<強迫性障害とはどのような病気ですか>
汚れが気になっていつまでも手を洗う、戸締まりが心配で何度も玄関に戻る──。強迫性障害は、そういった過剰な心配が自分の意思に反して繰り返し浮かび、それを打ち消すために繰り返し同じ行為をしてしまう病気です。
その意識しても避けられない不安や心配を「強迫観念」、不安や心配を打ち消すために過剰に繰り返す行為を「強迫行為」と呼びます。自動車運転中に「誰かをひいてしまったのでは」と不安になり、その場に戻ったり、大切なものを捨ててしまうのが心配で、何でもため込んでしまったりするのも典型的な症状です。不合理な考えだと分かっていても頭から追い払うことができないことや、無意味と思っていてもやめられないことは、多かれ少なかれ誰にでもあることかもしれませんが、日常生活に支障があり、自分や周囲が困っている場合には強迫性障害と診断され、治療の対象になります。重症になると強迫行為を繰り返すうちに時間が過ぎ、学校や会社に遅刻する、外出ができないなど、引きこもりにつながるケースも少なくありません。
発症にはストレスなど多くの要因が関係しているとされますが、はっきりしたメカニズムは分かっていません。厚生労働省の試算では国内に100万人程度の患者さんがいるとされます。
<治療について教えてください>
治療には薬物療法と精神療法があります。薬物療法としては、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」という抗うつ剤が有効です。精神療法としては、あえて強迫観念を招くような場面に患者さんを立ち向かわせ、強迫行為をせずに我慢することで、不安が軽くなることを体験してもらう「曝露(ばくろ)反応妨害法」と呼ばれる方法が、一定の効果を上げています。根気強く続ければ苦手な場面に直面しても不安をあまり感じなくなります。一見簡単そうに思える曝露反応妨害法ですが、自己流で始めても効果は見込めず、専門家と二人三脚で進めることが重要です。
強迫性障害は潔癖症や神経質など性格の問題だと誤解されることも多いですが、きちんと治療すれば、日常生活に支障がないまでに回復・改善が期待できる病気です。一人で悩まず、早めに専門医に相談することをお勧めします。また、本人だけでなく家族や周囲の病気への理解も大切です。
医療法人 北仁会 いしばし病院
藤本 純 副院長