2026年1月19日月曜日

認知症になった家族と暮らすコツ

<認知症になった家族との暮らしかたについて教えてください>


 家族が認知症になると、介護者は困惑し、時に腹が立つこともあります。<忘れ物が増える><同じ問いが繰り返される><怒りっぽくなる>など、日々の変化に振り回され、どう接すればよいのか悩む場面は少なくありません。

 医学的な視点からみる、認知症になった家族との関わり方の“一つのコツ”は、「症状の背景を想像する姿勢」です。本人の言動の裏には、何らかの理由があるのです。

「もの盗られ妄想」はその典型です。財布が見当たらないと「誰かが取った」と家族を疑うことがありますが、これは性格の変化ではなく、「記憶の空白」を埋めようとする脳の反応なのです。背景を理解したからといって、状況が改善するとは限りませんが、暴言とも受け取れる言葉を「病気の症状」として捉えることで、本人との向き合い方に落ち着きを保ちやすくなります。症状そのものに感情をぶつけても事態は進まず、双方の負担が増すばかりです。

 次に重要なのは「正面から否定しないこと」です。再びもの盗られ妄想を例にすると、「盗っていない」と事実で押し返すと対立が深まります。そうではなく「一緒に探してみよう」などと提案すれば、状況の流れを変えることで混乱が広がりにくくなります。これは迎合ではなく、衝突を避けるための工夫です。

 生活環境を分かりやすく整える工夫も役に立ちます。予定表やメモの活用、ものの定位置化、不要な持ち物を減らす整理など、小さな調整の積み重ねによって、本人の戸惑いが和らぐことがあります。環境調整は派手さはありませんが、介護の場で用いられている基本的な取り組みです。

 介護者自身の疲労にも注意が必要です。認知症の行動や心理に関する症状(専門的にはBPSDと呼ばれます)は、家族の負担が高まると悪化しやすくなります。介護者が疲弊すれば、その雰囲気が本人に伝わり、悪循環に陥ることもあります。介護の質を保つには、適度に休息を取り入れることが欠かせません。デイサービスやショートステイの利用は、家族の負担を調整するための大切な仕組みです。薬物治療が助けになる場面もあります。特に不安や睡眠障害、幻覚や妄想などの症状が続く場合、一定の支えになります。薬剤には限界がありますが、生活を維持する手段の一つとなります。

 認知症と向き合う際、家族が「一人で抱え込まない」ことも非常に重要です。地域包括支援センターや主治医、ケアマネジャーといった専門職は、困った時の相談窓口です。専門職の方々と思いを共有することで、状況の受け止め方が変わることがあります。




医療法人社団 正心会
岡本病院
瀬川 隆之 医長

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