2018年12月19日水曜日

メンタルヘルス・ファーストエイド (後編)

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 鈴木 志麻子 先生

「メンタルヘルス・ファーストエイド」について教えてください。 
オーストラリアで誕生した「こころの応急処置」プログラムです。「うつ病」「不安障害」「依存症」「精神病」などの心の問題を抱えている人を専門家につなげる前に、身近な人が行う初期対応として開発されましたが、悩んでいる人への対応にも応用できます。
 日本語版では、「り・は・あ・さ・る」の5つのステップに沿って支援を提供しますが、必要に応じてステップは前後したり繰り返したりしながら進めます。5つのステップのうち、「は:判断・批判せずにはなしを聞く」、「あ:あんしんと情報を提供する」、「さ:サポートを得るように勧める」、「る:セルフヘルプを勧める」については前編(12月12日掲載)で紹介しました。

「り・は・あ・さ・る」の「り」について教えてください。
 「リスクを評価する」の「り」です。主に自殺の危険性についてチェックします。
 もしその人が死にたいと思っていると気付いた場合には、勇気を出して「死にたいと思っているのですか?」など、穏やかに率直に尋ねることが大切です。

死にたい気持ちが分かった場合にはどうすればいいですか。
 打ち明けてくれたことをねぎらいつつ、実際に何か計画しているのか、手段を準備しているのかなどを確かめます。具体的に用意しているほど、また、過去に自殺未遂の経験がある人ほどリスクが高いと言われています。
 リスクが高いと感じたら無理して一人で対応せずに、病院や保健所、精神保健福祉センターなどの相談支援機関に、また緊急性が高い時は警察に相談するなど、本人の安全確保に動いてください。

死にたいと考えている人にどのように接すればいいですか。
 まずは、あなたが心配していること、力になりたいと思っていることを伝えましょう。そして、話せるならば、できるだけ悩みを打ち明けてもらえるよう促しましょう。「死にたい」とは「死にたいほど辛い」ということであり、助けを求めるサインです。自殺を考える人の心理は、「死にたい」と「死にたくない」の間を振り子のように揺れています。話せた場合には、気持ちがホッとして穏やかになることがよくあります。
 自殺について尋ねることで、「本人をその気にさせるのでは」「腹を立てるのでは」と心配する人もいらっしゃいますが、それは間違いです。「死にたいと思っているのですか?」と語りかけることは、相手の悩みを共有していくための入り口でもあります。むしろ「そのこと(自殺のこと)を話してもいいのだ」「分かってくれた」などという安心感につながります。「そんなバカなことを考えるな」と叱りつけるのは逆効果です。

どんなときに「り・は・あ・さ・る」の提供を考えればいいですか。
 いつになく元気がない、ため息が目立つ、ずっと疲れているようだ、口数が減った、酒量が増えた…。家族や身近な人の「いつもと違う」様子に気付いたら、勇気を持って「どうしたの?」「眠れている?」など声を掛け、「り・は・あ・さ・る」の提供を始めましょう。
 ※メンタルヘルス・ファーストエイドをもっと知りたい方は、動画「こころのサインに気づいたら」(YouTube・厚生労働省チャンネル)が参考になります。

2018年12月12日水曜日

メンタルヘルス・ファーストエイド(前編)

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 鈴木 志麻子 先生

最近、「メンタルヘルス・ファーストエイド」という言葉を耳にしました。どういったものでしょうか。
 メンタルヘルス(心の健康)に問題が起きた人に対して、身近な人が提供する初期対応のことです。「こころの応急処置」と言ってもいいでしょう。これはオーストラリアで誕生したプログラムですが、現在は世界20カ国以上で用いられています。

どんな状況で提供するのですか。
 例えば、救急救命のファーストエイドにおいては「ABC(A:気道確保、B:人工呼吸、C:心臓マッサージ)など」が実施されますが、日本語版のメンタルヘルス・ファーストエイドでは「り・は・あ・さ・る」の5つのステップを実施します。5つのステップは必ずしも順に行うとは限らず、必要に応じて前後したり繰り返したりします。

「りはあさる」の「り」について教えてください。
 「リスク評価」の「り」です。自殺や他害の危機を評価します。後編(12月19日掲載予定)で詳しく紹介します。

「は」について教えてください。
 「判断・批判せずにはなしを聞く」の「は」です。悩んでいる人は、一方的にアドバイスされるより、辛い気持ちを理解してほしいと望んでいます。話を聞くこと自体が大きな支援であり、最も重要なステップです。価値観や考え方の違いから相手を批判したくなってもそうせずに、まずは温かみを持ってじっくりと話を聞くことが大事です。

「あ」について教えてください。
 「あんしんと情報を提供する」の「あ」です。専門的なことが分からなくても一緒に考えることが大切です。一緒に考えること自体も支援であり安心につながります。
 続いて、現在の苦しみが「うつ病」「不安障害」などの医学的問題であり、効果的な治療があることを伝えます。必要な時には、社会的問題(借金、ハラスメント、介護など)を相談できる専門機関があることも伝えます。適切な情報提供のためには、行政などが出している相談先案内一覧(パンフレットなど)が役立ちます。

「さ」について教えてください。
 「サポートを得るように勧める」の「さ」です。病院や相談支援機関のサポートを受けることで事態が良くなるというメリットを伝えることが大切です。ここでも一方的には勧めず、一緒に考えた上で提案し、相手の気持ちを踏まえた対応を心掛けましょう。「は」で、十分に話を聞いてもらえたと思えば、こうした勧めも受け入れやすくなります。

「る」について教えてください。
 「セルフヘルプを勧める」の「る」です。家族や友人に話をするよう勧めたり、楽になるようなこと(マッサージ、呼吸法など)や、同じ経験がある人に話を聞くことなどを提案したりします。ただし、無理に勧めないのが肝心です。
〜後編に続く〜
 ※メンタルヘルス・ファーストエイドをもっと知りたい方は、動画「こころのサインに気づいたら」(YouTube・厚生労働省チャンネル)が参考になります。

2018年12月5日水曜日

慢性硬膜下血腫

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。
 転んで頭を打ったり、強くぶつけたりした時、頭の中に出血することがあります。けがをしてすぐに出血が起きた場合は、急性の出血あるいは血腫などといいます。一方で、ケガをしてすぐの検査で異常がなかったのに、受傷してから1〜2カ月ほど経ってから徐々に頭の中に血が溜まってくる病気があり、これを「慢性硬膜下血腫」といいます。
 慢性硬膜下血腫は、50歳以上の中高年に多くみられ、酒飲みの人、肝臓の悪い人、治療のために血液をサラサラにする薬を服用している人は、この病気になりやすいとされています。このような人の場合、軽いケガの後でも発症することがあるので注意が必要です。北海道ではこの季節、特に雪道での転倒事故に気を付けてください。
 慢性硬膜下血腫は、出血が少ない場合はほぼ無症状です。ある程度、血が溜まってくると脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。代表的なものに頭痛や頭の重だるい感じが挙げられます。手術前に訴えのなかった患者さんでも、術後に頭が軽くなったという人も多いです。放置すると圧迫が進み、足元がおぼつかなくなるなどの歩行障害や手足のまひを起こしたり、脳梗塞などの脳血管障害と似た症状を示したりするケースも多いです。高齢者の場合、認知症と間違われていることも少なくありません。また、高齢者は圧迫があっても症状を自覚していない例もあり、そのまま寝込んでしまっていることもあるので、家族など周りの人が注意する必要があります。

治療について教えてください。
 無症状であれば、よほど圧迫が強くない限りはそのまま経過観察をします。内服薬を使用して様子をみることもあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する効果のある漢方薬を使うケースも増えています。
 圧迫が強い場合や、症状が出ているものは手術を行います。脳外科の手術というと恐ろしいイメージを持っている方も多いと思いますが、慢性硬膜下血腫の手術は局所麻酔で行い、高齢者でも受けることができます。
 頭を打っても、軽いケガであれば慌てて病院に行く必要はありません。しかし、1カ月以上経ってから頭が痛くなってきたり、先に挙げた症状が出てきたりした時は、我慢しないで専門医を受診するようにしてください。