2020年10月14日水曜日

睡眠について

 ゲスト/さっぽろ香雪病院 小澤 剛久 診療部長

睡眠の基礎知識について教えてください。

 睡眠には心身の疲労を回復する働きがあるため、睡眠が量的に不足したり質的に悪化したりすると健康上の問題が発生します。十分な深い睡眠が獲得でき、中途覚醒の回数が少ない睡眠が「質の良い睡眠」です。一方、「質の悪い睡眠」は心疾患や脳血管疾患、うつ病などの精神疾患の原因にもなります。また、重大なヒューマンエラー(人為的な失敗、事故など)につながる可能性もあります。このため、適切な睡眠の量と質を確保することが非常に大切です。

 睡眠には、体が休む睡眠(レム睡眠)と脳が休む睡眠(ノンレム睡眠)の2種類があります。この2種類が1セットで、約90分周期で出現し、一晩で4〜5セット繰り返されます。

 レム睡眠は、前日の記憶を定着する、ストレス処理をするなどの役割があり、朝方になると持続時間が長くなります。ノンレム睡眠は、浅い睡眠のステージ1、2 と深い睡眠のステージ3があります。ステージ3の睡眠は、成長ホルモンの分泌や免疫機能のバランスに関与し、運動習慣がある人はこの睡眠時間が長くなる傾向がみられます。正常な睡眠では、入眠後にステージ3が出現し、睡眠の後半になるとステージ1、2の割合が増えます。したがって、就寝後まもなくしてステージ3の深いノンレム睡眠を得ることで、脳が休息し、前日の嫌な記憶が消され、心の疲れも取り除くことができます。また、3〜4時間の短時間睡眠では、朝方の長いレム睡眠を獲得できないので、記憶の定着が難しくなります。

 成長ホルモンは、成長期以降も体の代謝を調節し、これが低下すると老化が進むとされます。成長ホルモンが最も多く分泌されるのは深夜2時ごろで、この時間帯にノンレム睡眠に入っていれば、疲労が取れやすく、また体調の維持向上に効果が見込めます。

質の良い睡眠をとるにはどうすればいいですか。

 脳から分泌され、入眠覚醒を制御するホルモンである「メラトニン」は、目の網膜から入る光情報が消えることで合成が始まります。就寝前のスマートフォンからの光(特にブルーライト)は、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠の質の低下を招くため避けた方がいいでしょう。

 質の良い睡眠を得るには、①激しすぎない適度な運動習慣 ②就寝前の飲酒、喫煙、カフェイン摂取を控えること(アルコールはレム睡眠時間やノンレム睡眠のステージ3の時間を減らす悪影響を及ぼします。また、たばこに含まれるニコチンは覚醒作用が約1時間、カフェインは覚醒作用が約3〜5時間続きます) ③適切な睡眠環境づくり ④お昼過ぎ(午後)の短い仮眠(30分以内) ⑤寝床で長く過ごさない習慣、などを心掛けてください。

2020年10月7日水曜日

脳神経外科で診るめまい

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

めまいについて教えてください。

 脳神経外科の外来では、めまいを訴えて受診される患者さんが多くいらっしゃいます。初めて経験するめまいは、患者さんにとっては大変恐ろしく感じられるものです。「天井がぐるぐる回った」「後ろに倒れそうになった」「立ち上がったら目の前が暗くなった」「地震かと思った」といった症状がみられますが、多様な病気の原因が考えられます。

 頻度が高いものは、内耳障害によるめまいですが、脳の障害によって起こる“怖いめまい”との鑑別が重要です。症状の強さだけで判断することは禁物で、めまいとともに言葉のもつれや手足の脱力・しびれが出ているようであれば、脳の障害が疑われます。脳の障害によるめまいは極力早く診断し、治療に入る必要がありますが、その際にはMRIによる画像診断が有用です。

高齢者のめまいについて教えてください。

 高齢者は、加齢に伴う平衡感覚の衰えや血圧を調整する能力の衰えなどがあり、めまいを起こしやすいです。糖尿病や高血圧などの持病を抱えている人は、飲んでいる薬が多いため、その副作用などでめまいを起こすこともあります。もともと耳鳴りがあったり、以前から難聴があったりするケースも少なくありません。このような状況の下にめまいが起こっても、必ずしも内耳に障害があるとはいえず、高齢者のめまいは原因を明らかにできない場合もあります。

 「起立性低血圧」とは、座った状態から立ち上がる時に血圧が急激に低下する病態をいいます。若い人の場合、顔が青ざめ冷や汗が出るなどし、失神してしまうケースもあります。高齢者では若い人のような激しい反応は起こりにくいとされていますが、一方で、加齢のため血圧を一定に保つ自律神経の働きが衰えているため、血圧が少し下がっただけでもめまいを起こしやすく、やはり立ち上がる際には注意が必要です。

 暑い時期は汗をかきやすいため、脱水からめまいを起こすこともあります。特に高齢者はのどの渇きを感じにくいので、脱水が生じやすいです。夜間にトイレに行く回数を減らそうと水分補給を控えてしまうと脱水を起こしやすいので、入浴前後や就寝前にはコップ1杯の水を飲むようにしましょう。

 漢方薬がめまいの症状に有効なことも多いです。めまいの症状でお悩みの方は、ぜひ医療機関にご相談ください。

 

2020年9月23日水曜日

統合失調症

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 太田 健介 院長


統合失調症とはどのような病気ですか。

 統合失調症は、10代後半から30歳代までの時期に発病しやすい精神疾患です。発症頻度は100人に1人程で、決して珍しい病気ではありません。発病の原因は、まだ特定されていません。遺伝的、環境的要因の上に、強いストレスが掛かって発病すると考えられています。

 統合失調症は、病気によって症状が変化する傾向があります。大きく「陽性症状」と「陰性症状」に分けられます。陽性症状には、実際にないものが見えたり聞こえたりする幻覚・幻聴や、悪口を言われている、見張られているなどと感じる妄想のほか、滅裂な会話や行動などがあります。一方、陰性症状は、意欲が湧かないなど、うつ状態のように見える症状、不登校・出社拒否などの引きこもり傾向、集中力・判断力の低下といった認知機能の障害などがあります。

 本人が病気を自覚できずに発見が遅れがちであり、また、病識がなく、受診や治療を拒むことも少なくありません。ご家族など周囲の方が病気の兆候に気付いたら相談し受診につなげることが大事です。

治療について教えてください。

 現在では治療薬の有効性が増し、病気の研究が進み、適切な治療とリハビリを行うことによって多くの患者さんが自立した社会生活に復帰しています。

 治療は薬物療法を中心に、症状の程度や回復に応じて心理教育や支持的精神療法、認知行動療法、リハビリテーション(作業療法、デイケア、生活技能訓練など)など多様な療法を組み合わせて行います。病状が安定するまでにはある程度の時間を必要としますが、治療を続けることが大切です。

 多くの病気と同様に、統合失調症も発病から治療を開始するまでの期間が短いほど治療効果が高くなり、社会復帰後の状態も良好であることが分かっています。早期発見、早期治療が大切です。

 

2020年9月16日水曜日

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 北田 順也 副院長

COPDとはどのような病気ですか。

 COPDは、日本語で「慢性閉塞性肺疾患」と訳されます。

 タバコの煙を主とする有害物質を長期に吸入することによって生じる肺疾患のことです。徐々に呼吸機能が低下していき、病状が悪化すると身体を動かした時に息切れを起こすなど、日常生活に支障を来します。肺炎や心不全などの合併症を引き起こすことも多く、重症化すると命にかかわるケースもある怖い病気です。

 COPDの症状は多彩です。40歳以上で喫煙歴のある方(ご家族がたばこを吸っている場合も可能性があります)、せきやたんが出たり、ゼーゼーしたりすることがある方、階段や坂道をのぼる時や湯船に浸かった時、雪かきの作業時などに息切れを起こす方、かぜ症状を繰り返したり、治るまでに時間がかかる方などは、COPDの発症が疑われます。

診断と治療について教えてください。

 呼吸器内科では、胸部レントゲン写真・CT写真などを用いてCOPDを正確に診断することができます。また、気道の通りやすさなどを客観的に調べる呼吸機能検査では、自分の呼吸の機能が同性・同年代と比べて優れているのか劣っているのかを「肺年齢」という指標で示すことができます。

 COPDの治療の目標はせき、たん、息切れなどの症状やそれらによって損なわれた生活の質を改善と、徐々に低下する運動能力の維持、向上です。そのほか、COPDを増悪させる因子の予防(禁煙、ワクチン接種、手洗い、口腔ケアなどを行うこと)が重要になります。

 治療薬は、狭くなった気管支を拡げて呼吸を楽にする「気管支拡張薬」が用いられます。気管支や肺に直接薬が届くよう吸入薬を主に使います。 近年、新薬が続々と登場し治療は数年前のものとは大きく様変わりしています。薬物療法と運動療法(筋肉トレーニングやストレッチなど)、栄養療法などを組み合わせることで、病気の進行抑制や生命予後の改善が期待できます。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症、心血管系疾患、骨粗しょう症などを併発しているケースも多いので、これらに対する治療も重要です。

 COPDは軽症例から重症例までは薬物治療が可能ですが、超重症例になると薬中心の治療では改善が難しく、人工呼吸器を使用した治療などを要することもあります。そのため、少しでも早い段階で医療機関を受診し、適切な治療を開始することが何よりも重要です。

 

2020年9月9日水曜日

ランナーの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群とぬけぬけ病)

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

ランナーによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。

 ランニングブームが続いています。ランナー人口が増えている一方で、ランニングによるスポーツ障害が原因で走ることをやめる人も少なくありません。ひざやかかとの痛みもそうですが、股関節周辺の痛み・違和感に悩まされるランナーは多いです。一定の距離を走ると、脚の付け根や腹筋が痛くなってくる場合は「グロインペイン症候群」が疑われます。

 サッカー界でよく知られる症例ですが、ランナーにも多発します。股関節周囲の筋肉に負担のかかる走り方をしているため、それらの筋肉に疲労がたまって攣縮(れんしゅく)するのが主な原因かも知れません。

 もう一つ、走っているとおしりや太ももの裏側が痛くなったり、足に力が入らず真っ直ぐ走れなくなったりする症状がみられると、「ぬけぬけ病」の可能性があります。箱根駅伝で途中で走れなくなった選手がぬけぬけ病と指摘されるなど、病気の認知も進んできましたが、まだはっきりとした原因は明らかになっていません。これもグロインペイン症候群の一種で、梨状筋というおしりの筋肉が攣縮して神経の働きが障害されて起こるのではないかと考える向きもあります。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。

 病態がさまざまで、診断が難しいケースが多いですが、痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。

 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。

 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。画像診断をしても原因のはっきりしない股関節の痛みや、何らかの治療を受けているのに慢性的な痛みが取れず、悩んでいる方は一度診療することをおすすめ致します。