2020年2月19日水曜日

認知症患者に対する心身両面の治療・ケアの重要性

ゲスト/医療法人社団 図南会 あしりべつ病院 石田 祐生子 診療部長

認知症に伴う身体合併症について教えてください。また、認知症には、どうして心身両面の治療・ケアが大切なのですか。
 もの忘れや周囲の状況が理解できなくなり、日常生活に支障をきたす認知症。5年後の2025年には700万人を超えると予想されており、高齢者の5人に1人が認知症という時代が目前に迫っています。
 高齢者の多くは高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症などの生活習慣病を持っています。こうした高齢の方が認知症にかかってしまった場合、認知症の治療に加えて、生活習慣病の管理などの内科的治療が必要になります。
 生活習慣病の合併を見過ごしたまま、認知症の治療だけを続けていると、動脈硬化の進行を食い止められず、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全につながってしまうリスクが高いです。また、認知症になると身体的な不具合があっても、患者さんはそれを適切に表現する能力が低下していたり、痛みを感じる機能自体が鈍くなったりしていて、痛みや不調を訴えることができないまま、肺炎や腸閉塞といった内科的な身体合併症を引き起こしてしまうケースも少なくありません。
 認知症の患者さんは、認知症による記憶障害や見当識障害、失語、失認などに加え、加齢現象や合併するほかの疾患による影響が複雑に絡み合って、生活上の支障が生じています。ですから、認知症に精通する精神科医や心療内科医と、認知症に伴うさまざまな内科的疾患に精通する内科医が密接に連携し、患者さんやご家族の声にしっかり耳を傾け、言葉以外の表情や動作からも患者さんの心身の変化や不調のサインを見落とさないよう注意しながら診療にあたることが重要といえます。
 また、医師同士の連携だけでなく、看護部や作業療法科、栄養科、薬局など院内の各部署が職種の壁を超えたチームを作り、個々の患者さんのQOL(生活の質)を大切にしながら、その後の人生を充実させていく治療とケア、援助、支援をしていくことも重要です。
 内科合併症があるために精神科病院への入院が断られてしまう認知症の患者さん、また、認知症の精神症状があるために内科病院への入院が断られてしまう内科合併症を持つ患者さん。こうしたケースが見受けられるように、残念ながら、さまざまな疾病を合併した高齢者の認知症患者さんへの対応環境は、いまだ十分とはいえません。今後、ますます増えていく認知症対策の一つとして、内科的治療が行える診療体制を敷く精神科病院や、内科医が常駐する精神科病院が増えることが望まれます。

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