2016年6月8日水曜日

アルツハイマー病


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

アルツハイマー病とはどのような病気ですか。
 認知症の呼称について、日本認知症学会ではアルツハイマー型認知症を総称して「アルツハイマー病(AD)」として用いることが多いです。認知症の中でもADの割合は多く、近年、さらに増加傾向にあることが知られています。
 現在、日本の認知症患者はすでに453万人、軽度認知障害の方でも400万人を超え、65歳以上の高齢者の30%を占めています。世界では、現在3560万人が認知症に罹患(りかん)し、2050年には1億1540万人になると予想されています。
 わが国でのAD増加の背景には、生活習慣を含む環境的要因が関与している可能性が考えられます。危険因子として、疾患感受性遺伝子、ダウン症候群、食生活、高血圧、糖尿病、アルコールとの関連が示唆されています。
 家族が気付く初期症状は、すぐに忘れる、同じ事を何回も言ったり聞いたりする、置き忘れやしまい忘れ、人や物の名前が出てこない、漢字が書けないなど記憶障害に基づく症状が多いです。また、日付が分からなくなったり、道に迷ったりする時間や場所の見当識障害や、以前はあった興味・関心が薄れたり、だらしなくなる、些細な事で怒りっぽくなる、疑い深くなるなどの性格変化、「財布や通帳が盗まれた」などの被害妄想が生じることもあります。この時点では、うつ病と軽度認知障害の鑑別が重要となるケースもあります。
 症状は1年〜数年単位で進行し、①記憶障害 ②実行機能障害(段取りができない) ③換語障害(物の名前が出てこない)④失行(服の着方や道具の使い方が分からない) ⑤失認(品物を見ても何か分からない)が徐々に顕著になっていきます。最終的には、着衣、食事、トイレ、入浴などのセルフケア能力や、立つ、座る、歩くなどの基本的動作能力さえも喪失してしまう場合があります。

診断と治療について教えてください。
 認知症とは一度獲得された知的能力が脳の病気のために失われ、社会生活や日常生活に支障を来した状態です。そのため、診断には詳細な症状・生活歴などの問診に加えて、脳画像検査、採血検査、認知機能検査などの総合的評価が必要となります。
 ADの治療には精神的ケアと薬物療法があります。前者にはデイケアを利用した在宅介助があり、運動療法、レクリエーションなどの有効性が報告されています。後者は、現在4剤が治療薬として保険適用となっています。しかし、いずれの抗認知症薬にもメリットとデメリットがあり、使用の可否や薬剤の選択は専門医のもとで相談することが望ましいです。
 ADの長期介護に対する対応は介護者にも大きな肉体的・精神的負担を強いるため、負担の分担や精神的サポートなどの支援も重要です。介護保険、成年後見制度、かかりつけ医、ケアマネージャー、公的支援制度、老人介護施設やグループホーム、家族会、支援組織などに関する情報入手や利用も、必要に応じて積極的に行っていくべきです。

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