2015年6月9日火曜日
社交不安症
ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師
社交不安症とはどのような病気ですか。
近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック症や広場恐怖症などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安症(社交不安障害・SAD)もその一つです。
SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなるなどの症状が現れる病気です。ちょっと恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は常に「悪い評価をされるのではないか」「笑い者にされるのではないか」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりがつらくなり、不登校や出社拒否、自宅に引きこもるなど、社会生活に支障を来すケースも多いです。
SADは、比較的若いうち(10〜20歳代)から発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病など別の精神疾患の合併が問題となります。気持ちの問題か、心の病気か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴的な一面で、「内気な性格」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人が多い病気でもあります。
治療について教えてください。
SADの治療法には大きく二つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を第一選択で用いるケースが多いです。そのほか、ベンゾジアゼピン系抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図ります。精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを気付かせ、修正していく「認知療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで、段階的な目標に沿って徐々に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に適度な有酸素運動などの生活指導、呼吸法やリラックス法など不安状況への対処法の指導も行われます。
SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは治療すれば治る可能性が高い病気だと理解することです。「SADかな」と思い当たることがあれば、思い切って専門医を受診して適切な治療を受けることをお勧めします。
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