2019年1月16日水曜日

リウマチ患者の災害への備え

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

─リウマチ患者の災害への備えについて教えてください。
 日本は世界の中でも災害の多い国です。昨年9月の北海道胆振東部地震、道内全域、約295万戸が停電する国内初のブラックアウトという未曾有の事態に都市機能はまひし、市民生活に大きな支障をきたしました。地下鉄や路線バスをはじめ、道内の交通機関は全面的にストップ、新千歳空港も閉鎖されました。また、家庭では冷蔵庫など保冷設備も通電せず、停電で店舗も閉まり、物資確保に困窮する人が続出しました。
 われわれ医療機関にも深刻な打撃を与えました。医療技術の進展で電力依存度が高まる中、電源喪失により外来診療を取りやめざるを得ない病院・クリニックも多かったです。当院もビルのエレベーターが止まり、電話が止まり、その日受診予定だった患者さんの対応に苦慮しましたが、万一の場合にと、紙カルテに電子カルテの処方箋の写しを残していたため、薬の処方という点では混乱なく対応することができました。近くの医療機関と普段から連携を進めるなど、災害に強いクリニックづくりを進めていかなければとあらためて強く思いました。
 安全確保のため、自宅を出て避難しなければならないような緊急時、関節リウマチの患者さんは、手足に症状が出て移動が困難になったり、薬による治療の中断を余儀なくされ症状が悪化したりすることが考えられます。自分が受けている医療を、避難先でも継続できるよう特段の準備をしておくことが重要です。
 災害時には、かかりつけの医療機関を受診できなくなる可能性も高いです。主治医以外の医師の診察も受けられるよう、自身の病状を把握しておく必要があります。服用している薬の説明に役立つのが「お薬手帳」。アレルギーや合併症の有無などを記録できるうえ、調剤を受けるたびに処方される医薬品の内容が更新されるので、緊急時に医療者が患者の病状を知る大きな手がかりになります。お薬手帳は分かりやすい場所に保管し、避難するときに忘れず持ち出せるよう普段から準備しておくことです。避難が必要になった時でも、財布と携帯電話やスマートフォンは持参している場合が多いので、薬のメモを財布に入れておいたり、薬の情報や写真を携帯電話に記録したり(撮ったり)しておくのも一案です。
 いつも飲んでいる薬は、非常用に3日分くらいを袋に入れて、決まった場所に保管しておきましょう。薬は、飲み切ってから処方が原則ですが、リウマチなど慢性疾患では、かかりつけ医と相談して完全に薬がなくなる前に受診し、常に数日〜1週間分ぐらい余裕があるようにしておくのも大切な備えです。

2019年1月9日水曜日

不登校

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 江川 浩司 副院長

不登校について教えてください。
 文部科学省は、1年間の欠席日数が病気などを除いて30日以上になることと定義しています。文科省が2018年2月に公表した「児童生徒の問題行動・不登校等調査」によると、年間30日以上欠席した不登校の子どもは、全国の小中学生合わせて前年度比6.1%増の13万3683人に上り、4年連続で増加しています。うち小学生は同10.4%増の3万448人、中学生は4.9%増の10万3235人。小学生では全児童の1%、中学生では全生徒の4.1%が不登校となっています。
 不登校の子どもへの支援を考えるとき、不登校の状態や継続している原因などを事例ごとに詳しく分析し、個別的にアプローチしていく必要があります。文科省の同調査(2014)によると、不登校になったきっかけと考えられる状況として、①学校生活によるトラブル(いじめ、集団生活が苦手、教師と合わないなど) ②学業不振 ③非行や遊び ④家庭環境(家庭内不和、金銭的問題など) ⑤無気力(登校しないことへの罪悪感が少ないなど) ⑥不安など情緒混乱(漠然とした不安や身体の不調を訴えるなど)の六つの要因が挙げられています。小中高生いずれも「不安など情緒的混乱」と「無気力」が例年、最も大きなウエイトを占めています。

子どもが不登校になったとき、どのように対応すればいいですか。
 不登校になったきっかけと考えられる原因を取り除いたり、環境・状況を調整したりすることも大事ですが、その裏に「本当の原因」「潜在的な要因」として、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、パニック障害、自閉症スペクトラム障害、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの精神疾患が隠れているケースも多いです。また、メンタルヘルスの問題以外の契機で不登校となっていても二次的にこれらの精神疾患を発症することもあります。
 うつ状態は自殺につながるリスクがあり、軽症であっても放置することは危険です。うつ病に限らず、心の病気は早期発見・治療が、病気からの回復・予後の改善に何よりも重要です。
 病院での適切な治療を経て、不登校が解消された例はたくさんあります。1〜2週間の欠席が続き、その原因がはっきりしない場合や、病気やけがが見つからないのに頭痛や腹痛などを訴え、欠席が続く場合などは、精神疾患が隠れている可能性があるので、「少しあやしいな」という時は迷わずに心療内科・精神科を受診してもらいたいと思います。

2018年12月19日水曜日

メンタルヘルス・ファーストエイド (後編)

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 鈴木 志麻子 先生

「メンタルヘルス・ファーストエイド」について教えてください。 
オーストラリアで誕生した「こころの応急処置」プログラムです。「うつ病」「不安障害」「依存症」「精神病」などの心の問題を抱えている人を専門家につなげる前に、身近な人が行う初期対応として開発されましたが、悩んでいる人への対応にも応用できます。
 日本語版では、「り・は・あ・さ・る」の5つのステップに沿って支援を提供しますが、必要に応じてステップは前後したり繰り返したりしながら進めます。5つのステップのうち、「は:判断・批判せずにはなしを聞く」、「あ:あんしんと情報を提供する」、「さ:サポートを得るように勧める」、「る:セルフヘルプを勧める」については前編(12月12日掲載)で紹介しました。

「り・は・あ・さ・る」の「り」について教えてください。
 「リスクを評価する」の「り」です。主に自殺の危険性についてチェックします。
 もしその人が死にたいと思っていると気付いた場合には、勇気を出して「死にたいと思っているのですか?」など、穏やかに率直に尋ねることが大切です。

死にたい気持ちが分かった場合にはどうすればいいですか。
 打ち明けてくれたことをねぎらいつつ、実際に何か計画しているのか、手段を準備しているのかなどを確かめます。具体的に用意しているほど、また、過去に自殺未遂の経験がある人ほどリスクが高いと言われています。
 リスクが高いと感じたら無理して一人で対応せずに、病院や保健所、精神保健福祉センターなどの相談支援機関に、また緊急性が高い時は警察に相談するなど、本人の安全確保に動いてください。

死にたいと考えている人にどのように接すればいいですか。
 まずは、あなたが心配していること、力になりたいと思っていることを伝えましょう。そして、話せるならば、できるだけ悩みを打ち明けてもらえるよう促しましょう。「死にたい」とは「死にたいほど辛い」ということであり、助けを求めるサインです。自殺を考える人の心理は、「死にたい」と「死にたくない」の間を振り子のように揺れています。話せた場合には、気持ちがホッとして穏やかになることがよくあります。
 自殺について尋ねることで、「本人をその気にさせるのでは」「腹を立てるのでは」と心配する人もいらっしゃいますが、それは間違いです。「死にたいと思っているのですか?」と語りかけることは、相手の悩みを共有していくための入り口でもあります。むしろ「そのこと(自殺のこと)を話してもいいのだ」「分かってくれた」などという安心感につながります。「そんなバカなことを考えるな」と叱りつけるのは逆効果です。

どんなときに「り・は・あ・さ・る」の提供を考えればいいですか。
 いつになく元気がない、ため息が目立つ、ずっと疲れているようだ、口数が減った、酒量が増えた…。家族や身近な人の「いつもと違う」様子に気付いたら、勇気を持って「どうしたの?」「眠れている?」など声を掛け、「り・は・あ・さ・る」の提供を始めましょう。
 ※メンタルヘルス・ファーストエイドをもっと知りたい方は、動画「こころのサインに気づいたら」(YouTube・厚生労働省チャンネル)が参考になります。

2018年12月12日水曜日

メンタルヘルス・ファーストエイド(前編)

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 鈴木 志麻子 先生

最近、「メンタルヘルス・ファーストエイド」という言葉を耳にしました。どういったものでしょうか。
 メンタルヘルス(心の健康)に問題が起きた人に対して、身近な人が提供する初期対応のことです。「こころの応急処置」と言ってもいいでしょう。これはオーストラリアで誕生したプログラムですが、現在は世界20カ国以上で用いられています。

どんな状況で提供するのですか。
 例えば、救急救命のファーストエイドにおいては「ABC(A:気道確保、B:人工呼吸、C:心臓マッサージ)など」が実施されますが、日本語版のメンタルヘルス・ファーストエイドでは「り・は・あ・さ・る」の5つのステップを実施します。5つのステップは必ずしも順に行うとは限らず、必要に応じて前後したり繰り返したりします。

「りはあさる」の「り」について教えてください。
 「リスク評価」の「り」です。自殺や他害の危機を評価します。後編(12月19日掲載予定)で詳しく紹介します。

「は」について教えてください。
 「判断・批判せずにはなしを聞く」の「は」です。悩んでいる人は、一方的にアドバイスされるより、辛い気持ちを理解してほしいと望んでいます。話を聞くこと自体が大きな支援であり、最も重要なステップです。価値観や考え方の違いから相手を批判したくなってもそうせずに、まずは温かみを持ってじっくりと話を聞くことが大事です。

「あ」について教えてください。
 「あんしんと情報を提供する」の「あ」です。専門的なことが分からなくても一緒に考えることが大切です。一緒に考えること自体も支援であり安心につながります。
 続いて、現在の苦しみが「うつ病」「不安障害」などの医学的問題であり、効果的な治療があることを伝えます。必要な時には、社会的問題(借金、ハラスメント、介護など)を相談できる専門機関があることも伝えます。適切な情報提供のためには、行政などが出している相談先案内一覧(パンフレットなど)が役立ちます。

「さ」について教えてください。
 「サポートを得るように勧める」の「さ」です。病院や相談支援機関のサポートを受けることで事態が良くなるというメリットを伝えることが大切です。ここでも一方的には勧めず、一緒に考えた上で提案し、相手の気持ちを踏まえた対応を心掛けましょう。「は」で、十分に話を聞いてもらえたと思えば、こうした勧めも受け入れやすくなります。

「る」について教えてください。
 「セルフヘルプを勧める」の「る」です。家族や友人に話をするよう勧めたり、楽になるようなこと(マッサージ、呼吸法など)や、同じ経験がある人に話を聞くことなどを提案したりします。ただし、無理に勧めないのが肝心です。
〜後編に続く〜
 ※メンタルヘルス・ファーストエイドをもっと知りたい方は、動画「こころのサインに気づいたら」(YouTube・厚生労働省チャンネル)が参考になります。

2018年12月5日水曜日

慢性硬膜下血腫

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。
 転んで頭を打ったり、強くぶつけたりした時、頭の中に出血することがあります。けがをしてすぐに出血が起きた場合は、急性の出血あるいは血腫などといいます。一方で、ケガをしてすぐの検査で異常がなかったのに、受傷してから1〜2カ月ほど経ってから徐々に頭の中に血が溜まってくる病気があり、これを「慢性硬膜下血腫」といいます。
 慢性硬膜下血腫は、50歳以上の中高年に多くみられ、酒飲みの人、肝臓の悪い人、治療のために血液をサラサラにする薬を服用している人は、この病気になりやすいとされています。このような人の場合、軽いケガの後でも発症することがあるので注意が必要です。北海道ではこの季節、特に雪道での転倒事故に気を付けてください。
 慢性硬膜下血腫は、出血が少ない場合はほぼ無症状です。ある程度、血が溜まってくると脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。代表的なものに頭痛や頭の重だるい感じが挙げられます。手術前に訴えのなかった患者さんでも、術後に頭が軽くなったという人も多いです。放置すると圧迫が進み、足元がおぼつかなくなるなどの歩行障害や手足のまひを起こしたり、脳梗塞などの脳血管障害と似た症状を示したりするケースも多いです。高齢者の場合、認知症と間違われていることも少なくありません。また、高齢者は圧迫があっても症状を自覚していない例もあり、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、家族など周りの人が注意する必要があります。

治療について教えてください。
 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りはそのまま経過観察をします。内服薬を使用して様子をみることもあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する効果のある漢方薬を使うケースも増えています。
 圧迫が強い場合や、症状が出ているものは手術を行います。脳外科の手術というと恐ろしいイメージを持っている方も多いと思いますが、慢性硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行い、高齢者でも受けることができます。
 頭を打っても、軽いケガであれば慌てて病院に行く必要はありません。しかし、1カ月以上経ってから頭が痛くなってきたり、先に挙げた症状が出てきたりした時は、我慢しないで専門医を受診するようにしてください。