<高位脛骨骨切り術について教えてください>
「膝に痛みがある」「階段で踏ん張れなくなった」──このような症状がある方は、変形性膝関節症の疑いがあります。変形性膝関節症は、加齢とともに軟骨や骨がすり減り、O脚変形が強くなる病気です。立ったり座ったりする際や、階段の上り下りなどで膝が痛みます。
北海道は農業や漁業など一次産業に従事されている方が多く、毎日休みなく働く季節もあるため、痛みを我慢したまま重症化するケースも少なくありません。変形性膝関節症に対し、膝の変形を脛(すね)の骨の近位部で矯正し、膝の荷重位置をすり減った内側から正常な外側へと移す手術が「高位脛骨骨切り術(HTO)」です。この手術の最大の利点は、自分の膝(関節)を温存できることで、合併症のリスクが少なく、術後の日常生活におけるさまざまな活動に対する制限がほとんどありません。回復すれば、農作業などの重労働や力仕事も可能です。
“骨切り術”にはさまざまな種類(術式)があり、それぞれに特長があります。一方、患者さんの膝の病態(関節症の進行や変形の程度)も、一人一人異なります。そこで近年、個々の患者さんの膝の病態や年齢、体型、生活環境、スポーツや労働への復帰への希望などを総合的に判断して、その患者さんに最も合った術式を選択する「オーダーメードの骨切り術」が行われるようになりました。当院では、膝のO脚変形の程度が軽い患者さんには、侵襲の少ない「内側楔状(けつじょう)開大式高位脛骨骨切り術(OWHTO)」を行います。これは、膝に近い脛骨の内側に切り込みを入れ、変形を矯正してくさび型の人工骨を挟み、プレートとねじで固定する方法です。一方、O脚変形の程度が強い場合や関節症の進行が強い場合には、大きな矯正を行っても安全で骨癒合が早い「逆V字型高位脛骨骨切り術(逆V字HTO)」を選択します。これは膝に近い脛骨の外側から小さいくさび型の骨を切除し、変形を矯正して、切除した骨を内側の空隙に移植し、プレートとねじで固定する方法です。OWHTOは膝関節外科医がいる医療施設であれば、どこでも受けることができます。一方、逆V字HTOはOWHTOよりも手術の難易度が高いため、HTOの専門医がいる医療施設でなければ受けることができません。
進行した変形性膝関節症に対しては手術的治療を考えなくてはなりませんが、その選択肢としては上述したOWHTOや逆V字HTOに加えて、単顆型人工膝関節や全人工膝関節などもあります。それらの中から最善の治療を選択するのは、実は難しい医学的な問題なのです。膝関節専門医は、そのような患者さんの膝の病態、年齢、日々の生活と活動内容(スポーツ、職業、趣味)、膝以外の全身の状態、等を総合的に判断して、その患者さんが最適な手術を選択できるように正しい情報を提供します。膝の手術を検討する際は一人で悩まず、膝関節専門整形外科医に早めに相談してみてください。
医療法人知仁会 八木整形外科病院
安田 和則 名誉院長