2014年11月26日水曜日

糖尿病


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

糖尿病が怖いといわれるのはなぜですか。
 糖尿病の患者は推定で約950万人、予備軍も含めると約2200万人に上ります。そのうち90%が、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリン量が低下するか、分泌されてもその作用が十分に働かない2型糖尿病です。
 糖尿病の怖さは、全身に及ぶ合併症にあります。重症化すると、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害を起こし、それぞれ失明、人工透析、四肢切断に至る恐れも大きいです。また、糖尿病は動脈硬化を早め、心疾患や脳梗塞、下肢動脈閉塞症(へいそくしょう)など命に関わる病気を引き起こす大きな要因にもなります。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本です。過食や運動不足といった悪習慣を改善しても血糖値を十分にコントロールできない場合、薬物療法が行われます。
 治療薬には経口薬と注射薬があります。このうち経口薬では、膵臓を刺激してインスリンの分泌を促進したり、肝臓や筋肉に作用してインスリンの働きを弱めたり、消化管での糖質の消化・吸収を遅らせたりする、さまざまなタイプの血糖降下薬が使われてきました。
 今年、「SGLT2阻害薬」と呼ばれる新しいタイプの経口薬が相次いで発売され、大きな注目を集めています。尿から血液に吸収される糖を減らすという、これまでにない仕組みで血糖値を下げる薬です。通常、血液は腎臓でろ過され、一部の糖が尿に流れますが、血液に再吸収されるようになっています。この時、SGLTというタンパク質が働くのですが、SGLT2阻害薬は、この働きを抑制することで、血液に糖が戻りにくくします。単独使用では血糖が過剰に下がる低血糖が起きにくいのが最大のメリットです。また、従来の薬と作用が異なるので、今までの薬で不十分な場合に、併用でも効果が期待されます。ただし、SGLT2阻害薬は、投与によって体重が2〜3キロ減少する特徴があります。特に高齢者では痩せてしまう恐れがあるので、使用には注意が必要です。
 新薬の登場で糖尿病の治療は大きく変化しています。ただ、全ての患者さんにとって最新の治療薬がベストとは限りません。専門医とよく相談し、個々の患者さんの病態に一番見合った治療法・薬を選択することが何よりも重要です。

2014年11月19日水曜日

禁煙治療


ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

喫煙の害とタバコをやめられない理由について教えてください。
日本では現在約2000万人が喫煙しています。タバコは、さまざまながんや虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、歯周病などの原因になります。タバコの煙には4000種類以上の化学物質が含まれ、そのうち約60種類に発がん性が認められています。
 喫煙は喫煙者自身の健康への影響に加え、周囲の人たちの健康にも影響を及ぼしています。これを受動喫煙といいます。タバコの煙には、喫煙者が直接吸い込む煙(主流煙)と、タバコから立ち上る紫煙(副流煙)があり、有害物質は副流煙に多く含まれます。
 禁煙を始めても、ついまたタバコを吸ってしまうのは、タバコの煙に含まれるニコチンに強い依存性があるからです。タバコを吸うと、ニコチンが肺から血中に入り、すぐに脳に達します。脳にはニコチン受容体という組織があり、ニコチンが結合すると快感を生じさせる物質(ドーパミン)が放出されます。これを繰り返すうちに、ニコチンがないとイライラするなどの禁断症状が出現し、依存症に向かってしまうのです。

禁煙治療はどのように進められるのですか。
 現在、常習喫煙は「ニコチン依存症」という名の「病気」とされ、外来での治療には医療保険が適用されるようになりました。
 禁煙治療薬には大きく分けて二つあります。一つは、ニコチンガムとニコチンパッチです。タバコ以外の方法でニコチン量を調節する方法(ニコチン置換療法)です。ガムは口の粘膜から、パッチは1日1枚を腕や背中などに貼付することでニコチンを吸収し、段階的にニコチンの量を減らしていきます。
 もう一つは、服用するとタバコを吸ってもおいしいといった満足感を覚えにくくする飲み薬です。薬の成分がニコチンの代わりに脳のニコチン受容体と結びつき少量のドーパミンを放出し、イライラなどの症状を軽くします。また、ニコチンが受容体に結びつくのを邪魔するため、タバコを吸いたいという切望感が軽減され、スムーズに禁煙できる仕組みとなっています。この薬はニコチンを含まないため、ニコチン置換療法が難しい心血管疾患のある人にも使用できます。ただし、内服中の自動車の運転が禁止されるなど、いくつかの制限もあります。
 禁煙治療を希望する人は、医師とよく相談の上、自分に合った治療法を選択することが大切です。

2014年11月12日水曜日

テニス肘


ゲスト/医療法人社団 恵信会 環状通東整形外科 堀田 知伸 院長

テニス肘とはどのような病気ですか。
 テニス肘は正式には「上腕骨外側上顆炎(じょうかえん)」といいます。肘の外側の骨の出っ張り部分が痛くなる病気です。拳を強く握ったり、手首を反らせたりすると痛みを感じます。テニスやゴルフなどのスポーツ、パソコンなどの仕事や日常生活で腕をよく使う人に多くみられます。
 テニス肘は、腕の筋肉が肘の骨にくっついている部分(腱)に負荷がかかり、微小な損傷(炎症)を起こすのが原因と考えられています。加齢が大きな発症要因となり、40代〜60代の中高年に多く発生しています。年齢が高まるにつれ、筋力の柔軟性や腱の弾力性が低下し、炎症を引き起こしやすい状態となっているためです。

テニス肘の治療について教えてください。
 安静が基本です。日常生活では強く握る動作やタオルを絞る、重たいものを持ち上げるなどの動作をなるべく避けるようにします。その上で、初期には手首を上に持ち上げる筋肉に負担をかけないよう、肘の近くを固定するサポーターを付けたり、肘を伸ばし手首を曲げて筋肉を伸ばすストレッチングなどを行います。症状が強い患者さんには、痛みの出る部分にステロイド剤を注射します。注射は痛みの緩和には有効ですが、病気が治るわけではありません。繰り返し打つと体への負担も大きいので、2、3回までにしておく必要があります。
 このような保存治療で、多くの方は快方に向かい、数カ月〜半年で痛みがとれてきます。しかし、中には保存治療が効かず、痛みが慢性化、難治化するテニス肘もあります。これは、腱の断裂を起こしている可能性が高い症例で、MRIで診断がつきます。半年以上痛みが強く、日常生活や仕事に支障が出る場合は、手術も選択肢の一つになります。以前は外からメスで切って断裂部を処置する方法が主流でしたが、当院では体への負担が少ない関節鏡による手術を行っています。数ミリ程度の穴から肘の関節内に関節鏡を入れ、断裂部位を処置します。手術時間は40分程度、入院期間は2〜3日間。関節鏡手術で難治症例のうち約9割が回復に向かいます。
 テニス肘にあまり神経質になる必要はありませんが、強い痛みに悩まされている場合は、スポーツ障害、特に肘に詳しい医師に相談してみることが賢明です。

2014年11月5日水曜日

摂食障害


ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害はさまざまな心理的・社会的な要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。10〜20代の若い女性を中心に増加しています。大きく分けて、極端に食事を制限する拒食症と、過剰に食べる過食症があります。いずれも太ることへの恐怖感を持っており、拒食の反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまです。
 摂食障害と同時にうつの症状や、感情、行動、人間関係が不安定になる境界性人格障害が現れることも多いです。また、極端な低体重や肥満を招くため、栄養失調による生理不順や骨粗しょう症、感染症、肝機能障害などさまざまな身体的症状がみられるようになり、日常生活に支障を来します。
 患者さんの多くは、生まれつき繊細な性格・体質であり、自分のことを低く評価し、不安を抱えています。その背景には、成長する過程で自分の存在を認めてもらえなかった環境や、自分の思いを我慢しながら、周囲の願いを達成する形で生きてきた経験などがあります。摂食障害の原因を特定することは非常に難しいため、原因を無理に探すのではなく、これからどうしていけばよいかを考えていくことが重要です。

摂食障害の治療について教えてください。
 拒食症の人はどんなにやせても、自分が病気だという認識を持てないことが多いです。また過食症の人は、自分が悪い、恥ずかしいという思いから問題を一人で抱え込んでしまう傾向があります。摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、“病気“であると認識してもらうことから始まります。病気の発症は「これまでの生き方はもう無理で、一人では頑張れない」という意味にも捉えることができます。この自分自身のメッセージを素直に受け取り、周囲に相談することが大切です。
 治療に特効薬はありませんが、精神科や診療内科などの医師とのカウンセリングによる認知行動療法や、自助グループでの対話に効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は決して平坦ではありませんが、必ず治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。

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