2022年1月19日水曜日

下剤依存症

 ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長


市販されている便秘薬、病院で処方される便秘薬に依存のリスクはありますか。

 便秘薬は主に腸に大蠕動(ぜんどう)を起こさせる「刺激性下剤」と、便をやわらかくする「緩下剤」の2種類に分けられます。「刺激性下剤」は長期間、毎日使用すると、腸管壁の神経叢(神経の集まり)を障害することによって、腸が動く力を低下させます。はじめはよく効いたのに、蠕動が弱まり効き目が悪くなって使用量が増えていくという悪循環に陥りがちです。

 薬局で買える便秘薬は「刺激性下剤」が多く、代表的な成分はセンナ、大黄、アロエなどの生薬です。これらを用いたダイエットサプリや健康茶も市販されています。効果が強く、すっきりするので病院でも患者さんに好まれ、医師も安易に処方してしまう傾向があります。このため、高齢者には刺激性下剤の依存症になっている方が多くいらっしゃいます。下剤をやめられないだけでなく、下剤を増やしても満足な排便ができなくなり、ガス(おなら)も自然に出なくなって苦しむ人も少なくないです。こういった症状の方の大腸粘膜は黒く変化していて、「大腸黒皮症」と呼ばれます。

 内視鏡検査の際、大腸黒皮症が疑われる患者さんに「便秘薬を使いすぎていませんか?」と尋ねると、「下剤ではなく、便通を整えるお茶を飲んでいます」とお答えになる方も時々います。先に挙げた成分を含む健康茶などにも注意が必要です。


―どのような便秘薬を使えば安心でしょうか。

 便秘治療については医師も軽視しがちでしたが、2017年に診療ガイドラインが作られ啓蒙が少しずつ進んでいます。刺激性下剤は頓用や短期使用のみとし、週1~2回までにとどめるべきです。緩下剤は適切な量を毎日服用して排便をコントロールしていくのが正しい治療法です。

 第一選択薬は「酸化マグネシウム」で、腹痛や依存性が少なく安価で長期間使用できます。また、12年以降に5種類ほど便秘薬が新たに登場しており、医師の処方が必要ですが副作用が少なく比較的安全です。

 刺激性下剤依存症の治療は、刺激性下剤を中止し、酸化マグネシウムや新薬を組み合わせて使用していきます。依存症にならないためには、安易に効果の強い便秘薬を多用し、その感覚を覚えないことが大切です。依存症になってしまっている方は、腸が蠕動する力が残っているうちに離脱を目指すことをお勧めします。

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