<嘔吐恐怖症とはどのような病気ですか>
嘔吐恐怖症とは、吐き気がすることや嘔吐することへの顕著な恐怖と不安があり、吐き気や嘔吐を避けるため「人と食事ができない」「少量しか食べられない」「飛行機などの乗り物に乗れない」「歯科を受診できない」など、日常の行動が大きく制限され、生活に支障を来す病気です。
これらの症状(行動)が持続的(6カ月以上)にみられ、他の精神疾患によるものでないと鑑別できる場合、嘔吐恐怖症と診断されます。小学生で発症するケースが最も多いですが、成人してからの発症も珍しくありません。自分が嘔吐したこと、嘔吐しそうになったことがきっかけで発症することが多く、他人が嘔吐したのを目撃することなども発症のきっかけになります。
<治療について教えてください>
治療には大きく分けて、薬物療法と認知行動療法があります。両方を併用するケースも多いです。
薬物療法で主に使われるのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬です。服用を始めると、一定の割合で症状が軽減するなどの効果が期待できます。
認知行動療法とは、病気や症状の仕組みをよく知ってもらい、有効な対処法を実践していく治療法です。認知行動療法の一種である「暴露反応妨害法」を用います。
これは、まず嘔吐恐怖症がどういう病気なのかを理解してもらう心理教育から始めます。例えば、嘔吐という生理行動は、人間の生命維持に欠かせない仕組みであることや、吐き気がしても必ず嘔吐するわけではないこと、吐くのは決して怖いことではないと理解していただきます。次に、恐怖や不安を招くような場面を患者さんが避けないようにしていただき、段階的な目標に沿って徐々に身を慣らしてもらいます。最初のうち患者さんが強い恐怖や不安を覚えますが、段階を踏んで行っていけば、恐怖や不安がなくなっていくことを実感できるようになります。自分にできそうなところから少しずつ行うことが大切です。
また、患者さんは自分自身のことや内面に目が行き過ぎていることが多いので、意識的に“自分の外側”に目を向けてみることや、呼吸や瞑想を通して“今この瞬間”を意識する「マインドフルネス」なども治療と併せて行うと効果的です。
医療法人 耕仁会
札幌太田病院
太田 健介 院長