2019年7月10日水曜日

「咀嚼(そしゃく)と健康」

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

咀嚼について教えてください。
 大まかにいうと、咀嚼とは、口に取り込んだ食べ物をゆっくりと時間をかけて噛み砕き、細かくすることです。専門的に説明すると、上下の歯列によって食べ物を噛み砕いたり、すりつぶしたりしながら、唾液と混和し、嚥下(えんげ)(食べ物を飲み込むこと)に適した性状(=食塊、食べ物の塊)に調整するための口の働きです。
 味覚中枢を刺激し、唾液の分泌を促進することも、咀嚼の大切な役割の一つです。唾液にはアミラーゼやムチン、ガスチン、リゾチーム、ラクトフェリンなどさまざまな成分が含まれ、その働きは「味覚を敏感にし、食べ物をおいしく感じさせる」「口腔内の汚れを洗い流し、害ある細菌の繁殖を抑える(=むし歯や歯周病を予防する)」など多岐にわたります。よく味わい、よく咀嚼することで分泌される唾液は「長生きのもと」とも呼ばれています。
 そのほか、よく咀嚼することのメリットは、唾液や胃液の分泌が増すことで消化吸収を助け、血糖値の上昇、空腹感を満たし肥満や糖尿病の予防につながることなど、数多く挙げられます。

よく咀嚼すると脳の活性化につながると聞いたことがあるのですが。
 しっかり咀嚼することで、脳の血流が増え、脳の神経活動が活発になることがさまざまな研究結果から明らかになっています。食事の時に私たちの脳がどんな活動をしているかを調べてみると、記憶にもっとも関係している前頭前野や海馬をはじめ、脳のさまざまな領域が活性化することが確認されました。つまり、咀嚼は記憶力、認識力、思考力、判断力、集中力、注意力といった脳の働きと密接に関係していることが示唆されています。
 「残っている歯の本数が多い人ほど認知症になりにくい」「お年寄りが合わない入れ歯を使用していると、認知症が進行しやすい」という研究結果などから、咀嚼が認知症予防につながることも分かっています。
 お年寄りの場合、自分で使っている義歯に問題がないと思っていても、実は上手に咀嚼できておらず、知らず知らずのうちにやわらかい食べ物(炭水化物など)の摂取が多くなり、栄養が偏ってしまっているケースも多く見受けられます。近年は、簡単に咀嚼機能を科学的に判定する検査が登場していますので、一度かかりつけ歯科医院で相談してみるといいでしょう。