2018年6月20日水曜日

高齢者のめまい

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

高齢者のめまいについて教えてください。
 「天井がぐるぐる回った」「後ろに倒れそうになった」「立ち上がったら目の前が暗くなった」など「めまい」に悩む高齢者は少なくありません。年齢とともにめまいは起こりやすくなりますが、いくつも原因が考えられ、背後に恐ろしい病気が潜んでいる場合もあるため、「年のせいだから仕方ない」と軽く見てはいけません。
 頻度が高いものは内耳障害によるめまいですが、脳の障害によって起こる“怖いめまい”との鑑別が重要です。症状の強さだけで判断することは禁物で、めまいとともに舌のもつれや手足の脱力、しびれが出ているようであれば脳の障害が疑われます。脳の障害によるめまいは極力早く診断し治療に入る必要がありますが、その際にはMRIによる画像診断が有用です。

高齢者のめまいは、ほかにどんな特徴がありますか。
 加齢に伴って平衡感覚の衰えや、血圧を調整する能力の衰えが進むため、高齢者はめまいを起こしやすくなります。また、糖尿病や高血圧などの持病を抱えている人は服用する薬が多くなり、その副作用などからめまいを起こすこともあります。そのほか、もともと耳鳴りがあったり、以前から難聴があったりするケースもあり、複数の原因が重なっていることも多いです。このため、高齢者のめまいは原因を簡単に明らかにできないこともあります。
  「起立性低血圧」とは、座った状態から立ち上がる時に血圧が急激に低下する病態をいいます。若い人は起立性低血圧により顔が青ざめ冷や汗が出るなどし、失神してしまうケースもあります。高齢者では若い人のような激しい反応は起こりにくいとされていますが、一方で、加齢のため血圧が少し下がっただけでもめまいを起こしやすくなっているため、やはり立ち上がる際には注意が必要です。
 暑い時期は汗をかきやすいため、脱水からめまいを起こすこともあります。特に高齢者はのどの渇きを感じにくいので脱水が生じやすいです。夜間にトイレに行くのを減らそうと水分補給を控えてしまうと脱水を起こしやすくなってしまうので、入浴前後や就寝前にはコップ1杯の水を飲むようにしましょう。

2018年6月13日水曜日

職場のメンタルヘルス

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

職場のメンタルヘルスの現状について教えてください。
 現在、日本の就業人口は約6500万人といわれています。個人差はありますが、その大多数がストレスや悩み、不安などを感じながら仕事に従事しているのが現状です。ある調査では、約60%の労働者が「自分の仕事に不安、悩みがある」など心にストレスを感じていると報告されています。これらは職場内の人間関係や仕事の質、量、適性などによる原因のほか、昇進や異動、定年後の不安といった環境の変化に起因するところも大きいと考えられています。
 ストレスはさまざまなメンタルヘルス不調の原因となりますが、その中で最も頻度の高いものが「うつ病」です。うつ病は決して「メンタルの弱い人がかかる病気」ではなく、ストレスなどを誘因とした脳内化学伝達物質のアンバランスによって生じる「脳の病気」です。また、「生涯にうつ病を経験する人は14人に1人いる」という報告もあり、うつ病は誰でもかかる可能性があり、決して稀な病気ではないということを、本人のみならず職場の同僚、上司も理解しておく必要があります。

職場のメンタルヘルス対策について教えてください。
 近年、職場のメンタルヘルス対策は重要視されており、それらに携わる産業保健スタッフ(産業医、保健師、看護師、カウンセラーなど)を配置する職場も多くなってきました。また、主に管理職を対象としたメンタルヘルス研修会を開催している職場も増加しています。また、2016年度から厚労省は職場のメンタルヘルス不調者の早期発見・介入のため、「ストレスチェック制度」を導入しました。これは「ストレス状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを軽減させる」一次予防と、「リスクの高い労働者を発見し、医師による面接指導につなげる」二次予防を目的としたものです。具体的には「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」など計57項目からなるストレス評価尺度です。
 16年度、道内で精神障害による労災認定を受けた人はこれまでで最も多く、前年度に比べ2倍近くに増加しました。今後もこの傾向は続くものと予想されます。職場のメンタルヘルスに関して心配事があれば、まずは職場内の産業保健スタッフに相談すること、そして、必要があれば精神科・心療内科を受診することをお勧めします。

2018年6月6日水曜日

マダニ感染症

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

マダニ感染症について教えてください。
 登山やキャンプなど外での楽しみが増える時期、特に気を付けたいのは、マダニにかまれることで発症する感染症です。
 一般に見られるマダニは、アレルギーの原因になる小さくて目に見えないイエダニとは別の生物で、体長は3~4ミリで硬い外皮に覆われています。野山や沢に沿った斜面、牧草地などに生息していますが、山に入らなくても道路脇や草やぶなどにいることもあり、道内であればどこにいてもおかしくありません。
 マダニは、ウイルスや細菌を媒介する危険があり、道内では昨夏、マダニにかまれた男性が「ダニ媒介性脳炎」を発症し死亡しました。厚労省などによると、マダニにかまれてダニ媒介性脳炎に感染する患者は世界で年間6千人に及び、発症した場合の致死率は1〜20%にも上ります。人の潜伏期間は1、2週間ほどで、ウイルスの型によっては頭痛、嘔吐(おうと)がみられ、重症の場合は死に至ります。有効な治療法はまだ見つかっていません。
 ほかにも、マダニを媒介した感染症には皮膚が赤くなり、発熱や関節痛などインフルエンザと似た症状が出る「ライム病」、発熱を繰り返し髄膜炎などを引き起こす「回帰熱」などがあります。

対処法と予防法について教えてください。
 かまれないための対策が重要ですが、もしかまれた場合には、自分でマダニを皮膚から引きはがさないことです。マダニの口器は、釣り針のように皮膚内部に強く食い込みます。無理やり取ると口や頭部が残ってしまうことが多いので、医療機関での処置が推奨されます。その後も数週間は体調の変化に注意し、発熱などの症状が出たらすぐに診察を受けてください。
 森林などに入る時には、長袖、長ズボンを着用し、なるべく肌を露出しないこと。首にはタオルを巻き、シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は長靴の中に入れるなど、首回りやシャツ、ズボンの裾に隙間を作らないようにします。また、マダニが付いてもすぐ分かる薄い色の衣服を選んでください。虫よけ剤の利用も有効な対策の一つです。帰宅後、上着や作業着を家の中に持ち込まないようにし、下着を含めてすべて着替えます。さらに入浴時に、マダニが付いていないかよく確認しましょう。
 ダニ媒介性脳炎ワクチンの接種が可能です。保健所等に問い合わせてください。

2018年5月31日木曜日

逆流性食道炎と長引く咳

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

逆流性食道炎について教えてください。
 逆流性食道炎は、胃酸が食道へ逆流することで食道の粘膜に炎症が起こる病気です。通常食べた物は、食道と胃のつなぎ目にある下部食道括約筋という筋肉によって食道に逆流しないようになっていますが、これが機能しなくなると、胃の内容物が逆流してしまいます。これによって胸やけ、げっぷ、呑酸(どんさん・酸っぱいものがこみ上げてくる)、嚥下(えんげ)障害といった症状が生じますが、長引く咳(せき)も非常に多くみられる症状の一つです。
 逆流性食道炎で咳が出る理由は、逆流した胃酸が気管の入り口まで達し、気管に吸い込まれて粘膜を刺激するという説と、食道内に逆流した胃酸が食道の知覚神経を刺激し、それが気管や気管支の神経にも伝わり、気管が反射的にけいれん性収縮を起こすという説があります。
 食道に入ってきた胃酸の刺激は、心臓の拍動にも影響をもたらすことがあります。特に赤ちゃんの場合、生後2カ月頃までは下部食道括約筋の働きが未熟なため胃酸の逆流を起こしやすく、チアノーゼや無呼吸発作などの呼吸障害を招いたり、ひどい場合には心拍が停止したりするリスクもあります。子どもも大人も胃酸の逆流が原因の咳は、気管支炎や肺炎を引き起こすこともあるため、早めの対処が必要です。

かぜなどの他の原因による咳との違いはありますか。
 逆流性食道炎が原因の咳は、胃酸が上がり嘔吐しそうになる咳、えずくような咳、夜間眠れないほどの激しい咳といった特徴があります。また、胃酸の逆流の自覚症状があることが多いです。診断は、内視鏡検査によって逆流性食道炎の有無を確認します。
 治療は、咳止めやぜんそくの薬で症状が改善される場合もありますが、胃酸の逆流が続けば再発を繰り返しますので、プロトンポンプ阻害薬という胃酸の逆流を防ぐ薬を内服します。加えて、食後や飲酒後、2時間程度は横にならない、前かがみの姿勢や排便時の力み、重いものを持つなどで腹圧を上げない、ベルトや衣服で腹部を締め付けないなど、日常生活で胃酸の逆流の予防に注意することが重要です。
 咳が出る病気はたくさんありますが、「2〜3週間以上の長引く咳」「胸やけやげっぷ、呑酸などの症状がある」場合、逆流性食道炎が疑われることを知っておき、早めに適切な治療を受けましょう。

2018年5月23日水曜日

呼気一酸化窒素濃度の測定

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

呼気中の一酸化窒素濃度からどのようなことが分かりますか。
 1990年代以降の研究により、ぜんそくなどの患者さんは呼気中の一酸化窒素(NO)濃度が高くなることが明らかになりました。一般に呼気NOは喀痰(かくたん)中の好酸球数と相関することから、好酸球性の気道炎症の程度を測定できるバイオマーカーとなっています。実際の測定方法は、機械に一定のスピードで息を吹き込むとNO値が表示されます。値が高いほどアレルギー性の炎症が強いことを表します。
 長引く咳(せき)での受診時、単にかぜに伴う咳なのか、咳ぜんそくの可能性が高いかどうかの診断に役立ちます。咳ぜんそくはぜんそくの前段階の状態であり、アレルギー性の気道炎症が起きています。咳ぜんそくが疑われれば、吸入ステロイド薬による治療が開始されます。肺気腫や慢性気管支炎といった慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)ではNO値は上昇しない傾向があるので、咳ぜんそくやぜんそくとの鑑別にも役立ちます。また、ぜんそくで治療中の患者さんにおいては、現在の治療薬でコントロールできているかどうかの目安になります。

呼気一酸化窒素濃度の測定検査について教えてください。
 測定は一度だけではなく、時々行って値の経過を見ていくことが大切です。例えば、吸入ステロイド薬を続けて、ぜんそくのコントロールがついてくると、NO値は下がってきます。一般的には、正常値は25ppb(1ppbは10億分の1)以下となっています。
 咳ぜんそくでは25~50ppbのことが多く、50 ppb以上ではぜんそくが強く疑われます。しかし、この検査も万能ではなく、咳ぜんそくやぜんそくでも高値にならないことがあります。反対に、ぜんそくでなくても高値になることもあります。例えば、アレルギー性鼻炎やアトピーを合併していると高値になります。また、レタスやホウレンソウなどアルギニンを多く含む食事を取ると高くなります。一方で、習慣的な喫煙や運動後では低めになります。カフェイン、アルコールの摂取により低下することもあります。このように測定時には影響を及ぼす因子を考慮する必要がありますが、息を吹き込むだけの苦痛のない検査で、咳ぜんそくなどのアレルギー性の炎症の程度を簡単に把握できるので、非常に有用な検査といえます。