2020年8月12日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2020年8月5日水曜日

精神科における病識がない患者さんについて

ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  瀬川 隆之 医師

「病識」という言葉の意味について教えてください。
 病識とは「自分は病気であるという自覚」のことです。精神疾患では自分が病気であることが分からなくなるケースがたくさんあり、これを「病識がない状態」といいます。
 病識がない状態は統合失調症やうつ病、躁うつ病、認知症などさまざまな精神疾患でみられます。周囲からみると病的であり、治療を受けた方がいいのは明らかであるのに、本人は自分が正常だと考えているのでいろいろなトラブルを引き起こします。病識がないことは、特に幻覚や妄想が活発な患者さんで問題になることが多いです。

病識がない患者さんをどのように治療するのでしょうか。
 病識がない患者さんには、周囲の善意はストレートには伝わりません。病識がない患者さんを受診につなげるにはそれぞれの疾患や、患者さん個々の特徴に合わせた工夫が必要です。例えば認知症の方であれば「65歳以上の人は健康診断が必要と、市から通知が来ている」と説明してもらったりします。また、幻覚や妄想が活発な統合失調症の方であれば、決して頭ごなしに否定せずに、不眠や不安など本人が苦しんでいることを動機に受診を促してもらったりします。
 何とか受診につなげた後もそこからまた治療を継続していくための工夫が必要です。病気とその治療についての正しい知識を教えてあげるのだ、という押し付けのような態度では患者さんに反発されてしまいます。私たち医療者は患者さんの味方であり、患者さんの困り事を解決する手助けをしたいのだ、という姿勢で信頼関係を築くように努力します。手助けの対象とする困り事は、ひとまずどんなものでもいいと思います。「社会復帰したい」「家族と仲良くやっていきたい」など通院や治療を続ける動機、治療のニーズを探し出すことが大切です。
 病識がないと、薬を飲むことに意義が感じられないので自己判断で薬をやめてしまう患者さんが多く、それがさらなる症状の悪化につながります。そのため、患者さんの状態がある程度落ち着いている時に、本人の同意を得た上で「持効性注射剤」という筋肉注射を導入することがあります。これは薬の成分がゆっくり時間をかけて体内に取り込まれる注射で、2〜4週間効果が続きます。これだけで十分なわけではありませんが、病識が不十分な患者さんの症状悪化を防ぐ有効な手段です。

2020年7月22日水曜日

中高年の失明を防ぐには

ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長

失明や視力障害の原因となる病気について教えてください。
 現在、中高年の失明原因の1位は緑内障、2位は糖尿病網膜症で、3位は網膜色素変性症、4位は加齢黄斑変性と続きます。これらのうち緑内障と糖尿病網膜症、加齢黄斑変性は早期の診断・治療によって失明を防ぐことができます。また、近視が強い人に多い網膜剥離も、前兆の段階で治療することができれば失明や視力障害に至らずに済みます。
 白内障は失明の原因になることは少ないですが、症状が進行すると視力が徐々に失われ、生活の質が著しく低下します。また、眼科を受診せずに白内障を放置していると、急性緑内障発作という失明につながる病気を引き起こすことがあります。白内障によって日常生活に不自由を感じている方は、早めに手術を受けることをお勧めします。

失明や視力障害を防ぐにはどうすればいいでしょうか。
 まずは一度、自覚症状がなくても眼科を受診して検査を受けることが大事です。①40歳以上で今まで一度も眼科にかかってない。②家族に緑内障の方がいる。③近視が強い。④糖尿病がある。⑤最近ごみが飛んでみえる症状がある。上記に一つでも当てはまるという方は、早めの受診・検査をお勧めします。
 ①は「40歳以上の20人に1人が緑内障を発症している」というデータに基づくものです。②、③は緑内障の危険因子です。緑内障は自覚症状が乏しいまま進行し、見づらくなって眼科を受診した時にはすでに失明寸前であるというケースも多いので、特に注意が必要です。④は糖尿病網膜症、⑤は網膜剥離(網膜裂孔)に関する症状で、いずれも検査で初期に見つけることができれば、失明のリスクを大幅に軽減できます。
 失明や視力障害につながる病気を早期に見つけるには、視力検査や眼底検査などの基本的な検査に加え、「視野検査」と「眼底3次元画像解析(OCT)」を受けるといいでしょう。視野検査では、緑内障の有無、進行度を確認することができます。OCTは視神経や網膜の断面を3次元で画像解析する検査で、緑内障や加齢黄斑変性の診断や経過観察において不可欠な検査です。
 目の不調を少しでも感じたら、老眼や目の疲れと決めつけず、眼科を受診し、これらの検査を受けて自分の目の状態を把握することが何よりも大切です。

2020年7月15日水曜日

性依存症

ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 白坂 知信 院長

性依存症とはどのような病気ですか。
 性的な衝動をどうしても抑えることができず、性的に不適切な行為に及ぶなど、問題行動を繰り返す状態を指します。「やめたくても、やめられない」と自己嫌悪に陥り、社会から阻害される人も少なくないです。
 趣味嗜好(しこう)の問題、規範意識の問題ととらえられがちですが、アルコール依存症や薬物依存症、ギャンブル依存症などと同じく、意志の力だけでは制御不能な精神疾患である依存症の一つで、治療が必要な病気です。
 性依存症の人には、生育歴に虐待や性被害などのトラウマ(心的外傷)を抱えているケースが少なくありません。性衝動の根幹には、怒りや恐怖、自己否定といった感じがあり、性的な行為を通じてしか自分の存在価値を感じられなかったり、周囲との関係を築けなかったりすることが多いです。
 性依存症の認知度はまだ低く、診断・治療を受けていない人も多いことが問題です。残念ながら、専門的な治療を行える医療機関がまだ少ないという現状もあります。

治療について教えてください。
 治療は、カウンセリングなどの精神療法が柱となります。物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」を主軸に、性依存から抜け出すために取り入れたい行動や考え方を分析していきます。例えば、性衝動が起こりやすい時間や状況などのパターンから、満員電車を避けたり、携帯電話のカメラを使えなくしたりするといった工夫や対処法を学んでもらう治療法もあります。
 アルコールや薬物などの依存症と同様に、当事者同士がつながり、支え合いながら回復を目指す自助グループへの参加も非常に有効です。自分の体験を語ることで、自分の気持ちを人に明かす能力や、他者の体験を聞くことで共感や理解をする能力など、社会的な機能を取り戻し、育みます。性衝動に身を任せていない、性的にしらふな状態を長期間保っている仲間にアドバイスをもらいながら、回復のための計画を立てていくのが一般的です。
 性依存が病気であることを自認することが治療への第一歩です。性依存症は、適切なプログラムによる治療を続ければ、改善されることが確認されています。性依存症は回復可能な病気であることを多くの人に知ってもらいたいです。

2020年7月8日水曜日

壊死性リンパ節炎

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

若者にみられる頸部リンパ節の腫れは、どのような病気が考えられますか。
 頚部のリンパ節が腫れる病気には、扁桃炎をはじめとしていくつもありますが、その中に「壊死性リンパ節炎」と呼ばれるものがあります。発見者の名前から「菊池病」ともいわれます。10歳代〜30歳代に発症することが多く、男性より女性にやや多くみられます。これは、のどの痛みなどかぜの症状の後に、頚部のリンパ節が腫れる病気です。リンパ節が数珠状に腫れ、一見してそれと分かります。化膿したときのように赤くはなりませんが、触ると痛いのが特徴です。感冒症状に前後して、38℃台の発熱が1週間位続くことがあります。また、皮膚に発疹が出ることもあります。まれに腋窩(えきか)、そけい部など全身の表在リンパ節が腫れることもあります。
 壊死性リンパ節炎の診断ですが、血液検査では白血球が減少する傾向があり、時に異型リンパ球が出現します。まれに、赤血球や血小板も同時に低下する例もあります。そのほか、炎症反応の上昇や肝機能の異常がみられることもあります。リンパ節の病理所見では、好中球などの炎症細胞の浸潤はみられず、壊死したリンパ球を食い荒らした大型の組織球が認められることより、この病気では体の免疫反応が過剰な状態になっていると考えられます。
 原因としては、かぜ症状から始まることからウイルス感染が疑われています。ヒトヘルペスウイルス6型や8型、EBウイルスなどの関与が示唆されていますが、確定はしていません。膠原病のほか、ダニの刺し傷、トキソプラズマ、猫ひっかき病との関連も報告されています。

壊死性リンパ節炎の治療について教えてください。
 半月〜2カ月程で自然に治癒するので薬は不要です。熱が続いて重篤な場合には、ステロイドを投与します。おおむね予後良好とされていますが、数ヶ月から数年後に再発する例が数%あります。まれに膠原病に進展したり、血球貪食症候群のような病態になったりすることもあるので慎重な経過観察が必要です。
 頸部リンパ節が腫れる病気の中でも特に鑑別に注意が必要なのは、悪性リンパ腫、結核性リンパ節炎、局所のリンパ節腫脹から始まる全身性エリテマトーデス(SLE)などです。確実な診断には、皮膚を切開してのリンパ節生検が必要ですが、実際には症状が重篤でない限り最初から生検することはなかなか難しく、経過をみながら他の病気を除外していくことになります。