2020年7月8日水曜日

壊死性リンパ節炎

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

若者にみられる頸部リンパ節の腫れは、どのような病気が考えられますか。
 頚部のリンパ節が腫れる病気には、扁桃炎をはじめとしていくつもありますが、その中に「壊死性リンパ節炎」と呼ばれるものがあります。発見者の名前から「菊池病」ともいわれます。10歳代〜30歳代に発症することが多く、男性より女性にやや多くみられます。これは、のどの痛みなどかぜの症状の後に、頚部のリンパ節が腫れる病気です。リンパ節が数珠状に腫れ、一見してそれと分かります。化膿したときのように赤くはなりませんが、触ると痛いのが特徴です。感冒症状に前後して、38℃台の発熱が1週間位続くことがあります。また、皮膚に発疹が出ることもあります。まれに腋窩(えきか)、そけい部など全身の表在リンパ節が腫れることもあります。
 壊死性リンパ節炎の診断ですが、血液検査では白血球が減少する傾向があり、時に異型リンパ球が出現します。まれに、赤血球や血小板も同時に低下する例もあります。そのほか、炎症反応の上昇や肝機能の異常がみられることもあります。リンパ節の病理所見では、好中球などの炎症細胞の浸潤はみられず、壊死したリンパ球を食い荒らした大型の組織球が認められることより、この病気では体の免疫反応が過剰な状態になっていると考えられます。
 原因としては、かぜ症状から始まることからウイルス感染が疑われています。ヒトヘルペスウイルス6型や8型、EBウイルスなどの関与が示唆されていますが、確定はしていません。膠原病のほか、ダニの刺し傷、トキソプラズマ、猫ひっかき病との関連も報告されています。

壊死性リンパ節炎の治療について教えてください。
 半月〜2カ月程で自然に治癒するので薬は不要です。熱が続いて重篤な場合には、ステロイドを投与します。おおむね予後良好とされていますが、数ヶ月から数年後に再発する例が数%あります。まれに膠原病に進展したり、血球貪食症候群のような病態になったりすることもあるので慎重な経過観察が必要です。
 頸部リンパ節が腫れる病気の中でも特に鑑別に注意が必要なのは、悪性リンパ腫、結核性リンパ節炎、局所のリンパ節腫脹から始まる全身性エリテマトーデス(SLE)などです。確実な診断には、皮膚を切開してのリンパ節生検が必要ですが、実際には症状が重篤でない限り最初から生検することはなかなか難しく、経過をみながら他の病気を除外していくことになります。

2020年7月1日水曜日

胃粘膜下腫瘍

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

 胃粘膜下腫瘍とは胃の粘膜層よりも深い胃壁内(粘膜下層、筋層、漿膜下層など)に発生する病変で、大きくなるにつれて胃の内腔に突出し隆起を形成したり表面にくぼみや潰瘍を形成することもあります。多くは腫瘍性ですが、非腫瘍性の疾患も含まれています。また、病変は良悪性、いずれの場合もあります。
 種類としてはGIST(消化管間質腫瘍の略で、消化管の壁にできる悪性腫瘍の一種です)、リンパ腫、平滑筋細胞由来の腫瘍、神経系腫瘍、脂肪細胞由来の腫瘍、血管内皮細胞由来の腫瘍、内分泌細胞由来の神経内分泌腫瘍などに加え、迷入膵、顆粒細胞腫などがあります。うち、GISTの一部、悪性リンパ腫、脂肪肉腫、血管肉腫、神経内分泌腫瘍の一部では転移をきたすこともあり、悪性度の高いものもあります。
 症状は腫瘍が小さい場合は無症状で、胃の健診などで偶然発見されることもあります。時に腹痛や不快感を伴う場合がありますが、病変が原因とは限りません。しかし、悪性で腫瘍が大きくなってくると、腫瘍が崩れて出血し、吐血や下血を生じることがあります。さらに、転移をきたせば胃がん同様、様々な症状が認められ、全身衰弱にもなります。
 診断は胃X線や内視鏡検査でなされます。病変の表面に潰瘍などを形成して病変が露出している場合には、病変の一部を採取して病理組織診断が可能ですが、病変が正常粘膜に覆われている場合が多いために胃がんのように容易に診断することが困難です。ときには、粘膜表面を焼灼し、露出してきた粘膜下組織を採取して診断する方法もありますが、必ずしもうまく採取できません。そこで、超音波内視鏡検査で病変の性状を調べることもあります。最近では超音波内視鏡を使って生検を行う方法も開発されています。そのほかには腹部超音波検査、CT検査、MRI検査などがありますが、画像だけでは正確な組織診断をすることは困難です。
 治療は一般に、大きさが2cm以下の場合には年1回程度の内視鏡検査、超音波内視鏡検査などで定期的な観察を行い、2〜5cmの腫瘍には腹腔鏡補助下(腹部に小さな穴をあけて行う)に局所切除を行い、診断治療を行うことが推奨されています。さらに、大きさが5cm以上の腫瘍では悪性腫瘍である可能性が多いために手術を行うことが原則です。このような症例では、開腹して切除することが勧められています。小さい腫瘍でも経過観察中に大きさや形態に変化が認められた場合には手術の適応となります。病理組織検査で、c-kitやCD34などの遺伝子が陽性の場合にはGISTと診断されます。腫瘍の大きさや核分裂像により悪性度が判定されますが、それにしたがって、術後のフォローの間隔が異なり、悪性度が高い場合には4〜6ヶ月毎の画像検査、低い場合には6ヶ月から1年毎の検査が一般的です。さらに、転移再発をきたした場合には分子標的治療剤を内服し、治療を行います。

2020年6月24日水曜日

思春期のメンタルヘルス

ゲスト/さっぽろ香雪病院 江川 浩司 副院長

思春期のメンタルヘルスについて教えてください。
 思春期(おおむね10〜18歳の中高生)は、第二次性徴がみられ、心と体が子どもから大人へと変化・成長する時期です。一方で、心と身体のバランスが不安定になりやすく、さまざまな問題が生じやすい時期でもあります。
 情報過多の現代社会では、情報が複雑に操作され、何が正しく何が間違っているのか、大人でも判断が難しい状況です。情報の意味の伝わり方が必ずしも正確なものとはならない場合も多く、まだ心身ともに未熟な子どもにとっては誤解につながることも多いようです。迷いや不安、混乱や絶望など、そうした思いと常に向き合わざるを得ない子どもたちの精神的なストレスは相当なものです。爆発寸前までストレスを抱え込んでいるのに、うまく言葉にすることができなかったり、また、両親に心配を掛けてはいけないという思いから、なかなか自分の気持ちを伝えることが難しかったりします。

思春期の心の病気への対応について教えてください。
 思春期の問題行動としては、不登校が最も多く、引きこもりや自傷行為、自殺、性的非行などが挙げられます。一過性であることも多いのですが、その裏に精神疾患が隠れている場合もあります。近年、増加傾向にある不登校は、環境不適応などさまざまな要因で起こります。対人関係の困難、学習困難、いじめなどに起因したものや、発達障害を背景に持つものもみられます。解決、対応方法に一般論はありません。しかし、時間をかければ必ず改善、解決の糸口を見い出すことができます。
 心の病気は、脳の機能不全によって発生するものがほとんどです。つまり、誰にでも起こり得る、ごく普通の病気なのです。例えば、うつ病は風邪のようにありふれた病気であるという意味合いで、「心の風邪」という別名があるほどです。
 心の病気は治療が遅れるほどに、生活への障害が大きくなる傾向がある病気です。また思春期に始まった心の病気は、成人期まで続いたり、再発したりするケースが多いので、一層早期発見・早期治療が重要となります。
 子どもの日々の様子から、おかしな変化を感じられるようになったら、それは子どもが発している「SOS」の信号なのかもしれません。過剰に悲観的にならず、また自分たちだけで解決しようとせず、早めに専門医に相談することをお勧めします。

2020年6月17日水曜日

口呼吸と鼻呼吸

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎 院長

口呼吸が健康に良くないと聞きましたが、どういうことなのでしょうか。
 近ごろ、お口をポカンと開けているお子さんや若者が増えています。そのほとんどは、口で呼吸をしている「口呼吸」の人です。
 ヒトは1日に約1万リットル分の空気を吸い、そのほとんどを吐き出しますが、本来、人間は構造上、鼻で呼吸をするようにできています。口呼吸は、スポーツをする時やカゼで鼻がつまったりした時、鼻呼吸を補う補助的な呼吸です。呼吸を鼻でするか、口でするか、同じようですが、その意味は大きく異なります。
 鼻呼吸では鼻の繊毛や粘液でウイルスや汚染物質の侵入を防ぎます。また、冷たく乾いた空気を吸い込んでも、鼻の中に張り巡らされた毛細血管によって、喉の奥では体温近くまで温度が上昇し、湿度も上がります。このため、乾燥に強く湿気に弱いウイルスの生存率が低下します。
 一方、口呼吸では、そうした鼻が持つ防御機能は発揮されません。口から息を吸うと、冷たい外気のまま肺に届き、肺の免疫力が低下し、肺にかかる負担が増えてウイルスに感染しやすくなります。また、口呼吸で口の中が乾燥すると口の中や喉の奥にいる細菌が増殖し、口臭や虫歯、歯周病に感染するリスクが高まります。最近の研究では、口呼吸を続けていると、歯や口元の変形、顔面や身体のゆがみ、ドライマウス・アイ、いびきなどさまざまな身体の不調の要因になりうるとされています。

診断や治療について教えてください。
 鼻呼吸がうまくできず、口呼吸に なっているかどうかは、お口を閉じた状態で、舌が低い位置にあり、上あごとの間に隙間があいていると口呼吸が疑われます。また鼻呼吸はゆっくりと深い呼吸ですが、口呼吸は、浅く早い呼吸となります。自分では気付かないうちに、口呼吸になっているケースも多いので、かかりつけ歯科医に一度相談してみるといいでしょう。症状に応じて、適切な検査、治療をおこなっていきます。
 ご家庭でも簡単にできるのが、口呼吸の改善につながる「あいうべー体操」です。「あー」「いー」「うー」「べー」と発声するつもりで口を大きく動かします。「うー」ではタコのように唇を突き出し、「ベー」では口から思い切り舌を出しましょう。1日30セットやれば、舌や口のまわりの筋肉を強化することができ、年齢を問わず、鼻呼吸となりカゼ の予防や免疫力の向上など、健康増進に繋がります。

2020年6月10日水曜日

新型コロナウイルス対策による肌トラブル

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

マスクの長時間着用による肌トラブルについて教えてください。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクを着用する機会が増える中、マスクが擦れて口元にかゆみや痛みを生じたり、マスクの内側が蒸れてニキビが悪化したりするなどの症状を訴える人が増えています。
 マスクの長時間着用は少なからず肌に負担をかけます。不織布は意外と硬いので、肌に摩擦を起こしやすく、その刺激は肌のバリア機能を低下させ、肌の乾燥や湿疹、皮膚炎の原因になります。また、マスクの内側は呼気によって湿度が高くなります。マスクの中が蒸れると、雑菌が繁殖しやすく、口まわりのニキビの発症・悪化の原因になります。
 対策としては、自宅など安心できる場所・場面では意識してマスクを外す時間を作りましょう。また、できるだけ摩擦を起こさないよう自分に合うサイズのマスク、肌あたりのやわらかいマスクを選ぶことが大切です。マスクの内側にガーゼなどのやわらかい布を挟むのも一手です。
 口まわりに汗をかいた時はこまめに拭き取る習慣を付け、洗顔やクレンジング時にはできるだけ刺激を避けるなど、いつも以上にやさしいスキンケアを心掛けましょう。清潔な肌を保ちながら、化粧水で水分を補い、乳液やクリームでしっかりと保湿ケアを行って、肌のバリア機能を守ってください。

―頻繁な手洗い、消毒液による肌トラブルについて教えてください。
 こまめな手洗いや消毒液の使用が励行される中、手のひらや手の甲、指のかさつきやひび割れ、かゆみ、赤み、痛みといった手荒れに悩まされる患者さんも増えています。頻繁な手洗いで、手指の皮膚のバリア機能を担う皮脂が流れ落ち、水分が保ちにくくなることに加え、消毒液の殺菌成分が刺激となって症状を悪化させているケースが多いです。
 高温のお湯は皮脂を取る力が強いので、ぬるま湯や水での手洗いをお勧めします。また、ぬれたままにしておくと皮膚がかえって荒れやすくなるので、ぬれた手はハンカチやハンドタオルできちんと拭くことも大切です。肌の弱い人は、低刺激性の石けんや消毒液を選んだ方がいいでしょう。手荒れがあまりにもひどい時は、十分な水洗いだけでも構いません。手洗い、消毒のあとは、水分をよく拭き取ってからハンドクリームを塗ってください。流れ落ちた皮脂の代わりにバリアの役割を果たしてくれます。
 セルフケアを実践しても、口元や手指の症状が治らない時は、症状がさらに悪化する前に専門医を受診してください。

2020年6月3日水曜日

知っておきたい体温の話

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

体内の温度はどうなっているのですか。また、「平熱」とはいったい何度なのでしょうか。体温について詳しく教えてください。
 私たちの体は、熱を産生して体内の温度をまわりの温度より高く維持しています。体内の温度は、体の中心部は高くなっていて、外側になる手足や皮膚に近いところでは低くなっています。中心部分が高いのは脳や心臓、肝臓など、大切な臓器の働きを保つためです。体の中心部の温度は日常的には測れないので、体に負担をかけずに簡単に検温できる場所として、脇の下(腋窩)、口の中(口腔)、耳、直腸など体の表面に近い場所が用いられています。測定する部位ごとに検温に必要な方法や時間が異なり、得られる温度も異なります。平熱も部位によって違うのです。
 日本人の平熱は、一般的に36.6℃から37.2℃の間といわれていますが、あくまでも平均値で個人差があります。年代によっても異なり、子どもは体温が高めで、高齢では低めになります。体温は1日のうちでも変動します。早朝が最も低く、次第に体温は上昇し、午後3〜6時に最高値を示します。その後、夜に向けて下がっていきます。また、運動や食事、睡眠、女性の生理周期などによっても変動します。
 ご自分の平熱がどれくらいか、ふだんから知っておくとよいと思います。数日にわたって同じ部位で同じ時間帯で測るようにしてみてください。起床時、昼食前、夕方、就寝前の計4回検温し、時間帯ごとの平熱として覚えておくと、発熱を正しく判断できます。発熱の基準も一概にはいえません。自分の平熱より明らかに高ければ発熱ということになります。
 体温は、ご家庭にある体温計で誰でも気軽に測れるもっとも身近な体調チェックの手段です。一人ひとりが自分専用の体温計を持つのが理想です。計測場所や用途に応じてさまざまなタイプの体温計がありますが、最も一般的なのは脇の下で測るものです。
 測り方のコツは、体温計の先を脇の下のくぼみの中央にあて、体温計が上半身に対し30度くらいになるようにして脇を閉じます。肘を体に密着させ、体温計をはさんだ方の肘をもう一方の手で軽く抑えます。脇が完全に温まったときの温度を「平衡温」といい、これを測るのが正しい検温です。脇を閉じてから平衡温に達するまでには10分以上かかります。体温計によっては予測式と言って短い時間で測定できるものがあり、測定時間はさまざまです。測定が終わるまではじっと動かないで測定して下さい。

2020年5月27日水曜日

関節リウマチの今

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 安田 泉 内科副院長

関節リウマチとはどのような病気ですか。
 関節リウマチは、関節に起きた炎症によって腫れや痛みが出る病気です。炎症が続くと骨や軟骨が破壊されて関節の機能低下や変形が進行し、身支度や家事に時間がかかるなど日常生活に支障を来します。
 特徴的な初期症状として、朝起きてしばらくは関節が思うように動かない「朝のこわばり」がみられたり、手や足の関節、特に手の指の第2関節や付け根の関節、足の指の付け根の関節が腫れたり痛んだりします。
 詳しい原因が分かっておらず、完全に治す治療法は確立されていません。現在、日本には70万人から100万人もの患者さんがいるといわれており、決してまれな病気ではありません。男性よりも女性の方が約4倍も多く、発症年齢のピークは30〜50代ですが、60歳以降に発症する方も決して少なくありません。

診断と治療について教えてください。
 かつては「不治の病」とされ、いずれ日常生活が制限されてしまう病気と思われていましたが、この20年間ほどで関節リウマチの診断・治療は格段の進歩をとげ、現在では多くの患者さんが病気の進行を抑え、発症前とほとんど変わらない生活を送ることのできる「寛解(病状がコントロールされている状態)」を目指せるようになっています。
 診断は診療、血液検査、レントゲンやMRI、関節エコーなどの画像検査などによって行います。治療の基本は「抗リウマチ薬(メトトレキサート)」の服用で、それだけでは症状が治まらない場合、関節破壊を防ぐ効果がより強い「生物学的製剤」や「JAK阻害薬」を使ったり、抗リウマチ薬と組み合わせたりします。発症後、早期に治療を始めた患者さんほど、薬がよく効いて寛解となる可能性が高いことが分かっており、早期診断・治療が非常に大切です。
 関節破壊の進行を抑えるのに大変有効である生物学的製剤、JAK阻害薬ですが、副作用として肺炎や結核などの感染症にかかりやすくなる、薬代が高額で患者さんの経済的負担が大きくなるなどの欠点もあります。最も重要なのは、発症早期に適切な治療を受けること。患者さんの年齢や合併症の有無、生活背景、経済的事情などを総合的に考慮し、一人ひとりに合った薬の選択や組み合わせなどを見極めていきます。
 関節の腫れや痛みが続き、リウマチが疑われるなら、お近くの専門医に相談してください。

2020年5月20日水曜日

関節リウマチと感染症

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 副院長

関節リウマチの治療では、免疫を抑える薬を使うため、感染症にかかりやすくなると聞いたことがありますが、本当でしょうか。
 関節リウマチは、本来は外敵から自分を守ってくれる免疫細胞が誤作動を起こし(免疫の異常)、自分自身の組織を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の病気です。全身の関節に腫れや痛みが生じ、徐々に軟骨や骨が破壊されていきます。
 この免疫の異常は、病原体に反応できない免疫不全とは異なります。リウマチ治療薬の多くは、過剰な免疫を調整することで症状を抑えたり改善したりします。治療薬には抗リウマチ薬、免疫抑制剤、生物学的製剤、分子標的治療、副腎皮質ステロイドなどがあります。
 古典的な抗リウマチ薬は、免疫を抑える働きがあまり強くないので、感染症リスクは少ないと考えられています。一方、副腎皮質ステロイドは炎症を取り除く作用は強いのですが、感染症リスクが高いため、必要最小限の使用が望まれます。生物学的製剤や分子標的薬は、普通は何でもないような毒性の弱い細菌やウイルスに感染する日和見感染症のほか、結核、帯状疱疹(水ぼうそうウイルス)への注意が必要とされています。
 関節リウマチの活動性が高い(症状が出やすい、重い)ときは、活動性が低い(症状が落ち着いている)ときに比べ、感染症にかかるリスクは高く、関節リウマチに対する必要十分な治療が必要です。感染症にかかることが怖いからといって、治療を中断してしまうとかえって健康を害するおそれがあります。
 感染症にかかってしまった場合は、免疫抑制作用のあるリウマチ治療薬は、感染症に悪い働きをする可能性があるので、一時的にリウマチ治療薬をお休みすることもあります。
 新型コロナウイルスの感染を心配される患者さんも多いようですが、現時点では、関節リウマチの患者さんが新型コロナウイルスに対して特にかかりやすい、あるいは重症化しやすいという報告はありません。また、一部の生物学的製剤や分子標的薬が新型コロナウイルスの予防や治療に有効であるという報告もあるようですが、まだデータが少なく、効果は明らかではありません。
 関節リウマチの患者さんは、必要以上に感染症をおそれることはありません。ただし、もし感染してしまうと、薬剤の服用に注意が必要となりますので、普段から手洗いやうがいの徹底、インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンの接種など、しっかり感染予防対策を行うことが大切です。

2020年5月13日水曜日

緑内障

ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長

緑内障とはどのような病気ですか。
 現在、日本の中途失明原因のトップが緑内障です。眼球内の圧力である眼圧が上昇することで、視神経(乳頭部)が圧迫されて異常をきたし、見えない部分が出てきたり、視野が狭くなったりします。治療しても一度失われた視野が元に戻ることはなく、放っておくと失明につながるおそれがあります。日本人の40歳以上の20人に1人が、また、70歳以上の10人に1人が緑内障であると言われています。
 緑内障はじわじわと見えない部分が広がっていく病気です。片方の目に見えない部分があっても、両目で見ると互いの眼で見えない視野をカバーしてしまうため、失明寸前まで病気に気付かないことも多い病気です。
 緑内障を完全に予防できるような効果的な方法はありません。ただ、緑内障を早期に発見し、治療をきちんと受けて眼圧をしっかり管理できれば、多くの場合は失明にいたることはありません。早期発見と治療の継続が何よりも重要です。

診断と治療について教えてください。
 緑内障は眼圧が高い人だけの病気と思ってしまいがちですが、日本人の緑内障は正常眼圧緑内障のタイプが8割を占めます。視神経が弱いなどの原因で、正常な眼圧でも緑内障を発症してしまうのです。そのため診断には、眼圧検査に加え、視野や視神経の異常が分かる眼底の検査も欠かせません。40歳を過ぎたら一度は眼科に行き、視力、眼圧、視野、眼底の検査を受けることをお勧めします。
 眼圧が異常であっても正常であっても、緑内障の治療は眼圧を下げることです。点眼薬による薬物療法、レーザー治療、手術という主に3つの方法いずれか、または組み合わせで、眼圧を管理し、病気の進行を遅らせます。早期で発見できれば多くの場合、点眼薬のみで不自由なく生活を送ることができます。症状によっては2剤目、3剤目の点眼薬の処方が必要になるケースもあります。点眼治療で十分に眼圧が下がらなかったり、視野障害が進行したりする場合は、レーザー治療や手術を行います。
 外来で受けられるレーザー治療は、一般的には痛みがほとんどないと言われ、点眼治療にみられる目の充血などの副作用がなく、合併症リスクが少ない治療法として注目されています。点眼の回数が多くて大変である、手術を受けるのは怖い、という患者さんには大変有用な治療です。

2020年5月7日木曜日

アスリートの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群)

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

アスリートによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。
 肘や膝、踵など、スポーツにより痛めやすい部位はいくつかありますが、股関節周辺もその一つです。
 股関節周辺の痛みは、グロインペイン症候群とも呼ばれ、特にサッカー界でよく知られる症例です。ボールを蹴るときに脚の付け根の前側が痛くなる、ピッチで走っていると太ももの内側や肛門のまわりがギューッと痛くなるのが典型的な症状です。股関節の前面の大腿直筋あるいは内転筋という筋肉の股関節側の付着部の損傷が、痛みの主な原因だと考えられています。
 病態がさまざまで、診断が難しいケースも多く、なかなか治らない痛みに悩まされる方も少なくありません。これは、痛みの原因が、痛い箇所そのものにあるのではなく、筋肉や関節の柔軟性の低下や不自然な体の動かし方、使い方などによって、身体全体のバランスが崩れて、痛みと機能障害の悪循環が生じ、症状が慢性化してしまっていると考えられます。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。
 痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。
 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。患者さんの体の特性・弱点を見極め、それぞれに合った個別の運動メニューを提示し、パフォーマンスをレベルアップしていくためのケアやけがの予防法もアドバイスします。
 病状によっては手術を行う場合もあります。新しい術式として注目されているのが「関節外クリーニング手術」です。1センチ程度の創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。

2020年4月22日水曜日

苦痛の少ない内視鏡検査

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査について教えてください。
 これまで、胃内視鏡検査は口から入れる経口内視鏡を用いるのが一般的でした。しかし、最近は「経鼻内視鏡検査」という鼻から挿入する方法で検査が行われることも増えてきました。経鼻内視鏡は以前からありましたが、近年は著しく性能が良くなり、導入する医療機関が急増しています。
 経鼻内視鏡は弾力性のあるしなやかなチューブで、直径は5mm台と一般的な経口内視鏡に比べて細く、スムーズに挿入することができます。画像もクリアな高画質で、視野が広く、ごく小さな病変も発見することが可能です。
 経口内視鏡は挿入時、舌の付け根の舌根という部分に内視鏡が触れることで、検査の最中に「オエッ」という吐き気をもよおすことがあるなど、患者さん の負担が大きかったのですが、経鼻内視鏡では鼻から挿入した内視鏡は鼻腔(びくう)を通って食道に入るため、嘔吐(おうと)感や痛みがほとんどありません。また、検査中に医師と会話できることも、患者さんと医師双方にとって大きなメリットになっています。
 大腸内視鏡というと、どうしても辛く苦しい検査を想像してしまう方が多いと思いますが、こちらも器具や技術の進歩により、従来に比べて検査は楽になってきています。多少の圧迫感はあっても、痛みを抑えて検査を終えることができます。また、鎮痛剤を用いることで、眠っている間に治療が終わるケースもあるようです。

内視鏡検査を受けるべき年齢や頻度について教えてください。
 大腸がんのリスクが高くなる40代以上は、胃がんのリスクが高くなる年代でもあります。「検査が怖い」「以前すごくきつかった」など、大腸や胃の内視鏡検査を苦手とするために、がんなど重篤な病気の発見が遅れてしまう例も少なくありません。がんや潰瘍など、食道や胃、十二指腸、大腸、小腸などの疾患は、早期発見・早期治療が完治への近道です。そのためには、定期的な検査が重要です。
 それぞれの内視鏡検査を受けるのに適切な時期や間隔は、病歴・経過や家族や近親者の病歴などにより個人差はありますが、基本的には40歳になったら「まずは一度」、50歳代以降では1年〜数年ごとに検査されることをお勧めします。

2020年4月15日水曜日

豆乳アレルギーとシラカバ花粉症

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

豆乳アレルギーについて教えてください。
 健康志向の高まりから、豆乳の人気が高まっていますが、豆乳を飲んだ後で、口の中が痒くなったり、胃腸の調子が悪くなったりする方がいらっしゃると思います。これは「大豆アレルギー」によるものです。食物アレルギーとは、食物を摂取した時に、身体が食物に含まれるタンパクを異物として認識し、自分の身体を防御するために過剰な反応を起こすことです。アレルギーを引き起こす環境因子(ダニ、花粉、食品など)をアレルゲンといいますが、大豆に含まれるアレルゲンタンパクの一種で「Glym4」という物質が、大豆アレルギーの原因アレルゲンであることが分かっています。
 豆乳などの大豆製品を飲食した後で具合が悪くなるのに、通常の大豆のアレルギー検査をしても異常がないと診断された方もいらっしゃると思います。このケースでは、Glym4を測定すると異常が出ることがあります。最近、Glym4の測定が、保険適用で検査できるようになりました。
 Glym4はカバノキ花粉(シラカバやハンノキ)の主要なアレルゲンである「PR-10」という物質の仲間であるため、シラカバ花粉症の患者さんの一部も大豆アレルギーとなります。ただ、このアレルゲンは加熱や発酵処理で抗原性を失うため、味噌やしょう油、煮豆などではアレルギー反応は起こりません。豆乳が、最も起こりやすく、もやしや枝豆、豆腐でも起こるケースがあります。

大豆アレルギーと果物アレルギーは関係がありますか?
 PR-10という物質は、大豆以外にもリンゴ、モモ、サクランボ、ナシ、ビワなどのバラ科の果物にも含まれています。そのため、大豆アレルギーやシラカバ花粉症の患者さんでは、これらの果物を食べた時、口やのどが痒くなったり、ひどい場合は呼吸困難を起こしたりします。逆に、リンゴなどの果物を食べると、口やのどが痒くなるようなアレルギー症状を持つ人は、大豆アレルギーも合併していることが多いです。
 シラカバ花粉症の患者さんは、シラカバ花粉もシーズンにはひどいせき込みが2〜3カ月続いたり、ぜん息を併発したりするので、大豆アレルギーやバラ科の果物アレルギーをお持ちの方が長引くせきに悩まされている場合は、呼吸器内科での詳しい検査をお勧めします。

2020年4月8日水曜日

高齢者の精神疾患と身体疾患の合併

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院 神廣 憲記 医師

精神科病院で総合診療を展開されている立場から、精神疾患を抱える患者さんの身体疾患の診療について教えてください。
 精神科病院に入院される方の内訳については、従来は比較的若年の統合失調症の方が多くを占めていましたが、高齢化社会の進展に伴い、精神疾患を抱えながらお年を重ねられた方の入院治療をすることが多くなってきました。また、認知症になって自宅での療養が難しくなったお年寄りが精神科病院で入院治療をするケースも増えています。
 高齢者の多くは元々持病を持っています。持病が複数あり、薬もたくさん服用されていることも珍しくありません。このような高齢化と身体疾患の合併という傾向は、外来で受診される患者さんも同様に見られます。
 そういった高齢者の方々に元気に過ごしていただくためには、精神面だけでなく身体的にも健康問題をコントロールしていく必要があります。

特に遭遇することの多い健康問題のケア・治療について教えてください。
 今回は、糖尿病と誤嚥性肺炎を取り上げます。キーワードは多職種連携です。
 糖尿病は放置すると、動脈硬化が進んだり、眼・腎臓・神経に障害が出たり、さまざまな身体合併症を引き起こすおそれがあります。治療は食事・運動療法、適切な服薬管理が大切ですが、精神疾患を抱える高齢者の場合はセルフケアが難しい患者さんも多いため、入院中も退院後も、複数の医療介護職が関わって支えていくことが重要です。患者さんの要望や生活背景に合わせながら、医師、病棟・外来スタッフ、訪問看護師、精神保健福祉士、デイケアスタッフ、ケアマネージャー、管理栄養士らが連携して関わっていきます。
 誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため、唾液や食べ物などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。嚥下機能低下の要因は、加齢や認知症に伴うものが多いですが、精神疾患を抱える高齢者では、特定の薬剤の副作用により嚥下機能が一時的に低下する方もいます。誤嚥性肺炎の治療は、酸素吸入と抗生物質の点滴を行い、早期に誤嚥を予防しつつ、経口摂取を再開することが重要です。医師、歯科医、歯科衛生士、薬剤師、看護師、リハビリスタッフ、管理栄養士らが連携して、嚥下機能低下の医学的な原因、歯や歯ぐきの状態、舌やのどの動き、食事時の姿勢といった複数の視点の評価を行います。そして、それらの評価に基づいた医学的な治療や口腔ケア、食事形態の選定、食事介助、リハビリテーションを行います。

2020年4月1日水曜日

手足のしびれ

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

手足のしびれについて教えてください。
 脳神経外科の外来で頻度の多い症状に手足のしびれがあります。医療機関や専門医を受診するべきかどうかですが、しびれが長く続く場合や、しびれが段々と強くなるようであれば受診した方がよいでしょう。また、急にしびれが起こって、それが持続する場合は、脳や脊髄の病気が考えられるので、早急に受診する必要があります。
 脳の病気によるしびれには、脳梗塞などの脳血管疾患があります。急にしびれが起こって、その後しびれが持続するのが特徴です。片側の手と口周囲のしびれが同時に起こる場合があります。これは「手口症候群」と呼ばれ、脳の中の視床という部位の病気で起こります。脳梗塞の好発部位でもあるので、手口症候群がみられたら、手足のまひやろれつが回らないなどの症状がなくても、すぐに脳神経外科を受診してください。

手足のしびれは、ほかにどんな原因が考えられますか。
 頚椎症や椎間板ヘルニアなどによる、頸髄性のしびれが考えられます。この場合には、しびれの部位が脊髄神経の分布に重なることが多いため、診察により障害部位を推定することができます。しびれだけにとどまらず、筋力の低下などがみられるようになると、手術による治療が必要なケースもあります。
 頚椎病変に対しては、従来のレントゲン撮影に加えてCTやMRIなどによる画像検査で、椎間板の変形や神経の圧迫などが、より正確に診断できるようになってきました。
 下肢のしびれの原因としては、腰椎疾患や下肢の閉塞性動脈硬化症なども考えられます。閉塞性動脈硬化症では、歩行時にしびれや痛みが起こり、しばらく休むと軽快します。これを「間欠性破行(はこう)」といいます。血管の動脈硬化による病気なので、症状が進行、悪化すると血管外科での治療が必要になります。腰部脊柱管狭窄症も間欠性破行を症状とする病気ですが、立っている姿勢が辛く、前かがみになったりしゃがんだりすると症状が楽になるという特徴があります。
 頚椎、腰椎などが原因で起こる慢性的なしびれや疼痛に対しては、安静、薬物療法、ブロック注射、マッサージなどの保存的治療を行うのが一般的ですが、症状が悪化してくるようであれば手術治療が必要なケースもあります。治療に関しては、かかりつけの病院、先生と相談されることをお勧めします。

2020年3月25日水曜日

アスリートの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群)

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

アスリートによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。
 肘や膝、踵など、スポーツにより痛めやすい部位はいくつかありますが、股関節周辺もその一つです。
 股関節周辺の痛みは、グロインペイン症候群とも呼ばれ、特にサッカー界でよく知られる症例です。ボールを蹴るときに脚の付け根の前側が痛くなる、ピッチで走っていると太ももの内側や肛門のまわりがギューッと痛くなるのが典型的な症状です。股関節の前面の大腿直筋あるいは内転筋という筋肉の股関節側の付着部の損傷が、痛みの主な原因だと考えられています。
 病態がさまざまで、診断が難しいケースも多く、なかなか治らない痛みに悩まされる方も少なくありません。これは、痛みの原因が、痛い箇所そのものにあるのではなく、筋肉や関節の柔軟性の低下や不自然な体の動かし方、使い方などによって、身体全体のバランスが崩れて、痛みと機能障害の悪循環が生じ、症状が慢性化してしまっていると考えられます。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。
 痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。
 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。患者さんの体の特性・弱点を見極め、それぞれに合った個別の運動メニューを提示し、パフォーマンスをレベルアップしていくためのケアやけがの予防法もアドバイスします。
 病状によっては手術を行う場合もあります。新しい術式として注目されているのが「関節外クリーニング手術」です。1センチ程度の創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。

2020年3月18日水曜日

薬による胃腸障害

ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長

薬による胃痛について教えてください。
 「痛み止めで、胃が荒れる」という副作用はよく知られていると思います。原因になる薬は、かぜ薬に含まれることもあり、頭痛や腰痛にも一般に使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)というタイプの薬です。成分名はイブプロフェン、ロキソプロフェンなどです。脳梗塞や心筋梗塞を起こした人が、血栓予防のために処方されるアスピリンもNSAIDsの一つです。
 これらの薬は胃の粘液を減らしたり、粘膜の血流や防御力を低下させる作用があるため、粘膜障害を起こしたり、悪化すると胃潰瘍を生じたりするリスクがあります。わが国では胃潰瘍の最も多い原因はピロリ菌ですが、その次に多いのがNSAIDsです。NSAIDsによる潰瘍は痛みがあまりない場合もあり、突然の出血によって発症することもあります。患者さん側のリスクになる因子は、高齢者、潰瘍の既往、抗血栓薬併用、ピロリ菌感染者などです。
 一方、アセトアミノフェンという薬はNSAIDsと同じくらいよく使われる、異なるタイプの痛み止めですが、副作用として胃腸障害がほとんどないので、リスクのある患者さんにはこちらをお勧めするケースが多いです。慢性の痛みに対しては、痛み止めの種類を検討したり胃薬を併用したりする必要があるので、自己判断で市販薬を継続せずに医師に相談しましょう。

薬による下痢について教えてください。
 NSAIDsは胃だけではなく、小腸や大腸の粘膜障害を引き起こすリスクがあることも分かっています。長期服用で下痢だけではなく、下血や貧血などをきたすこともあります。
 下痢の副作用が最も多いのは抗生物質です。抗生物質により正常な腸内細菌のバランスがくずれて下痢を起こすことがあります。服用中止でおさまる軽い下痢であれば問題ありませんが、下痢の症状が長引き、発熱や腹痛などを伴い重症化する場合もあります。抗生物質に起因する腸炎の代表が「偽膜性腸炎」です。腸内細菌のバランスが崩れて、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)という細菌が異常増殖し、この菌の毒素によって腸炎を起こします。大腸の粘膜に偽膜と呼ばれる小さい円形の膜を多数形成することを特徴とします。これが疑われる場合には、毒素を検出するために便検査が行われ、治療にはこの細菌を除菌するための内服薬が処方されます。
 抗生物質には他にも副作用がありますし、耐性菌の問題もあるため適正使用が求められています。

2020年3月11日水曜日

白内障

ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長

―白内障について教えてください。
 白内障は、目の中でピントを合わせる機能を持ち、レンズのような働きをする水晶体が濁って見えにくくなる病気です。水晶体を通る光が妨げられて、視力が下がったり、物がかすんだり二重に見えたり、光をまぶしく感じたりします。症状が急に起こるのではなく徐々に進むので、進行するまで気付かない場合もあります。
 若い年代で発症する例もありますが、大半は加齢に伴うもので、80代ではほぼ100%が白内障になるといわれます。超高齢化社会を迎えたわが国では、白内障に罹患する人口が増加しており、白内障治療は眼科領域で非常に頻度の高い外科手術の一つになっています。

白内障の治療について教えてください。
 初期の白内障は点眼薬で進行を遅らせることができますが、濁った水晶体を元に戻すことはできません。進行した白内障には手術が行われます。
 手術では眼球に小さな穴を開け、超音波によって水晶体を細かく砕いて取り除きます。代わりに、人工の水晶体である「眼内レンズ」を挿入します。局所麻酔を使用するため手術中の痛みはほとんどありません。手術は10〜20分で終了し、日帰り手術も広く行われています。
 眼内レンズには、一定の距離のみにピントが合う単焦点レンズと、近くも遠くも対応可能な多焦点レンズがあります。白内障手術で長らく使われているのは、単焦点タイプの眼内レンズで、健康保険が適用されます。単焦点は比較的はっきり見えますが、ピントの合わない部分は眼鏡が必要になります。一方、自費診療となる多焦点は、眼鏡なしの生活が期待できますが、レンズの構造上、焦点を結ばない光があり、くっきり感は落ちます。夜間に街灯や車のライトがにじんだり、まぶしく感じたりすることもあります。単焦点にするか、多焦点にするかは、それぞれのメリット、デメリットについて医師の説明をよく聞き、価格面も含め自分のライフスタイルにどちらが合うか考慮して決めることをお勧めします。
 白内障のほか、緑内障や加齢黄斑変性など加齢に伴う目の病気は、放置していると生活の質を大きく低下させたり、最悪の場合、失明のリスクも考えられるため、早期発見・治療が何よりも大切です。自覚症状がない人でも40歳を過ぎたら一度は目の検査を受けてほしいと思います。

2020年3月4日水曜日

今、あらためて視力を大切に!

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

学校などで行われる視力検査について教えてください。
 多くの学校では新学期が始まると間もなく健康診断が行われます。眼に関係したものには毎年全児童生徒に行う「視力検査」があります。視力に不安がないお子さんには「毎年、実施する必要があるのか」と思っている親御さんもおいででしょう。しかし実は、視力検査からはさまざまなことが分かるのです。
 例えば、小学校のお子さんの視力が0.8程度であると、「授業に支障がなければ問題ない」と考えがちですが、強い遠視や乱視のケースでは矯正レンズを当てても1.0以上の視力を得られないことがあります。これは「弱視」という病気です。放置すると、細かいものを見るための脳や神経の働きが十分に成長せず、視機能の発達が途中で止まってしまいます。将来、運転免許証を取ることが出来なく、就職活動に差し支える事もあります。早期に弱視を発見し、適切な治療を受ければ視力の改善が期待できますが、小学校半ば以降になると治療は難しくなります。
 弱視の有無や程度を調べるには、検査用点眼薬などを使った視力や屈析についての詳しい検査が必要です。これは医療機関でしかできません。学校健診などで視力の不良を指摘され、日常生活で不自由なく過ごしていても、片眼の弱視の場合もあり、眼科を受診し相談されることが大切です。

成人の場合は、定期的な視力検査を受けなくてもいいのですか。
 成人の場合も、視力検査が目に隠れているさまざまな病気の早期発見につながるケースは珍しくありません。特別な症状がなくても、定期的に眼科を受診するようにしましょう。例えば、ご年配の方の場合、白内障による視力低下と思い込んでいたのが、実は加齢黄斑変性症によるものだったという場合もあります。普段両目で見ていると片目に異常があってもなかなか気付きにくいものです。眼科で片目ずつ視力を測定して初めて見つかるケースも多いです。
 糖尿病と診断された方は、糖尿病網膜症の発症・進行を防ぐために、眼科医も必ず受診してください。この病気が厄介なのは、自覚症状が少なく、見えづらさなどの症状が出るころにはかなり進行し、失明の危険性がある場合も少なくないことです。失明を防ぎ、視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが重要です。

2020年2月26日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2020年2月19日水曜日

認知症患者に対する心身両面の治療・ケアの重要性

ゲスト/医療法人社団 図南会 あしりべつ病院 石田 祐生子 診療部長

認知症に伴う身体合併症について教えてください。また、認知症には、どうして心身両面の治療・ケアが大切なのですか。
 もの忘れや周囲の状況が理解できなくなり、日常生活に支障をきたす認知症。5年後の2025年には700万人を超えると予想されており、高齢者の5人に1人が認知症という時代が目前に迫っています。
 高齢者の多くは高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症などの生活習慣病を持っています。こうした高齢の方が認知症にかかってしまった場合、認知症の治療に加えて、生活習慣病の管理などの内科的治療が必要になります。
 生活習慣病の合併を見過ごしたまま、認知症の治療だけを続けていると、動脈硬化の進行を食い止められず、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全につながってしまうリスクが高いです。また、認知症になると身体的な不具合があっても、患者さんはそれを適切に表現する能力が低下していたり、痛みを感じる機能自体が鈍くなったりしていて、痛みや不調を訴えることができないまま、肺炎や腸閉塞といった内科的な身体合併症を引き起こしてしまうケースも少なくありません。
 認知症の患者さんは、認知症による記憶障害や見当識障害、失語、失認などに加え、加齢現象や合併するほかの疾患による影響が複雑に絡み合って、生活上の支障が生じています。ですから、認知症に精通する精神科医や心療内科医と、認知症に伴うさまざまな内科的疾患に精通する内科医が密接に連携し、患者さんやご家族の声にしっかり耳を傾け、言葉以外の表情や動作からも患者さんの心身の変化や不調のサインを見落とさないよう注意しながら診療にあたることが重要といえます。
 また、医師同士の連携だけでなく、看護部や作業療法科、栄養科、薬局など院内の各部署が職種の壁を超えたチームを作り、個々の患者さんのQOL(生活の質)を大切にしながら、その後の人生を充実させていく治療とケア、援助、支援をしていくことも重要です。
 内科合併症があるために精神科病院への入院が断られてしまう認知症の患者さん、また、認知症の精神症状があるために内科病院への入院が断られてしまう内科合併症を持つ患者さん。こうしたケースが見受けられるように、残念ながら、さまざまな疾病を合併した高齢者の認知症患者さんへの対応環境は、いまだ十分とはいえません。今後、ますます増えていく認知症対策の一つとして、内科的治療が行える診療体制を敷く精神科病院や、内科医が常駐する精神科病院が増えることが望まれます。

2020年2月12日水曜日

矯正歯科におけるデジタル化技術の進展

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

近年、矯正歯科分野でもデジタル化が進んでいると聞きますが、どのようなものがありますか。
 ここ数年、矯正歯科治療はデジタル技術によって急速に進化しています。
 一つは、被ばく量が少なく、より鮮明な画像が得られる「デジタルレントゲン」の普及と、口腔内を立体(3D)画像で診断できる「歯科用CT」の登場です。歯科用CTを用いた検査では、歯やあごの骨の位置だけでなく、厚さや密度、かみ合わせのほか、目には見えない歯根や埋伏歯の位置なども詳細に把握できるようになりました。
 もう一つは「口腔内3Dスキャナー」です。治療に必要な歯型を取る際、従来はガムのように軟らかく口の中で固まる<印象材>を使いますが、その味やにおいに不快感を持つ患者さんも少なくありません。また、口を一定の時間開け続けなければならず、吐き気をもよおす患者さんもいます。そのようなストレスや苦痛、負担を感じることなく、簡単に歯型を取れる最新機器が口腔内3Dスキャナーです。スティック状の装置を口に入れ、歯を2、3周なぞるだけで、口腔内を精確に撮影・計測し、時間にして数分で歯型の精細なデータを取ることができます。装置は光学カメラのため被ばくの心配がなく、撮影された画像はデジタルデータとしてモニターに再現されます。
 歯科用CTや口腔内3Dスキャナーで得た画像は、それぞれのデータをリンクさせることで、一人一人の歯並びをさまざまな側面から診断できるので、より患者さんの口腔状態に適した理想的な治療計画を立てられます。効率的な歯の動かし方を計画できるので、ワイヤーを使った矯正方法でも、マウスピースを使った矯正方法でも、結果として、少ない通院回数、短い施術期間で、歯に必要以上の負担をかけない安全に配慮した治療が可能になりました。
 画像データのデジタル化により、口腔外科や歯科技工所と必要なデータを共有できることも大きなメリットです。治療の連携がスムーズに行えますし、取得した歯型のデータなどをそのまま歯科技工所で利用するため、手作業の誤差を排し、技工物の精度にも貢献しています。
 「3Dプリンター」を使って矯正治療に必要な器具を成形する取り組みも始まっています。今後、矯正歯科治療のIT化、デジタル化はさらに発展していくはずです。最新のデジタル技術で得られる情報を読み解き、的確に治療に結び付けられるよう知識と技術の研さんを続け、より高品質で患者さんの満足度の高い矯正治療の提供を目指すべきです。

2020年2月5日水曜日

レビー小体型認知症

ゲスト/さっぽろ香雪病院 本谷 宣彦 診療部長

レビー小体型認知症とはどのような病気ですか。
 人に会っても名前が出てこない、何を食べたか忘れてしまうなど、年を取れば、誰でももの忘れはします。人や物の名前や漢字をど忘れしたり、とっさに言葉に詰まったりしても、後で思い出したり、別の機会ではきちんと話せたりするなら、年齢相応の生理的なもの忘れといえます。しかし、人に会ったこと自体、食事をしたこと自体を忘れてしまうようであれば、認知症のサインかもしれません。
 急速に進む高齢化とともに増えている認知症患者。その数は2025年には700万人にのぼると推計されています。認知症は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症が一般的ですが、最近はレビー小体型認知症も注目されています。レビー小体型認知症はもの忘れもありますが、初期にはうつなどの症状が表れることも多く、うつ病として治療を続けているケースも少なくありません。後から認知機能の低下が表れ、いないはずの子どもや亡くなった両親の姿が見えるなど、実物のような具体的な「幻視」が繰り返し見えるのも典型的な症状です。また、筋肉が硬くなり、手足が震えたり、歩けないなどの歩行障害が出たりするパーキンソン病を合併していることが多いのも特徴です。このように多彩な症状を特徴とするレビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症など他の認知症と比べて介護が難しいとされます。
 レビー小体型認知症は、レビー小体という物質が神経細胞の中に出現し、脳の大脳皮質や脳幹に広がって神経に悪影響を及ぼし、認知症の症状を引き起こしていると考えられています。前頭葉を中心とする大脳皮質に出現するほど、より精神症状が強くなります。また、脳幹に出現するとパーキンソン症状を伴ってきます。

治療について教えてください。
 治療は、症状に応じて認知機能の低下を抑制する薬物療法を行います。幻視などの精神症状には、ごく少量の抗精神病薬を投与します。レビー小体型認知症は、抗精神病薬や向精神薬に過敏に反応し、副作用が出て効果が出ずに悪化する患者さんが多いという特徴もあるので細心の注意が必要です。
 デイケアなどの介護サービスの利用は、患者さんとご家族が在宅生活を穏やかに送る助けになります。デイケアでは在宅介護を受けている人を対象に、レクリエーションや入浴、食事などのサービスを提供し、ご家族の介護負担の軽減や日常生活に必要な動作(ADL)を維持・向上させる支援を行ってくれます。1人でいることが多く、人との接触が少ない方は、認知症の進行がはやく、また、精神症状も出やすいことが分かっています。デイケアなどの介護サービスを上手に利用し、身体を動かしたり、頭を使ったり、多くの人とコミュニケーションを取ることは認知症の予防・改善にも役立ちます。
 認知症は誰にでも起こり得ます。早期発見、早期治療が何よりも重要。ちょっとした症状でも、気になることがあればすぐに専門医を受診することが大切です。

2020年1月29日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安症とはどのような病気ですか。
 近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック障害などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安障害(SAD)もその一つです。SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いです。
 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や引きこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。
 SADは10〜20歳代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。
 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法も指導します。
 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは治療のできる病気ということです。治療により長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2020年1月22日水曜日

股関節の関節外クリーニング手術

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

股関節が痛くなる原因を教えてください。
 股関節に痛みを引き起こす病気は、股関節周囲炎やアスリートの股関節痛、変形性股関節症などが知られています。
 「五十股」とも呼ばれる股関節周囲炎は、股関節の使い過ぎなどで股の付け根に痛みを発症する病気です。痛みで受診しても、レントゲン検査では異常が発見されないことも多く、薬物療法やリハビリを行っても改善しないケースも少なくありません。アスリートの股関節痛は、サッカーや野球、バドミントンなど足を使うスポーツ選手に多いです。股関節の前面から大腿骨にかけて、膝を伸ばす大腿直筋という筋肉がついているのですが、この筋肉の股関節側の付着部の損傷が痛みの原因です。変形性股関節は、何らかの要因により股関節が変性し痛みを発症する病気です。大部分が骨盤の臼蓋(きゅうがい)の形成不全が原因です。
 股関節の痛みに対する治療には、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行う保存的治療と、手術を行って痛みの原因を根本的に取り除く外科的治療があります。手術にもいくつか種類がありますが、新しい治療法として注目されているのが股関節鏡を用いた「関節外クリーニング手術」です。

股関節の関節外クリーニング手術について教えてください。
 関節外クリーニング手術は、1センチの創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。骨を削るなどの治療を必要としないので、入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 治療の対象となるのは、股関節周囲炎や運動に伴う股関節痛です。レントゲン画像で異常はないものの股関節痛があり、薬やリハビリではなかなか改善しないといった症例の約半数に適用となります。また、変形性関節症の中にも関節外クリーニング手術だけで改善する例もあるので、病状を見極めた上で治療法を決定することが重要です。
 股関節の痛みは、理学療法士による徒手的なリハビリで治るケースも少なくありません。さらに、術前に徒手的リハビリを実施することで、関節外クリーニング手術を行いやすくしたり、また術後に徒手的リハビリを行って回復を早めたりするなど、手術と組み合わせる治療も有効なケースが多いことが分かっています。

2020年1月15日水曜日

ドライマウス

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎 院長

ドライマウスについて教えてください。
 ドライマウスは、何らかの原因で唾液の分泌が抑制され、口腔内が乾燥することによって引き起こされるさまざまな症状のことをいい、特に中高年の女性に起こりやすい症状です。
 唾液は通常は1日1~1.5リットル分泌されます。加齢やストレス、薬の副作用などで分泌量が低下します。唾液は消化酵素のアミラーゼを含み、食事時に多量に分泌され嚥下(えんげ)を補助します。お茶や水、汁物がないと食事ができない人は、唾液分泌量が低下していることが推測されます。口腔内が乾燥すると、乾いたものが食べにくい、飲み込みづらいなど摂食や嚥下(えんげ)に問題が生じるほか、発音が不明瞭になりスムーズな会話ができなくなるなど、口腔機能障害が心配されます。また、唾液には抗菌・免疫作用や保湿、自浄、歯の再石灰化促進を有する成分も含まれていて、食事以外の時も分泌されています。そのため唾液分泌量の低下は、口腔や舌の痛み、ネバネバ感や味覚障害を来すほか、むし歯や歯周病、口内炎の原因になります。

治療について教えてください。
 ままずは原因の特定から始めます。ドライマウスを引き起こす特殊な疾患としては、シェーグレン症候群があり、疑われる場合は血液検査や生検など精密検査が必要となります。
 多くのケースは歯科医による問診と唾液分泌量の測定検査などで原因が特定できます。
 歯科領域の主な原因としては、唾液腺の機能低下や口呼吸、むし歯や歯周病、合わない入れ歯を我慢して使っていてきちんと咀嚼(そしゃく)できてないことが挙げられます。
 治療は原因疾患に対する治療と併せ、口腔内の保湿効果を期待できるジェルやスプレーなどを使ったりして症状を緩和していきます。またガム咀嚼(そしゃく)や唾液腺のマッサージを行ったりすることもあります。唾液腺の異常を放置していると、改善が難しくなるケースもあります。口の渇きに気付いたら、早めにかかりつけ医にご相談ください。

2020年1月10日金曜日

慢性膵炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

慢性膵炎とはどのような病気ですか。
 膵臓に繰り返し炎症が起こることにより、膵臓の細胞が破壊され、膵臓が萎縮していく病気です。原因は、飲酒によるアルコール性慢性膵炎が全体の約3分の2を占め、原因がよく分からない特発性慢性膵炎が約2割を占めます。
 飲酒との関連は明らかですが、大量飲酒者の1〜2%しか慢性膵炎を発症しないことから、環境因子や体質などの素因も関係すると考えられています。喫煙が発症及び増悪に関係することも分かっています。胆石によるもの、消化酵素の遺伝子異常によるもののほか、最近、自己免疫性膵炎という特殊な原因と経過を示す慢性膵炎の存在も知られるようになりました。
 早期の症状は腹痛や背部痛が主で、吐き気や嘔吐、腹部膨満感・重圧感もみられます。膵臓の萎縮が進むと腹痛は軽減していくケースが多いです。その分、膵臓本来の働きが弱くなるので、消化酵素の分泌が低下し、体重減少や脂肪便、下痢などの症状がみられます。また、インスリンの分泌が低下し、糖尿病の症状が起こることもあります。
 強い腹痛とともに急性膵炎と同様の状態になることがあり「急性増悪」といいます。わずかなアルコールの摂取でも急性増悪の契機となります。暴飲暴食、天ぷらやカツなどの揚げ物、クリームやチョコレートなどの脂肪食も急性増悪の引き金になりやすいので注意が必要です。

診断と治療について教えてください。
 超音波検査やCT検査で膵臓に石灰化があれば慢性膵炎の診断が確定されます。内視鏡的膵管造影検査で特徴的な所見がみられた場合も確定診断がつきます。MRCP(MR胆管膵管撮影)検査の初見や膵外分泌機能検査なども診断の参考になります。
 急性増悪を起こすと膵臓の破壊が一気に進むので、治療に先駆けて急性増悪の予防が大切です。禁酒・禁煙、暴飲暴食を慎むこと、脂肪分の多い食事を避けることを日常生活で心掛けなくてはなりません。アルコール性慢性膵炎で禁酒を守れない場合には、ほかの治療を行ってもほとんど意味はありません。
 一般的な治療は対症療法になります。疼痛とともに血液中膵酵素の上昇を伴うような発作を繰り返す場合には、膵酵素阻害剤の内服を行い、疼痛に対しては鎮痙薬や消炎鎮痛薬の内服を行います。消化不良による症状がある時には消化酵素剤を適宜内服します。