「メンタルヘルス・ファーストエイド」について教えてください。
オーストラリアで誕生した「こころの応急処置」プログラムです。「うつ病」「不安障害」「依存症」「精神病」などの心の問題を抱えている人を専門家につなげる前に、身近な人が行う初期対応として開発されましたが、悩んでいる人への対応にも応用できます。
日本語版では、「り・は・あ・さ・る」の5つのステップに沿って支援を提供しますが、必要に応じてステップは前後したり繰り返したりしながら進めます。5つのステップのうち、「は:判断・批判せずにはなしを聞く」、「あ:あんしんと情報を提供する」、「さ:サポートを得るように勧める」、「る:セルフヘルプを勧める」については前編(12月12日掲載)で紹介しました。
「り・は・あ・さ・る」の「り」について教えてください。
「リスクを評価する」の「り」です。主に自殺の危険性についてチェックします。
もしその人が死にたいと思っていると気付いた場合には、勇気を出して「死にたいと思っているのですか?」など、穏やかに率直に尋ねることが大切です。
死にたい気持ちが分かった場合にはどうすればいいですか。
打ち明けてくれたことをねぎらいつつ、実際に何か計画しているのか、手段を準備しているのかなどを確かめます。具体的に用意しているほど、また、過去に自殺未遂の経験がある人ほどリスクが高いと言われています。
リスクが高いと感じたら無理して一人で対応せずに、病院や保健所、精神保健福祉センターなどの相談支援機関に、また緊急性が高い時は警察に相談するなど、本人の安全確保に動いてください。
死にたいと考えている人にどのように接すればいいですか。
まずは、あなたが心配していること、力になりたいと思っていることを伝えましょう。そして、話せるならば、できるだけ悩みを打ち明けてもらえるよう促しましょう。「死にたい」とは「死にたいほど辛い」ということであり、助けを求めるサインです。自殺を考える人の心理は、「死にたい」と「死にたくない」の間を振り子のように揺れています。話せた場合には、気持ちがホッとして穏やかになることがよくあります。
自殺について尋ねることで、「本人をその気にさせるのでは」「腹を立てるのでは」と心配する人もいらっしゃいますが、それは間違いです。「死にたいと思っているのですか?」と語りかけることは、相手の悩みを共有していくための入り口でもあります。むしろ「そのこと(自殺のこと)を話してもいいのだ」「分かってくれた」などという安心感につながります。「そんなバカなことを考えるな」と叱りつけるのは逆効果です。
どんなときに「り・は・あ・さ・る」の提供を考えればいいですか。
いつになく元気がない、ため息が目立つ、ずっと疲れているようだ、口数が減った、酒量が増えた…。家族や身近な人の「いつもと違う」様子に気付いたら、勇気を持って「どうしたの?」「眠れている?」など声を掛け、「り・は・あ・さ・る」の提供を始めましょう。
※メンタルヘルス・ファーストエイドをもっと知りたい方は、動画「こころのサインに気づいたら」(YouTube・厚生労働省チャンネル)が参考になります。