2011年11月23日水曜日

うつ病と似た症状の病気

ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 木津 明彦 院長

うつ病と間違われやすい病気について教えてください。
 「疲れやすい」「元気が出ない」「イライラする」など、うつ病と症状が似ているため、うつ病と間違われやすい病気があります。その一つが「非貧血性鉄欠乏症(潜在性鉄欠乏症)」です。
 鉄分不足と聞くと、貧血(鉄欠乏性貧血)を思い浮かべる人も多いでしょう。「非貧血性鉄欠乏症」は、その一歩手前と考えてください。鉄は、赤血球の材料になるだけでなく、全身の細胞のエネルギー代謝に重要な働きをします。主に肝臓で蓄えられています。いわば鉄の貯金ですが、この貯金が枯渇すると貧血が起こります。そこまで至らなくてもほとんど底を尽きかけた状態、これを「非貧血性鉄欠乏症」というのです。月経のある女性に多く、のどの違和感、冷え性、肩こり、頭痛、爪のでこぼこを伴うこともあります。貯蔵鉄の量は「フェリチン」というタンパク質の血中濃度を測ることで推定できます。
 食欲不振、味覚障害などの要因として注目されている「亜鉛欠乏症」も、うつ病と似た症状を現すことがあります。

ほかにはどんな病気がありますか。また、どのようなことに気を付ければいいですか
 「食後低血糖」も、うつ病のような症状を呈する病気です。糖尿病の初期に、血糖値が大きく変動し、低血糖症状がみられることがあります。体質的に糖質(炭水化物)を過剰に摂取すると、低血糖を起こしやすいケース(機能性食後低血糖症)もあります。脳へのブドウ糖供給不足による機能低下(注意力低下、眠気、倦怠(けんたい)感、目まい、頭痛など)と、これに対抗する自立神経反応(発汗、ふるえ、動悸(どうき)、不安、イライラ感など)が生じます。
 これらの病気から身を守るためには、鉄分や亜鉛などのミネラル、ビタミン、タンパク質をしっかり取ること、糖質の取り過ぎに注意することが大切です。また、内科、婦人科、心療内科などで、必要に応じた検査・治療を受けることも重要です。今まで改善できなかった症状でも、詳細な検査などによって隠れた異常を発見し、栄養バランスを改善していくことで、さまざまな疾患が治癒したケースもあります。うつ病とうつ病に似た症状を現す病気は、本人や家族が見分けるのは困難です。自己判断せずに、専門医の診察を受け、経過を見ていくことをお勧めします。

2011年11月16日水曜日

下肢のむくみ

ゲスト/北海道大野病院附属駅前クリニック 古口 健一 院長

下肢のむくみについて教えてください。
 私たちの体内では、血管の内外で水分の移動が行われ、正常な状態ではその水分量は一定に保たれるような仕組みになっています。しかし何らかの原因により、水分移動がうまくいかなくなり血管外の皮下組織に水分がたまってしまうことがあります。この状態が「むくみ」で、医学的には「浮腫」と言われます。向こうずねや足首周りを指で押した時にへこんだまま戻らないようなら、むくみと考えられます。
 立ち仕事の後などは、靴下の跡がなかなか消えないなど、下肢を中心にむくみを感じる場合が多いものです。足は筋肉の動きで、血液やリンパ液を心臓に送り返しています。静脈で吸収できなかった老廃物は、リンパ液を通すリンパ管に流れます。このリンパ管がスムーズに動かなくなり、水や老廃物が細胞の間にたまることで足にむくみが起こります。足は心臓から遠く、疲れなどで足の筋力が衰えると、血液やリンパ液をうまく循環させられなくなります。さらに、重力の力で水分は下肢へと下がります。このために、ふくらはぎや足首がむくみやすくなるのです。

下肢がむくむ際にはどのような病気が考えられますか。
 下肢だけにむくみが現れる病気としては、下肢の静脈血の逆流による下肢静脈瘤(りゅう)や、リンパ管の閉塞(へいそく)によってリンパ液が停滞するリンパ浮腫などが考えられます。
 足のむくみのほかに、顔や手などにむくみが認められる場合は、全身的な病気を考える必要があります。具体的には心臓病、腎臓病、肝臓病、悪性腫瘍などによる血液中タンパク質の低下、内分泌ホルモン異常などが挙げられます。また、薬物によるアレルギーにも下肢のむくみを伴うものがあります。さらに、心臓や腎臓、肝臓に明らかな病変がなく、また低タンパク血症も存在しないのにむくみをきたすケースもあり、これを特発性浮腫といいます。
 一時的なむくみであれば、軽いストレッチやお風呂などで血行をよくする、就寝時に足を頭より高く上げるなどの方法で解消することができますが、問題は病気が原因の場合です。翌朝になってもむくみが消えない、これといった心当たりがないのに何日もむくみがとれない場合は要注意。重大な病気が隠れていることもあるので、放置せずに専門医に相談することをお勧めします。

2011年11月15日火曜日

関節リウマチ治療の現在

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチの新しい診断基準が提唱されたと聞きましたが、その内容について教えてください。
 関節リウマチは、免疫の異常による関節の炎症で、腫れや痛みが起こり、進行すると骨が破壊され、関節が変形してしまう病気です。治りにくい病気でしたが、治療の進歩で寛解(症状が落ち着き進行しない状態)も目指せるようになってきました。より効果的な早期治療を可能とする新しい診断基準も年内の導入に向けて日本リウマチ学会などで検討が進められています。
 これまでの診断基準では、ある程度症状が進行した患者さんのデータを基にしており、症状が目立たない早期の患者さんは診断しにくい状況でした。新基準の最大の特徴は、より早期の段階で診断が下せる点です。研究の進展で関節リウマチは発病から3〜4年以内に急速に骨の破壊が進むことが判明し、早期の治療開始が重要と分かってきました。また、新しい検査方法やより効果的な治療薬が登場し、一層、早期の診断と治療開始が求められるようになったのです。

関節リウマチの治療について教えてください。
 薬物療法が中心で、標準的な治療薬は免疫を抑えるメトトレキサートです。日本では使用量が低く抑えられてきましたが、今年2月から十分な量の処方が可能となりました。メトトレキサートで治まらない場合、遺伝子工学の技術で作られた生物学的製剤という新しい薬も併用されるようになりました。炎症を引き起こす「サイトカイン」というタンパク質の働きを抑えるタイプの4種類に加え、免疫をつかさどるT細胞の働きを抑えるタイプも登場し、選択肢が広がりました。効果が高く、寛解に導くことも夢ではなくなりました。これも早期の使用開始が効果的なため、早期診断が重要になります。
 生物学的製剤にはデメリットもあります。それぞれの薬の効果は患者さんによって異なります。効かなければ、違う薬を使うことになります。また、副作用の心配もあります。さらに、3割負担でも月額3〜4万円かかるなど費用が高額です。そのため、関節リウマチの最先端治療として、各患者さんの遺伝子解析(自由診療)により、生物学的製剤の有効性と副作用の出現を事前に判定できるシステムが開発されました。すでに一部では実用化が始まり、患者さん一人一人に最適な薬が使われるようになるなど、治療面での大きな前進となっています。

2011年11月2日水曜日

好酸球(こうさんきゅう)性食道炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

好酸球性食道炎とはどのような病気ですか。

 好酸球性食道炎は、アレルギーと関係の深い白血球の一種「好酸球」が食道の粘膜に浸潤して炎症を起こし、食道の機能障害や狭窄(きょうさく)などを引き起こす病気です。欧米を中心にここ10年くらいで知られるようになった疾患であり、日本では比較的まれですが、近年男性を中心として患者数が増加しています。原因は明らかではありませんが、一部の例では食物などに含まれる抗原に対するアレルギー反応が原因と考えられています。ぜん息やアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患を合併する頻度も高いです。
 症状は年齢により異なりますが、幼児期では哺乳障害、学童期では吐き気、学童期以降では腰痛、嚥下(えんげ)障害が主にみられます。胸焼けや胸痛を訴えるケースもあります。
 診断は、上記の症状に加えて、血液検査でアレルギー性疾患によくみられる好酸球やIgE(アレルギー反応に関係する抗体)の増加を調べます。また、内視鏡検査で食道の壁が厚くなり、縦方向のしまや白い斑点がみられるかどうか、環状に狭くなる部分があるかどうかを確認します。さらに食道粘膜などの組織検査を経て、確定診断が下されます。

好酸球性食道炎の治療について教えてください。

 治療は、原因と考えられる抗原の除去が基本となります。食事療法として、抗原と疑われる食品を検査して特定し、その食品を除いた食事を指導する方法、検査は行わず一般的に抗原となりやすい食品(乳製品、卵など)を除いた食事を指導する方法、アミノ酸成分栄養食を用いる方法の3種類があります。
 薬物療法として、好酸球による炎症を抑えることを目的に、副作用の少ない局所作用ステロイドが主に用いられます。また、食道の運動機能が低下して胃酸の逆流症状を併発する場合、酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬を補助的に使用することもあります。食事療法、薬物療法で症状が改善しない場合や、食べ物のつかえや嚥下障害が強い場合は、狭くなった食道を拡げる手術が行われることもあります。
 好酸球性食道炎は、逆流性食道炎などの胃食道逆流症(GERD)と診断されやすく、その鑑別が非常に重要です。治療が奏功しないGERDでは、好酸球性食道炎の可能性も考えられますので、早めに専門医を受診することをお勧めします。

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