ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 神廣 憲記 医師
精神科病院で総合診療を展開されている立場から、精神疾患を抱える患者さんの身体疾患の診療について教えてください。
精神科病院に入院される方の内訳については、従来は比較的若年の統合失調症の方が多くを占めていましたが、高齢化社会の進展に伴い、精神疾患を抱えながらお年を重ねられた方の入院治療をすることが多くなってきました。また、認知症になって自宅での療養が難しくなったお年寄りが精神科病院で入院治療をするケースも増えています。
高齢者の多くは元々持病を持っています。持病が複数あり、薬もたくさん服用されていることも珍しくありません。このような高齢化と身体疾患の合併という傾向は、外来で受診される患者さんも同様に見られます。
そういった高齢者の方々に元気に過ごしていただくためには、精神面だけでなく身体的にも健康問題をコントロールしていく必要があります。
特に遭遇することの多い健康問題のケア・治療について教えてください。
今回は、糖尿病と誤嚥性肺炎を取り上げます。キーワードは多職種連携です。
糖尿病は放置すると、動脈硬化が進んだり、眼・腎臓・神経に障害が出たり、さまざまな身体合併症を引き起こすおそれがあります。治療は食事・運動療法、適切な服薬管理が大切ですが、精神疾患を抱える高齢者の場合はセルフケアが難しい患者さんも多いため、入院中も退院後も、複数の医療介護職が関わって支えていくことが重要です。患者さんの要望や生活背景に合わせながら、医師、病棟・外来スタッフ、訪問看護師、精神保健福祉士、デイケアスタッフ、ケアマネージャー、管理栄養士らが連携して関わっていきます。
誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため、唾液や食べ物などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。嚥下機能低下の要因は、加齢や認知症に伴うものが多いですが、精神疾患を抱える高齢者では、特定の薬剤の副作用により嚥下機能が一時的に低下する方もいます。誤嚥性肺炎の治療は、酸素吸入と抗生物質の点滴を行い、早期に誤嚥を予防しつつ、経口摂取を再開することが重要です。医師、歯科医、歯科衛生士、薬剤師、看護師、リハビリスタッフ、管理栄養士らが連携して、嚥下機能低下の医学的な原因、歯や歯ぐきの状態、舌やのどの動き、食事時の姿勢といった複数の視点の評価を行います。そして、それらの評価に基づいた医学的な治療や口腔ケア、食事形態の選定、食事介助、リハビリテーションを行います。