2014年7月2日水曜日

ストレス社会を生き抜くために


ゲスト/医療法人社団五稜会病院 千丈 雅徳 院長

精神科の治療とはどのようなものなのですか。
 うつ病(気分障害)、パニック障害、アルコール依存症、社会的ひきこもり、統合失調症など、心の病気で医療機関を訪れる人は年々増加しています。精神科の診察では、まず患者さんのお話をじっくり聞くことから始まります。本人が抱えている問題を、精神科医などの専門的な目を通しながら時間をかけて整理します。表面的に見えない患者さんの心の深い部分の思いにも耳を傾けていきます。
 他の医療分野同様、精神科医療も近年著しく進歩している中で、さまざまな治療法や新薬が開発されていますが、治療の原点となるのは、患者さんの心に寄り添って、患者さんの社会復帰を目指し、より素晴らしい人生を送れるようにサポートすることです。

治療における患者さんとの関係づくりついて教えてください。
 医師や看護師などスタッフが、患者さんの心に手を伸ばし、心を支えていくためには、安心できる関係づくりと、効果的に自己回復ができるように、次のような段階を踏むことが大切です。①アタッチメント(愛着の時期)…患者さんが安心して病院と関わっていけるように受容的・支持的・共感的に対応します。②デタッチメント(分離の時期)…患者さんが病院に依存し過ぎないように、あえて距離を置いて対応します。③コミットメント(対等な関係になる時期)…病院が患者さんにとって「心の安全地帯」となることを目標とし、患者さん自身が社会で自立できるように、半歩後ろからさりげなく援助します。
 初期の段階では、まず安心して治療が受けられるような対応を心掛けます。医師やスタッフとの関係づくりが土台となって治療への動機付けが高まります。アタッチメントによって安心感が得られると、これまでに直面できなかった問題に向かうなど、内面を深める気付きが出てくるようになります。しかし、アタッチメントばかりでは、医師やスタッフに対しての甘えや依存が出てくるので、状況を見ながらデタッチメントを意識して、少しずつ程よい距離を置くようにします。そして、社会へのコミットメントを最終目標に、相手に依存し過ぎず、対等で信頼し合える人間関係を築いていけるように関わっていきます。
 ただし、アタッチメント・デタッチメント・コミットメントは、順番に行うのではなく、常にこの三つを心掛けて対応していくことが大切です。その時その時の患者さんの様子を知って、どれを強調すればいいのかという微妙なバランス感覚が求められます。また、アタッチメント・デタッチメント・コミットメントのどれに重点を置くべきか、スタッフ一人の判断で決めないことも重要です。治療に関わるスタッフ全員で話し合い、時には患者さんにも意見をいただきながら見定めていく必要があります。医療はチームプレーなのです。

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