2020年1月29日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安症とはどのような病気ですか。
 近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック障害などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安障害(SAD)もその一つです。SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いです。
 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や引きこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。
 SADは10〜20歳代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。
 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法も指導します。
 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは治療のできる病気ということです。治療により長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2020年1月22日水曜日

股関節の関節外クリーニング手術

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

股関節が痛くなる原因を教えてください。
 股関節に痛みを引き起こす病気は、股関節周囲炎やアスリートの股関節痛、変形性股関節症などが知られています。
 「五十股」とも呼ばれる股関節周囲炎は、股関節の使い過ぎなどで股の付け根に痛みを発症する病気です。痛みで受診しても、レントゲン検査では異常が発見されないことも多く、薬物療法やリハビリを行っても改善しないケースも少なくありません。アスリートの股関節痛は、サッカーや野球、バドミントンなど足を使うスポーツ選手に多いです。股関節の前面から大腿骨にかけて、膝を伸ばす大腿直筋という筋肉がついているのですが、この筋肉の股関節側の付着部の損傷が痛みの原因です。変形性股関節は、何らかの要因により股関節が変性し痛みを発症する病気です。大部分が骨盤の臼蓋(きゅうがい)の形成不全が原因です。
 股関節の痛みに対する治療には、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行う保存的治療と、手術を行って痛みの原因を根本的に取り除く外科的治療があります。手術にもいくつか種類がありますが、新しい治療法として注目されているのが股関節鏡を用いた「関節外クリーニング手術」です。

股関節の関節外クリーニング手術について教えてください。
 関節外クリーニング手術は、1センチの創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。骨を削るなどの治療を必要としないので、入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 治療の対象となるのは、股関節周囲炎や運動に伴う股関節痛です。レントゲン画像で異常はないものの股関節痛があり、薬やリハビリではなかなか改善しないといった症例の約半数に適用となります。また、変形性関節症の中にも関節外クリーニング手術だけで改善する例もあるので、病状を見極めた上で治療法を決定することが重要です。
 股関節の痛みは、理学療法士による徒手的なリハビリで治るケースも少なくありません。さらに、術前に徒手的リハビリを実施することで、関節外クリーニング手術を行いやすくしたり、また術後に徒手的リハビリを行って回復を早めたりするなど、手術と組み合わせる治療も有効なケースが多いことが分かっています。

2020年1月15日水曜日

ドライマウス

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎 院長

ドライマウスについて教えてください。
 ドライマウスは、何らかの原因で唾液の分泌が抑制され、口腔内が乾燥することによって引き起こされるさまざまな症状のことをいい、特に中高年の女性に起こりやすい症状です。
 唾液は通常は1日1~1.5リットル分泌されます。加齢やストレス、薬の副作用などで分泌量が低下します。唾液は消化酵素のアミラーゼを含み、食事時に多量に分泌され嚥下(えんげ)を補助します。お茶や水、汁物がないと食事ができない人は、唾液分泌量が低下していることが推測されます。口腔内が乾燥すると、乾いたものが食べにくい、飲み込みづらいなど摂食や嚥下(えんげ)に問題が生じるほか、発音が不明瞭になりスムーズな会話ができなくなるなど、口腔機能障害が心配されます。また、唾液には抗菌・免疫作用や保湿、自浄、歯の再石灰化促進を有する成分も含まれていて、食事以外の時も分泌されています。そのため唾液分泌量の低下は、口腔や舌の痛み、ネバネバ感や味覚障害を来すほか、むし歯や歯周病、口内炎の原因になります。

治療について教えてください。
 ままずは原因の特定から始めます。ドライマウスを引き起こす特殊な疾患としては、シェーグレン症候群があり、疑われる場合は血液検査や生検など精密検査が必要となります。
 多くのケースは歯科医による問診と唾液分泌量の測定検査などで原因が特定できます。
 歯科領域の主な原因としては、唾液腺の機能低下や口呼吸、むし歯や歯周病、合わない入れ歯を我慢して使っていてきちんと咀嚼(そしゃく)できてないことが挙げられます。
 治療は原因疾患に対する治療と併せ、口腔内の保湿効果を期待できるジェルやスプレーなどを使ったりして症状を緩和していきます。またガム咀嚼(そしゃく)や唾液腺のマッサージを行ったりすることもあります。唾液腺の異常を放置していると、改善が難しくなるケースもあります。口の渇きに気付いたら、早めにかかりつけ医にご相談ください。

2020年1月10日金曜日

慢性膵炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

慢性膵炎とはどのような病気ですか。
 膵臓に繰り返し炎症が起こることにより、膵臓の細胞が破壊され、膵臓が萎縮していく病気です。原因は、飲酒によるアルコール性慢性膵炎が全体の約3分の2を占め、原因がよく分からない特発性慢性膵炎が約2割を占めます。
 飲酒との関連は明らかですが、大量飲酒者の1〜2%しか慢性膵炎を発症しないことから、環境因子や体質などの素因も関係すると考えられています。喫煙が発症及び増悪に関係することも分かっています。胆石によるもの、消化酵素の遺伝子異常によるもののほか、最近、自己免疫性膵炎という特殊な原因と経過を示す慢性膵炎の存在も知られるようになりました。
 早期の症状は腹痛や背部痛が主で、吐き気や嘔吐、腹部膨満感・重圧感もみられます。膵臓の萎縮が進むと腹痛は軽減していくケースが多いです。その分、膵臓本来の働きが弱くなるので、消化酵素の分泌が低下し、体重減少や脂肪便、下痢などの症状がみられます。また、インスリンの分泌が低下し、糖尿病の症状が起こることもあります。
 強い腹痛とともに急性膵炎と同様の状態になることがあり「急性増悪」といいます。わずかなアルコールの摂取でも急性増悪の契機となります。暴飲暴食、天ぷらやカツなどの揚げ物、クリームやチョコレートなどの脂肪食も急性増悪の引き金になりやすいので注意が必要です。

診断と治療について教えてください。
 超音波検査やCT検査で膵臓に石灰化があれば慢性膵炎の診断が確定されます。内視鏡的膵管造影検査で特徴的な所見がみられた場合も確定診断がつきます。MRCP(MR胆管膵管撮影)検査の初見や膵外分泌機能検査なども診断の参考になります。
 急性増悪を起こすと膵臓の破壊が一気に進むので、治療に先駆けて急性増悪の予防が大切です。禁酒・禁煙、暴飲暴食を慎むこと、脂肪分の多い食事を避けることを日常生活で心掛けなくてはなりません。アルコール性慢性膵炎で禁酒を守れない場合には、ほかの治療を行ってもほとんど意味はありません。
 一般的な治療は対症療法になります。疼痛とともに血液中膵酵素の上昇を伴うような発作を繰り返す場合には、膵酵素阻害剤の内服を行い、疼痛に対しては鎮痙薬や消炎鎮痛薬の内服を行います。消化不良による症状がある時には消化酵素剤を適宜内服します。

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