が壊れたりして呼吸をすることが難しくなっていきます。
 一度壊れた肺胞は二度と元には戻りません。呼吸機能が低下して重症になる前に、できるだけ早く正しい診断を受け治療を開始することが必要です。

禁煙のメリットについて教えてください。
 慢性閉塞性疾患の治療は、狭くなった気道を広げて呼吸を楽にする気管支拡張薬が基本となりますが、これだけでは病気の進行は止められませんので、禁煙が必要となります。禁煙のメリットは、肺を病気から守るだけでなく、味覚・嗅覚が鋭敏になる(食事が美味しく感じられる)、冷え性が改善される、骨が強くなる、血圧への悪い影響が減少する、免疫機能が正常になる、がん・脳卒中・心臓病にかかるリスクが減るなど多岐にわたります。
 タバコを吸っていると皮膚のハリがなくなり、目尻・口まわりなどのシワが増え実際の年齢よりも老けて見えることがあります。このような喫煙者に特有の顔を「スモーカーズ・フェイス」といい、ほかにも歯や歯茎の着色、唇の乾燥、口臭なども伴います。タバコは健康に害があるだけでなく、美容的にも悪影響であることは明らかです。副流煙を含め他人のタバコの煙を吸う受動喫煙の研究も進み、問題点が広く意識されるようになりました。自分と周囲の大切な人たちのためにも、症状のあるなしにかかわらず、一度、禁煙外来を訪れてみてください。

2016年8月24日水曜日

好酸球性肺炎


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

好酸球性肺炎とはどのような病気ですか。
 肺炎は文字通り肺が炎症を起こした状態を指します。日本人の病気による死因の第1位はがんですが、肺炎が3位であり油断できない病気です。一般的な肺炎は細菌やウイルスなどの病原体が、肺の奥にある小さな袋状の部分(肺胞)に感染して引き起こされる炎症です。原因となる病原体や、感染にいたった環境によっていくつかの種類に分けられ、症状や治療法もその種類によって異なります。好酸球性肺炎は、白血球の中の成分であり、アレルギーと関わりが深い好酸球によって引き起こされる特殊な肺炎です。タバコ、薬剤やある種のカビに対するアレルギー反応として発症したり、ぜんそく患者さんに併発したりすることがあります。
 症状は、細菌による一般的な肺炎とほぼ同様で数日から1〜2週間でせきや発熱、だるさなどが生じます。ぜんそくも悪化し、ヒューヒュー、ゼーゼーした音が生じることもあります。好酸球性肺炎は細菌によるものではないため抗生物質(抗菌薬)は効きません。せきや呼吸困難で病院を受診し、胸部X線検査や血液検査などで肺炎と診断され、抗生物質による治療でもよくならないため呼吸器の専門医に紹介されてくることがしばしばあります。

好酸球性肺炎の診断と治療について教えてください。
 検査では、胸部X線写真で肺炎像が確認されますが、一般的な肺炎とほとんど区別がつきません。胸部CTによる画像診断、血液検査や喀痰(かくたん)検査による好酸球の測定も行いますが、それでも確定診断にいたらない場合もあり、気管支鏡を用いて肺の中を洗浄して好酸球が増えているのを確認したり、肺の組織の一部を取る検査が必要になることがあります。このように、好酸球性肺炎は診断が難しい病気の一つです。
 治療は、原因物質が特定できる場合は、それらを除去・回避することによって自然に軽快します。原因物質が不明な場合にはステロイド薬による治療を行います。ただし細菌性の肺炎に対しては、ステロイド薬はかえって病状が悪化する可能性があるので、肺炎の鑑別による治療薬の選択が非常に重要です。ステロイドは一般的によく効きますが、薬の量を減らしていく過程で再発することもあり、数カ月間から数年間にわたるステロイド療法が必要となる場合もあります。

2016年8月17日水曜日

リウマチ治療〜『賢い患者』になるために〜


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

的確な治療を受けるために、上手な診察の受け方はありますか。
 リウマチの診断・治療は目覚ましい進歩を遂げています。特に関節リウマチの炎症や痛み、腫れ、関節破壊を引き起こす原因となる物質を抑える生物学的製剤が登場し、治療の目標は「寛解(症状が落ち着いて安定した状態)」を目指せるようになりました。現在では、患者さんが医師とともに目標をもって治療を進める「T2T(treat to target)」の時代となっています。ただそれでもリウマチの療養生活は長期戦です。患者さん自身もリウマチという病気とその治療法を理解して根気よく付き合い、「賢い患者」となり医療機関を上手に活用していかなければなりません。ここではリウマチ専門医としての立場から、賢い患者になるためのヒントを紹介します。
 受診する時は医師任せではなく、自分から症状を話し、どうしたいかを伝えることが重要です。医師に伝えたいことは事前にメモし、準備しておきましょう。“いつから”“どこが”“どのように”と症状や病状の変化を伝えるほか、治療中の病気など既往歴、おくすり手帳の服用履歴、健康診断の結果、不安や心配なこと、お願いしたいことなども患者さんから伝える大事な情報です。
 医師の説明が分からない時は、納得するまで質問することです。特に、検査や治療の“目的”“方法”“効果”“見通し”など大事な説明は、聞き間違いなどを防ぐために、メモを取りながら聞きましょう。医師に直接言いにくいことは、看護師に相談するのも手です。
 近年、患者さんから選ばれる病院を目指し、接遇力向上に力を入れる病院も増えています。私自身、知識や技術、経験だけでなく、不安を抱えている患者さんに寄り添う姿勢を忘れずに、一生のお付き合いができる関係づくりを大切にしています。患者さんも医師も人間同士。波長が合わない時もあるかもしれませんが、お互いが気持ちを通じ合わせる努力をすることも必要です。病気を治す目標に向けて二人三脚で歩む意欲を持ち、コミュニケーションを重ねていくことが、相互理解を深め信頼関係を強めるのです。
 一人で悩まないでだれかに相談することも大切です。不安や悩みを分かち合い、支え合うことのできる患者会やサポートグループへの参加はとても有意義です。患者さんやご家族の立場に沿った情報も得られ、病気に対する意識が高まり治療にも役立ちます。

2016年8月10日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 甲状腺は、首の前面、喉仏の下にあるチョウのような形の臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンをつくることです。甲状腺ホルモンは、人間の身体の基礎代謝の維持に必要なだけでなく、体の発育にも関係する大切なホルモンの一つで、子どもの成長促進にも欠かせません。
 甲状腺の病気は、大きくは三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られたバセドー病が大半です。これとは逆に、炎症が起きて機能が低下する病気もあり、代表的なものが橋本病(慢性甲状腺炎)です。三つめは甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。
 甲状腺の病気の多くは自己免疫疾患で、本来はウイルスなどの異物を撃退するための免疫系に何らかの異常が生じ、自分の体の組織の一部を抗原として認識してしまうために起きます。基本的には誰にでも起こりえる病気ですが、女性に多く、また、遺伝的な要因が大きく関係するとされています。

甲状腺の病気の検査、治療について教えてください。
 甲状腺ホルモンの分泌が多ければバセドー病の疑いが強まり、逆に少なければ、橋本病による甲状腺機能低下の可能性が高まります。甲状腺ホルモンやある種の抗体などを調べる血液検査、超音波検査やエックス線検査などを組み合わせて、正確な診断が可能になります。一方、腫瘍の診断は、触診、超音波検査、細胞診が三本柱です。
 バセドー病の治療は、抗甲状腺薬の服用が中心となりますが、手術や放射性ヨードの投与による方法もあります。橋本病には、甲状腺ホルモンの補充療法を行います。甲状腺腫瘍は、悪性の場合は進行度に応じた手術を選択します。良性の場合、基本的には経過観察を行いますが、腫瘍が大きい、圧迫などの症状がある、がんが否定しきれないなどのケースでは手術を行うこともあります。
 自覚症状がないことも多く、また症状が出てもほかの病気と間違われやすい甲状腺の病気ですが、早期に診断を確定して適切な治療を受ければ、健康な人と変わらない生活が送れます。家族に甲状腺の病気の方がいる場合は、症状がなくても定期検診をお勧めします。

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