2010年1月27日水曜日

「加齢黄斑(おうはん)変性症の新しい治療法」

ゲスト/大橋眼科  大橋 勉  理事長

加齢黄斑変性症について教えてください。
 人間の眼は、角膜、水晶体、硝子体(しょうしたい)を通って、網膜の上に像を結んで物を見ます。その中心部は黄斑部と呼ばれ、物を見るために最も重要な部分です。この黄斑部に異常な老化現象が起こり、視力が低下する病気が加齢黄斑変性症です。視野の中央がよく見えない、暗く見える、ゆがむといった症状が現れたら、加齢黄斑変性症が疑われます。
 原因は、健康な状態では存在しない新しい異常血管が、黄斑部の脈絡膜(網膜より外側に位置し、血管が豊富な膜)から発生し、網膜側に伸びてくることによります。この新しい血管は新生血管と呼ばれ、血管壁が大変もろいため、血液や血液成分が黄斑組織内に滲出(しんしゅつ)し、黄斑機能を妨げます。視力の低下、物がゆがんで見えるなどの症状が出現し、放っておくと高度の視力障害や、最悪の場合失明することもあります。

治療法について教えてください。
 もっとも新しい治療法として注目されているのが、抗血管内皮増殖因子抗体眼局所投与治療です。これは、脈絡膜新生血管の成長を活発化させる体内のVEGF(血管内皮増殖因子)という物質の働きを抑える薬です。薬を眼の中に注射することで、新生血管の増殖や成長を抑えることが可能です。基本的には月1回の注射を連続3カ月行い、その後症状を見ながら必要に応じて注射します。眼に直接注射をするため、まれに感染、視力低下、眼痛、出血などの合併症が起こる場合もあります。視力の維持だけでなく、改善も期待できる治療法で、まさしく画期的なものですが、リスクや費用も含め、医師と話し合って納得してから治療を受けるようにしましょう。
 ほかにも、光に対する感受性を持つ光感受性物質(ベルテポルフィン)を、ひじから注射し、新生血管に到達したとき、非熱性の半導体レーザーを当てて光感受性物質に化学反応を起こさせる、光線力学療法(PDT)などもあります。
 いずれにしても、早い時期に治療することが大切です。視界に異変を感じたら、すぐに眼科専門医を受診することをお薦めします。

2010年1月20日水曜日

「脳梗塞(こうそく)」について

ゲスト/コスモ脳神経外科 院長  小林 康雄

脳梗塞について教えてください。
 脳梗塞は虚血性の脳卒中で、脳の血管が血栓などによって詰まったり、動脈硬化によって血管が狭くなるなどして起こる疾患です。その背景となるのは基本的には、メタボリック症候群です。内臓脂肪が過剰になると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすく、動脈硬化が急速に進行します。
 脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡などが挙げられます。突然起こる場合が多いのですが、場合によっては予兆となる症状があります。半身のしびれ、口のもつれなどで、このような症状が表れた場合は、迅速にかかりつけ医の指示をあおぐか、脳神経外科へ直行することをお薦めします。発症後3時間以内であれば、血栓や塞栓(そくせん)を溶かす薬を使って治療します。効果があれば、比較的後遺症が軽くすみます。投薬治療ができない場合は手術となりますが、この場合も治療までに要する時間が短いほど、後遺症を軽くすることができます。いかに迅速に治療を始めるかが、予後に大いに関係してきます。

脳梗塞を予防するにはどうすればいいですか
 30代、40代で動脈硬化が始まりますから、会社などの健康診断でメタボリックシンドロームの兆候があれば、普段の生活習慣を見直しましょう。食事は塩分を控え日本食中心にし、適度な運動、禁煙、節酒を心掛ける。ストレスや寝不足などで疲労が蓄積しないように規則正しい生活を目指しましょう。
 また、健康診断で不安要素があったり、動脈硬化症の近親者がいる場合は、一度「脳ドック」を受けることをお薦めします。レントゲン検査で頭と首の健康状態を調べ、MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の断層写真を撮り、MRA(磁気共鳴血管造影)で血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)部分・脳動脈瘤(りゅう)の発見、動脈硬化の程度などを調べます。健康保険の適用外になりますが、1~2時間程度で受けられます。脳梗塞は一度発症すると命にかかわり、後遺症の影響も大きい疾患です。自分の健康・生活を守るためにも、予防を心掛けましょう。

2010年1月13日水曜日

「橋本病」について

ゲスト/青空たけうち内科クリニック 竹内 薫 院長

橋本病について教えてください。
 橋本病は、慢性甲状腺炎とも呼ばれ、リウマチなどと同じ膠原(こうげん)病(自己免疫疾患)の一つで、甲状腺機能低下症の代表的な疾患です。同じ甲状腺の病気・バセドー病とは正反対で、甲状腺ホルモンの量が不足することによって、新陳代謝が悪くなり、全身に影響が出ます。寒がり、疲れやすい、動作が鈍い、体重増加、声かれ、むくみ、のどの違和感、ボーッとした表情、物忘れ、無気力、眠気、脈が遅くなる徐脈、息切れ、食欲低下、便秘、皮膚乾燥、脱毛、脱力感、筋力低下、肩凝り、月経不順、コレステロール値上昇、貧血など、さまざまな症状が出てきます。
 橋本病の原因は、甲状腺を異物とみなして甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)ができ、この抗体が甲状腺を破壊していくため、徐々に甲状腺機能低下症になります。
 また、甲状腺が腫大する(硬く腫れる)ことがあり、甲状腺腫が大きい人は、のどの圧迫感や違和感を訴える場合があります。20歳以降の女性に多く、潜在性や軽症例を含めると成人女性の約10%程度と高頻度です。

治療について教えてください。
 甲状腺機能が正常であれば、体には影響はなく自覚症状もないので、薬は必要ありません。甲状腺機能の低下がある場合は、足りない分の甲状腺ホルモンを補充します。薬の効果が出れば症状が軽減し、家事、仕事、妊娠など日常生活を普通に送ることができます。ただし、足りない分を補っているだけなので、長期間の治療が必要になります。
 橋本病は合併症を起こしやすく、リウマチやシェーグレン症候群などの膠原病を合併しやすい病気です。また、まれに悪性リンパ腫になることもあります。治療の必要がなくても、定期的な診察は欠かさないようにしましょう。比較的多い疾患ですので、首に違和感を覚えたり、前述の症状がある場合は内科医等を受診することをお薦めします。

2010年1月6日水曜日

「個人と社会の関係」について

ゲスト/五稜会病院 千丈 雅徳 医師

「自分さえよければ」という傾向が強くなっていると感じられますが。
 日本人は昔から「世間体を気にする」といわれてきましたが、最近は、ごく限られた仲間内だけの世間体を非常に気にするという傾向が見られます。たとえば、メールが来たらすぐに返信しなければならない、そのために人前でずっと携帯をいじっているなど公共空間でのマナー違反、ルール違反を平気で犯す。つまり、ごく小さな世界での世間体を優先し、公の世間体には無頓着になっています。
 昨年、オバマ大統領が就任式のスピーチで「一人一人の責任ある行動」を強調しました。また、約50年前の大統領で今も人気がある故ジョン・F・ケネディは、就任式で「わが同胞のアメリカ人よ、あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを問おうではないか。わが同胞の世界の市民よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、われわれと共に人類の自由のために何ができるかを問おうではないか」と述べ、文句を言うだけで何でも他人のせいにすることを戒め、主体的に自らの運命を切り開いていくことを強調しました。

自分を犠牲にすることでストレスもたまるのではないですか。
 自己を犠牲にする必要はありません。「何をしてもらえるかではなく、何ができるか?」という意識の大切さについては、昨年日本を沸かせWBCで活躍した選手たちが良いお手本になります。
 たとえば、イチローが9年連続200本安打を達成し、ダルビッシュは北海道日本ハムのリーグ優勝に貢献し、パ・リーグのMVPも獲得しました。彼らはチームの中で何とか貢献しようという気持ちが強く、そのために厳しく自己管理を行い、結果として個人の成績も残したわけです。個の利益と公の利益は、決して対立するものではありません。
 私たちも自分を磨きながら同時に社会の役に立つよう心掛けたいものです。しかし、そのためにはメンタル面での強さが必要です。スポーツの現場では、メンタルトレーニングは一般的になりつつあります。悩みを独りで抱え込んでプレッシャーに押しつぶされては駄目です。周囲に相談してください。相談できる人がいない、自分で感情のコントロールが難しいと感じたら、心療内科や精神科で、専門家にアドバイスを求めることをお薦めします。ストレスからうつに移行する患者さんも多いので、早めに受診することが肝心です。

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