2019年7月17日水曜日

死別の悲しみに寄り添うグリーフケア

ゲスト/医療法人社団五風会 さっぽろ香雪病院 梶 巌 内科部長

最近「グリーフケア」という言葉を耳にしますが、どういう意味なのでしょうか。
 昨今、治る見込みのない末期がんに罹患した患者さんの痛みや精神的、社会的な苦しみを和らげる緩和ケアを提供する環境整備が進んでいます。治療や疼痛(とうつう)管理などの医療の高度化、さらにニーズの多様化に対応できるホスピスの充実など、穏やかな終末を迎える患者さんも少なくありません。
 ただ、この時から同時にご家族の苦しみが始まっていることを忘れてはなりません。ご家族にも援助の手が差し伸べられてしかるべきでしょう。しかし、大切な方を亡くした後の配偶者、ご家族、親しい人たちの悲しみに寄り添い、癒やそうとする医療の重要性は、まだあまり認識されておらず、ひとり悲しみと闘う人たちも多いのが現状です。
 愛する人、親しい人を失うことは大きなストレスです。悲しみにくれ、喪失感や寂しさ、孤独感、無力感に陥る方々に対して、医師や臨床心理士などの専門家が行う<慰め>や<癒やし>の援助を「グリーフケア」と呼びます。
 死別にはいろいろな形があります。若くして配偶者を失った人、親を、子どもを亡くした人、また、共に病と闘いながらの別れ、今まで元気だった人との突然の別れ…。それぞれに抱える辛さ、悲しみがあります。それらの辛い現実と向き合い、乗り越え、新しい未来に向かって歩み始める背中を後押ししてあげる役割。また、悲しんでいる方々の心にそっと寄り添い、辛い胸の内を明かす声に耳を傾け、ともに手を携えながら、再出発の道を一緒に歩んでいくこと。それがグリーフケアです。
 「あの時、ああしてあげたら(しなかったら)あの人は死ななかった、苦しまなかったのに…」。こうした自責感情は人を苦しめます。喪失感で悲しみの中にある時、自責感情はさらに当事者を苦しめることになります。また、「あなたがしっかりしなくちゃダメ」。こうした周囲の心ない一言が、死別に悲しむ人をさらに追い込んでしまう場合もあります。これらのケースでは、早急に専門家による援助が必要です。しかし、残念ながらグリーフケアを求めて病院の門を叩く患者さんは少なく、うつなどの症状が重くなってから初めて受診するケースがほとんどです。
 愛する人、親しい人を失った後、立ち直って普通の生活ができるようになるまでにはかなりの時間がかかりますが、外来で思いの丈を話し、思い切り泣ける人は立ち直りが早いです。自分一人で解決すべきことだと抱え込まず、遠慮なく精神科や心療内科を受診してもらいたいと思います。新しい未来に向けて歩み始めるために、専門家の力を借りて心のケアを受けることが何よりも大切です。

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