2020年3月25日水曜日

アスリートの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群)

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

アスリートによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。
 肘や膝、踵など、スポーツにより痛めやすい部位はいくつかありますが、股関節周辺もその一つです。
 股関節周辺の痛みは、グロインペイン症候群とも呼ばれ、特にサッカー界でよく知られる症例です。ボールを蹴るときに脚の付け根の前側が痛くなる、ピッチで走っていると太ももの内側や肛門のまわりがギューッと痛くなるのが典型的な症状です。股関節の前面の大腿直筋あるいは内転筋という筋肉の股関節側の付着部の損傷が、痛みの主な原因だと考えられています。
 病態がさまざまで、診断が難しいケースも多く、なかなか治らない痛みに悩まされる方も少なくありません。これは、痛みの原因が、痛い箇所そのものにあるのではなく、筋肉や関節の柔軟性の低下や不自然な体の動かし方、使い方などによって、身体全体のバランスが崩れて、痛みと機能障害の悪循環が生じ、症状が慢性化してしまっていると考えられます。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。
 痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。
 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。患者さんの体の特性・弱点を見極め、それぞれに合った個別の運動メニューを提示し、パフォーマンスをレベルアップしていくためのケアやけがの予防法もアドバイスします。
 病状によっては手術を行う場合もあります。新しい術式として注目されているのが「関節外クリーニング手術」です。1センチ程度の創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。

2020年3月18日水曜日

薬による胃腸障害

ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長

薬による胃痛について教えてください。
 「痛み止めで、胃が荒れる」という副作用はよく知られていると思います。原因になる薬は、かぜ薬に含まれることもあり、頭痛や腰痛にも一般に使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)というタイプの薬です。成分名はイブプロフェン、ロキソプロフェンなどです。脳梗塞や心筋梗塞を起こした人が、血栓予防のために処方されるアスピリンもNSAIDsの一つです。
 これらの薬は胃の粘液を減らしたり、粘膜の血流や防御力を低下させる作用があるため、粘膜障害を起こしたり、悪化すると胃潰瘍を生じたりするリスクがあります。わが国では胃潰瘍の最も多い原因はピロリ菌ですが、その次に多いのがNSAIDsです。NSAIDsによる潰瘍は痛みがあまりない場合もあり、突然の出血によって発症することもあります。患者さん側のリスクになる因子は、高齢者、潰瘍の既往、抗血栓薬併用、ピロリ菌感染者などです。
 一方、アセトアミノフェンという薬はNSAIDsと同じくらいよく使われる、異なるタイプの痛み止めですが、副作用として胃腸障害がほとんどないので、リスクのある患者さんにはこちらをお勧めするケースが多いです。慢性の痛みに対しては、痛み止めの種類を検討したり胃薬を併用したりする必要があるので、自己判断で市販薬を継続せずに医師に相談しましょう。

薬による下痢について教えてください。
 NSAIDsは胃だけではなく、小腸や大腸の粘膜障害を引き起こすリスクがあることも分かっています。長期服用で下痢だけではなく、下血や貧血などをきたすこともあります。
 下痢の副作用が最も多いのは抗生物質です。抗生物質により正常な腸内細菌のバランスがくずれて下痢を起こすことがあります。服用中止でおさまる軽い下痢であれば問題ありませんが、下痢の症状が長引き、発熱や腹痛などを伴い重症化する場合もあります。抗生物質に起因する腸炎の代表が「偽膜性腸炎」です。腸内細菌のバランスが崩れて、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)という細菌が異常増殖し、この菌の毒素によって腸炎を起こします。大腸の粘膜に偽膜と呼ばれる小さい円形の膜を多数形成することを特徴とします。これが疑われる場合には、毒素を検出するために便検査が行われ、治療にはこの細菌を除菌するための内服薬が処方されます。
 抗生物質には他にも副作用がありますし、耐性菌の問題もあるため適正使用が求められています。

2020年3月11日水曜日

白内障

ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長

―白内障について教えてください。
 白内障は、目の中でピントを合わせる機能を持ち、レンズのような働きをする水晶体が濁って見えにくくなる病気です。水晶体を通る光が妨げられて、視力が下がったり、物がかすんだり二重に見えたり、光をまぶしく感じたりします。症状が急に起こるのではなく徐々に進むので、進行するまで気付かない場合もあります。
 若い年代で発症する例もありますが、大半は加齢に伴うもので、80代ではほぼ100%が白内障になるといわれます。超高齢化社会を迎えたわが国では、白内障に罹患する人口が増加しており、白内障治療は眼科領域で非常に頻度の高い外科手術の一つになっています。

白内障の治療について教えてください。
 初期の白内障は点眼薬で進行を遅らせることができますが、濁った水晶体を元に戻すことはできません。進行した白内障には手術が行われます。
 手術では眼球に小さな穴を開け、超音波によって水晶体を細かく砕いて取り除きます。代わりに、人工の水晶体である「眼内レンズ」を挿入します。局所麻酔を使用するため手術中の痛みはほとんどありません。手術は10〜20分で終了し、日帰り手術も広く行われています。
 眼内レンズには、一定の距離のみにピントが合う単焦点レンズと、近くも遠くも対応可能な多焦点レンズがあります。白内障手術で長らく使われているのは、単焦点タイプの眼内レンズで、健康保険が適用されます。単焦点は比較的はっきり見えますが、ピントの合わない部分は眼鏡が必要になります。一方、自費診療となる多焦点は、眼鏡なしの生活が期待できますが、レンズの構造上、焦点を結ばない光があり、くっきり感は落ちます。夜間に街灯や車のライトがにじんだり、まぶしく感じたりすることもあります。単焦点にするか、多焦点にするかは、それぞれのメリット、デメリットについて医師の説明をよく聞き、価格面も含め自分のライフスタイルにどちらが合うか考慮して決めることをお勧めします。
 白内障のほか、緑内障や加齢黄斑変性など加齢に伴う目の病気は、放置していると生活の質を大きく低下させたり、最悪の場合、失明のリスクも考えられるため、早期発見・治療が何よりも大切です。自覚症状がない人でも40歳を過ぎたら一度は目の検査を受けてほしいと思います。

2020年3月4日水曜日

今、あらためて視力を大切に!

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

学校などで行われる視力検査について教えてください。
 多くの学校では新学期が始まると間もなく健康診断が行われます。眼に関係したものには毎年全児童生徒に行う「視力検査」があります。視力に不安がないお子さんには「毎年、実施する必要があるのか」と思っている親御さんもおいででしょう。しかし実は、視力検査からはさまざまなことが分かるのです。
 例えば、小学校のお子さんの視力が0.8程度であると、「授業に支障がなければ問題ない」と考えがちですが、強い遠視や乱視のケースでは矯正レンズを当てても1.0以上の視力を得られないことがあります。これは「弱視」という病気です。放置すると、細かいものを見るための脳や神経の働きが十分に成長せず、視機能の発達が途中で止まってしまいます。将来、運転免許証を取ることが出来なく、就職活動に差し支える事もあります。早期に弱視を発見し、適切な治療を受ければ視力の改善が期待できますが、小学校半ば以降になると治療は難しくなります。
 弱視の有無や程度を調べるには、検査用点眼薬などを使った視力や屈析についての詳しい検査が必要です。これは医療機関でしかできません。学校健診などで視力の不良を指摘され、日常生活で不自由なく過ごしていても、片眼の弱視の場合もあり、眼科を受診し相談されることが大切です。

成人の場合は、定期的な視力検査を受けなくてもいいのですか。
 成人の場合も、視力検査が目に隠れているさまざまな病気の早期発見につながるケースは珍しくありません。特別な症状がなくても、定期的に眼科を受診するようにしましょう。例えば、ご年配の方の場合、白内障による視力低下と思い込んでいたのが、実は加齢黄斑変性症によるものだったという場合もあります。普段両目で見ていると片目に異常があってもなかなか気付きにくいものです。眼科で片目ずつ視力を測定して初めて見つかるケースも多いです。
 糖尿病と診断された方は、糖尿病網膜症の発症・進行を防ぐために、眼科医も必ず受診してください。この病気が厄介なのは、自覚症状が少なく、見えづらさなどの症状が出るころにはかなり進行し、失明の危険性がある場合も少なくないことです。失明を防ぎ、視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが重要です。

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