2014年12月3日水曜日

ストレスと不適応


ゲスト/時計台メンタルクリニック 木津 明彦  院長

ストレスと不適応(適応障害)について教えてください。
 ストレスを感じ、イライラしたり落ち込んだりするのは、おしなべて、思い通りにならないという「欲求不満」や、どうしてよいか分からないという「葛藤」のときです。欲求不満や葛藤は生きていく上で不可避であり、人それぞれ何とか克服しているわけです。しかしながら、慣れない環境になじもうとする、あるいは行き詰まった問題を解決しようとして、奮闘努力のかいもなく周囲と摩擦を生じ、苦しみ悩む状態に陥ることはしばしばあります。これを「適応障害」といいます。
 このような状態を改善するには、まず「環境を変える」ことでしょう。職場や学校など苦痛を生じている状況から離れるとか、負担を軽減してもらいます。次は「自分を変える」ことが挙げられます。ストレスを強く感じないように薬を飲んだり、カウンセリングやリハビリでストレスを乗り越える能力をアップします(ストレス対処スキル)。理屈では以上の通りですが、実際の診察場面でよく遭遇するのは、苦痛を増幅させて悩んでいる方々です。

「苦痛の増幅」とは? またその対処法は? 
 人は適応努力が不調であるとき、その苦しみを消そう、あるいは無視しようと躍起になってしまいます。おまけに、その状況を「これでは駄目だ」とか「我慢するしかない」などのネガティブな言葉で表現してしまうと、そのイメージが独り歩きする、いわば言葉の魔力による「苦痛の増殖炉」のような状態となります。
 そこで認知行動療法の「マインドフルネス」という考え方が役に立ちます。これは「心が満たされること」とか「しみじみとした味わい」といった意味です。①心身に生じた現象に対するネガティブなレッテル貼りをやめ、温度や雨量を測定するように距離をおいて観察すること。②疫病神も神のうち:苦痛を排除しようとせず、「付き合う」スタンス。③大切な儀式のようにじっくり時間をかけて、お茶を入れたり洗濯物を畳むなど、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚)を駆使して実感してみる。このようなアプローチにより、脳本来の適応力・快復力を引き出したいものです。

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