2019年8月28日水曜日

糖尿病網膜症

ゲスト/大橋眼科 藤谷 顕雄 副院長

糖尿病網膜症とはどのような病気ですか。
 糖尿病が原因で網膜の血管が傷む病気です。2019年現在、日本人の中途失明原因の2位を占めます。厚労省の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる成人の患者は16年時点で約1000万人と推計されています。
 血糖値が高い状態が長く続くと網膜の血流障害が進み、様々な眼障害を引きおこします。糖尿病網膜症には三つの段階があります。「単純網膜症」といわれる初期では、網膜の血管が傷んで細い血管にこぶができたり、弱くなった血管壁から血漿(けっしょう)成分が漏れたりしますが、この段階では血糖値管理を徹底すれば良くなる可能性があります。次の「前増殖網膜症」になると血管が閉塞し、白い綿のようにみえる軟性白斑が網膜にできることもあります。さらに進んで最終段階の「増殖網膜症」になると、網膜に弱くて出血しやすい新生血管ができて、硝子体出血や網膜剥離を起こしやすい状態となり、放置すれば失明のリスクも高くなります。
 厄介なのは、前増殖網膜症まで進行しても自覚症状がないことも多く、見えにくいと自覚するころには増殖網膜症に進行している可能性が高いことです。また、糖尿病網膜症は、網膜の中心である黄斑に浮腫を合併するケース(糖尿病黄斑浮腫)もあり、この場合は病状がそれほど進んでいなくても視力が落ちることもあります。

治療について教えてください。
 前増殖・増殖糖尿病網膜症においては、血管が閉塞した部分にレーザー光を当てる「網膜光凝固術」が多くの場合必要となります。新生血管から出血したり、網膜剥離を起こしたりしている場合は「硝子体手術」を行います。
 また、糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては近年、「抗VEGF薬」が保険診療として認められました。眼球に直接抗VEGF薬を投与するもので、患者さんの体への負担が少なく、黄斑浮腫を軽減し、視力を改善できるようになりました。ただ、複数回の治療を要すことや稀ではあるものの感染の危険性があること、保険適用であっても自己負担が比較的高い治療であることに留意する必要があります。黄斑浮腫の治療には、ほかにステロイド剤投与、レーザー治療、硝子体手術も検討されます。
 糖尿病網膜症が原因の失明を防ぐとともに、可能な限り視力回復・改善を目指すには、早期発見・治療が原則。そのためにも、糖尿病と診断された時から定期的な眼底検査などのチェックが何よりも重要です。

2019年8月21日水曜日

先天欠如と過剰歯

ゲスト/E-line矯正歯科上野 拓郎 院長

先天欠如、過剰歯とはどのような状態をいいますか。
 乳歯が抜け、永久歯へと生え替わるのは成長の過程として当然、と思っていたはずが、お子さんになぜか抜けない乳歯があったり、乳歯が抜けても永久歯がなかなか生えてこなかったりすると、ちょっと不安になってしまいますよね。それはもしかすると、生まれつきの歯の形成異常の一種である「先天欠如」が原因かもしれません。一度かかりつけの矯正歯科に相談されるのがいいかと思います。
 先天欠如とは、永久歯がなんらかの原因で作られず、欠損している状態のことをいいます。国内では1本から数本の永久歯が生えてこない子どもが10人に1人程度いるとみられ、調査では下顎(かがく)の第2小臼歯の欠如率が高いとされています。
 永久歯が先天欠如すると、その部分の生え替わりが起こりません。乳歯がそのまま残っている間はいいのですが、その後どこかのタイミングで抜けてしまうことも多く、欠損部を放置していると周囲の歯が移動したり傾いたりして、歯並びやかみ合わせがどんどん悪くなります。
 先天欠如が見つかった場合に重要なのは、長期的な治療計画を立て、適切な時期に適切な治療を行うことです。残っている乳歯を大事にしながら、歯並びやかみ合わせに異常が生じないように管理を続け、しかるべきタイミングがきた時に矯正・補綴(ほてつ)治療を行います。6本以上の先天欠如であれば、矯正治療は保険適用となります。
 先天欠如とは逆に、正常な歯の数を超えてできた歯を過剰歯と呼びます。普通の歯と違い、きれいに生えてくることはあまりなく、多くの場合は顎の骨の中に埋まった状態か、正常な歯と歯の間に余分な歯が埋まっていたり、正常な歯と隣り合わせに生えてきたりします。放置していると歯並びやかみ合わせに悪影響を与えるのはもちろん、過剰歯の埋まっている場所が悪ければ、そのまま骨の中で成長すると永久歯の根元を溶かしてしまうことも。過剰歯が生える場所として最も多いのは、上顎の2本の前歯の間で、「前歯の間の隙間がふさがらない」「左右の前歯の生える時期が極端に違う」などの症状で気付くことが多いです。
 治療は、顎(あご)の骨の奥深くにあり、近くの歯に影響を与える心配がないときには抜かずに様子をみますが、将来的に悪影響が大きい場合は抜歯するのが基本。先天欠如と同様に、年齢に合わせて歯や顎の成長を予測、観察しながら長期的な治療プランが必要になります。

2019年8月14日水曜日

摂食障害

ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害はさまざまな心理的・社会的要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。極端に食事を制限する「神経性やせ症」、頻繁に過食をしてしまう「神経性過食症」「過食性障害」に大きく分けられます。
 極端なダイエットの反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまで、摂食障害と同時にうつ病やアルコール・薬物の使用障害など、ほかの精神疾患を併発する例も少なくありません。
 本人が隠したり、家族や周囲の人も病気に気付かなかったり、適切な治療を受けないまま重症化するケースが多く、摂食障害の死亡率は約5%(栄養失調による合併症など)と精神疾患の中で特に高い数値となっています。
 症状が出てから受診するまでの期間が、その後の経過を大きく左右するため、早期の診断・治療開始がとても重要です。

治療について教えてください。
 摂食障害の患者さんは、病気を治したいという思いよりも「これ以上太りたくない」「もっとやせたい」という気持ちの方が強くなっているなど、そもそも治療への意欲が低下していることが少なくありません。摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、「病気」であることを認識し、「気の持ちよう」や「本人の努力」だけでどうにもならないと知ることから始まります。周囲の助力と医療機関の助けが不可欠だと理解してもらわなければなりません。
 そのために、病気を「別れなければいけない恋人」に例えるなどし、擬人化することで、患者さんの内面に問題があるのではなく、その恋人=病気こそが問題の元凶なのだというふうに発想の転換を図ってもらう(外在化の技法)など、患者さん自身が治療に積極的に取り組み、医療者と力を合わせて治していこうという気持ちを持ってもらえるよう、さまざまな手を尽くします。
治療に特効薬はありませんが、認知行動療法や自助グループでの対話に効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は平坦ではありませんが、治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。

2019年8月7日水曜日

COPDとオーバーラップ症候群

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長


COPD、オーバーラップ症候群とはそれぞれどのような病気ですか。
 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は「肺の生活習慣病」とも呼ばれます。喫煙が主な原因とされ、肺への空気の通りが慢性的に悪くなり、ゆっくりと進行していきます。せき、たん、息切れなどが主な症状ですが、かぜなどの感染症をきっかけに症状が重症化(急性増悪)することもあり注意が必要です。急激に肺機能が低下し、呼吸困難を引き起こすケースもみられます。
 一方、オーバーラップ症候群とは、COPDと気管支ぜんそくが同時に同じ患者さんで起こっている状態を指します。気管支ぜんそくを合併しないCOPDの患者さんと比較して、症状が重症化しやすく、生活の質(QOL)も低い(予後が悪い)といわれています。また、肺機能の急速な低下や高い死亡率が認められています。
 COPDは日本での推定患者数が500万人以上とされています。ぜんそくの患者さんでは、年齢とともにCOPDの合併率が上がり、中高年の方の約半数が合併しているという報告があります。また、COPDの患者さんからみると、約3割が気管支ぜんそくの要素を持っているなど、診断を受けていなくても実際はかなり多くの方がオーバーラップ症候群なのではないかと疑われています。

治療について教えてください。
 現時点でCOPDを根本的に治し、肺を元の状態に戻す治療法はありません。呼吸機能を改善し、せき、たんなどの症状を緩和し、生活の質を高めることが治療の目的となります。症状の軽重にかかわらず、治療の基本は禁煙です。喫煙を続ける限り、病気の進行を止めることはできません。そして、薬物療法により症状を改善しながら、呼吸機能の維持・増進を図っていきます。COPDでは長時間作用型β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)などの気管支拡張薬が用いられます。
 一方、気管支ぜんそくとCOPDが合併しているオーバーラップ症候群では、ぜんそくに用いる吸入ステロイド薬(ICS)とCOPDに使うLABA、LAMAの3剤によるトリプル治療が基本となります。従来、ICSとLABAの配合薬とLAMAの1日2回の吸入が必要でしたが、近年、3剤の配合薬が登場し、1日1回の吸入で済むようになり、多くの患者さんにとって治療の継続と症状のコントロールがしやすくなりました。