2010年8月25日水曜日

「緑内障治療の新しい話題」

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

─緑内障治療の最新情報を教えてください。
 緑内障は、目の中の圧力(眼圧)が高くなり、そのために眼底の網膜神経線維が障害を受けて視野が欠け、放置すると徐々に進行していく病気です。また日本人には、眼圧が正常範囲にあっても神経線維が傷んでいく「正常眼圧緑内障」が多いのです。緑内障では、治療を怠ったために症状が進行して一度失ってしまった視野や視力は、その後の治療によって回復させることはできません。
 昔は緑内障治療に有効な薬物は非常に少なく、診断はできても進行を見守るだけという時代が長く続きました。しかし1980年代にβ(ベータ)遮断剤(交感神経遮断剤)、90年代中ごろにプロスタグランジン製剤や炭酸脱水酵素阻害薬剤が登場して治療は大変進歩しました。最近はこれらの点眼薬を用い、症状の進行具合に合わせて2、3種類、他の点眼薬も含め4種類と、多数の点眼薬を使わざるを得ないケースも多くなっています。その場合問題になるのは多数の点眼薬を使うことにより、薬に添加された防腐剤の副作用で角膜表面に傷がついたり、何種類もの点眼薬を使う煩わしさから、点眼回数や種類を守れないケースがあることです。アドヒアランスと呼び、患者さんが積極的に治療に取り組み継続できるかどうか(服薬遵守)の問題です。ところが、今年に入り、合剤といって、プロスタグランジン製剤と炭酸脱水酵素阻害剤を混ぜた目薬、それにβ遮断剤と炭酸脱水酵素阻害剤を合わせた目薬が使用できるようになりました。

─緑内障治療はどのように変わりますか。
 患者さんにとっては点眼薬の煩わしさが軽減されるのでさし忘れの減少、防腐剤による副作用の低下・軽減が期待できます。また、薬剤の選択にあたって、より眼の状態を把握する必要があるため、視野検査や眼底の視神経乳頭の精密な観察が重要になってきます。今までは複数の点眼薬を、しかも状態によっては1日の回数もバラバラで点眼しなければならず、正しく点眼できずに治療を挫折したりする患者さんもいましたが、今回登場した合剤だとコスト的にも従来の点眼薬よりメリットがあり、緑内障の点眼治療の劇的な進歩だと思います。

2010年8月11日水曜日

「慢性硬膜下血腫」

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 医師

慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。
 慢性硬膜下血腫は、硬膜という脳を包んでいる膜と脳との間に血がたまる(血腫)病気です。頭にケガをした後に起こることが一般的ですが、覚えていないような軽いケガでも起こる場合があります。血腫が少ない場合は、ほぼ無症状です。血腫がたまって、脳を圧迫してくると頭痛や頭に重だるさを感じるなどさまざまな症状が出てきます。さらに圧迫が進むと、歩行障害や手足のまひが出てきて、脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害と似た症状を示す場合も多いです。高齢者の場合、認知症と間違われることも多く、また、頭痛の訴えが少ないため、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、周りの人が注意する必要があります。
 慢性硬膜下血腫は、ケガをしてから3週間〜数カ月たって症状が出てくることの多い病気です。50歳以上の中高齢者、お酒の好きな人、肝臓の悪い人、血液をサラサラにする薬を服用している人に多く見られる傾向があります。

慢性硬膜下血腫の治療について教えてください。
 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りはそのまま経過を観察します。軽いものであればそのまま治ってしまう場合もあります。症状が出ているものは手術を行います。
 脳外科の手術というと恐ろしいイメージを持つ人が多いと思いますが、慢性硬膜下血腫の手術は、脳に直接触れることはほとんどなく、一般的には危険は少ないです。また、局所麻酔で行うので、高齢の人でも比較的軽い負担で治療ができます。手術は、血腫のあるところの真上の皮膚を切開します。頭蓋骨に穴を開け、硬膜を切開して血腫の中に管を入れます。血腫の中身は多くの場合は液状なので、管を通じて取り除くことができます。管を入れて中の血腫を自然に排出させる方法を「穿頭(せんとう)ドレナージ術」といい、管を通して血腫の中に生理食塩水を入れて、血腫を洗い流す方法を「穿頭洗浄術」といいます。1週間ほどで抜糸して退院できることがほとんどで、術後2〜3日で退院して外来で抜糸するケースもあります。
 頭を打った時など、軽いケガであれば慌てて病院に来る必要はありませんが、1カ月ほどしてから、頭が痛くなってきたり、先に挙げたような症状が気になる時には、我慢しないで専門医を受診してください。

「子どもの歯科矯正治療」

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

─子どもの矯正治療について教えてください。
 お子さんの歯並びが気にかかり、矯正が必要かどうか判断に迷われる人も多いと思います。子どもの歯並びのチェック方法の一つとして、お子さんの口元を顔の正面から観察することをお勧めします。上の前歯と下の前歯の真ん中が一致していればひと安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要が考えられます。
 出っ歯や受け口といった上下の顎(あご)が前後に大きすぎたり小さすぎたりという骨格的な問題は、一般の人にも気付きやすいのに対し、左右のずれは発見しづらいものです。自然な矯正治療なら、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9〜10歳までが理想的です。この時期なら就寝時に、バイオネーターやFKO(エフカーオー)と呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、ずれた顎の骨を中央に移動させます。子どもの成長能力を生かしたもので、痛みはほとんど感じられず、日中は装着する必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は平均で半年から1年。経過観察のための通院は、1カ月から3カ月に1度が目安です。
 ずれの原因には、歯そのものがずれている場合もあり、永久歯がそろってからでも治療は可能です。その場合は、抜歯をする可能性が高くなりますが、きれいに治療できます。判断は非常に難しいので、ぜひ専門医にご相談ください。

ほかに、家庭でできるチェック方法はありますか。
 ほおづえやかみ癖、就寝時の体位が左右どちらかに大幅に偏っている場合などは、左右のずれを引き起こす原因となることがあります。上の前歯と下の前歯の中央が一致しているのを確認したら、次は鼻の先端を基準に、顔の中央に前歯の中心が沿っているかを確認してください。ずれの原因は一見して分かるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長期を逃してしまう危険性もあります。
 子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置してしまうと、大人になってから心理的な悪影響を及ぼしたり、虫歯や歯周病、顎関節への影響が出てきたりします。小児期に歯並び・かみ合わせの治療を行うことでこれらの心配を予防することができます。少しでもおかしいなと思ったら、早めに専門医に相談することをお勧めします。

2010年8月4日水曜日

「うつ病」

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

うつ病とはどのような病気ですか。
 日本のうつ病患者は、推定で450〜600万人といわれています。日本人の13人に1人が、一生のうちで一度はうつ病にかかるという報告もあります。しかし、実際に病院・診療所を訪れている人や治療を行っている人は全体の1割程度でしかありません。うつ病は特別な病気ではなく、発症率の高い、誰でもかかる可能性のある病気であること、そして、うつ病はきちんと診察を受け、適切な治療を受ければ治すことのできる病気であることを理解してください。
 誰にでもある憂うつな感じは、気分転換などによって大抵は数日のうちに回復します。しかし、うつ病になると、症状の状況が好転したり、周囲の援助があったりしても、気分の晴れない状態などが2週間以上にわたって続きます。よく見られる心の症状としては、「気力が出ず、何事も面倒に感じる」「好きなことを楽しめない」「興味がわかない」などが挙げられます。朝の調子が悪く、夕方から少し楽になるという症状もうつ病には特徴的です。また、うつ病には睡眠障害や疲労・倦怠(けんたい)感、食欲低下・体重減少などの身体的な症状が現れることも多くあります。
 うつ病は、ストレスなどで生じた脳内物質のバランスの乱れが原因で起こる脳の病気です。決して「心の弱い人がかかる病気」や「心の持ちようで克服できる病気」ではないことを十分に知る必要があります。

うつ病の治療について教えてください。
 うつ病の治療は「休養」「薬物療法」「環境調整」が3本柱となります。
 まずは心身ともにしっかりと休養を取ることが大切です。周りの人たちは、決して怠けているわけではなく、何もできないことに本人が一番苦しんでいることを理解してあげてください。また、うつ病になっている人に励ましは禁句です。「しっかりして」「頑張って」という言葉は、かえって追い詰めてしまうことになります。
 薬物療法は、主に抗うつ薬を使います。脳の機能を正常に戻すには、適切な内服薬を継続して服用することが大切です。投与初期には副作用(口の渇きや便秘、排尿困難など)の出現に注意しながら、徐々に薬剤を増やしていきます。医師の指示通りに内服していれば、依存や中毒になることは少ないでしょう。
 個人を取り巻く環境に着目した治療も重要です。多くのうつ病の発症にはストレスが絡んでいるので、可能ならそのストレスを軽減する必要があります。環境調整には職場、家族、友人などの理解が必須です。
 うつ病は、症状が一進一退するため、治療が長期にわたることもあります。治癒途中で悪化することがあっても、悲観せずじっくり回復を待ちましょう。

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