2020年8月5日水曜日

精神科における病識がない患者さんについて

ゲスト/医療法人社団 正心会  岡本病院  瀬川 隆之 医師

「病識」という言葉の意味について教えてください。
 病識とは「自分は病気であるという自覚」のことです。精神疾患では自分が病気であることが分からなくなるケースがたくさんあり、これを「病識がない状態」といいます。
 病識がない状態は統合失調症やうつ病、躁うつ病、認知症などさまざまな精神疾患でみられます。周囲からみると病的であり、治療を受けた方がいいのは明らかであるのに、本人は自分が正常だと考えているのでいろいろなトラブルを引き起こします。病識がないことは、特に幻覚や妄想が活発な患者さんで問題になることが多いです。

病識がない患者さんをどのように治療するのでしょうか。
 病識がない患者さんには、周囲の善意はストレートには伝わりません。病識がない患者さんを受診につなげるにはそれぞれの疾患や、患者さん個々の特徴に合わせた工夫が必要です。例えば認知症の方であれば「65歳以上の人は健康診断が必要と、市から通知が来ている」と説明してもらったりします。また、幻覚や妄想が活発な統合失調症の方であれば、決して頭ごなしに否定せずに、不眠や不安など本人が苦しんでいることを動機に受診を促してもらったりします。
 何とか受診につなげた後もそこからまた治療を継続していくための工夫が必要です。病気とその治療についての正しい知識を教えてあげるのだ、という押し付けのような態度では患者さんに反発されてしまいます。私たち医療者は患者さんの味方であり、患者さんの困り事を解決する手助けをしたいのだ、という姿勢で信頼関係を築くように努力します。手助けの対象とする困り事は、ひとまずどんなものでもいいと思います。「社会復帰したい」「家族と仲良くやっていきたい」など通院や治療を続ける動機、治療のニーズを探し出すことが大切です。
 病識がないと、薬を飲むことに意義が感じられないので自己判断で薬をやめてしまう患者さんが多く、それがさらなる症状の悪化につながります。そのため、患者さんの状態がある程度落ち着いている時に、本人の同意を得た上で「持効性注射剤」という筋肉注射を導入することがあります。これは薬の成分がゆっくり時間をかけて体内に取り込まれる注射で、2〜4週間効果が続きます。これだけで十分なわけではありませんが、病識が不十分な患者さんの症状悪化を防ぐ有効な手段です。