2019年12月25日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安症とはどのような病気ですか。
 近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック障害などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安障害(SAD)もその一つです。SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いです。
 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や引きこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。
 SADは10〜20歳代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。
 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法も指導します。
 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは治療のできる病気ということです。治療により長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2019年12月18日水曜日

高位脛骨(けいこつ)骨切り術と半月板損傷の治療

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 薮内 康史 医師

高位脛骨骨切り術について教えてください。
 中高年になると膝に痛みを感じる人が増えてきます。その多くは変形性膝関節症によるものです。膝の関節軟骨がすり減り、関節内に炎症が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じます。膝への衝撃を吸収するクッション役の半月板が切れたり、裂けたりする半月板損傷を伴っているケースも多いです。症状が進むと、歩けば膝が痛く、正座や階段の上り下りが難しくなります。さらに症状が進むと膝が変形し、歩行困難など日常生活に支障を来します。
 治療としては、薬(消炎鎮痛剤や関節内注射など)やリハビリ、装具(膝装具や足底板など)による保存治療がまず行われます。保存治療で痛みが軽減されず、日常生活や仕事に不便を感じるようであれば、手術が考慮されます。手術は、一般的には症状が軽度〜中程度であれば高位脛骨骨切り術が、高度であれば人工関節置換術が行われます。
 変形性膝関節症では、多くの人が膝の内側の軟骨がすり減り、徐々にO脚となり、さらに膝の内側に負担が偏ります。高位脛骨骨切り術は、自分の脛(すね)の骨を切ることでO脚を矯正し、膝の外側へと負担を分散させる手術です。いくつか術式がありますが、最近では、膝の内側から骨を切って広げ、時間とともに本物の骨に置き換わる人工骨を挿入し、金属のプレートで固定する方法が多くなっています。半月板損傷を伴っている場合は、関節鏡を使って断裂した半月板を切除したり縫合をします。関節内全体をクリーニングしたり、必要に応じて軟骨移植もあわせて行うこともあります。

高位脛骨骨切り術の利点について教えてください。
 最大の利点は、自分の関節を温存することができるので、比較的侵襲(心身に及ぼす影響)が少なく、他の手術方法と比較して術後の日常生活に対する制限が少ないことです。回復すれば、ゴルフ、テニス、ジョギングといったスポーツや農作業などの肉体労働の仕事も可能ですし、正座も引き続きできることが多いです。
 術後に運動や体を動かす仕事、旅行などを積極的にしたいといった患者さんは高位脛骨骨切り術を受けるのに適しているといえるでしょう。また、人工関節は技術の進歩とともに耐久性は向上していますが、その寿命は一般的に20年程度と考えられていますので、若い患者さんにも高位脛骨骨切り術が勧められます。

2019年12月11日水曜日

リウマチクリニックにおける看護師の役割

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

リウマチ診療におけるチーム医療の重要性について教えてください。
 近年、骨破壊を抑える効果が期待できる生物学的製剤の登場など、診断技術や治療方法の大幅な進歩によって、リウマチの症状や兆候が消失した状態である「寛解」を目指し、寛解が維持できる“新しい時代”を迎えています。とはいえ、リウマチはその治療が長期にわたるため、患者さんにとっては心理的負担も大きく、また高額な薬剤費による経済的負担も大きくなります。これらのさまざまな問題を医師だけで解決することは難しく、医師以外のメディカルスタッフの協力が必要となります。
 医師、看護師、検査技師、薬剤師らがそれぞれの立場から患者さんへの聞き取り、日常生活のチェックなどを行うことで、あらゆる角度から患者さんの容体をみつめ、医師の診察だけでは分からなかった問題点を発見することがチーム医療の狙いの一つです。看護師の介在は、患者さんと医師のコミュニケーションには必須です。
 高齢化社会を迎え、リウマチ患者さんの高齢化が進むとともに、高齢発症の患者さんも増えております。高齢者はフレイルという虚弱状態に陥りやすく、リウマチの治療を継続しなければ、身体機能の低下で寝たきりになる可能性もあります。そこで大切なのは、個々の患者さんが希望される治療内容や社会的背景(医療・福祉制度の利用状況など)を十分に考慮しながら、治療(通院)の継続を支えていくことです。その中で大きな役割を果たすのが、医師以上に患者さんと長い時間向き合っている看護師の存在であると私は考えます。
 看護師は、患者さんが家事などの日常生活に不便を感じたり、医療費を負担に感じていないかなど、個々人の背景を把握するよう努めることも仕事の一部です。患者さんが利用できるさまざまな制度について情報提供をするなど、それぞれがより良い人生を送るために、日々の生活をどのように過ごし、どう治療を継続していくかという個別指導の取り組みも重要になります。
 患者さんが新たに医療・福祉制度を利用し、さまざまなサービス、支援・助成を受けるというリウマチのトータルケアの一助となれるように日々努力を積み重ねることも看護師の責務です。
 看護師が自己研鑽して培ってきた技能やアイデアを活かし患者さんに貢献することでチームとしての医療体制が整い、より良いリウマチ診療を生み出すことができるでしょう。

2019年12月4日水曜日

股関節の関節外クリーニング手術

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

股関節が痛くなる原因を教えてください
 股関節に痛みを引き起こす病気は、股関節周囲炎やアスリートの股関節痛、変形性股関節症などが知られています。
 「五十股」とも呼ばれる股関節周囲炎は、股関節の使い過ぎなどで股の付け根に痛みを発症する病気です。痛みで受診しても、レントゲン検査では異常が発見されないことも多く、薬物療法やリハビリを行っても改善しないケースも少なくありません。アスリートの股関節痛は、サッカーや野球、バドミントンなど足を使うスポーツ選手に多いです。股関節の前面から大腿骨にかけて、膝を伸ばす大腿直筋という筋肉がついているのですが、この筋肉の股関節側の付着部の損傷が痛みの原因です。変形性股関節は、何らかの要因により股関節が変性し痛みを発症する病気です。大部分が骨盤の臼蓋(きゅうがい)の形成不全が原因です。
 股関節の痛みに対する治療には、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行う保存的治療と、手術を行って痛みの原因を根本的に取り除く外科的治療があります。手術にもいくつか種類がありますが、新しい治療法として注目されているのが股関節鏡を用いた「関節外クリーニング手術」です。

股関節の関節外クリーニング手術について教えてください。
 関節外クリーニング手術は、1センチの創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。骨を削るなどの治療を必要としないので、入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 治療の対象となるのは、股関節周囲炎や運動に伴う股関節痛です。レントゲン画像で異常はないものの股関節痛があり、薬やリハビリではなかなか改善しないといった症例の約半数に適用となります。また、変形性関節症の中にも関節外クリーニング手術だけで改善する例もあるので、病状を見極めた上で治療法を決定することが重要です。
 股関節の痛みは、理学療法士による徒手的なリハビリで治るケースも少なくありません。さらに、術前に徒手的リハビリを実施することで、関節外クリーニング手術を行いやすくしたり、また術後に徒手的リハビリを行って回復を早めたりするなど、手術と組み合わせる治療も有効なケースが多いことが分かっています。