2015年7月22日水曜日
肥満の原因〜腸内細菌
ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長
―腸内細菌について教えてください。
近年、肥満やメタボリックシンドロームの形成における消化管環境の役割に関心が持たれています。消化管からの栄養の吸収過程の変化が、肥満の発症に関与している可能性が示唆されており、特に腸管環境を規定する重要な因子として腸内細菌が注目されています。
成人の大腸内には、数百種類の細菌が100兆個以上住んでいます。おなかの健康を保つ腸内細菌の代表格であるビフィズス菌、乳酸菌などの「善玉菌」と、ウェルシュ菌、ブドウ球菌などの「悪玉菌」が日々、勢力争いを繰り広げ、さらに戦局次第で善にも悪にも転ぶ「日和見菌」が加わり、ある種の生態系である腸内細菌叢(そう)を形成しています。これまでも、腸内細菌叢の勢力図(バランス)が偏食で崩れたり、加齢で変化したりすることや、免疫系や代謝機能に影響することは知られていましたが、個々の培養が難しく詳細な研究は遅れていました。しかし現在、一度に数千から数億単位でDNA断片を解読することができるようになり、腸内細菌叢とさまざまな疾患との関わりが徐々に明らかになってきています。
―腸内細菌と肥満、糖尿病との関わりについて教えてください。
肥満者では痩せている者と腸内細菌叢が異なること、また日本人全体が欧米人とは腸内細菌が異なることが報告されています。さらに肥満者では、腸内細菌叢の多様性が少なく、特定の菌種に偏っていることが判明しています。
普通体格の無菌ラットに肥満ラットの腸内細菌を移植すると、急激に食欲が増し、体重が増えることなどから、先天的か後天的かは不明ですが、どうやら肥満患者は「太りやすい」腸内細菌叢を持っているのかもしれません。
一方、2型糖尿病患者は、腸内細菌のバランスが乱れており、ある種の細菌が増えすぎると、その断片が腸管の粘膜バリアを突破して体内に侵入し、免疫系が発動して慢性的な炎症を引き起こし、肥満を助長し血糖値を下げるインスリンの効き目を悪くすると考えられています。
今後は、非肥満健常者の腸内細菌を移植したり、オリゴ糖や食物繊維、あるいはビフィズス菌、乳酸菌などのプレ・プロバイオティクスを用いたりするなど、腸内細菌叢を変化させることで消化管環境を改善し、肥満や糖尿病発症の予防に効果的な治療法の開発が期待されます。
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