2019年9月11日水曜日

舌側矯正

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 近年、歯のかみ合わせと全身の健康状態やQOL(生活の質)との関係が、注目されるようになりました。それに並行し、口もとの美しさや歯並びに対する関心が高まり、歯の矯正治療が広く認知されてきました。矯正治療は子どものものと思われがちですが、最近は大人になって行う人も増えています。
 先日、30代の女性から「長年、歯並びの悪さがコンプレックスで矯正治療を考えていますが、装置を表からにするか、裏からにするか迷っている」との相談を受けました。この女性に限らず、歯列の凸凹や、上顎(がく)前突、下顎前突、さらにあごの左右のずれを気にする方は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、歯列やあごの骨のずれを治す矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など人前で話をする機会の多い方はそう考えるでしょう。思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、着けていても目立たない舌側矯正を選ぶ方もいます。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。他の人に気付かれることなく治療を行うことができる「見えない矯正治療」といえます。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると、装着時の違和感など劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及しています。
 「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、治療期間も短くなり、より進化した次世代のブラケットといえます。
 「STb」の登場により、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、矯正歯科に相談してみてください。

2019年9月4日水曜日

大人のADHD(注意欠陥多動性障害)

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 岩﨑 大知 医師

近年、大人になってから発覚するADHDが注目されています。
 ADHDは「注意欠陥多動性障害」という発達障害の一種で、不注意、多動・衝動性を特徴としています。子供の問題として知られていますが、半数近くは成人になっても症状が続くといわれています。子供の時に問題とされていなくとも、大学生や社会人となり、それまでより高度な能力が必要とされて初めて症状を自覚する場合があります。代表的な症状として「話を聞く時や作業時に集中力を保てない」、「会話の道筋が分からなくなる」、「物事の段取りを立てるのが苦手」、「ケアレスミスや忘れ物が多い」、「大事な約束をよく忘れる」などがあります。落ち着きがない・衝動的な行動をとるなどもADHDの症状ですが、成人ではそれらは目立たなくなっていることがあります。また成人のADHDの方はうつ病、不安症、物質依存(酒、タバコ、薬など)などを合併している割合が高いといわれています。それらの症状で受診した際に、背景にあるADHDが見つかる場合もあります。

治療について教えてください。
 治療にあたって、まずは自身の特性を理解していただきます。成人で受診する方の多くは「生きづらさ」を自覚しており、自己評価を低く持ちがちです。諸々の問題が精神発達によるものだと理解することは、自己評価を修正し、対策を考えるきっかけとなります。例えば時間や約束事の管理が下手と分かっていれば、スマートフォンのアプリなどを駆使して能力不足を補うことで、ある程度問題が解決する場合もあります。ADHDはある種のホルモンの異常が原因ともいわれており、それらを整える薬を使用して改善する場合もあります。心理療法を用いた訓練が有効な場合もあります。症状により周囲との関係に支障を来たしている場合は親や配偶者への心理教育、大学や職場の担当者との意見交換も重要となります。発達障害者への支援を行う機関や精神障害者保健福祉手帳(ADHDの診断で取得可能となっています)を利用していただくことも出来ます。
 誰もが長所と短所を持っており、ADHDの症状はその一つの側面と考えています。短所と上手く付き合い、長所を伸ばすことで自信を持って生活出来るようになっていただくことが我々の目標です。必ずしも薬や定期通院が必要となるわけではありませんので、気になる症状がある方は気軽に専門医に相談してほしいと思います。

2019年8月28日水曜日

糖尿病網膜症

ゲスト/大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長

糖尿病網膜症とはどのような病気ですか。
 糖尿病が原因で網膜の血管が傷む病気です。2019年現在、日本人の中途失明原因の2位を占めます。厚労省の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる成人の患者は16年時点で約1000万人と推計されています。
 血糖値が高い状態が長く続くと網膜の血流障害が進み、様々な眼障害を引きおこします。糖尿病網膜症には三つの段階があります。「単純網膜症」といわれる初期では、網膜の血管が傷んで細い血管にこぶができたり、弱くなった血管壁から血漿(けっしょう)成分が漏れたりしますが、この段階では血糖値管理を徹底すれば良くなる可能性があります。次の「前増殖網膜症」になると血管が閉塞し、白い綿のようにみえる軟性白斑が網膜にできることもあります。さらに進んで最終段階の「増殖網膜症」になると、網膜に弱くて出血しやすい新生血管ができて、硝子体出血や網膜剥離を起こしやすい状態となり、放置すれば失明のリスクも高くなります。
 厄介なのは、前増殖網膜症まで進行しても自覚症状がないことも多く、見えにくいと自覚するころには増殖網膜症に進行している可能性が高いことです。また、糖尿病網膜症は、網膜の中心である黄斑に浮腫を合併するケース(糖尿病黄斑浮腫)もあり、この場合は病状がそれほど進んでいなくても視力が落ちることもあります。

治療について教えてください。
 前増殖・増殖糖尿病網膜症においては、血管が閉塞した部分にレーザー光を当てる「網膜光凝固術」が多くの場合必要となります。新生血管から出血したり、網膜剥離を起こしたりしている場合は「硝子体手術」を行います。
 また、糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては近年、「抗VEGF薬」が保険診療として認められました。眼球に直接抗VEGF薬を投与するもので、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減し、視力を改善できるようになりました。ただ、複数回の治療を要すことや稀ではあるものの感染の危険性があること、保険適用であっても自己負担が比較的高い治療であることに留意する必要があります。黄斑浮腫の治療には、ほかにステロイド剤投与、レーザー治療、硝子体手術も検討されます。
 糖尿病網膜症が原因の失明を防ぐとともに、可能な限り視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが何よりも重要です。

2019年8月21日水曜日

先天欠如と過剰歯

ゲスト/E-line矯正歯科上野 拓郎 院長

先天欠如、過剰歯とはどのような状態をいいますか。
 乳歯が抜け、永久歯へと生え替わるのは成長の過程として当然、と思っていたはずが、お子さんになぜか抜けない乳歯があったり、乳歯が抜けても永久歯がなかなか生えてこなかったりすると、ちょっと不安になってしまいますよね。それはもしかすると、生まれつきの歯の形成異常の一種である「先天欠如」が原因かもしれません。一度かかりつけの矯正歯科に相談されるのがいいかと思います。
 先天欠如とは、永久歯がなんらかの原因で作られず、欠損している状態のことをいいます。国内では1本から数本の永久歯が生えてこない子どもが10人に1人程度いるとみられ、調査では下顎(かがく)の第2小臼歯の欠如率が高いとされています。
 永久歯が先天欠如すると、その部分の生え替わりが起こりません。乳歯がそのまま残っている間はいいのですが、その後どこかのタイミングで抜けてしまうことも多く、欠損部を放置していると周囲の歯が移動したり傾いたりして、歯並びやかみ合わせがどんどん悪くなります。
 先天欠如が見つかった場合に重要なのは、長期的な治療計画を立て、適切な時期に適切な治療を行うことです。残っている乳歯を大事にしながら、歯並びやかみ合わせに異常が生じないように管理を続け、しかるべきタイミングがきた時に矯正・補綴(ほてつ)治療を行います。6本以上の先天欠如であれば、矯正治療は保険適用となります。
 先天欠如とは逆に、正常な歯の数を超えてできた歯を過剰歯と呼びます。普通の歯と違い、きれいに生えてくることはあまりなく、多くの場合は顎の骨の中に埋まった状態か、正常な歯と歯の間に余分な歯が埋まっていたり、正常な歯と隣り合わせに生えてきたりします。放置していると歯並びやかみ合わせに悪影響を与えるのはもちろん、過剰歯の埋まっている場所が悪ければ、そのまま骨の中で成長すると永久歯の根元を溶かしてしまうことも。過剰歯が生える場所として最も多いのは、上顎の2本の前歯の間で、「前歯の間の隙間がふさがらない」「左右の前歯の生える時期が極端に違う」などの症状で気付くことが多いです。
 治療は、顎(あご)の骨の奥深くにあり、近くの歯に影響を与える心配がないときには抜かずに様子をみますが、将来的に悪影響が大きい場合は抜歯するのが基本。先天欠如と同様に、年齢に合わせて歯や顎の成長を予測、観察しながら長期的な治療プランが必要になります。

2019年8月14日水曜日

摂食障害

ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害はさまざまな心理的・社会的要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。極端に食事を制限する「神経性やせ症」、頻繁に過食をしてしまう「神経性過食症」「過食性障害」に大きく分けられます。
 極端なダイエットの反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまで、摂食障害と同時にうつ病やアルコール・薬物の使用障害など、ほかの精神疾患を併発する例も少なくありません。
 本人が隠したり、家族や周囲の人も病気に気付かなかったり、適切な治療を受けないまま重症化するケースが多く、摂食障害の死亡率は約5%(栄養失調による合併症など)と精神疾患の中で特に高い数値となっています。
 症状が出てから受診するまでの期間が、その後の経過を大きく左右するため、早期の診断・治療開始がとても重要です。

治療について教えてください。
 摂食障害の患者さんは、病気を治したいという思いよりも「これ以上太りたくない」「もっとやせたい」という気持ちの方が強くなっているなど、そもそも治療への意欲が低下していることが少なくありません。摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、「病気」であることを認識し、「気の持ちよう」や「本人の努力」だけでどうにもならないと知ることから始まります。周囲の助力と医療機関の助けが不可欠だと理解してもらわなければなりません。
 そのために、病気を「別れなければいけない恋人」に例えるなどし、擬人化することで、患者さんの内面に問題があるのではなく、その恋人=病気こそが問題の元凶なのだというふうに発想の転換を図ってもらう(外在化の技法)など、患者さん自身が治療に積極的に取り組み、医療者と力を合わせて治していこうという気持ちを持ってもらえるよう、さまざまな手を尽くします。
治療に特効薬はありませんが、認知行動療法や自助グループでの対話に効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は平坦ではありませんが、治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。