2020年3月25日水曜日

アスリートの股関節周辺の痛み(グロインペイン症候群)

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

アスリートによくみられる股関節周辺の痛みについて教えてください。
 肘や膝、踵など、スポーツにより痛めやすい部位はいくつかありますが、股関節周辺もその一つです。
 股関節周辺の痛みは、グロインペイン症候群とも呼ばれ、特にサッカー界でよく知られる症例です。ボールを蹴るときに脚の付け根の前側が痛くなる、ピッチで走っていると太ももの内側や肛門のまわりがギューッと痛くなるのが典型的な症状です。股関節の前面の大腿直筋あるいは内転筋という筋肉の股関節側の付着部の損傷が、痛みの主な原因だと考えられています。
 病態がさまざまで、診断が難しいケースも多く、なかなか治らない痛みに悩まされる方も少なくありません。これは、痛みの原因が、痛い箇所そのものにあるのではなく、筋肉や関節の柔軟性の低下や不自然な体の動かし方、使い方などによって、身体全体のバランスが崩れて、痛みと機能障害の悪循環が生じ、症状が慢性化してしまっていると考えられます。

股関節周辺の痛みに対する治療について教えてください。
 痛みがある箇所だけを治療するのではなく、全身を診て、正しい姿勢を身に付けたり、股関節付近への負担を減らしたりするなど、痛みの原因となっている根本の部分を治していく必要があります。
 注射療法とリハビリを組み合わせることで、完全に痛みが取れるケースも少なくありません。リハビリでは、筋のマッサージや筋力訓練、上肢から体幹、下肢を効果的に連動させる運動などを行います。患者さんの体の特性・弱点を見極め、それぞれに合った個別の運動メニューを提示し、パフォーマンスをレベルアップしていくためのケアやけがの予防法もアドバイスします。
 病状によっては手術を行う場合もあります。新しい術式として注目されているのが「関節外クリーニング手術」です。1センチ程度の創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。

2020年3月18日水曜日

薬による胃腸障害

ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長

薬による胃痛について教えてください。
 「痛み止めで、胃が荒れる」という副作用はよく知られていると思います。原因になる薬は、かぜ薬に含まれることもあり、頭痛や腰痛にも一般に使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)というタイプの薬です。成分名はイブプロフェン、ロキソプロフェンなどです。脳梗塞や心筋梗塞を起こした人が、血栓予防のために処方されるアスピリンもNSAIDsの一つです。
 これらの薬は胃の粘液を減らしたり、粘膜の血流や防御力を低下させる作用があるため、粘膜障害を起こしたり、悪化すると胃潰瘍を生じたりするリスクがあります。わが国では胃潰瘍の最も多い原因はピロリ菌ですが、その次に多いのがNSAIDsです。NSAIDsによる潰瘍は痛みがあまりない場合もあり、突然の出血によって発症することもあります。患者さん側のリスクになる因子は、高齢者、潰瘍の既往、抗血栓薬併用、ピロリ菌感染者などです。
 一方、アセトアミノフェンという薬はNSAIDsと同じくらいよく使われる、異なるタイプの痛み止めですが、副作用として胃腸障害がほとんどないので、リスクのある患者さんにはこちらをお勧めするケースが多いです。慢性の痛みに対しては、痛み止めの種類を検討したり胃薬を併用したりする必要があるので、自己判断で市販薬を継続せずに医師に相談しましょう。

薬による下痢について教えてください。
 NSAIDsは胃だけではなく、小腸や大腸の粘膜障害を引き起こすリスクがあることも分かっています。長期服用で下痢だけではなく、下血や貧血などをきたすこともあります。
 下痢の副作用が最も多いのは抗生物質です。抗生物質により正常な腸内細菌のバランスがくずれて下痢を起こすことがあります。服用中止でおさまる軽い下痢であれば問題ありませんが、下痢の症状が長引き、発熱や腹痛などを伴い重症化する場合もあります。抗生物質に起因する腸炎の代表が「偽膜性腸炎」です。腸内細菌のバランスが崩れて、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)という細菌が異常増殖し、この菌の毒素によって腸炎を起こします。大腸の粘膜に偽膜と呼ばれる小さい円形の膜を多数形成することを特徴とします。これが疑われる場合には、毒素を検出するために便検査が行われ、治療にはこの細菌を除菌するための内服薬が処方されます。
 抗生物質には他にも副作用がありますし、耐性菌の問題もあるため適正使用が求められています。

2020年3月11日水曜日

白内障

ゲスト/月寒すがわら眼科 菅原 敦史 院長

―白内障について教えてください。
 白内障は、目の中でピントを合わせる機能を持ち、レンズのような働きをする水晶体が濁って見えにくくなる病気です。水晶体を通る光が妨げられて、視力が下がったり、物がかすんだり二重に見えたり、光をまぶしく感じたりします。症状が急に起こるのではなく徐々に進むので、進行するまで気付かない場合もあります。
 若い年代で発症する例もありますが、大半は加齢に伴うもので、80代ではほぼ100%が白内障になるといわれます。超高齢化社会を迎えたわが国では、白内障に罹患する人口が増加しており、白内障治療は眼科領域で非常に頻度の高い外科手術の一つになっています。

白内障の治療について教えてください。
 初期の白内障は点眼薬で進行を遅らせることができますが、濁った水晶体を元に戻すことはできません。進行した白内障には手術が行われます。
 手術では眼球に小さな穴を開け、超音波によって水晶体を細かく砕いて取り除きます。代わりに、人工の水晶体である「眼内レンズ」を挿入します。局所麻酔を使用するため手術中の痛みはほとんどありません。手術は10〜20分で終了し、日帰り手術も広く行われています。
 眼内レンズには、一定の距離のみにピントが合う単焦点レンズと、近くも遠くも対応可能な多焦点レンズがあります。白内障手術で長らく使われているのは、単焦点タイプの眼内レンズで、健康保険が適用されます。単焦点は比較的はっきり見えますが、ピントの合わない部分は眼鏡が必要になります。一方、自費診療となる多焦点は、眼鏡なしの生活が期待できますが、レンズの構造上、焦点を結ばない光があり、くっきり感は落ちます。夜間に街灯や車のライトがにじんだり、まぶしく感じたりすることもあります。単焦点にするか、多焦点にするかは、それぞれのメリット、デメリットについて医師の説明をよく聞き、価格面も含め自分のライフスタイルにどちらが合うか考慮して決めることをお勧めします。
 白内障のほか、緑内障や加齢黄斑変性など加齢に伴う目の病気は、放置していると生活の質を大きく低下させたり、最悪の場合、失明のリスクも考えられるため、早期発見・治療が何よりも大切です。自覚症状がない人でも40歳を過ぎたら一度は目の検査を受けてほしいと思います。

2020年3月4日水曜日

今、あらためて視力を大切に!

ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

学校などで行われる視力検査について教えてください。
 多くの学校では新学期が始まると間もなく健康診断が行われます。眼に関係したものには毎年全児童生徒に行う「視力検査」があります。視力に不安がないお子さんには「毎年、実施する必要があるのか」と思っている親御さんもおいででしょう。しかし実は、視力検査からはさまざまなことが分かるのです。
 例えば、小学校のお子さんの視力が0.8程度であると、「授業に支障がなければ問題ない」と考えがちですが、強い遠視や乱視のケースでは矯正レンズを当てても1.0以上の視力を得られないことがあります。これは「弱視」という病気です。放置すると、細かいものを見るための脳や神経の働きが十分に成長せず、視機能の発達が途中で止まってしまいます。将来、運転免許証を取ることが出来なく、就職活動に差し支える事もあります。早期に弱視を発見し、適切な治療を受ければ視力の改善が期待できますが、小学校半ば以降になると治療は難しくなります。
 弱視の有無や程度を調べるには、検査用点眼薬などを使った視力や屈析についての詳しい検査が必要です。これは医療機関でしかできません。学校健診などで視力の不良を指摘され、日常生活で不自由なく過ごしていても、片眼の弱視の場合もあり、眼科を受診し相談されることが大切です。

成人の場合は、定期的な視力検査を受けなくてもいいのですか。
 成人の場合も、視力検査が目に隠れているさまざまな病気の早期発見につながるケースは珍しくありません。特別な症状がなくても、定期的に眼科を受診するようにしましょう。例えば、ご年配の方の場合、白内障による視力低下と思い込んでいたのが、実は加齢黄斑変性症によるものだったという場合もあります。普段両目で見ていると片目に異常があってもなかなか気付きにくいものです。眼科で片目ずつ視力を測定して初めて見つかるケースも多いです。
 糖尿病と診断された方は、糖尿病網膜症の発症・進行を防ぐために、眼科医も必ず受診してください。この病気が厄介なのは、自覚症状が少なく、見えづらさなどの症状が出るころにはかなり進行し、失明の危険性がある場合も少なくないことです。失明を防ぎ、視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが重要です。

2020年2月26日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる薬剤で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データ結果によると、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患、腎疾患、脳梗塞、下肢動脈閉塞、メタボを合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てると、眼底出血による失明、腎臓の悪化による透析、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2020年2月19日水曜日

認知症患者に対する心身両面の治療・ケアの重要性

ゲスト/医療法人社団 図南会 あしりべつ病院 石田 祐生子 診療部長

認知症に伴う身体合併症について教えてください。また、認知症には、どうして心身両面の治療・ケアが大切なのですか。
 もの忘れや周囲の状況が理解できなくなり、日常生活に支障をきたす認知症。5年後の2025年には700万人を超えると予想されており、高齢者の5人に1人が認知症という時代が目前に迫っています。
 高齢者の多くは高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症などの生活習慣病を持っています。こうした高齢の方が認知症にかかってしまった場合、認知症の治療に加えて、生活習慣病の管理などの内科的治療が必要になります。
 生活習慣病の合併を見過ごしたまま、認知症の治療だけを続けていると、動脈硬化の進行を食い止められず、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全につながってしまうリスクが高いです。また、認知症になると身体的な不具合があっても、患者さんはそれを適切に表現する能力が低下していたり、痛みを感じる機能自体が鈍くなったりしていて、痛みや不調を訴えることができないまま、肺炎や腸閉塞といった内科的な身体合併症を引き起こしてしまうケースも少なくありません。
 認知症の患者さんは、認知症による記憶障害や見当識障害、失語、失認などに加え、加齢現象や合併するほかの疾患による影響が複雑に絡み合って、生活上の支障が生じています。ですから、認知症に精通する精神科医や心療内科医と、認知症に伴うさまざまな内科的疾患に精通する内科医が密接に連携し、患者さんやご家族の声にしっかり耳を傾け、言葉以外の表情や動作からも患者さんの心身の変化や不調のサインを見落とさないよう注意しながら診療にあたることが重要といえます。
 また、医師同士の連携だけでなく、看護部や作業療法科、栄養科、薬局など院内の各部署が職種の壁を超えたチームを作り、個々の患者さんのQOL(生活の質)を大切にしながら、その後の人生を充実させていく治療とケア、援助、支援をしていくことも重要です。
 内科合併症があるために精神科病院への入院が断られてしまう認知症の患者さん、また、認知症の精神症状があるために内科病院への入院が断られてしまう内科合併症を持つ患者さん。こうしたケースが見受けられるように、残念ながら、さまざまな疾病を合併した高齢者の認知症患者さんへの対応環境は、いまだ十分とはいえません。今後、ますます増えていく認知症対策の一つとして、内科的治療が行える診療体制を敷く精神科病院や、内科医が常駐する精神科病院が増えることが望まれます。

2020年2月12日水曜日

矯正歯科におけるデジタル化技術の進展

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

近年、矯正歯科分野でもデジタル化が進んでいると聞きますが、どのようなものがありますか。
 ここ数年、矯正歯科治療はデジタル技術によって急速に進化しています。
 一つは、被ばく量が少なく、より鮮明な画像が得られる「デジタルレントゲン」の普及と、口腔内を立体(3D)画像で診断できる「歯科用CT」の登場です。歯科用CTを用いた検査では、歯やあごの骨の位置だけでなく、厚さや密度、かみ合わせのほか、目には見えない歯根や埋伏歯の位置なども詳細に把握できるようになりました。
 もう一つは「口腔内3Dスキャナー」です。治療に必要な歯型を取る際、従来はガムのように軟らかく口の中で固まる<印象材>を使いますが、その味やにおいに不快感を持つ患者さんも少なくありません。また、口を一定の時間開け続けなければならず、吐き気をもよおす患者さんもいます。そのようなストレスや苦痛、負担を感じることなく、簡単に歯型を取れる最新機器が口腔内3Dスキャナーです。スティック状の装置を口に入れ、歯を2、3周なぞるだけで、口腔内を精確に撮影・計測し、時間にして数分で歯型の精細なデータを取ることができます。装置は光学カメラのため被ばくの心配がなく、撮影された画像はデジタルデータとしてモニターに再現されます。
 歯科用CTや口腔内3Dスキャナーで得た画像は、それぞれのデータをリンクさせることで、一人一人の歯並びをさまざまな側面から診断できるので、より患者さんの口腔状態に適した理想的な治療計画を立てられます。効率的な歯の動かし方を計画できるので、ワイヤーを使った矯正方法でも、マウスピースを使った矯正方法でも、結果として、少ない通院回数、短い施術期間で、歯に必要以上の負担をかけない安全に配慮した治療が可能になりました。
 画像データのデジタル化により、口腔外科や歯科技工所と必要なデータを共有できることも大きなメリットです。治療の連携がスムーズに行えますし、取得した歯型のデータなどをそのまま歯科技工所で利用するため、手作業の誤差を排し、技工物の精度にも貢献しています。
 「3Dプリンター」を使って矯正治療に必要な器具を成形する取り組みも始まっています。今後、矯正歯科治療のIT化、デジタル化はさらに発展していくはずです。最新のデジタル技術で得られる情報を読み解き、的確に治療に結び付けられるよう知識と技術の研さんを続け、より高品質で患者さんの満足度の高い矯正治療の提供を目指すべきです。

2020年2月5日水曜日

レビー小体型認知症

ゲスト/さっぽろ香雪病院 本谷 宣彦 診療部長

レビー小体型認知症とはどのような病気ですか。
 人に会っても名前が出てこない、何を食べたか忘れてしまうなど、年を取れば、誰でももの忘れはします。人や物の名前や漢字をど忘れしたり、とっさに言葉に詰まったりしても、後で思い出したり、別の機会ではきちんと話せたりするなら、年齢相応の生理的なもの忘れといえます。しかし、人に会ったこと自体、食事をしたこと自体を忘れてしまうようであれば、認知症のサインかもしれません。
 急速に進む高齢化とともに増えている認知症患者。その数は2025年には700万人にのぼると推計されています。認知症は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症が一般的ですが、最近はレビー小体型認知症も注目されています。レビー小体型認知症はもの忘れもありますが、初期にはうつなどの症状が表れることも多く、うつ病として治療を続けているケースも少なくありません。後から認知機能の低下が表れ、いないはずの子どもや亡くなった両親の姿が見えるなど、実物のような具体的な「幻視」が繰り返し見えるのも典型的な症状です。また、筋肉が硬くなり、手足が震えたり、歩けないなどの歩行障害が出たりするパーキンソン病を合併していることが多いのも特徴です。このように多彩な症状を特徴とするレビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症など他の認知症と比べて介護が難しいとされます。
 レビー小体型認知症は、レビー小体という物質が神経細胞の中に出現し、脳の大脳皮質や脳幹に広がって神経に悪影響を及ぼし、認知症の症状を引き起こしていると考えられています。前頭葉を中心とする大脳皮質に出現するほど、より精神症状が強くなります。また、脳幹に出現するとパーキンソン症状を伴ってきます。

治療について教えてください。
 治療は、症状に応じて認知機能の低下を抑制する薬物療法を行います。幻視などの精神症状には、ごく少量の抗精神病薬を投与します。レビー小体型認知症は、抗精神病薬や向精神薬に過敏に反応し、副作用が出て効果が出ずに悪化する患者さんが多いという特徴もあるので細心の注意が必要です。
 デイケアなどの介護サービスの利用は、患者さんとご家族が在宅生活を穏やかに送る助けになります。デイケアでは在宅介護を受けている人を対象に、レクリエーションや入浴、食事などのサービスを提供し、ご家族の介護負担の軽減や日常生活に必要な動作(ADL)を維持・向上させる支援を行ってくれます。1人でいることが多く、人との接触が少ない方は、認知症の進行がはやく、また、精神症状も出やすいことが分かっています。デイケアなどの介護サービスを上手に利用し、身体を動かしたり、頭を使ったり、多くの人とコミュニケーションを取ることは認知症の予防・改善にも役立ちます。
 認知症は誰にでも起こり得ます。早期発見、早期治療が何よりも重要。ちょっとした症状でも、気になることがあればすぐに専門医を受診することが大切です。

2020年1月29日水曜日

社交不安症

ゲスト/医療法人北仁会 いしばし病院 内田 啓仁 医師

社交不安症とはどのような病気ですか。
 近年、ストレス性のうつ病をはじめ、パニック障害などのストレス関連疾患が急増していますが、社交不安障害(SAD)もその一つです。SADは、人前で話をするなど注目を浴びる行動に不安を感じ、顔が赤くほてる、脈が速くなる、息苦しくなる、おなかが痛くなるなどの症状が現れる病気です。例えば、公式な席であいさつをする、会議で指名され意見を言う、よく知らない人に電話をかける、外で他人と食事をするといった状況で症状が出ることが多いです。
 恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、SADの人は「恥をかいたらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。SADのため、他人との関わりが辛くなり、不登校や引きこもりなど社会生活に支障を来すケースも少なくありません。
 SADは10〜20歳代に発症することが多く、症状が慢性化してくると、うつ病やアルコール依存症など別の精神疾患の合併が問題となります。心の病気か、性格の特性か、一見しただけでは見分けがつかないのもSADの特徴で、「内気」「人見知り」「引っ込み思案」などと思い込み、診療の機会を失ったまま過ごしている人も多いです。

治療について教えてください。
 SADの治療法には大きく2つ、薬物療法と精神療法があります。薬物療法では、不安や恐怖を感じる原因とされる脳内物質のバランスを保つ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。抗不安薬やβ遮断薬などを併用し、不安時の身体症状の緩和を図る場合もあります。
 精神療法では、物事の受け止め方のゆがみや偏りを修正していく「認知行動療法」や、不安が生まれる状況にあえて飛び込んで段階的に身を慣らしていく「暴露療法」などが有効です。同時に、適度な有酸素運動などの生活指導や呼吸法、リラックス法など不安状況への対処法も指導します。
 SADは次第に認知されてきましたが、まだ十分に知られていない病気です。何より重要なのは、SADは治療のできる病気ということです。治療により長年の苦痛から解放され、人生が大きく変わる患者さんもたくさんいます。不安の頻度が多かったり、社会生活への影響が大きい場合は、思い切って専門医を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

2020年1月22日水曜日

股関節の関節外クリーニング手術

ゲスト/医療法人社団 二樹会 足立外科・整形外科クリニック 加谷 光規 副院長

股関節が痛くなる原因を教えてください。
 股関節に痛みを引き起こす病気は、股関節周囲炎やアスリートの股関節痛、変形性股関節症などが知られています。
 「五十股」とも呼ばれる股関節周囲炎は、股関節の使い過ぎなどで股の付け根に痛みを発症する病気です。痛みで受診しても、レントゲン検査では異常が発見されないことも多く、薬物療法やリハビリを行っても改善しないケースも少なくありません。アスリートの股関節痛は、サッカーや野球、バドミントンなど足を使うスポーツ選手に多いです。股関節の前面から大腿骨にかけて、膝を伸ばす大腿直筋という筋肉がついているのですが、この筋肉の股関節側の付着部の損傷が痛みの原因です。変形性股関節は、何らかの要因により股関節が変性し痛みを発症する病気です。大部分が骨盤の臼蓋(きゅうがい)の形成不全が原因です。
 股関節の痛みに対する治療には、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行う保存的治療と、手術を行って痛みの原因を根本的に取り除く外科的治療があります。手術にもいくつか種類がありますが、新しい治療法として注目されているのが股関節鏡を用いた「関節外クリーニング手術」です。

股関節の関節外クリーニング手術について教えてください。
 関節外クリーニング手術は、1センチの創を2〜3カ所作り、そこから内視鏡を挿入して筋肉と筋肉の癒着や炎症などを取り除き、股関節の痛みを改善する治療法です。骨を削るなどの治療を必要としないので、入院期間は3日程度で済み、おおむね10日〜2週間で社会復帰が可能です。
 治療の対象となるのは、股関節周囲炎や運動に伴う股関節痛です。レントゲン画像で異常はないものの股関節痛があり、薬やリハビリではなかなか改善しないといった症例の約半数に適用となります。また、変形性関節症の中にも関節外クリーニング手術だけで改善する例もあるので、病状を見極めた上で治療法を決定することが重要です。
 股関節の痛みは、理学療法士による徒手的なリハビリで治るケースも少なくありません。さらに、術前に徒手的リハビリを実施することで、関節外クリーニング手術を行いやすくしたり、また術後に徒手的リハビリを行って回復を早めたりするなど、手術と組み合わせる治療も有効なケースが多いことが分かっています。

2020年1月15日水曜日

ドライマウス

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎 院長

ドライマウスについて教えてください。
 ドライマウスは、何らかの原因で唾液の分泌が抑制され、口腔内が乾燥することによって引き起こされるさまざまな症状のことをいい、特に中高年の女性に起こりやすい症状です。
 唾液は通常は1日1~1.5リットル分泌されます。加齢やストレス、薬の副作用などで分泌量が低下します。唾液は消化酵素のアミラーゼを含み、食事時に多量に分泌され嚥下(えんげ)を補助します。お茶や水、汁物がないと食事ができない人は、唾液分泌量が低下していることが推測されます。口腔内が乾燥すると、乾いたものが食べにくい、飲み込みづらいなど摂食や嚥下(えんげ)に問題が生じるほか、発音が不明瞭になりスムーズな会話ができなくなるなど、口腔機能障害が心配されます。また、唾液には抗菌・免疫作用や保湿、自浄、歯の再石灰化促進を有する成分も含まれていて、食事以外の時も分泌されています。そのため唾液分泌量の低下は、口腔や舌の痛み、ネバネバ感や味覚障害を来すほか、むし歯や歯周病、口内炎の原因になります。

治療について教えてください。
 ままずは原因の特定から始めます。ドライマウスを引き起こす特殊な疾患としては、シェーグレン症候群があり、疑われる場合は血液検査や生検など精密検査が必要となります。
 多くのケースは歯科医による問診と唾液分泌量の測定検査などで原因が特定できます。
 歯科領域の主な原因としては、唾液腺の機能低下や口呼吸、むし歯や歯周病、合わない入れ歯を我慢して使っていてきちんと咀嚼(そしゃく)できてないことが挙げられます。
 治療は原因疾患に対する治療と併せ、口腔内の保湿効果を期待できるジェルやスプレーなどを使ったりして症状を緩和していきます。またガム咀嚼(そしゃく)や唾液腺のマッサージを行ったりすることもあります。唾液腺の異常を放置していると、改善が難しくなるケースもあります。口の渇きに気付いたら、早めにかかりつけ医にご相談ください。

2020年1月10日金曜日

慢性膵炎

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

慢性膵炎とはどのような病気ですか。
 膵臓に繰り返し炎症が起こることにより、膵臓の細胞が破壊され、膵臓が萎縮していく病気です。原因は、飲酒によるアルコール性慢性膵炎が全体の約3分の2を占め、原因がよく分からない特発性慢性膵炎が約2割を占めます。
 飲酒との関連は明らかですが、大量飲酒者の1〜2%しか慢性膵炎を発症しないことから、環境因子や体質などの素因も関係すると考えられています。喫煙が発症及び増悪に関係することも分かっています。胆石によるもの、消化酵素の遺伝子異常によるもののほか、最近、自己免疫性膵炎という特殊な原因と経過を示す慢性膵炎の存在も知られるようになりました。
 早期の症状は腹痛や背部痛が主で、吐き気や嘔吐、腹部膨満感・重圧感もみられます。膵臓の萎縮が進むと腹痛は軽減していくケースが多いです。その分、膵臓本来の働きが弱くなるので、消化酵素の分泌が低下し、体重減少や脂肪便、下痢などの症状がみられます。また、インスリンの分泌が低下し、糖尿病の症状が起こることもあります。
 強い腹痛とともに急性膵炎と同様の状態になることがあり「急性増悪」といいます。わずかなアルコールの摂取でも急性増悪の契機となります。暴飲暴食、天ぷらやカツなどの揚げ物、クリームやチョコレートなどの脂肪食も急性増悪の引き金になりやすいので注意が必要です。

診断と治療について教えてください。
 超音波検査やCT検査で膵臓に石灰化があれば慢性膵炎の診断が確定されます。内視鏡的膵管造影検査で特徴的な所見がみられた場合も確定診断がつきます。MRCP(MR胆管膵管撮影)検査の初見や膵外分泌機能検査なども診断の参考になります。
 急性増悪を起こすと膵臓の破壊が一気に進むので、治療に先駆けて急性増悪の予防が大切です。禁酒・禁煙、暴飲暴食を慎むこと、脂肪分の多い食事を避けることを日常生活で心掛けなくてはなりません。アルコール性慢性膵炎で禁酒を守れない場合には、ほかの治療を行ってもほとんど意味はありません。
 一般的な治療は対症療法になります。疼痛とともに血液中膵酵素の上昇を伴うような発作を繰り返す場合には、膵酵素阻害剤の内服を行い、疼痛に対しては鎮痙薬や消炎鎮痛薬の内服を行います。消化不良による症状がある時には消化酵素剤を適宜内服します。