2025年9月29日月曜日

抗菌薬(抗生物質)の適正使用について〜かぜに抗菌薬は不要です〜

<「抗菌薬(抗生物質)」はかぜに効果がありますか?>


 かぜの大半はウイルス感染によるものです。ウイルスは細菌よりはるかに小さく、構造や性質も大きく異なります。抗菌薬(抗生物質)はあくまで細菌に作用する薬であり、ウイルスには効果がありません。かぜに対して抗菌薬を服用しても治癒を早めることはなく、症状も軽くならないのです。むしろ、副作用として発疹や下痢などのリスクがあり、抗菌薬の不要な服用は体に負担をかけます。

 にもかかわらず、かぜに対して抗菌薬の処方を希望する患者さんは今も少なくなく、その背景には過去の経験に基づく誤認が影響していると考えられます。例えば、かぜの症状が出て数日間市販薬を飲んでも症状が良くならず、病院を受診して処方された抗菌薬を服用したところすぐに症状が改善した──というケースなどです。これは、自然経過でかぜが治るタイミングと重なっただけで、「抗菌薬が効いた」わけではありません。医師が患者さんの希望に配慮して抗菌薬を処方する場合もありますが、本来は医学的な必要性を慎重に見極めるべきです。

 ただし、かぜに似た症状でも高熱が出る細菌性扁桃腺や、黄色や緑色の鼻水が持続する急性副鼻腔炎などは細菌性の病気であるため、抗菌薬が有効です。


<薬剤耐性という言葉を聞いたことがありますが、どういう意味ですか>


 薬剤耐性とは、細菌に対して抗菌薬が効かなくなることです。細菌は、生き残るために薬に抵抗する仕組みを獲得し、抗菌薬が効かない「耐性菌」へと変化していきます。抗菌薬を不適切に繰り返し使用すると、耐性菌が増加し、その人個人の体内だけでなく、家庭内や医療現場、さらには社会全体へと広がり、公衆衛生上の大きな問題となります。耐性菌の増加によって、さまざまな感染症が従来の抗菌薬では治らなくなり、重症化や死亡のリスクが高まるのです。

 世界保健機関(WHO)は、2050年には薬剤耐性によって年間1000万人が命を落とす可能性があると警告しています。将来的には、がんによる死亡者数を上回る可能性があるともいわれており、世界的に対策が急がれています。

 抗菌薬を将来にわたって効果的に使い続けるためには、医学的根拠に基づき正しく使用する必要があり、そのためには医師と患者さんとが抗菌剤についての理解を共有していくことが重要です。




福住内科クリニック
佐藤 康裕 院長

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