2018年1月31日水曜日

変形性ひざ関節症


ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 八木 知徳 理事長・院長

変形性ひざ関節症とはどのような病気ですか。
 50、60代の人が抱えるひざの痛みで最も多いのが変形性ひざ関節症です。関節の中で骨の表面を覆っている軟骨が、老化やけがによりすり減ることで発症します。
 初期症状は、立ち上がりや歩き始めといった動作を始める時、階段の上り下りの時などに感じる痛みや違和感で、しばらく休むと痛みがなくなる場合がほとんどです。症状が進むと、安静にしていても痛みが治りにくくなります。炎症のために水がたまったり、悪化に伴ってひざが見た目に大きく変形することもあります。
 関節軟骨は一度すり減ってしまうと、完全に元の状態には戻りません。しかし、早期に治療を開始することで、症状の進行を抑え、ひざの痛みや日常生活の不便を軽減することができます。少しでもひざに不安を感じたなら、まずは一度、整形外科でひざの診察を受けるようにしてください。

治療について教えてください。
 エックス線、MRIを撮ると症状の程度がおおよそ判明します。
 痛みが比較的軽く、画像診断でも軽症と診断されれば、関節軟骨の保護・潤滑作用のあるヒアルロン酸をひざに注射したり、肥満解消のための食事や筋力をつける運動を指導したりする保存的治療を行います。
 保存的治療で痛みが改善されない時は、手術で対処します。関節鏡で、老化して傷ついた半月板を取り除く手術、すねの骨を削って、O脚をややX脚に矯正することで、関節にかかる力を分散させる手術(高位脛骨骨切り術)、さらに重症な場合、変形した関節の一部または全部を人工関節に置き換える手術(人工ひざ関節置換術)などを行います。人工ひざ関節の手術を勧める目安としては、「一人で買い物に行けない」「階段の上り下りができない」「他の人と一緒のペースで行動できないので、旅行などに行けない」といった状況にあることが挙げられます。
 自分のひざを温存できるのが骨切り術の利点ですが、高齢の方の場合、骨の再生力が弱く適用できないケースもあります。術後数週間で歩けるようになり、痛みがほぼ確実に解消される人工ひざ関節置換術ですが、人工関節の摩耗などから再手術しなければならないケースもあります。このように治療法にはそれぞれ長所と短所があり、症状のみならず自分のライフスタイルを考えて、医師とよく相談して決めることが重要です。

2018年1月24日水曜日

関節リウマチと骨粗しょう症


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 副院長

関節リウマチと骨粗しょう症との関係について教えてください。
 免疫の異常により、関節を構成する滑膜という組織で炎症が起き、腫れや痛みが起こり、進行すると骨が破壊され関節が変形してしまう関節リウマチ。治りにくい病気でしたが、治療の進歩で、症状が落ち着き進行しない「寛解」も目指せるようになってきました。
 一方、骨粗しょう症は「いつのまにか骨折」で知られるように、無症状で進み、次々と胸椎や腰椎の圧迫骨折をきたし、生活の質を著しく悪化させます。骨折の治療が長引き身体機能が低下し、そのまま寝たきりになるなど介護が必要になるおそれもあるなど、骨粗しょう症の怖さは、骨折や転倒がきっかけで「健康寿命」を短くしてしまうことにあります。
 関節リウマチの患者さんは病態的に骨粗しょう症になりやすいと考えられ、また関節リウマチは40〜50歳代の女性に発症することが多く、この時期は閉経に伴う骨密度の低下を来たし始める年代とされています。さらに、関節リウマチの治療に使われるステロイドですが、飲み続けると、骨がもろくなる場合が多いことが知られています。
 つまり、関節リウマチの患者さんは「病態的」にも「年齢的」にも「治療的」にも、骨粗しょう症になりやすい状態にあるので、関節炎のコントロールはもとより、骨粗しょう症の予防や治療も必要になります。

骨粗しょう症に対する対策や治療について教えてください。
 骨粗しょう症は、年齢や遺伝などの避けられないリスクだけではなく、喫煙や過度の飲酒、偏った食生活、運動不足など、日々の生活習慣の積み重ねも関係して発症するので、今の自分に当てはまるリスクに注意しながら生活改善に取り組み、定期的に骨量(骨密度)測定など検診を受けることが大切です。
 治療の中心は薬物療法です。骨形成(骨が作られること)を促す薬と、骨吸収(骨が壊されること)を抑える薬など、様々な治療薬があります。特に、抗ランクル抗体薬と呼ばれる薬は、骨密度の上昇や骨折の予防効果を有するほかに、関節リウマチでみられる骨びらん(骨の一部が欠けていること)を改善させる効果もあり、2017年7月より関節リウマチの治療にも適用が拡大されました。それぞれの薬に長所短所があるので、医師とよく相談して治療薬を選択してください。

2018年1月17日水曜日

緑内障診療ガイドラインの改訂のポイント


ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

緑内障診療ガイドラインについて教えてください。 
 眼圧が上昇し、視神経が損傷を受けて視野が欠けていく緑内障。国内では40歳以上の20人に1人が発症し、中途失明の上位疾患の一つとなっています。主な治療は眼圧を下げる点眼薬で、きちんと継続すれば進行を止めたり遅らせたりして失明を免れることも十分可能です。最近は点眼薬の種類も増え、一層治療の幅が広がっています。
 近年、緑内障の診断、治療に関する知識や手段の発展は目覚ましいものがありますが、眼科医が日常診療において緑内障の患者さんを前にして、常に時代の水準に合致した適切な診療を行うための指針が、日本緑内障学会が編集・出版する「緑内障診療ガイドライン」です。2012年に第3版が刊行されてから5年が経過し、現在その改訂作業が進められているところです。

改訂のポイントについて教えてください。
 第3版が刊行された当時、「発達緑内障」と呼ばれる小児の緑内障については詳細な診断基準がありませんでしたが、改訂版では、発達緑内障という言葉はなくなり、小児緑内障は大きく「原発小児緑内障」と「続発小児緑内障」に二分されることになりました。
 もう一つのポイントは、これまで専門家の間でプレペリメトリー緑内障(PPG)と呼ばれていた、視野検査に異常が出る前段階を「前視野緑内障」と位置付けたことです。改訂前の緑内障の診断基準では、形態学的な変化と、視野の異常という機能的な変化がそろっていることが必要でした。しかし、近年、光干渉断層計(OCT)検査が普及し、網膜の神経線維の厚みの変化をより正確に判定できるようになったため、形態学的な変化・異常がありながらも、通常の視野検査でまだ視野欠損を認めない状態のPPGの診断がつくようになったという背景があります。
 PPGは原則的には無治療で慎重に経過観察されることも多かったのですが、緑内障患者さんにおいて視野障害が現れた時点ではすでに多くの方が網膜に障害を受けていることも分かっています。PPGが前視野緑内障と名付けられたことで、視野に異常が出る前のより網膜の障害が軽い状態から点眼治療を開始するケースが増え、緑内障の患者さん、そして潜在患者さんの視機能の質の維持につながる改訂になったといえるでしょう。

2018年1月10日水曜日

発達障害


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

発達障害について教えてください。
 近年、発達障害という言葉をあちこちで耳にするようになりました。発達障害は、気持ちを読み取るのが困難な「自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群など)」、読み書きなどが極端に苦手な「学習障害」、気が散りやすい「注意欠如多動性障害」などの総称です。外見からは分かりづらく、厚労省によると、発達障害の人は疑いを含めて約700万人に上ります。
 生まれつき、脳の働き方がほかの人と異なるために起こるもので、くわしいメカニズムは分かっていません。子育ての方法が悪いからではなく、また、心の病気とも違います。
 発達障害のある人は、家庭や学校や職場でさまざまな困難を抱えているケースが多いです。周囲からはやる気がないとか、いいかげんとか思われやすく、また、理解されにくく、誤解されやすく、孤立しやすく、“生きづらさ”を感じていることが多いです。また、発達障害はそれぞれの特性に合った支援や周囲の理解が得られないと、うつ病やパニック障害などを併発することもあります。発達障害に「ここから」という明確な境界線はありません。診断を受けるほどではないが、発達障害の傾向があり、日常生活に困っている人も多いと考えられます。

診療について教えてください。
 自身や家族、周囲の方の“生きづらさ”の原因が発達障害にあるのではないかと感じたら、ぜひ精神科など身近な専門機関に相談してほしいです。病名を恐れて診察を避けるのはマイナスです。例えば、子どもに発達障害がある場合、早い時期に適切な対応を開始することで、発達の偏り自体は変わらなくても、その人らしい成長を支え、不適応を軽減できることがわかってきました。
 大人になってから障害に気付く人もいます。本人や家族の声に丁寧に耳を傾けながら、“生きづらさ”を少しでも減らす努力と工夫を重ねていきます。周囲の協力も得ながら、仕事や対人コミュニケーションで、どうすればうまくやっていけるかを考えていきます。
 診療や対応の基本は「みんな違って、みんないい」です。発達障害の特徴をむしろ良さとして発揮している人も多いです。周囲の配慮により円滑に仕事をこなす人もいれば、興味ある分野で才能を伸ばす人もいます。

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