2017年11月15日水曜日

舌側矯正


宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。それによって歯列のでこぼこや、上顎(がく)前突、下顎前突、さらに顎の左右のズレを気にする方が増えてきました。
 先日、30代の女性から「長年、でごぼこの歯並びがコンプレックスです。矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談を受けました。この女性に限らず、同様の悩みを持つ人は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると装着の違和感などで劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及してきました。
 「STb」は、「ST」が大文字、「b」が小文字で表記されるのが正しく、「ST」は考案者2人の頭文字、「b」はブラケット(歯に付ける器具)の略です。「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、歯が早く動くともいわれており、より進化した次世代ブラケットといえます。
 「STb」の登場により、話すことが多い職業の人や舌の違和感に対する不安などの理由で、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、専門医に相談してみてください。

2017年11月8日水曜日

白内障手術の合併症


大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の手術について教えてください。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠くと近くの2カ所に焦点が合う多焦点眼内レンズや、従来の多焦点眼内レンズの弱点である夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする現象などを解消したレンズも使われています。これらは健康保険が適用されませんが、先進医療に該当するため、民間生命保険の先進医療特約の対象となることがあります。そのほか、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズなど、自由診療も含めて眼内レンズの選択肢は広がっており、患者のニーズに合ったものを選ぶことが可能です。

白内障の手術で合併症など注意すべき点はありますか。
 日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。患者への身体的な負担も少なく、基本的に安全性の高い治療法ですが、合併症の可能性はゼロではありません。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、また、水晶体の袋を支えるチン小帯が弱くなっているので、濁りが目の奥に落下することもあり、慎重な施術が要求されます。通常の症例に比べると手術時間が長くかかります。
 眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。大きな破嚢は、眼内レンズを挿入できないケースもあり、この場合には後日眼内レンズを目の中に縫い付ける方法で挿入します。
 重度の合併症としては、約4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースがあります。直ちに硝子体手術を行えば、視力を維持できる可能性が高まります。
 術後、数カ月から数年してまた物が見えにくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋が濁ってくるのが原因です。再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に取り除くことができます。外来でできる治療で、視力も翌日には回復します。

2017年11月1日水曜日

パニック障害


医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 丸尾 聖爾 医師

パニック障害はどのような病気ですか。
 パニック障害では、思い当たる原因がないのに突然、たとえようのない不安に襲われ、動悸(どうき)や呼吸困難、吐き気、めまい、手の震えなどの症状が現れます。本人は「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖感を感じることもあります。こうした発作(パニック発作)は繰り返し起こりますが、なぜ発作が起きたのか本人にもわからないため、「また激しい発作に襲われるのではないか」という「予期不安」に絶えず悩まされます。そうなると、電車、飛行機など逃げ場のない場所、デパートなどの人混み、病院や理髪店などのじっとしていなければならない場所を避けるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。
 原因はまだ十分に解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れて起こると考えられています。疫学調査では100人に1~2人が発症するといわれており、めずらしい病気ではありません。

診断や治療について教えてください。
 現在、広く用いられている診断基準(DSM-5/アメリカ精神医学会)に基づいて、発作の起きる状況や具体的な症状などを問診で確認して診断を行います。症状が似ている甲状腺の病気(甲状腺機能亢進症)や呼吸器疾患(ぜんそくなど)、心疾患(不整脈)などの内科の病気を除外する必要があります。
 治療法には薬物療法と認知行動療法があります。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と抗不安薬(ベンゾジアゼピン)という2種類の薬が有効で、併用して治療を行います。認知行動療法では、パニック発作について正しく理解して、発作が起こった際の対処法を学んでいただき、曝露療法によって不安場面に少しずつ慣らしていくなどの治療を行います。
 パニック障害は、決して本人の性格や気の持ちようなどで起きるのではなく、脳内の神経系の機能異常によって起きる病気です。そして、適切な治療を行えば良くなる病気です。パニック発作のような症状に悩まされている方は、出来るだけ早期に専門医を受診していただくことをお勧めします。

2017年10月25日水曜日

認知症の早期診断・治療の重要性


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院  丹羽 潤 先生

ほかの病気と同じように、認知症も早期診断・治療は重要ですか。
 認知症についても早期受診、早期診断、早期治療は非常に重要です。
 認知症と分類される病気は70以上あるといわれ、代表的なものはアルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症の4つです。頻度は少ないですが、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下など、適切な治療をすれば「治る認知症」もあります。ただし、治すためには早期発見が大原則となります。
 認知症で最も多いアルツハイマー病は少しずつ進行していきますが、早い時期に薬を使い始めれば、良い状態を長く維持することができます。本人が病気を理解できる時点で受診することで、将来自分はこうしたいという意思を示すことができるのも、早期診断の意義です。 
 病院では、問診、神経心理検査、MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影)、脳血流を調べるSPECTなどの画像検査を行い、認知症か正常の生理的な老化か、治る認知症か否か、原因の病気は何かなどを調べます。アルツハイマー病は、アミロイドβやタウたんぱくという物質が脳に蓄積していき、脳を萎縮させることで起こります。最近は、アミロイドβやタウたんぱくを検出できるPET検査も登場しています。これらの検査法が確立されれば、今よりもっと早期の診断が可能になります。

認知症予備軍の増加も問題になっていますね。
 専門用語では軽度認知障害(MCI)といいます。MCIは1年間に十数%の割合で認知症に移行し、6年で約80%が認知症に至ると報告されています。つまりMCIにはアルツハイマー病へ移行するタイプと移行しないタイプが存在するのです。
 現時点で両者を明確に鑑別する簡便な基準はありませんが、神経心理検査(コグニスタット認知機能検査)と脳血流SPECT検査により移行の予測因子を探る臨床研究を進めている病院もあります。今後は、アルツハイマー病へ移行するMCIか否かを早期に診断し、移行が推測される場合には早期から治療を開始するといった対策も必要でしょう。
 診断が早期であればあるほど治療は有効です。物事への興味や意欲の低下、手の込んだ料理を作れないなど、今までとは違う「変化」があったり、「もしかして…」と思ったら、躊躇(ちゅうちょ)せず身近な医療機関(脳外科、神経内科、精神科など)に相談することが大切です。

2017年10月18日水曜日

歯科矯正治療の基本のきほん


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

歯科矯正治療のことをいろいろ教えてください。
 反対咬合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(歯がかみ合わない)、叢生(乱ぐい歯・凸凹)などの歯のふぞろいや、上下の顎の歯並びがかみ合わない状態を専門的には「不正咬合」といいます。
 不正咬合により、食べ物がよくかめない、虫歯や歯周病になりやすい、顎関節に負担がかかる、発音が不明瞭になる、肩こりや頭痛、腰痛といった体の症状を引き起こすなどの問題が生じてきます。また、こうした健康面での影響のほかに、歯並びが悪いことを気にして、心理的なコンプレックスを持つ場合もあります。
 矯正歯科は歯並びをきれいに治すところというイメージがあるかもしれませんが、矯正治療の本来の目的は、このような不正咬合を正しいかみ合わせに治して、健康な心身を取り戻すことにあります。歯並びの美しさはかむ機能を追求した結果、得られるものだということを、皆さんにはまず知ってもらいたいです。
 矯正治療の開始年齢は、お子さんの場合は顎の骨の成長を利用した治療ができるので、年齢の低い方が有利な場合が多いです。開始年齢が早いと治療法の選択肢も広がります。早く治療をした方がいいケースと最適な時期を待っていても大丈夫なケースがあるので、やみくもに早く始める必要はありません。ただ、矯正歯科に相談する時期は「永久歯が生えてから」と思っている親御さんがいらっしゃるかもしれませんが、それではタイミングを逃してしまう場合があるので、お子さんの就学時にまず一度は受診してみることをお勧めします。
 すでに成長が止まった成人でも矯正治療は十分に可能です。子どもの矯正と比べ、治療の選択肢は狭まりますが、どんな方でも何歳になってもできます(若くても虫歯や歯周病など歯の状態が悪ければできないこともあります)。遅すぎるということはありません。歯並びやかみ合わせがよくなって人生観が変わり、元気になっていく方を私は何人も見ています。大人の矯正は「治したい」と思った時がチャンスだと考えてもらいたいです。
 矯正治療を専門とする開業医らでつくる日本臨床矯正歯科医会の調査で、転院や再治療で来院する小児患者の約56%が、前医院で納得のいく治療を受けられなかったという報告がありました。矯正治療は、期間が長くかかることもあり、患者さんの中には、複数の歯科医院で相談された上で治療先を決められる方も珍しくありません。大きなところでの違いはありませんが、まずは矯正相談に行かれて、その医院の治療方針や治療方法について納得のいく医院で治療されることが良いと思います。