2018年11月28日水曜日

痰(たん)と去痰剤

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

痰について教えてください。
 痰は、気道内に入ってきたウイルスや細菌を排出するために出る粘液です。健康な人でも常に産生されていますが、無意識のうちに飲み込んでいて通常は気になりません。一定の量を超えると痰として認識されます。何らかの原因で気道内に炎症が起きると、粘液の分泌が過剰になって痰が増えたり、成分の変化が起きて痰が出しにくくなったりします。
 痰は、その特徴を把握することで、原因となっている疾患の診断や治療に役立つことがあります。急性期で痰が透明や白色であれば感冒などのウイルス感染を、痰が灰白色や黄色であれば細菌感染を疑います。黄色や緑色の膿性(のうせい)痰の場合は、細菌感染を含め、気管支拡張症などの慢性気道感染症を疑います。また、痰に血が混じる場合は、気道や肺胞からの出血が疑われ、肺がん、肺結核、気管支拡張症などの可能性もあります。ただし、せきが強い場合には、気管支の表面に血がにじんで、それが痰に混じって出る場合もあります。
 夜中から明け方に痰が多く出る場合は気管支喘息(ぜんそく)を、朝の起床時に多い場合は、慢性気管支炎や肺気腫などの慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)の可能性も考えます。気管支喘息やCOPDなどの慢性の呼吸器疾患では、粘液の産生源である粘液腺が肥大しており、粘液を気道に分泌する杯(さかずき)細胞の数が増加しています。その結果、痰の量が多くなり、また、痰の中の糖たんぱくの割合も増えるので痰が粘り気を増して出しにくくなります。気道内に滞留した痰は、細菌などの感染の温床となり、気管支炎や肺炎になることもあります。

痰を抑えるにはどうすればよいですか。
 痰の管理には去痰(きょたん)剤が投与されます。去痰剤は作用機序の点から大きく二種類あります。一つは痰の粘稠(ねんちょう)度を下げ、粘液を正常な状態に近づけるものです。粘液修復薬とも言われカルボシステインなどがあります。もう一つは、痰と気道粘膜との粘着性を下げて痰を滑りやすくし、痰の排泄を促すものです。粘膜潤滑薬とも言われ、アンブロキソールなどがあります。
 特にカルボシステインについては、粘液修復作用とは別に、抗酸化作用や抗炎症作用があり、COPDの増悪を抑える効果があります。また、ウイルス感染の抑制作用も報告されています。

2018年11月21日水曜日

便秘の原因〜〈ねじれ腸〉について〜

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

ねじれ腸について教えてください。
 最近テレビなどにも取り上げられている大腸の形態異常、いわゆる「ねじれ腸」。大腸の一部がねじれることで起きる便秘があることが分かってきました。①子どもの頃から便秘だった。②腹痛を伴う便秘になったことがある。③便秘の後、下痢や軟便が出たことがある。④運動量が減ったら急に便秘になったことがある。これらの症状のうち2つ以上に該当すると、腸がねじれている「ねじれ腸」の可能性があるとされています。
 ②の「腹痛を伴う便秘」とは、腸は動くものの便が出にくい(通りにくい)ため痛みを感じるものと考えられ、主にストレスが原因で発症する「便秘型過敏性腸症候群」と非常に似ています。一方、発症にストレスが関与しない「過敏性腸症候群」では、一般的に教科書などに載っている腸管の形態と異なる、電話コードのように大腸がねじれているなど腸の形の異常を持つ方が多く、その場合は腸管形態に合わせたマッサージやエクササイズで便秘が改善されるケースが多いことが報告されています。当院でも患者さんの大腸内視鏡検査をするなかで、腸の一部がねじれている人は便秘になりやすい傾向があり、ねじれている部分を解消・修復することで一時的に症状が改善する方が多く、「ねじれ腸というタイプの便秘」を裏付けるものと思われます。

ねじれ腸による便秘を解消する方法はありますか。
 ねじれ部位は人によって異なりますが、ねじれている場所を外からマッサージすることだけでも症状が改善するケースもみられます。基本は、左わき腹の下行結腸と下腹部のS字結腸がねじれやすいので、お腹の左側をメーンにやさしい力で腸を揺さぶるようにマッサージするのがコツです。肋骨の内側にある、腸の曲がり角を揺らす上体ひねりを加えるのも効果が期待できます。
 腹痛を伴わない便秘は、腸の動き自体が悪いことが多くマッサージが有効でないケースが多く、別の対策や治療、生活習慣の改善が重要です。また、便秘の原因は腸のねじれだけでなく、大腸・直腸がんや腸の炎症が隠れている可能性も考えられます。便秘(下痢)に伴う血便や体重減少のある方、お腹が張る感じや腹痛が続いている方、また特別な症状はなくても40歳以上の方には、大腸の検査をお勧めします。

2018年11月14日水曜日

胃がん検診と胃がんのリスク判定

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

胃がん検診について教えてください。
 厚労省のがん検診に関する国の指針が平成28年に改定されたのを受け、市町村の胃がん検診が変わります。すでに開始となっている市町村もありますが、札幌市の場合は来年、平成31年1月から対象年齢・検診の内容・受診間隔が変更されます。対象年齢が40歳以上から50歳以上になり、検査内容はバリウム検査に加え、内視鏡検査も選べるようになります。検査の間隔は「毎年」から「2年に1回」となります。
 バリウム検査は費用が安く、検査時間が短いなど優れた検査法ですが、食道の病変や平坦な病変を見つけにくいという弱点がありました。異常が疑われる場合には内視鏡検査が必要になり、二度手間ともいえます。一方、内視鏡検査はバリウム検査に比べて肉体的・精神的苦痛を伴うイメージを持つ患者さんが多いですが、食道の観察も行えますし、粘膜のわずかな異常や色調の変化などを観察できます。早期の病変の発見には、内視鏡検査の方が優れているといえます。また、内視鏡検査ではがんが疑われる病変があれば、その組織を一部採取(生検)して確定診断したり、胃炎所見があるときにはヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染診断を行うこともできます。
 胃がん検診の変更に伴い、40歳の方を対象に、胃がんになりやすいかどうかを判定する検査(胃がんのリスク判定)も新たに導入されました。

胃がんのリスク判定について教えてください。
 ピロリ菌の感染が胃がんの原因となることが明らかとなって時が経ちました。感染により胃粘膜に障害を起こし萎縮性胃炎となり、萎縮した粘膜から胃がんが発生すると考えられています。そこで、血液検査によりピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮の程度を測定し、その両方を組み合わせて胃がんのリスクが高いかどうかを判定します。
 判定結果はA、B、C、Dの4群に分けられます。ピロリ菌の感染がなく、萎縮のない粘膜はA群で、がんのリスクは低いと考えられます。感染があり萎縮のないB群、感染があり萎縮のあるC群、感染がなく萎縮のあるD群の順でリスクが高くなります。リスクの高いB~D群の方は、内視鏡検査を受けることが勧められます。
 札幌市では来年1月から、満40歳になる人を対象に一生に1回だけこの検査を受けることができるようになります(平成33年3月までは経過措置として42・44・46・48歳の方も受けられます)。いくつかの条件がありますが、対象となる方はぜひ制度を利用して受診し、胃がんの予防と早期発見につなげていただきたいと思います。

2018年11月12日月曜日

強迫性障害

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

強迫性障害とはどのような病気ですか。
 「自分や周囲のものを汚く感じ、手洗いを繰り返し、触れなくなる」「ドアの鍵やガスの元栓を閉めたかどうか気になり、何回も確認する」。このように、不合理だと分かっていても、自分ではコントロールできない不安や不快感の原因となる考え(強迫観念)が頭に浮かび、それを振り払おうとしてさまざまな行為(強迫行為)を何度も繰り返してしまう病気が強迫性障害です。繰り返すことで症状が悪化していくのも大きな特徴です。
 症状が比較的軽いうちは、なんとか日常生活を送ることができますが、重症化すると、強迫行為に大半の時間を取られて他のことをする余裕がなくなったり、行けない場所が増えたりするなど、日常生活に支障を来たし、引きこもりになることもあります。また、本人が家族にも度を越えた清掃や確認を要求するなど、周囲の人も症状に巻き込まれてしまうケースもあります。
 強迫性障害の有病率は人口の2〜3%程度といわれ、幅広い年代で発症します。発症のメカニズムはまだはっきりと解明されていませんが、遺伝的な要因との関わりが示唆されています。うつ病やパニック障害など他の精神障害を同時に合併している場合も少なくありません。

治療について教えてください。
 治療には大きく分けて、薬物療法と認知行動療法があります。
 薬物療法で主に使われるのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬です。服用を始めると、約半数の人に症状が軽減するなどの反応が出てきます。薬物療法で効果がない場合は、認知行動療法の一種である「暴露反応妨害法」を用います。これは、まず強迫性障害がどういう病気なのかをきちんと理解してもらう心理教育から始めます。次に、あえて強迫観念を招くような場面に患者さんを立ち向かわせ、強迫行為をしなくても不安感が小さくなっていくことを学んでもらいます。最初の段階では患者さんは強い不安を覚えますが、段階を踏んで行っていけば、強迫行為をしなくても不安がなくなることを実感できるようになります。
 最後に、強迫性障害はきちんと治療すれば改善する可能性の高い病気です。思い当たる点がある人は、一度、専門医を受診してアドバイスを受けることをお勧めします。