2018年8月8日水曜日

睡眠時無呼吸症候群

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気ですか。
 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中にのどの奥の空気の通り道(気道)が狭くなるなどして呼吸が何度も止まって熟睡できず、日中に強い眠気や倦怠感に悩まされる病気です。2003年の山陽新幹線の居眠り運転事件で、一般に知られるようになりました。睡眠中に無呼吸(10秒以上息が止まる状態)が1時間に5回以上、一晩に30回以上あるときにこの病気と診断されます。
 主な原因は、過度の肥満や下あごが小さいこと、扁桃(へんとう)などの肥大、鼻の病気などで、睡眠中に舌がのどの奥に落ち込み、気道をふさぐことで起きます。アルコールの摂取や加齢でも筋肉が緩んで睡眠時にのどが狭くなります。習慣的にいびきをかく場合には、背後にこの病気が潜んでいるかもしれません。大きないびきや、途中でつまったように音が止まるいびきは要注意です。ほとんどの場合、本人は無呼吸であることに気付いていないため、病気としての意識が薄く、受診には家族や周りの人の協力が大切です。
 睡眠時無呼吸症候群は放置すれば、慢性的な寝不足により日中の異常な眠気や集中力の低下などが起き、居眠りなどによる重大事故を招く恐れがあります。また、無呼吸の状態が続くため酸素不足となり、高血圧や糖尿病、動脈硬化、心臓病、脳卒中を引き起こす大きな要因ともなります。
 近年、患者数は増加傾向にあり、国内の有病率は成人男性の3〜4%以上に上ると推定されています。これは肥満者が増加しているというだけでなく、食生活の変化などにより下あごの発達が不十分な人が増えていることも関係しているとされます。

検査と治療について教えてください。
 検査は、一晩かけて睡眠中の呼吸やいびきの状態、血液中の酸素濃度、脳波や心電図などを測定し診断します。重症度を把握するためにも、この検査は不可欠です。簡易検査と言って、自宅で機械をつけて行う方法と病院に1泊入院をして脳波を含めて検査する精密検査の2つの方法があります。
 症状の改善のため、肥満の場合は減量を指導します。軽症の場合、気道が狭くならないよう、あおむけでなく、横向きに寝ることも効果的です。あごの位置を矯正するマウスピースを装着してもらうこともあります。無呼吸の状態が多い重症の場合は、鼻に特殊なマスクを付け、寝ている間、空気を送り続ける「CPAP(シー・パップ)療法」が有効です。

2018年8月1日水曜日

子どもの口腔機能発達不全

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

口腔機能発達不全とはどのような状態をいうのですか。
 口腔機能発達不全とは、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)がうまくできないこと、構音の異常があること、口だけで呼吸していることなどをいいます。症状としては、リラックスした状態で口がぽかんと半開きになっている、食べる時にくちゃくちゃと音がする、睡眠中にいびきをかいたり歯ぎしりをするなどが挙げられます。近年、歯科医院では、成人してからも中高年になっても生涯にわたって健康な口腔機能・状態を維持するために、子どものうちから成長段階に合わせた検査や指導を行い、口腔機能発達不全を予防・改善する取り組みを始めています。
 口腔機能は大きく「食べること」「話すこと」「呼吸すること」の3つに分けられます。食べることについては、歯の生え方や位置、かみ合わせの異常、咀嚼に影響するむし歯の有無などを確認します。また、嚥下機能について舌の動かし方や悪い癖がないかなどを診ます。話すことに関しては、口唇の異常や構音障害が出ているかを調べます。呼吸については、口蓋(がい)扁桃の肥大などをチェックし、口呼吸になっていないかを確認します。

子どもの口腔機能の発達について教えてください。
 通常生後5〜6カ月から離乳食が始まり、生後7〜8カ月に食べ物を舌で押しつぶせるようになります。生後8〜9カ月で乳切歯(にゅうせっし)が生え、生後9〜11カ月で歯を使って食べ物をある程度すりつぶせるようになります。生後12〜18カ月の幼児期初期には前歯が生えそろい、臼歯も生え始めます。食べ物を前歯でかじり取ったり、臼歯を使ってすりつぶしたりできるようになります。乳歯が生えそろう生後19カ月〜3歳の幼児期中期には手と口を協調させられるようになり、スプーンから箸への移行時期ともなります。4〜6歳の幼児期後期では、咀嚼力が強くなり、箸の使い方も上手になります。手と口の協調もさらにスムーズになり、食べることについては成熟した状態となります。続く6〜12歳の学童期は、乳歯から永久歯に生え替わる時期です。それに伴う歯ならびやかみ合わせの状態が、その後の口腔機能に大きな影響を及ぼす重要な時期でもあります。
 子どもの成長に合わせて、年齢に応じた口腔機能の発達を適切に管理し、不全の兆候がみられれば指導や治療を行うことはとても大切です。口腔内の状態によっては、小児科や耳鼻科などの他診療科や言語聴覚士など他職種とも連携し、治療や改善に取り組んでいきますが、歯科医院はその窓口的な役割も果たします。

2018年7月25日水曜日

関節周囲多剤注射(カクテル注射療法)

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 上田 大輔 医師

─カクテル注射療法とはどのようなものですか。
 人工膝関節置換術など整形外科領域の手術で、患者さんの満足度に著しく影響を与えるのが「手術後の痛み」です。術中は全身麻酔などによって痛みはありませんが、術後に麻酔がさめると痛みが出てきます。手術の傷跡の痛み、手術した部位の腫れによる痛みなど原因はさまざまですが、特に術後1、2日間が最も痛みの強い時期といわれています。
 手術後の痛みはある程度我慢するのが当たり前というのは古い考え方で、近年の臨床研究の結果から、術後の痛みをできるだけ緩和して、スムーズにリハビリを始めることが日常生活に早く戻る近道であることが分かってきました。術後に痛みが取れないと、機能の回復や改善に悪影響があることも分かっています。また、痛みからくる不安や心配は精神的な負担にもなります。
 そのため、整形外科医は手術後の痛みを抑えるためにさまざまな対策をしています。従来、背中から神経の近くにチューブを挿入する麻酔(硬膜外麻酔)や、患部に関連する神経に麻酔薬を注射するブロック注射が一般的でした。近年、「カクテル注射療法」と呼ばれる、関節の周囲に麻酔薬や炎症止めなどを混合した薬液を注射する処置が普及しつつあり、効果をあげています。

─カクテル注射療法について詳しく教えてください。
 術中、手術の傷を閉じる前に、患部の関節周辺の組織に局所麻酔薬やステロイド剤、抗生剤などの混合剤を直接注射するものです。カクテルとは、複数の薬剤を患者さんの症状や体質などに応じて組み合わせて使うという意味で、医療機関によって使用する薬剤や組み合わせの種類は異なります。術後の痛みが強いとされる人工膝関節置換術のほか、人工股関節置換術や骨切り術、前十字靭帯再建術などの手術にも用いられる、保険適用内の治療です。
 痛みが特に強いとされる2日間にしっかり効くというのが、カクテル注射療法の最大のメリットです。また、硬膜外麻酔のように体からチューブが出た状態にならないこと、ブロック注射のように運動神経まで抑制しないことから、術後のリハビリが円滑になるという利点もあります。
 これまで明らかな副作用は報告されていませんが、人工関節の周辺に注射をする場合は、糖尿病を合併している患者さんでは感染に注意する必要があります。

2018年7月4日水曜日

双極性感情障害

ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 宇佐見 誠 院長

双極性感情障害とはどのような病気ですか。
 双極性感情障害とは、かつて「そううつ病」と呼ばれた病態とほぼ同じです。うつ病のように、気分が落ち込んで、気力が湧かず憂うつな「うつ状態」が続くだけなく、うつ状態とは逆に、気分が高揚し、発言や行動が活発で抑制がきかなくなりがちな「そう状態」にもなります。多くの場合、うつ状態とそう状態が交互に出現し、これらが数週間、数カ月続きます。
 うつ状態のときは、何をするのも億劫(おっくう)で集中力がなく、悲観的になりやすいです。睡眠が十分に取れなかったり、食欲もなく疲れやすくなったりもします。また、そう状態のときは、いわば空元気で、気が大きくなり浪費したり、普段にない高飛車な物言いで周囲の人とのトラブルになったりする場合もあります。ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなる人もいます。
 病気の原因はまだ十分に解明されていませんが、双極性感情障害と診断される人は、近親者の中にも同じ病気になっている人が多く、遺伝が強く関係するとされています。

診断や治療について教えてください。
 双極性感情障害は初めに症状が出現するときはうつ状態を呈することが多く、発症時はうつ病なのか双極性感情障害なのかわからない場合も多々あります。経過中に明らかなそう状態が出現して初めて双極性感情障害という診断になりますが、そう状態の症状が軽いときは、自分では本来の調子の良さと誤解してしまいがちですし、周囲も気付きにくいです。なかなか治らないうつ病と思っていたら、実は双極性感情障害だったというケースも多いです。
 うつ病と双極性感情障害では治療がまったく異なるので、専門医による鑑別診断は非常に重要です。双極性感情障害の治療の柱となるのは薬物療法です。気分の変動を改善・予防する気分安定剤を用いて、うつ状態とそう状態の波をうまくコントロールすることが目標となります。
 継続的な治療が重要な病気ですが、元気に回復した人や、症状や気分をコントロールしながら普通の人と変わらない日常生活を送っている人もたくさんいます。「どこか調子がおかしいな」「今までと様子が違う」など、気になる症状がある人や、周囲が患者さんの不調に気付いた場合は、ためらわず近くの精神科・心療内科を受診してみてください。

2018年6月27日水曜日

白内障手術の合併症

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の手術について教えてください。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠くと近くの2カ所に焦点が合う多焦点眼内レンズや、従来の多焦点眼内レンズの弱点である夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする現象などを解消したレンズも使われています。これらは健康保険が適用されませんが、先進医療に該当するため、民間生命保険の先進医療特約の対象となることがあります。そのほか、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズなど、自由診療も含めて眼内レンズの選択肢は広がっており、患者のニーズに合ったものを選ぶことが可能です。

白内障の手術で合併症など注意すべき点はありますか。
 日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。患者への身体的な負担も少なく、基本的に安全性の高い治療法ですが、合併症の可能性はゼロではありません。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、また、水晶体の袋を支えるチン小帯が弱くなっているので、濁りが目の奥に落下することもあり、慎重な施術が要求されます。通常の症例に比べると手術時間が長くかかります。
 眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。大きな破嚢は、眼内レンズを挿入できないケースもあり、この場合には後日眼内レンズを目の中に縫い付ける方法で挿入します。
 重度の合併症としては、約4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースがあります。直ちに硝子体手術を行えば、視力を維持できる可能性が高まります。
 術後、数カ月から数年してまた物が見えにくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋が濁ってくるのが原因です。再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に取り除くことができます。外来でできる治療で、視力も翌日には回復します。