2018年11月14日水曜日

胃がん検診と胃がんのリスク判定

ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

胃がん検診について教えてください。
 厚労省のがん検診に関する国の指針が平成28年に改定されたのを受け、市町村の胃がん検診が変わります。すでに開始となっている市町村もありますが、札幌市の場合は来年、平成31年1月から対象年齢・検診の内容・受診間隔が変更されます。対象年齢が40歳以上から50歳以上になり、検査内容はバリウム検査に加え、内視鏡検査も選べるようになります。検査の間隔は「毎年」から「2年に1回」となります。
 バリウム検査は費用が安く、検査時間が短いなど優れた検査法ですが、食道の病変や平坦な病変を見つけにくいという弱点がありました。異常が疑われる場合には内視鏡検査が必要になり、二度手間ともいえます。一方、内視鏡検査はバリウム検査に比べて肉体的・精神的苦痛を伴うイメージを持つ患者さんが多いですが、食道の観察も行えますし、粘膜のわずかな異常や色調の変化などを観察できます。早期の病変の発見には、内視鏡検査の方が優れているといえます。また、内視鏡検査ではがんが疑われる病変があれば、その組織を一部採取(生検)して確定診断したり、胃炎所見があるときにはヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染診断を行うこともできます。
 胃がん検診の変更に伴い、40歳の方を対象に、胃がんになりやすいかどうかを判定する検査(胃がんのリスク判定)も新たに導入されました。

胃がんのリスク判定について教えてください。
 ピロリ菌の感染が胃がんの原因となることが明らかとなって時が経ちました。感染により胃粘膜に障害を起こし萎縮性胃炎となり、萎縮した粘膜から胃がんが発生すると考えられています。そこで、血液検査によりピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮の程度を測定し、その両方を組み合わせて胃がんのリスクが高いかどうかを判定します。
 判定結果はA、B、C、Dの4群に分けられます。ピロリ菌の感染がなく、萎縮のない粘膜はA群で、がんのリスクは低いと考えられます。感染があり萎縮のないB群、感染があり萎縮のあるC群、感染がなく萎縮のあるD群の順でリスクが高くなります。リスクの高いB~D群の方は、内視鏡検査を受けることが勧められます。
 札幌市では来年1月から、満40歳になる人を対象に一生に1回だけこの検査を受けることができるようになります(平成33年3月までは経過措置として42・44・46・48歳の方も受けられます)。いくつかの条件がありますが、対象となる方はぜひ制度を利用して受診し、胃がんの予防と早期発見につなげていただきたいと思います。

2018年11月12日月曜日

強迫性障害

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

強迫性障害とはどのような病気ですか。
 「自分や周囲のものを汚く感じ、手洗いを繰り返し、触れなくなる」「ドアの鍵やガスの元栓を閉めたかどうか気になり、何回も確認する」。このように、不合理だと分かっていても、自分ではコントロールできない不安や不快感の原因となる考え(強迫観念)が頭に浮かび、それを振り払おうとしてさまざまな行為(強迫行為)を何度も繰り返してしまう病気が強迫性障害です。繰り返すことで症状が悪化していくのも大きな特徴です。
 症状が比較的軽いうちは、なんとか日常生活を送ることができますが、重症化すると、強迫行為に大半の時間を取られて他のことをする余裕がなくなったり、行けない場所が増えたりするなど、日常生活に支障を来たし、引きこもりになることもあります。また、本人が家族にも度を越えた清掃や確認を要求するなど、周囲の人も症状に巻き込まれてしまうケースもあります。
 強迫性障害の有病率は人口の2〜3%程度といわれ、幅広い年代で発症します。発症のメカニズムはまだはっきりと解明されていませんが、遺伝的な要因との関わりが示唆されています。うつ病やパニック障害など他の精神障害を同時に合併している場合も少なくありません。

治療について教えてください。
 治療には大きく分けて、薬物療法と認知行動療法があります。
 薬物療法で主に使われるのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬です。服用を始めると、約半数の人に症状が軽減するなどの反応が出てきます。薬物療法で効果がない場合は、認知行動療法の一種である「暴露反応妨害法」を用います。これは、まず強迫性障害がどういう病気なのかをきちんと理解してもらう心理教育から始めます。次に、あえて強迫観念を招くような場面に患者さんを立ち向かわせ、強迫行為をしなくても不安感が小さくなっていくことを学んでもらいます。最初の段階では患者さんは強い不安を覚えますが、段階を踏んで行っていけば、強迫行為をしなくても不安がなくなることを実感できるようになります。
 最後に、強迫性障害はきちんと治療すれば改善する可能性の高い病気です。思い当たる点がある人は、一度、専門医を受診してアドバイスを受けることをお勧めします。

2018年10月24日水曜日

最新の糖尿病治療

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データによる結果では、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患を合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2018年10月17日水曜日

お酒で赤くなる人は、食道がんに要注意

ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 院長

どのような人が食道がんになりやすいのですか。
 日本人の食道がんは、飲酒と喫煙が大きな原因です。飲酒については「昔は飲むとすぐに赤くなったけれど、鍛えられて強くなった」という人が特に要注意です。
 飲酒で顔が赤くなる人のことを「フラッシャー」と呼びます。お酒の成分のエタノールは、体内で分解され、アセトアルデヒドという有害物質に変化し、これがさらに分解されて無害な酢酸になります。アセトアルデヒドは顔の赤らみや頭痛、二日酔いの原因であることに加え、発がん物質でもあります。
 アセトアルデヒドを分解する酵素には、遺伝的に3つの型があります。日本人の50〜60%は強い酵素を持っており、この人たちはお酒に強く赤くなりません。5〜10%は酵素活性がなく、お酒がほとんど飲めない人たちです。残りの30〜45%が、酵素の働きが弱く、少し飲めるけれど赤くなるフラッシャーの人です。
 フラッシャーは、アセトアルデヒドの分解が遅く、体内に発がん物質のとどまる時間が長くなるため、がんのリスクが高いとされます。また、フラッシャーであったのに、飲み続けることで「お酒に強く」なり、さらに過度の飲酒を続けていると、食道がんの発症率が何十倍も高くなることがわかっています。
 欧米で頻度が高いのは逆流性食道炎に起因する食道がんです。日本ではこのタイプの食道がんは少ないのですが、生活習慣の欧米化などにより今後増加してくることも予想されます。

食道がんの診断や治療について教えてください。
 無症状の早期がんは、集団検診のバリウム検査で見つけられることはあまりありません。内視鏡検査であれば、早期発見が可能です。早期食道がんは、内視鏡を用いた切除で体に大きな負担をかけずに、比較的短期間で治療することができます。
 食道がんは進行してくると、のどの違和感や飲み込む時のつかえ感などの症状が出てきます。進行がんでは内視鏡による治療はできず、手術・抗がん剤・放射線を組み合わせて治療します。日々治療法は進歩していますが、依然としてこれらの治療による体の負担は大きく、治療が難しいがんといえます。
 食道がんにならないためにフラッシャーの人は過度の飲酒を控えてください。また、早期発見のためには、長年飲酒を続けている人は症状がなくても定期的な内視鏡検査を受けることをお勧めします。

2018年10月10日水曜日

よくある皮膚のできもの

ゲスト/医療法人藻友会 いしやま形成外科クリニック 石山 誠一郎 院長

形成外科でよく扱う皮膚のできものについて教えてください。
 高齢者において必発といっていいほどありふれた皮膚のできものに「脂漏性角化症」があります。老人性イボとも呼ばれ、30代以降の男女にみられる皮膚の老化現象の一種です。皮膚にダメージを与える紫外線や、摩擦刺激などが原因と考えられます。日光を浴びやすい顔、特に頬やこめかみに発生することが多く、短髪の方であれば側頭部など髪の毛の中にも多発します。形状は淡褐色から黒色で、扁平(へんぺい)または半球状に盛り上がり、表面がザラザラしてきます。大きさは1mm程度の小さなものから、5cmを超えるような巨大なものまであります。自然に消えることはなく、加齢とともに増大してきます。洗顔や髭剃(ひげそ)りの際に引っかかり、出血を繰り返したり、かゆみが出てきたりする場合もあります。
 首の周りのイボも頻度の高い病気です。専門的には「アクロコルドン」と呼ばれます。放っておいても健康上問題になることはあまりないのですが、整容的な問題になるケースが多々あります。例えば、首元が広く開いたシャツを着るのを避けるようになったり、首周りを隠すのにスカーフが手放せなくなったりする方や、ネックレスなどのアクセサリーがイボに引っかかってしまい使えなくなる方がいます。
 顔のシミや首のイボが大きく盛り上がり、数が増えると、実年齢よりも老けた印象を与えると悩まれて相談に来られる方も多いです。

どのような治療を行うのですか。
 治療は、炭酸ガスレーザーの照射や電気メスを使った「電気凝固療法」などにより、患部のできものを削り取る場合がほとんどです。できものが皮膚の奥深くに達している場合などは、切除手術を行うこともあります。ただ、皮膚がんなど深刻な病気との鑑別が困難なものも含まれます。必要に応じて病理組織検査を行うなど、慎重に診断を確定させることが大切です。短期間のうちに全身に脂漏性角化症が多発する場合は、胃がんなどの悪性腫瘍を合併しているサインである可能性があるので、特に注意が必要です。
 脂漏性角化症やイボ、粉瘤(ふんりゅう)、ほくろなどの皮膚のできものは、薬では治せませんので、外科的治療が必要となります。整容的な問題にもつながりがちな顔や首のできものの治療は、まず形成外科で診察を受けることをお勧めします。

2018年10月3日水曜日

舌側矯正

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 近年、歯のかみ合わせと全身の健康状態やQOL(生活の質)との関係が、注目されるようになりました。それに並行し、口もとの美しさや歯並びに対する関心が高まり、歯の矯正治療が広く認知されてきました。矯正治療は子どものものと思われがちですが、最近は大人になって行う人も増えています。
 先日、30代の女性から「長年、歯並びの悪さがコンプレックスで矯正治療を考えていますが、装置を表からにするか、裏からにするか迷っている」との相談を受けました。この女性に限らず、歯列のでこぼこや、上顎(がく)前突、下顎前突、さらにあごの左右のずれを気にする方は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、歯列やあごの骨のずれを治す矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など人前で話をする機会の多い方はそう考えるでしょう。思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、着けていても目立たない舌側矯正を選ぶ方もいます。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。他の人に気付かれることなく治療を行うことができる「見えない矯正治療」といえます。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると、装着時の違和感など劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及しています。
 「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事しづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、治療期間も短くなり、より進化した次世代のブラケットといえます。
 「STb」の登場により、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、矯正歯科に相談してみてください。

2018年9月26日水曜日

認知症の介護

ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 西 裕 診療部長

認知症について教えてください。
 認知症は、一旦発達した知能がさまざまな原因により持続的に低下した状態のことを示します。
 認知症の症状は、認知症の種類(アルツハイマー型、血管性、レビー小体型など)や個人によって異なりますが、初期には物忘れ、進行すると易怒性(いどせい・強い怒りを抑えられない症状)、不安感の増大などの精神症状や行動異常が現れることが多いです。妄想に左右された言動が認められることもよくあります。
 ご家族の方に認知症らしき振る舞いが現れたとしても、受診させるのをためらってしまう場合や、また本人が頑として病院に行こうとしないケースが多いです。しかし、受診を先送りにすればするほど生活面での問題が大きくなりがちなので、健康診断的な面を強調するなど、本人のプライドを傷つけない配慮をしつつ、受診を促すのが適切です。

認知症の介護についてアドバイスをお願いします。
 ご家族の方が認知症と診断されたとして、日々の介護が負担となっていくことが予想されます。公的な支援を受けてみてはいかがでしょうか。そのために、まず市町村の福祉課や、地域包括支援センターに相談して、介護保険制度に基づく介護認定の申請をしましょう。要介護度が認定されると、その程度に応じて訪問介護やデイサービス、デイケア、ショートステイといった介護サービスが受けられます。
 訪問介護には、ホームヘルパーが入浴や排泄(せつ)、食事について介助する身体介護と、買い物や調理、洗濯などを行う生活援助があります。デイサービスでは、日帰り介護施設において入浴、食事などのサービスや機能訓練を受けられます。施設の多くは送迎車を用意しているので利用しやすいです。デイケアでは、介護老人保健施設、病院などにおいてリハビリを受けられます。ショートステイでは、短期入所生活介護、療養介護のための施設を利用できます。これらのサービスを受けることは、普段介護を行なっているご家族の負担軽減にもつながります。
 こうしたサービスを受けつつ自宅での介護を続けたとしても、生活の維持が困難となった場合には、施設入所を検討することになります。
 認知症の介護は長期間に及びます。ご家族の中だけで問題を抱え込まず、医師、看護師、福祉関係者などと相談していくことが大切です。

2018年9月12日水曜日

子どもの矯正〜前期治療の必要性と効果〜

ゲスト/E-line矯正歯科上野 拓郎 院長

子どもの矯正治療は、早期から始めてもあまり効果がなく、永久歯が生えそろうまでは行わない方がいいという話を聞きました。本当にそうでしょうか。
 子どもの矯正治療は、永久歯が生えそろう以前の、乳歯と永久歯が混在する時期に行う「前期(早期)治療」と、その後、永久歯が生えそろってから始める「後期治療」に分かれています。後期治療は、大人の矯正治療と同様に、一本一本の歯にブラケットを装着する治療のことです。一方、前期治療は乳歯から永久歯が生えそろうまでの期間に、大人にはない成長の力を利用してあごのバランスを整えたり、歯の生え変わりを誘導したりするものです。上あごと下あごの正しい成長を促し、永久歯がスムーズに生えてくるように土台づくりをすることが目的です。
 成長期にある子どもの矯正治療では、いつ治療を開始すれば最も効果的かは一概には言えません。お子さんによって歯の生え具合やあごの発達具合は違いますので、早く矯正を始めた方がいいケースもあれば、全部の歯が永久歯に生え変わるのを待ってからの方がいいケースもあるからです。年齢が同じだからといって矯正を始める時期や治療の手法が同じとは限らないのです。
 お子さんの矯正治療を始める時期は「永久歯が生えてから」と考えている親御さんもいらっしゃると思いますが、それでは子どもならではのメリットである「あごの成長を利用した治療」のタイミングを逃してしまう場合があります。永久歯が生えそろうのを待つのではなく、気になった時点で矯正歯科にご相談いただき、前期治療が必要かどうかの判定を受けていただくと安心かと思います。
 お子さんの口の状態によっては、前期治療を行うことで、後期治療の際に抜歯をする必要がなくなったり、治療期間が短くなる可能性が高くなります。後期治療そのものがいらなくなるケースも多いです。また、かみ合わせが悪くなるのを予防することが期待でき、あごや顔のゆがみなど将来的なリスクや負担の軽減にもつながります。歯並びが悪いことを気にして、お子さんがコンプレックスを持つ場合もあります。お子さんにとって歯並びやかみ合わせの悪さが心理的な負担になっているのであれば、早めの矯正によってそのマイナス要因を取り除いてあげることも大事でしょう。
 子どもの矯正の開始時期は、矯正歯科でお子さん一人一人の症状や生活背景、心理的側面なども見極めて、慎重に判断する必要があります。十分な検査、診断、説明を受け、どのような処置が最も良いと考えられるか、納得した上で治療を受けてください。

2018年8月29日水曜日

ゲーム障害(前編)

ゲスト/医療法人北仁会  いしばし病院 白坂 知信 院長

ゲーム障害について教えてください。
 世界保健機関(WHO)は今年6月、オンラインゲームやテレビゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を新たな疾病として認定、依存症の一つとして国際疾病分類の最新版に加えたと発表しました。
 ゲーム障害は、ゲームをしたい衝動が抑えられなくなり、日常生活よりゲームを優先し、健康を損なうなど問題が起きても続けてしまう特徴があると定義されます。家族や社会、学業、仕事に重大な支障が起き、こうした症状が少なくとも12カ月続いている場合に診断できます。長時間ゲームをする人がすべて病気というわけではありません。分かりやすくいうと、ゲームの時間や頻度を管理できず、生活にいろいろな問題が出てもやめられない状態が続いていること。それが病気かどうかの分かれ目です。朝までゲームに夢中で学校や会社に行けなくなり、家族が取り上げようとすると暴れるなどは代表的な例です。
 社会生活が破綻するゲームへの依存状態は、以前から「ネトゲ廃人」などと呼ばれ、不登校や引きこもりの要因の一つにもなってきました。社会人にとっても、依存の結果、家族間のコミュニケーション不全を引き起こしたり、失職など深刻な事態を招くケースは少なくありませんでした。2013年に厚労省が発表した全国調査では、ゲームを含むネット依存の大人は421万人、中学・高校生は52万人に上っています。
 今回、WHOがゲーム障害を新しい病気と認定したのは、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、ゲーム依存がさらに広がり、世界各国で問題化していることが背景にあります。以前のゲーム依存はパソコンやゲーム機でしたが、今はスマホやタブレットが半分近くを占めます。いつでも、どこでも、気軽に遊べる分、誰もが依存症に陥る恐れがあります。ほかの依存症と異なり、子どもたちが陥りやすいのも厄介な点です。また、時間やお金をかけるほど有利になり、ゲーム中の仲間と協力するうち、家庭や学校、会社よりゲーム内の人間関係を優先させるようになります。スマホやタブレットの手軽さやオンラインゲームのさまざまな仕掛けが、依存性を高めているのです。
 ゲームをすること自体が「悪」なのではありません。ただ、利用し過ぎるとゲーム障害という病気になり得ることを理解し、予防を図ることが欠かせません。後編では、ゲーム障害の治療と予防についてお話しします。

2018年8月22日水曜日

肛門周囲のかゆみやただれ

ゲスト/札幌いしやま病院 川村麻衣子 医局長

おしりの周りのかゆみやただれについて教えてください。
 おしりの周りがただれる、かゆい、ジクジクしたりヒリヒリしたり違和感がある場合は、肛門周囲の皮膚の病気が考えられます。多くは皮膚に炎症を起こしています。
 肛門周囲の環境というのは便や腸の粘液にさらされ、また通気性も悪いので、かゆくなったり炎症を起こしたりしやすいものです。かゆみや炎症を引き起こす要因としては、軟便や下痢便、便秘、ストレス、アルコールや香辛料などが挙げられますが、おしりをきれいにしようと思ってトイレットペーパーやタオルでこすり過ぎていることが皮膚炎の直接の原因となっている患者さんも多く見受けられます。ゴシゴシとこすり皮膚を傷つけ、雑菌などに感染し、さらに症状を悪くさせるというのは、肛門に限らず皮膚病を悪化させるパターンの一つです。
 近年、温水洗浄式便座が普及し、肛門周囲の衛生環境に役立っていますが、過度の洗浄は逆に皮膚を傷つけたり炎症を悪化させたりするので注意が必要です。強い水流で長く洗うと、肛門の粘膜を傷つけるばかりでなく、雑菌などから皮膚を守ってくれるバリア機能も低下するからです。
 そのほか、痔核(いぼ痔)やカンジダなどの真菌というカビの種類の菌の感染といった、ほかの病気が隠れている場合もあります。的確な診断が必要となりますので、自己判断せずに専門病院を受診してください。

どのような治療がありますか。
  医師の処方する塗り薬や飲み薬で、数日で快方に向かうことがほとんどですが、治療で最も重要なことは、日常生活でのおしりのケアです。肛門の清潔を心掛けるのはもちろんですが、前述の通り、きれいにしようと思ってこすり過ぎることは厳禁です。温水洗浄式便座は、水圧を一番低く設定し、5〜10秒以内の短時間で洗浄することをお勧めします。最初は物足りなさが残るかもしれませんが、これらが習慣になると、それで十分だと思うようになってくるでしょう。
 市販薬など手持ちの軟こうを塗っておくという人も多いですが、肌や体質に合わないものを塗ると逆効果。かぶれたり、さらにかゆくなります。おしりは今後一生において、毎日使う場所。おしりの悩みは、すぐに専門医に相談して解消することが大事です。

2018年8月8日水曜日

睡眠時無呼吸症候群

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気ですか。
 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中にのどの奥の空気の通り道(気道)が狭くなるなどして呼吸が何度も止まって熟睡できず、日中に強い眠気や倦怠感に悩まされる病気です。2003年の山陽新幹線の居眠り運転事件で、一般に知られるようになりました。睡眠中に無呼吸(10秒以上息が止まる状態)が1時間に5回以上、一晩に30回以上あるときにこの病気と診断されます。
 主な原因は、過度の肥満や下あごが小さいこと、扁桃(へんとう)などの肥大、鼻の病気などで、睡眠中に舌がのどの奥に落ち込み、気道をふさぐことで起きます。アルコールの摂取や加齢でも筋肉が緩んで睡眠時にのどが狭くなります。習慣的にいびきをかく場合には、背後にこの病気が潜んでいるかもしれません。大きないびきや、途中でつまったように音が止まるいびきは要注意です。ほとんどの場合、本人は無呼吸であることに気付いていないため、病気としての意識が薄く、受診には家族や周りの人の協力が大切です。
 睡眠時無呼吸症候群は放置すれば、慢性的な寝不足により日中の異常な眠気や集中力の低下などが起き、居眠りなどによる重大事故を招く恐れがあります。また、無呼吸の状態が続くため酸素不足となり、高血圧や糖尿病、動脈硬化、心臓病、脳卒中を引き起こす大きな要因ともなります。
 近年、患者数は増加傾向にあり、国内の有病率は成人男性の3〜4%以上に上ると推定されています。これは肥満者が増加しているというだけでなく、食生活の変化などにより下あごの発達が不十分な人が増えていることも関係しているとされます。

検査と治療について教えてください。
 検査は、一晩かけて睡眠中の呼吸やいびきの状態、血液中の酸素濃度、脳波や心電図などを測定し診断します。重症度を把握するためにも、この検査は不可欠です。簡易検査と言って、自宅で機械をつけて行う方法と病院に1泊入院をして脳波を含めて検査する精密検査の2つの方法があります。
 症状の改善のため、肥満の場合は減量を指導します。軽症の場合、気道が狭くならないよう、あおむけでなく、横向きに寝ることも効果的です。あごの位置を矯正するマウスピースを装着してもらうこともあります。無呼吸の状態が多い重症の場合は、鼻に特殊なマスクを付け、寝ている間、空気を送り続ける「CPAP(シー・パップ)療法」が有効です。

2018年8月1日水曜日

子どもの口腔機能発達不全

ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

口腔機能発達不全とはどのような状態をいうのですか。
 口腔機能発達不全とは、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)がうまくできないこと、構音の異常があること、口だけで呼吸していることなどをいいます。症状としては、リラックスした状態で口がぽかんと半開きになっている、食べる時にくちゃくちゃと音がする、睡眠中にいびきをかいたり歯ぎしりをするなどが挙げられます。近年、歯科医院では、成人してからも中高年になっても生涯にわたって健康な口腔機能・状態を維持するために、子どものうちから成長段階に合わせた検査や指導を行い、口腔機能発達不全を予防・改善する取り組みを始めています。
 口腔機能は大きく「食べること」「話すこと」「呼吸すること」の3つに分けられます。食べることについては、歯の生え方や位置、かみ合わせの異常、咀嚼に影響するむし歯の有無などを確認します。また、嚥下機能について舌の動かし方や悪い癖がないかなどを診ます。話すことに関しては、口唇の異常や構音障害が出ているかを調べます。呼吸については、口蓋(がい)扁桃の肥大などをチェックし、口呼吸になっていないかを確認します。

子どもの口腔機能の発達について教えてください。
 通常生後5〜6カ月から離乳食が始まり、生後7〜8カ月に食べ物を舌で押しつぶせるようになります。生後8〜9カ月で乳切歯(にゅうせっし)が生え、生後9〜11カ月で歯を使って食べ物をある程度すりつぶせるようになります。生後12〜18カ月の幼児期初期には前歯が生えそろい、臼歯も生え始めます。食べ物を前歯でかじり取ったり、臼歯を使ってすりつぶしたりできるようになります。乳歯が生えそろう生後19カ月〜3歳の幼児期中期には手と口を協調させられるようになり、スプーンから箸への移行時期ともなります。4〜6歳の幼児期後期では、咀嚼力が強くなり、箸の使い方も上手になります。手と口の協調もさらにスムーズになり、食べることについては成熟した状態となります。続く6〜12歳の学童期は、乳歯から永久歯に生え替わる時期です。それに伴う歯ならびやかみ合わせの状態が、その後の口腔機能に大きな影響を及ぼす重要な時期でもあります。
 子どもの成長に合わせて、年齢に応じた口腔機能の発達を適切に管理し、不全の兆候がみられれば指導や治療を行うことはとても大切です。口腔内の状態によっては、小児科や耳鼻科などの他診療科や言語聴覚士など他職種とも連携し、治療や改善に取り組んでいきますが、歯科医院はその窓口的な役割も果たします。

2018年7月25日水曜日

関節周囲多剤注射(カクテル注射療法)

ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 上田 大輔 医師

─カクテル注射療法とはどのようなものですか。
 人工膝関節置換術など整形外科領域の手術で、患者さんの満足度に著しく影響を与えるのが「手術後の痛み」です。術中は全身麻酔などによって痛みはありませんが、術後に麻酔がさめると痛みが出てきます。手術の傷跡の痛み、手術した部位の腫れによる痛みなど原因はさまざまですが、特に術後1、2日間が最も痛みの強い時期といわれています。
 手術後の痛みはある程度我慢するのが当たり前というのは古い考え方で、近年の臨床研究の結果から、術後の痛みをできるだけ緩和して、スムーズにリハビリを始めることが日常生活に早く戻る近道であることが分かってきました。術後に痛みが取れないと、機能の回復や改善に悪影響があることも分かっています。また、痛みからくる不安や心配は精神的な負担にもなります。
 そのため、整形外科医は手術後の痛みを抑えるためにさまざまな対策をしています。従来、背中から神経の近くにチューブを挿入する麻酔(硬膜外麻酔)や、患部に関連する神経に麻酔薬を注射するブロック注射が一般的でした。近年、「カクテル注射療法」と呼ばれる、関節の周囲に麻酔薬や炎症止めなどを混合した薬液を注射する処置が普及しつつあり、効果をあげています。

─カクテル注射療法について詳しく教えてください。
 術中、手術の傷を閉じる前に、患部の関節周辺の組織に局所麻酔薬やステロイド剤、抗生剤などの混合剤を直接注射するものです。カクテルとは、複数の薬剤を患者さんの症状や体質などに応じて組み合わせて使うという意味で、医療機関によって使用する薬剤や組み合わせの種類は異なります。術後の痛みが強いとされる人工膝関節置換術のほか、人工股関節置換術や骨切り術、前十字靭帯再建術などの手術にも用いられる、保険適用内の治療です。
 痛みが特に強いとされる2日間にしっかり効くというのが、カクテル注射療法の最大のメリットです。また、硬膜外麻酔のように体からチューブが出た状態にならないこと、ブロック注射のように運動神経まで抑制しないことから、術後のリハビリが円滑になるという利点もあります。
 これまで明らかな副作用は報告されていませんが、人工関節の周辺に注射をする場合は、糖尿病を合併している患者さんでは感染に注意する必要があります。

2018年7月4日水曜日

双極性感情障害

ゲスト/医療法人五風会 福住メンタルクリニック 宇佐見 誠 院長

双極性感情障害とはどのような病気ですか。
 双極性感情障害とは、かつて「そううつ病」と呼ばれた病態とほぼ同じです。うつ病のように、気分が落ち込んで、気力が湧かず憂うつな「うつ状態」が続くだけなく、うつ状態とは逆に、気分が高揚し、発言や行動が活発で抑制がきかなくなりがちな「そう状態」にもなります。多くの場合、うつ状態とそう状態が交互に出現し、これらが数週間、数カ月続きます。
 うつ状態のときは、何をするのも億劫(おっくう)で集中力がなく、悲観的になりやすいです。睡眠が十分に取れなかったり、食欲もなく疲れやすくなったりもします。また、そう状態のときは、いわば空元気で、気が大きくなり浪費したり、普段にない高飛車な物言いで周囲の人とのトラブルになったりする場合もあります。ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなる人もいます。
 病気の原因はまだ十分に解明されていませんが、双極性感情障害と診断される人は、近親者の中にも同じ病気になっている人が多く、遺伝が強く関係するとされています。

診断や治療について教えてください。
 双極性感情障害は初めに症状が出現するときはうつ状態を呈することが多く、発症時はうつ病なのか双極性感情障害なのかわからない場合も多々あります。経過中に明らかなそう状態が出現して初めて双極性感情障害という診断になりますが、そう状態の症状が軽いときは、自分では本来の調子の良さと誤解してしまいがちですし、周囲も気付きにくいです。なかなか治らないうつ病と思っていたら、実は双極性感情障害だったというケースも多いです。
 うつ病と双極性感情障害では治療がまったく異なるので、専門医による鑑別診断は非常に重要です。双極性感情障害の治療の柱となるのは薬物療法です。気分の変動を改善・予防する気分安定剤を用いて、うつ状態とそう状態の波をうまくコントロールすることが目標となります。
 継続的な治療が重要な病気ですが、元気に回復した人や、症状や気分をコントロールしながら普通の人と変わらない日常生活を送っている人もたくさんいます。「どこか調子がおかしいな」「今までと様子が違う」など、気になる症状がある人や、周囲が患者さんの不調に気付いた場合は、ためらわず近くの精神科・心療内科を受診してみてください。

2018年6月27日水曜日

白内障手術の合併症

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の手術について教えてください。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠くと近くの2カ所に焦点が合う多焦点眼内レンズや、従来の多焦点眼内レンズの弱点である夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする現象などを解消したレンズも使われています。これらは健康保険が適用されませんが、先進医療に該当するため、民間生命保険の先進医療特約の対象となることがあります。そのほか、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズなど、自由診療も含めて眼内レンズの選択肢は広がっており、患者のニーズに合ったものを選ぶことが可能です。

白内障の手術で合併症など注意すべき点はありますか。
 日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。患者への身体的な負担も少なく、基本的に安全性の高い治療法ですが、合併症の可能性はゼロではありません。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、また、水晶体の袋を支えるチン小帯が弱くなっているので、濁りが目の奥に落下することもあり、慎重な施術が要求されます。通常の症例に比べると手術時間が長くかかります。
 眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。大きな破嚢は、眼内レンズを挿入できないケースもあり、この場合には後日眼内レンズを目の中に縫い付ける方法で挿入します。
 重度の合併症としては、約4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースがあります。直ちに硝子体手術を行えば、視力を維持できる可能性が高まります。
 術後、数カ月から数年してまた物が見えにくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋が濁ってくるのが原因です。再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に取り除くことができます。外来でできる治療で、視力も翌日には回復します。

2018年6月20日水曜日

高齢者のめまい

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

高齢者のめまいについて教えてください。
 「天井がぐるぐる回った」「後ろに倒れそうになった」「立ち上がったら目の前が暗くなった」など「めまい」に悩む高齢者は少なくありません。年齢とともにめまいは起こりやすくなりますが、いくつも原因が考えられ、背後に恐ろしい病気が潜んでいる場合もあるため、「年のせいだから仕方ない」と軽く見てはいけません。
 頻度が高いものは内耳障害によるめまいですが、脳の障害によって起こる“怖いめまい”との鑑別が重要です。症状の強さだけで判断することは禁物で、めまいとともに舌のもつれや手足の脱力、しびれが出ているようであれば脳の障害が疑われます。脳の障害によるめまいは極力早く診断し治療に入る必要がありますが、その際にはMRIによる画像診断が有用です。

高齢者のめまいは、ほかにどんな特徴がありますか。
 加齢に伴って平衡感覚の衰えや、血圧を調整する能力の衰えが進むため、高齢者はめまいを起こしやすくなります。また、糖尿病や高血圧などの持病を抱えている人は服用する薬が多くなり、その副作用などからめまいを起こすこともあります。そのほか、もともと耳鳴りがあったり、以前から難聴があったりするケースもあり、複数の原因が重なっていることも多いです。このため、高齢者のめまいは原因を簡単に明らかにできないこともあります。
  「起立性低血圧」とは、座った状態から立ち上がる時に血圧が急激に低下する病態をいいます。若い人は起立性低血圧により顔が青ざめ冷や汗が出るなどし、失神してしまうケースもあります。高齢者では若い人のような激しい反応は起こりにくいとされていますが、一方で、加齢のため血圧が少し下がっただけでもめまいを起こしやすくなっているため、やはり立ち上がる際には注意が必要です。
 暑い時期は汗をかきやすいため、脱水からめまいを起こすこともあります。特に高齢者はのどの渇きを感じにくいので脱水が生じやすいです。夜間にトイレに行くのを減らそうと水分補給を控えてしまうと脱水を起こしやすくなってしまうので、入浴前後や就寝前にはコップ1杯の水を飲むようにしましょう。

2018年6月13日水曜日

職場のメンタルヘルス

ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義 副院長

職場のメンタルヘルスの現状について教えてください。
 現在、日本の就業人口は約6500万人といわれています。個人差はありますが、その大多数がストレスや悩み、不安などを感じながら仕事に従事しているのが現状です。ある調査では、約60%の労働者が「自分の仕事に不安、悩みがある」など心にストレスを感じていると報告されています。これらは職場内の人間関係や仕事の質、量、適性などによる原因のほか、昇進や異動、定年後の不安といった環境の変化に起因するところも大きいと考えられています。
 ストレスはさまざまなメンタルヘルス不調の原因となりますが、その中で最も頻度の高いものが「うつ病」です。うつ病は決して「メンタルの弱い人がかかる病気」ではなく、ストレスなどを誘因とした脳内化学伝達物質のアンバランスによって生じる「脳の病気」です。また、「生涯にうつ病を経験する人は14人に1人いる」という報告もあり、うつ病は誰でもかかる可能性があり、決して稀な病気ではないということを、本人のみならず職場の同僚、上司も理解しておく必要があります。

職場のメンタルヘルス対策について教えてください。
 近年、職場のメンタルヘルス対策は重要視されており、それらに携わる産業保健スタッフ(産業医、保健師、看護師、カウンセラーなど)を配置する職場も多くなってきました。また、主に管理職を対象としたメンタルヘルス研修会を開催している職場も増加しています。また、2016年度から厚労省は職場のメンタルヘルス不調者の早期発見・介入のため、「ストレスチェック制度」を導入しました。これは「ストレス状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを軽減させる」一次予防と、「リスクの高い労働者を発見し、医師による面接指導につなげる」二次予防を目的としたものです。具体的には「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」など計57項目からなるストレス評価尺度です。
 16年度、道内で精神障害による労災認定を受けた人はこれまでで最も多く、前年度に比べ2倍近くに増加しました。今後もこの傾向は続くものと予想されます。職場のメンタルヘルスに関して心配事があれば、まずは職場内の産業保健スタッフに相談すること、そして、必要があれば精神科・心療内科を受診することをお勧めします。

2018年6月6日水曜日

マダニ感染症

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

マダニ感染症について教えてください。
 登山やキャンプなど外での楽しみが増える時期、特に気を付けたいのは、マダニにかまれることで発症する感染症です。
 一般に見られるマダニは、アレルギーの原因になる小さくて目に見えないイエダニとは別の生物で、体長は3~4ミリで硬い外皮に覆われています。野山や沢に沿った斜面、牧草地などに生息していますが、山に入らなくても道路脇や草やぶなどにいることもあり、道内であればどこにいてもおかしくありません。
 マダニは、ウイルスや細菌を媒介する危険があり、道内では昨夏、マダニにかまれた男性が「ダニ媒介性脳炎」を発症し死亡しました。厚労省などによると、マダニにかまれてダニ媒介性脳炎に感染する患者は世界で年間6千人に及び、発症した場合の致死率は1〜20%にも上ります。人の潜伏期間は1、2週間ほどで、ウイルスの型によっては頭痛、嘔吐(おうと)がみられ、重症の場合は死に至ります。有効な治療法はまだ見つかっていません。
 ほかにも、マダニを媒介した感染症には皮膚が赤くなり、発熱や関節痛などインフルエンザと似た症状が出る「ライム病」、発熱を繰り返し髄膜炎などを引き起こす「回帰熱」などがあります。

対処法と予防法について教えてください。
 かまれないための対策が重要ですが、もしかまれた場合には、自分でマダニを皮膚から引きはがさないことです。マダニの口器は、釣り針のように皮膚内部に強く食い込みます。無理やり取ると口や頭部が残ってしまうことが多いので、医療機関での処置が推奨されます。その後も数週間は体調の変化に注意し、発熱などの症状が出たらすぐに診察を受けてください。
 森林などに入る時には、長袖、長ズボンを着用し、なるべく肌を露出しないこと。首にはタオルを巻き、シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は長靴の中に入れるなど、首回りやシャツ、ズボンの裾に隙間を作らないようにします。また、マダニが付いてもすぐ分かる薄い色の衣服を選んでください。虫よけ剤の利用も有効な対策の一つです。帰宅後、上着や作業着を家の中に持ち込まないようにし、下着を含めてすべて着替えます。さらに入浴時に、マダニが付いていないかよく確認しましょう。
 ダニ媒介性脳炎ワクチンの接種が可能です。保健所等に問い合わせてください。

2018年5月31日木曜日

逆流性食道炎と長引く咳

ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

逆流性食道炎について教えてください。
 逆流性食道炎は、胃酸が食道へ逆流することで食道の粘膜に炎症が起こる病気です。通常食べた物は、食道と胃のつなぎ目にある下部食道括約筋という筋肉によって食道に逆流しないようになっていますが、これが機能しなくなると、胃の内容物が逆流してしまいます。これによって胸やけ、げっぷ、呑酸(どんさん・酸っぱいものがこみ上げてくる)、嚥下(えんげ)障害といった症状が生じますが、長引く咳(せき)も非常に多くみられる症状の一つです。
 逆流性食道炎で咳が出る理由は、逆流した胃酸が気管の入り口まで達し、気管に吸い込まれて粘膜を刺激するという説と、食道内に逆流した胃酸が食道の知覚神経を刺激し、それが気管や気管支の神経にも伝わり、気管が反射的にけいれん性収縮を起こすという説があります。
 食道に入ってきた胃酸の刺激は、心臓の拍動にも影響をもたらすことがあります。特に赤ちゃんの場合、生後2カ月頃までは下部食道括約筋の働きが未熟なため胃酸の逆流を起こしやすく、チアノーゼや無呼吸発作などの呼吸障害を招いたり、ひどい場合には心拍が停止したりするリスクもあります。子どもも大人も胃酸の逆流が原因の咳は、気管支炎や肺炎を引き起こすこともあるため、早めの対処が必要です。

かぜなどの他の原因による咳との違いはありますか。
 逆流性食道炎が原因の咳は、胃酸が上がり嘔吐しそうになる咳、えずくような咳、夜間眠れないほどの激しい咳といった特徴があります。また、胃酸の逆流の自覚症状があることが多いです。診断は、内視鏡検査によって逆流性食道炎の有無を確認します。
 治療は、咳止めやぜんそくの薬で症状が改善される場合もありますが、胃酸の逆流が続けば再発を繰り返しますので、プロトンポンプ阻害薬という胃酸の逆流を防ぐ薬を内服します。加えて、食後や飲酒後、2時間程度は横にならない、前かがみの姿勢や排便時の力み、重いものを持つなどで腹圧を上げない、ベルトや衣服で腹部を締め付けないなど、日常生活で胃酸の逆流の予防に注意することが重要です。
 咳が出る病気はたくさんありますが、「2〜3週間以上の長引く咳」「胸やけやげっぷ、呑酸などの症状がある」場合、逆流性食道炎が疑われることを知っておき、早めに適切な治療を受けましょう。

2018年5月23日水曜日

呼気一酸化窒素濃度の測定

ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

呼気中の一酸化窒素濃度からどのようなことが分かりますか。
 1990年代以降の研究により、ぜんそくなどの患者さんは呼気中の一酸化窒素(NO)濃度が高くなることが明らかになりました。一般に呼気NOは喀痰(かくたん)中の好酸球数と相関することから、好酸球性の気道炎症の程度を測定できるバイオマーカーとなっています。実際の測定方法は、機械に一定のスピードで息を吹き込むとNO値が表示されます。値が高いほどアレルギー性の炎症が強いことを表します。
 長引く咳(せき)での受診時、単にかぜに伴う咳なのか、咳ぜんそくの可能性が高いかどうかの診断に役立ちます。咳ぜんそくはぜんそくの前段階の状態であり、アレルギー性の気道炎症が起きています。咳ぜんそくが疑われれば、吸入ステロイド薬による治療が開始されます。肺気腫や慢性気管支炎といった慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)ではNO値は上昇しない傾向があるので、咳ぜんそくやぜんそくとの鑑別にも役立ちます。また、ぜんそくで治療中の患者さんにおいては、現在の治療薬でコントロールできているかどうかの目安になります。

呼気一酸化窒素濃度の測定検査について教えてください。
 測定は一度だけではなく、時々行って値の経過を見ていくことが大切です。例えば、吸入ステロイド薬を続けて、ぜんそくのコントロールがついてくると、NO値は下がってきます。一般的には、正常値は25ppb(1ppbは10億分の1)以下となっています。
 咳ぜんそくでは25~50ppbのことが多く、50 ppb以上ではぜんそくが強く疑われます。しかし、この検査も万能ではなく、咳ぜんそくやぜんそくでも高値にならないことがあります。反対に、ぜんそくでなくても高値になることもあります。例えば、アレルギー性鼻炎やアトピーを合併していると高値になります。また、レタスやホウレンソウなどアルギニンを多く含む食事を取ると高くなります。一方で、習慣的な喫煙や運動後では低めになります。カフェイン、アルコールの摂取により低下することもあります。このように測定時には影響を及ぼす因子を考慮する必要がありますが、息を吹き込むだけの苦痛のない検査で、咳ぜんそくなどのアレルギー性の炎症の程度を簡単に把握できるので、非常に有用な検査といえます。

2018年4月25日水曜日

子どもの歯科矯正治療

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

子どもの矯正治療について教えてください。
 お子さんの歯並びに矯正が必要かどうか迷う人も多いのではないでしょうか。歯並びを確かめる方法の一つとして、お子さんの口元を顔の正面から観察してみてください。上下の前歯の真ん中の位置が一致していれば安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要があると考えられます。出っ歯や受け口など、上下の顎が前後に大き過ぎたり小さ過ぎたりという骨格的な問題は、一般の方でも気付きやすいですが、左右のずれは発見しにくいものです。
 前後あるいは左右にずれが認められる場合は、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9〜11歳までに矯正治療を行うのが理想的です。就寝時にバイオネーターと呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、寝ている間にずれた顎の骨を中央に移動させます。子どもの成長の力を利用して、無理なく自然にバランスのよい骨格をつくれます。痛みはほとんどなく、日中は装着の必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は半年〜1年が平均で、経過観察のための通院は、1〜3カ月に一度が目安となります。
 ずれの原因はさまざまですが、歯そのものがずれているケースもあり、永久歯がはえそろってからでも治療は可能です。その場合、抜歯する可能性は高くなりますが、きれいに治療できるケースがほとんどです。矯正治療をいつ始めるべきかという判断は非常に難しいので、一度専門医にご相談ください。

家庭でチェックするための別の方法はありますか。
 頬づえやかみ癖、就寝時の姿勢が左右どちらかに大幅に偏っている場合などは、左右のずれを引き起こす原因になることがあります。上下の前歯の位置を確認したら、次は鼻の先端を基準に、鼻の中央に前歯の中心が沿っているかを見てください。ずれの原因は一見して分かるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長時期を逃してしまうので注意が必要です。
 子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置していると、成長に伴い虫歯や歯周病の原因となったり、顎関節にも悪影響を及ぼす恐れがあります。また、大人になってから心理的なストレスの原因となる場合もあります。少しでもおかしいと感じたら、早めに専門医に相談することをお勧めします。

2018年4月11日水曜日

摂食障害

ゲスト/特定医療法人北仁会  いしばし病院 畠上 大樹 医師

摂食障害とはどのような病気ですか。
 摂食障害はさまざまな心理的・社会的な要因から、体重や体型の変化に過度にこだわり、食行動に異常を起こす病気です。10〜20代の若い女性に増加傾向がある一方、中・高齢層にも拡大している現代社会が抱える病の一つです。
 大きく分けて、極端に食事を制限する「拒食症」と、過剰に食べる「過食症」があります。いずれも太ることへの恐怖感を持っており、拒食の反動から過食に変わるケース、拒食と過食を繰り返すケースなどさまざまです。
 摂食障害と同時にうつの症状や、感情、行動、人間関係が不安定になる「境界性人格障害」が現れることがあります。また、摂食障害を抱える女性が、無意識に食料品を万引きしてしまうなどの「病的窃盗」を併発している例も多いです。本人が隠したり、家族や周囲の人も病気に気付かなかったり、適切な治療を受けないまま重症化するケースが多く、摂食障害の死亡率は約5%(栄養失調による合併症など)と精神疾患の中で最も高い数値となっています。毎年、摂食障害が原因で亡くなる方は少なくないのです。

原因や治療について教えてください。
 患者さんのほとんどは、生まれつき繊細な性格・体質であり、自分のことを低く評価し、不安を抱えています。また、完璧主義で、融通の効かない優等生タイプが多いです。やせることを礼賛する社会の風潮も背景にあるでしょう。ただ、摂食障害の原因を特定することは非常に難しいため、原因を無理に探すのではなく、これからどうしていけばよいかを考えていくことが重要です。
 摂食障害の治療は、まず自分を苦しめているのは自分自身ではなく、「病気」であることを認識し、「気の持ちよう」や「本人の努力」だけでどうにかなるような病気ではないと知ることから始まります。周囲の助力と医療機関の助けが不可欠だと理解してもらうのです。
 治療に特効薬はありませんが、精神科や心療内科などの医師とのカウンセリングによる認知行動療法や、自助グループでの対話に効果が認められています。一般的に摂食障害の治療は時間を要することが多いです。一進一退を繰り返しながら徐々に良くなっていきます。回復への道は決して平坦ではありませんが、治る病気です。あせらず、あきらめず、ゆっくりと治療を続けることが第一です。

2018年4月4日水曜日

加齢黄斑変性症

ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

加齢黄斑変性症とはどのような病気ですか。
 人間の眼は、角膜、水晶体、硝子体(しょうしたい)を通って、網膜の上に像を結んで物を見ます。その中心部は黄斑部と呼ばれ、物を見るために最も重要な部分です。この黄斑部に異常な老化現象が起こり、視力が低下する病気が加齢黄斑変性症です。欧米先進国では50歳以上の失明の主因とされ、日本でも患者数が増加しています。視野の中央がよく見えない、暗く見える、ゆがむといった症状が現れたら、加齢黄斑変性症が疑われます。
 この病気は、網膜に栄養や酸素を供給している脈絡膜から発生する新生血管の有無によって「浸出(しんしゅつ)型」と「萎縮型」とに分けられます。浸出型は、新生血管が発生し、出血などにより網膜が障害されて起こるタイプで、進行が早く、急激に視力が低下していきます。萎縮型は、網膜の細胞が加齢により徐々に萎縮していきます。日本では進行の早い浸出型が多く、急な失明の危険性もあるため、有効な治療法が求められてきました。

治療法について教えてください。
 これまで国内では、光に対する感受性を持つ光感受性物質(ベルテポルフィリン)を、ひじから注射し、新生血管に到達した時、非熱性の半導体レーザーを当てて化学反応を起こさせる「光線力学療法」が、浸出型の治療の中心的役割を果たしてきました。しかし、日本でも新生血管の成長を活発にする物質である血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを抑える治療薬が登場し、薬物療法が広がり始めており、いくつかの種類の抗VEGFがあります。
 これは「抗VEGF療法」といい、薬を眼球の硝子体に注射することで、新生血管の増殖や成長を抑えます。基本的には月1回の注射を1~3ヶ月行い、その後症状が悪化するようであれば、再度注射を追加して治療を行っております。抗VEGF療法は視力の維持だけでなく改善効果も期待でき、画期的といえます。ただ一旦大出血を起こし網膜に強い障害が起きた場合は、回復しない事も多いです。薬は保険適用されているものの価格が比較的高く、10回以上も注射をすることが希にあります。また、まれに感染、視力低下、眼痛、出血などの合併症が起こる可能性もあり、費用やリスクも含め、医師と話し合って納得してから治療を受けるようにしましょう。
 いずれにしても、早い時期に治療することが大切です。視界に異変を感じたら、すぐに眼科専門医を受診してください。

2018年3月30日金曜日

子どもの矯正治療の基本のきほん

ゲスト/E-line矯正歯科上野 拓郎 院長

子どもの歯科矯正治療についていろいろ教えてください。
 子どもは成長過程にあるため、矯正治療を始める適切な時期があります。成長する力を利用することで、正しくかめるように骨格を誘導し、スムーズに歯並びやかみ合わせを改善できるからです。矯正歯科に相談する時期は「永久歯が生えてから」と思っている親御さんがいらっしゃるかもしれませんが、それではタイミングを逃してしまう場合があるので、お子さんの就学時にまず一度は受診してみることをお勧めします。この時期にかみ合わせを見ると将来の歯並びが予測できます。はっきりと外見から分かる症例だけでなく、今後おこりうる不正咬合(こうごう)も予測できます。また、適切な時期の治療は、使用できる矯正装置の選択肢が豊富で、一人ひとりに合った治療法を選べるというメリットもあります。
 矯正治療の流れを簡単に紹介します。最初に行うカウンセリングでは、治療方法、期間、費用等についてご説明します。納得し、治療を開始されると決まれば、あらためて必要な検査を行います。この検査の中で最も重要なのは、「頭部X線規格写真」という矯正専用のレントゲン写真です。これを撮る事によってはじめて、正確な矯正治療の診断や方針が立つとも言える大切な検査です。このような検査の後、診断、治療方針を決定し治療開始となります。
 子どもの歯並びやかみ合わせは、成長とともに変化していきます。計画に沿って治療を進めていくのはもちろんですが、そういった口の中に現れるさまざまな変化を捉え、的確な対応をしていくのも矯正治療の重要な役割です。歯やあごの状態によっては、治療を始めるまで数年待つ場合もあります。「治療期間はどれくらいかかりますか?」という質問をよく受けますが、子どもの矯正は大人の矯正と違って、成長に合わせて時間をかけて行うものですから、「長い付き合い」になるものとお考えください。大まかな目安としては、永久歯が生え揃う中学生ぐらいを一つのゴールと考えることができます。
 小さなお子さんが、自分から「歯並びがおかしい」と感じて「治したい」と訴えるケースはまれです。お子さんの人生を考え、矯正治療に一歩を踏み出すのは親御さんの役割です。矯正治療をして歯並びがきれいになることは、一生にわたってお子さんの健康的な笑顔を支える大切な財産となるはずです。

2018年3月22日木曜日

脳卒中の手がかりとなる症状

ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院  井上 道夫 医師

脳卒中について教えてください。
 日本人の死因の第4位を占める脳卒中。脳の血管が破れたり(脳出血、くも膜下出血)、詰まる(脳梗塞)ことで、脳が障害を受ける病気です。後遺症も深刻で、高齢者の寝たきりや介護が必要になる原因で最も多いものです。血管は加齢で傷みやすい臓器なので、基本的には年を取るほどかかりやすくなる疾患といえます。
 脳卒中の症状は多岐にわたります。片側の手足にまひやしびれが起こる、ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解しにくい、歩けない、ふらふらする、物が2つに見える、視野が大きく欠ける、今まで経験したことのない激しい頭痛がするといった症状です。

自分や周囲の人にそれらの症状が出た時はどうすればいいですか。
 脳卒中は前兆がなく、ある日突然起こり、一刻も早い治療が必要な病気です。脳卒中が疑われる症状が出現したら、発症時刻を確認して急いで救急車を呼んでください。脳卒中のほとんどは血管が詰まる脳梗塞で発症しますが、脳梗塞の症状には特徴があります。手足と言葉の症状が出やすいことです。つまり、突然に、左右どちらかの手足の力が抜ける片麻痺と、言葉がうまくしゃべれなかったりする場合は、脳卒中になった可能性が高いので様子を見たりせずにすぐに救急車を呼ぶことです。「症状は大したことがないので、急がなくてもいい」と自己判断し、受診を翌日に持ち越してしまったため完全に手遅れになってしまうケースも少なくありません。とにかく「速やかに」です。脳卒中の症状は自然によくなることはほとんどなく、むしろ数日のうちに進行することが多いのです。医療が進歩しても脳卒中を完全に治すのは難しいのですが、早い段階で適切な診断・治療につなげれば、点滴治療やリハビリテーションを超早期から行うことにより、後遺症を最小限に抑えることができます。
もちろん、脳卒中の症状は手足のまひと言葉の障害だけでなく、先ほど語ったように多岐にわたり判断が難しいことも多いので、脳卒中を疑ったら医療機関に直接連絡を取るのも一つの手です。脳卒中の専門的な治療を行う医療機関は、各都道府県がリストを作成し、ホームページなどで公表しています。こうした資料にも目を通し、自分が暮らす地域ではどこの医療機関がその役割を担っているのか、24時間体制で相談や受け入れにあたっているかなどについて、健康な時に前もって知っておくことが大切です。
 また、札幌市では24時間365日、市民からの救急医療相談に看護師が対応する電話による相談窓口「救急安心センターさっぽろ」を運営しています。急に具合が悪くなった時など、救急車を呼んだ方がいいのか、様子を見た方がいいのか判断に迷ったら相談してみるとよいでしょう。

2018年3月14日水曜日

痔の原因と予防

ゲスト/札幌いしやまクリニック 西尾 昭彦 院長

痔について教えてください。
 痔とは肛門部分の疾患の総称で、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(あな痔)の3つで外来患者さんの約8割を占めます。
 痔核はいぼができる場所によって、外痔核と内痔核に分類されます。外痔核は肛門の皮膚部分に血栓(血豆)ができるなど痛みを伴います。便秘で力んだり、重いものを持ったりした時に起こります。内痔核は肛門の内側の粘膜にできます。肛門の出口から数センチのところに「クッション」と呼ばれる柔らかい部分があり、水道の蛇口のゴム栓のような役割を果たしていますが、このクッションが腫れたり緩んだりした状態をいいます。トイレが長いことなどで、肛門部分の血液の流れが悪くなり、うっ血をきたすことが主な原因です。痔核ができると肛門は、便と痔核の区別ができなくなり、残便感からトイレが長くなりがちで、さらに痔核が大きくなるという悪循環になります。根治療法として、切らずに治す注射療法と外科手術があります。
 硬い便が肛門の内側の皮膚を傷つける裂肛は、痔の中でも痛い病気の代表格です。裂肛も「痛いからトイレを我慢する→便が硬くなる→切れる」という悪循環になります。繰り返し切れて傷が硬くなると、慢性の状態に移行してしまい手術が必要になるケースもあります。
 肛門の内側の皮膚と、その奥の直腸の粘膜のつなぎ目には、「肛門小窩」というくぼみがあります。このくぼみから入った細菌が炎症を引き起こし、肛門や直腸周囲に膿瘍をつくるのが痔瘻です。治療は、膿瘍のうみが外に出る際につくられるトンネル(痔瘻管)を切除する手術が必要です。

痔の予防法はありますか。
 痔核はトイレを短くすること、裂肛は便が硬くならないようにすること、痔瘻は、下痢をしないことが予防で重要です。良い便を短い時間で出すためには、規則正しい食生活、食物繊維や発酵食品の摂取、適度な水分補給を心掛け、腸内フローラのバランスを整え、おなかの状態を良好にしておくことです。
 それでもおしり・おなかの調子が悪い時は、早めに病院で受診することをお勧めします。痔核の約8割や急性期の裂肛は手術せずに治ります。痛い思いや恥ずかしい思いをするケースはほとんどないことを知ってもらえればと思います。

2018年3月7日水曜日

アルコール依存症

ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

アルコール依存症について教えてください。
 飲酒のコントロールが効かなくなる病気です。健康を損ね、家庭生活や仕事に支障を来たしても、お酒をやめられません。国内にはアルコール依存症の疑いがある人が約440万人いると推計されています。
 アルコール依存症は薬物依存症の一種です。個人の人格や意志の弱さが原因ではありません。繰り返し飲酒することで、お酒に含まれるエチルアルコールという依存性の薬物に対して、脳の神経細胞に耐性が生じ、飲酒量をコントロールできなくなるのです。ビール、ワイン、日本酒などさまざまなお酒がありますが、すべてにエチルアルコールが入っています。つまり、お酒を飲む人であれば誰でも、気づかないうちに依存症になってしまう可能性があるのです。
 依存症になると、飲酒を原因とする多種の合併症が生じます。例えば、高血圧、高脂血症、肝硬変、認知症などが挙げられます。また、脳卒中や心筋梗塞など、脳や循環器の疾患にかかるリスクも顕著に高くなります。うつ病の合併も頻度が高く、自殺のリスクを高めることも明らかになっています。
 依存症は中高年の男性に多い印象がありますが、高齢者や若年層、さらに女性の患者も増加しています。特に、未成年の飲酒は発達途上の脳への障害が大きく、ほんの数年で依存症になってしまう危険性があります。飲酒に対し寛容といわれる日本社会では、中高生からの酒害教育を行っていく必要があるでしょう。

依存症の治療と予防について教えてください。
 治療には「断酒」が必要です。飲酒のコントロールができない病気ですので、「1日1杯だけ」「土日だけ飲む」などの節酒は困難で、きっぱりやめるしかありません。薬物療法や認知行動療法、断酒会への参加により、断酒につなげていきます。ほかの病気と同じように、軽いうちに治療を始めれば、早期の回復が可能です。重要なのは、病気だと自覚し、正しい知識を得て、有効なやめ方を知ることです。
 依存症の一番の予防は、お酒と病気について正しく知ること。依存症は人生が破綻し、周囲を傷つける「進行性の深刻な病気」であると理解することが大切です。お酒の持つ負の側面を十分に認識し、お酒と安全に付き合っていくことが重要で、それができないのであればお酒をやめるのが安全です。

2018年2月28日水曜日

慢性頭痛

ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

頭痛の原因について教えてください。
 頭痛に悩み、「頭の痛みの原因は何なのか?」「何か悪い病気が隠れているのではないか?」と心配され、病院を訪れる方が増えています。不安は痛みを増強させますので、頭痛に対する正しい理解を得ることが重要です。
 頭痛にはさまざまな種類がありますが、大まかに「怖い頭痛」と「怖くない頭痛」に分けることができます。怖いのは、例えば「くも膜下出血」や「脳腫瘍」といった命にかかわる病気の症状としての頭痛です。われわれ医師は、頭痛の患者さんを診るときは、まず他の重篤な病気が隠れていないかを調べるのに時間をかけます。
 頭痛持ちと呼ばれる方の多くは、怖くない頭痛のケースが大半で、脳に病気がないのに繰り返し症状が起こる「慢性頭痛」と考えられます。先ほどの「怖い頭痛」とは違い、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像検査でも異常は出ません。国内では4人に1人が慢性頭痛を患っているとされます。痛みの程度は人それぞれですが、寝込んでしまうほどの痛みなど、日常生活に支障を来す場合もあります。日本では、慢性頭痛が病気であるという認識が薄いため、周囲の理解が得られず、患者さんの苦しみがより大きくなることもあります。

慢性頭痛について教えてください。
 慢性頭痛もまたいくつかに分類されますが、その7〜8割を占め、男女差なく最も多く認められるのが「緊張型頭痛」です。人間の頭は大きく重く、それを支える骨や筋肉には大きな負担がかかります。長時間同じ姿勢でいることや運動不足に加えて、精神的なストレスが引き起こす、背中から肩、首にかけての筋肉のこわばりによる頭痛です。ストレッチ体操やヨガなどで筋肉を和らげることが治療にも予防にも効果的です。
 「片頭痛」も慢性頭痛の一つです。目の奥や側頭部、後頭部などがズキンズキンと痛みます。頭がギューっと締め付けられるように感じたり、吐き気を伴ったりするなど、辛い頭痛の代表といえます。視界にキラキラ光るものが見えるなど、特徴的な前兆を伴うケースもあります。鎮痛剤が効かないほどの痛みに悩まされることも多く厄介ではありますが、それが「いつもの痛み方」であれば、怖くはない(命には別状がない)頭痛です。片頭痛専用の良い薬があり、適切なタイミングで使うと非常に有効です。

2018年2月23日金曜日

風邪(かぜ症候群

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

風邪について詳しく教えてください。
 冬将軍が到来し、空気が乾燥するこの時期は、「風邪の季節」でもあります。風邪(かぜ)とは、実は単一の病名ではなく、いろいろな症状が重なった症候群(しょうこうぐん)なのです。だから一口に風邪といっても、くしゃみや鼻水、せき、のどの痛みなどを主な症状とする風邪から、せきのひどい気管支炎や、高熱、頭痛、からだのだるさ、ふしぶしの痛みなどの強い全身症状を伴うインフルエンザまで、さまざまなタイプがあります。ただ最近ではインフルエンザをすみやかに診断する検査法があるので、検査で陽性の場合、風邪とはいわずにインフルエンザと言います。
 風邪の症状を起こす微生物(病原菌)の80〜90%がウイルスによるものです。主なものは10種類ほどといわれ、冬はインフルエンザ(A、B)、RS、夏はコクサッキー、エコー、エンテロ、通年型としてはパラインフルエンザ、アデノ、季節とはあまり関係ないものとしてはライノ、コロナウイルスなどがあります。ただ、現在のところインフルエンザウイルスを除き、ウイルス感染症に有効な薬剤はありません。ですから「風邪薬」というのは、くしゃみや鼻水、せきなどの症状をやわらげる薬であり、ウイルスを殺す薬ではないのです。いわんや風邪の予防薬でもありません。インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスの予防注射であって、風邪の予防注射ではありません。

病院を受診する際、気をつけたいポイントを教えてください。
 病院では、患者さんの症状にあわせて、鼻水止め、せき止め、痛み止め、解熱剤などの効果を有する薬を処方します。ですから、ただ「風邪をひいたので風邪薬をください」というのではなく、自分の症状をきちんと医師に伝えることが大切です。
 詳しい症状がわからなければ、薬の出しようがありません。それどころか、本当に風邪なのかさえわからないこともあります。せきやたんを症状とする病気には、肺炎や結核、肺がん、気管支ぜんそく、間質性肺炎などがあり、また発熱を症状とする病気には、膠原病や悪性リンパ腫、悪性腫瘍などがあります。命にかかわる病気が隠れているケースも多く、きちんと症状を伝えないと、手遅れになってしまうこともあるのです。
 病院を受診する際は、面倒でも、いつからどんな症状が出てきたのかをできるだけ詳しく伝えましょう。前もって、症状を記したメモなどを用意し、医師に見せるとより的確に診断、治療してもらえるはずです。

2018年2月14日水曜日

白板症


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

白板症とはどのような病気ですか。
 白板症とは、口腔内の粘膜によくみられる白っぽい病変の総称です。平滑なものやいぼ状に隆起しているもの、赤い部分が混在しているものなどがあり、ガーゼなどでこすっても取れません。患者は50〜70歳代に多く、歯茎や舌の側面の舌縁(ぜつえん)、頬の内側の粘膜によくみられます。通常は痛んだりしみたりせず無症状が多いですが、赤い部分が混在するものでは、痛みを伴います。
 原因は、長期の喫煙や飲酒、ビタミンAやBの不足、合わない義歯や詰め物、過度なブラッシングによる擦過刺激、虫歯による粘膜への刺激などが指摘されていますが、はっきり分かっていません。
 白板症の4〜8%が将来がんになるため、前がん病変ともいわれます。がんになるまで数年〜十数年かかるとされますので、用心は必要ですが、早期に受診すればそれほど心配はいりません。

診断と治療について教えてください。
 口腔内は狭いようで広く、鏡で見ても舌の裏など陰になって見えないところが多いです。加えて、白板症は痛みがないケースが多いので、自分では気付きにくいです。また、自分で白っぽい病変に気付いても口内炎などと区別をつけることは難しいので、病気の発見にはかかりつけの歯科を定期的に受診することが重要です。歯科医は患者さんの口腔内の変化にとても敏感です。
 白板症と同じように口腔内で白くみえる病気には、粘膜に白い部分がレース状に連なる「扁平苔癬(へんぺいたいせん)」や、真菌(カビ)の感染症である「カンジタ症」、良性腫瘍である「乳頭腫」などがあります。組織の一部をとる生検(顕微鏡検査)によって正確な診断が可能で、ほかの病気との区別や、悪性化しやすいか、初期のがんはないかなども調べられます。
 治療法は、ビタミンの服用や禁煙で治癒する場合もありますが、病変を切除するのが最良とされます。ただし、白板症は必ずしもがんになるわけではなく、また、広範囲の病変では切除すると口腔内に機能障害をもたらすリスクもあるので、経過観察を優先し、病変に変化があれば直ちに切除など対処するのも一つの方法です。
 また虫歯の治療や不適合な義歯を直すなどの口腔ケアを徹底し、白板症を予防することも大切です。

2018年2月7日水曜日

認知症予防と治療の未来


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 鈴木 啓史 医師

アルツハイマー型認知症について教えてください。
 認知症は、脳の神経細胞が壊れていくことで記憶障害や判断力の低下が現れ、日常生活に支障が生じる病気で、原因や症状によってさまざまな種類に分けられます。中でも全体の3分の2を占めるとされるのがアルツハイマー型認知症で、治療や新薬の開発などで最も重要視されています。
 現在、アルツハイマー型認知症になる原因ははっきりとは分かっていません。国内で承認・使用されている治療薬は4種類ありますが、いずれの薬も残った正常な脳の力を引き出すことで、症状を緩和させたり、進行を遅らせたりするもので、残念ながら根本的に治す薬はありません。
 近年、さまざまな研究・調査から脳内に「アミロイドβ(ベータ)」という特殊なタンパク質がたまることが、発症の有力な原因と考えられています。アミロイドβは本来、消えていくものですが、何らかの要因により脳に蓄積され、「老人斑」という黒いシミをつくります。これが脳の神経細胞を壊し、結果、認知症を引き起こすのです。また、「タウ」と呼ばれるタンパク質の関連も指摘されています。

開発中の薬など最新の情報を教えてください。
 認知症の脳内の変化は、物忘れなど症状が表面化する前に始まっています。アミロイドβなど異常なタンパク質の蓄積は、長い時間をかけて少しずつ進んでいきます。現在、臨床試験が行われている薬剤やワクチンの多くは、アミロイドβやタウの蓄積を食い止めることを目的に開発されています。
 具体的には、脳内にたまるアミロイドβを取り除く薬、脳におけるアミロイドβの産生を抑える薬、神経細胞にできるタウを抑える薬などが臨床試験に入っています。また、認知症が引き起こす神経細胞の死滅を防ぐ薬も、日本とアメリカで開発が進んでいます。これら認知症の病因に基づいた疾患修飾薬(DMT)が近い将来に実用化されるかもしれません。
 治療だけでなく、アルツハイマー型認知症の早期診断に向けた取り組みも進んでいます。検査技術の進歩で、発症前に脳内のアミロイドβの蓄積状況を診断することは可能です(アミロイドPET)。ただし、現時点では保険の適用がなく(自己負担で)高額な検査となります。

2018年1月31日水曜日

変形性ひざ関節症


ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 八木 知徳 理事長・院長

変形性ひざ関節症とはどのような病気ですか。
 50、60代の人が抱えるひざの痛みで最も多いのが変形性ひざ関節症です。関節の中で骨の表面を覆っている軟骨が、老化やけがによりすり減ることで発症します。
 初期症状は、立ち上がりや歩き始めといった動作を始める時、階段の上り下りの時などに感じる痛みや違和感で、しばらく休むと痛みがなくなる場合がほとんどです。症状が進むと、安静にしていても痛みが治りにくくなります。炎症のために水がたまったり、悪化に伴ってひざが見た目に大きく変形することもあります。
 関節軟骨は一度すり減ってしまうと、完全に元の状態には戻りません。しかし、早期に治療を開始することで、症状の進行を抑え、ひざの痛みや日常生活の不便を軽減することができます。少しでもひざに不安を感じたなら、まずは一度、整形外科でひざの診察を受けるようにしてください。

治療について教えてください。
 エックス線、MRIを撮ると症状の程度がおおよそ判明します。
 痛みが比較的軽く、画像診断でも軽症と診断されれば、関節軟骨の保護・潤滑作用のあるヒアルロン酸をひざに注射したり、肥満解消のための食事や筋力をつける運動を指導したりする保存的治療を行います。
 保存的治療で痛みが改善されない時は、手術で対処します。関節鏡で、老化して傷ついた半月板を取り除く手術、すねの骨を削って、O脚をややX脚に矯正することで、関節にかかる力を分散させる手術(高位脛骨骨切り術)、さらに重症な場合、変形した関節の一部または全部を人工関節に置き換える手術(人工ひざ関節置換術)などを行います。人工ひざ関節の手術を勧める目安としては、「一人で買い物に行けない」「階段の上り下りができない」「他の人と一緒のペースで行動できないので、旅行などに行けない」といった状況にあることが挙げられます。
 自分のひざを温存できるのが骨切り術の利点ですが、高齢の方の場合、骨の再生力が弱く適用できないケースもあります。術後数週間で歩けるようになり、痛みがほぼ確実に解消される人工ひざ関節置換術ですが、人工関節の摩耗などから再手術しなければならないケースもあります。このように治療法にはそれぞれ長所と短所があり、症状のみならず自分のライフスタイルを考えて、医師とよく相談して決めることが重要です。

2018年1月24日水曜日

関節リウマチと骨粗しょう症


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 古崎 章 副院長

関節リウマチと骨粗しょう症との関係について教えてください。
 免疫の異常により、関節を構成する滑膜という組織で炎症が起き、腫れや痛みが起こり、進行すると骨が破壊され関節が変形してしまう関節リウマチ。治りにくい病気でしたが、治療の進歩で、症状が落ち着き進行しない「寛解」も目指せるようになってきました。
 一方、骨粗しょう症は「いつのまにか骨折」で知られるように、無症状で進み、次々と胸椎や腰椎の圧迫骨折をきたし、生活の質を著しく悪化させます。骨折の治療が長引き身体機能が低下し、そのまま寝たきりになるなど介護が必要になるおそれもあるなど、骨粗しょう症の怖さは、骨折や転倒がきっかけで「健康寿命」を短くしてしまうことにあります。
 関節リウマチの患者さんは病態的に骨粗しょう症になりやすいと考えられ、また関節リウマチは40〜50歳代の女性に発症することが多く、この時期は閉経に伴う骨密度の低下を来たし始める年代とされています。さらに、関節リウマチの治療に使われるステロイドですが、飲み続けると、骨がもろくなる場合が多いことが知られています。
 つまり、関節リウマチの患者さんは「病態的」にも「年齢的」にも「治療的」にも、骨粗しょう症になりやすい状態にあるので、関節炎のコントロールはもとより、骨粗しょう症の予防や治療も必要になります。

骨粗しょう症に対する対策や治療について教えてください。
 骨粗しょう症は、年齢や遺伝などの避けられないリスクだけではなく、喫煙や過度の飲酒、偏った食生活、運動不足など、日々の生活習慣の積み重ねも関係して発症するので、今の自分に当てはまるリスクに注意しながら生活改善に取り組み、定期的に骨量(骨密度)測定など検診を受けることが大切です。
 治療の中心は薬物療法です。骨形成(骨が作られること)を促す薬と、骨吸収(骨が壊されること)を抑える薬など、様々な治療薬があります。特に、抗ランクル抗体薬と呼ばれる薬は、骨密度の上昇や骨折の予防効果を有するほかに、関節リウマチでみられる骨びらん(骨の一部が欠けていること)を改善させる効果もあり、2017年7月より関節リウマチの治療にも適用が拡大されました。それぞれの薬に長所短所があるので、医師とよく相談して治療薬を選択してください。

2018年1月17日水曜日

緑内障診療ガイドラインの改訂のポイント


ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

緑内障診療ガイドラインについて教えてください。 
 眼圧が上昇し、視神経が損傷を受けて視野が欠けていく緑内障。国内では40歳以上の20人に1人が発症し、中途失明の上位疾患の一つとなっています。主な治療は眼圧を下げる点眼薬で、きちんと継続すれば進行を止めたり遅らせたりして失明を免れることも十分可能です。最近は点眼薬の種類も増え、一層治療の幅が広がっています。
 近年、緑内障の診断、治療に関する知識や手段の発展は目覚ましいものがありますが、眼科医が日常診療において緑内障の患者さんを前にして、常に時代の水準に合致した適切な診療を行うための指針が、日本緑内障学会が編集・出版する「緑内障診療ガイドライン」です。2012年に第3版が刊行されてから5年が経過し、現在その改訂作業が進められているところです。

改訂のポイントについて教えてください。
 第3版が刊行された当時、「発達緑内障」と呼ばれる小児の緑内障については詳細な診断基準がありませんでしたが、改訂版では、発達緑内障という言葉はなくなり、小児緑内障は大きく「原発小児緑内障」と「続発小児緑内障」に二分されることになりました。
 もう一つのポイントは、これまで専門家の間でプレペリメトリー緑内障(PPG)と呼ばれていた、視野検査に異常が出る前段階を「前視野緑内障」と位置付けたことです。改訂前の緑内障の診断基準では、形態学的な変化と、視野の異常という機能的な変化がそろっていることが必要でした。しかし、近年、光干渉断層計(OCT)検査が普及し、網膜の神経線維の厚みの変化をより正確に判定できるようになったため、形態学的な変化・異常がありながらも、通常の視野検査でまだ視野欠損を認めない状態のPPGの診断がつくようになったという背景があります。
 PPGは原則的には無治療で慎重に経過観察されることも多かったのですが、緑内障患者さんにおいて視野障害が現れた時点ではすでに多くの方が網膜に障害を受けていることも分かっています。PPGが前視野緑内障と名付けられたことで、視野に異常が出る前のより網膜の障害が軽い状態から点眼治療を開始するケースが増え、緑内障の患者さん、そして潜在患者さんの視機能の質の維持につながる改訂になったといえるでしょう。

2018年1月10日水曜日

発達障害


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

発達障害について教えてください。
 近年、発達障害という言葉をあちこちで耳にするようになりました。発達障害は、気持ちを読み取るのが困難な「自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群など)」、読み書きなどが極端に苦手な「学習障害」、気が散りやすい「注意欠如多動性障害」などの総称です。外見からは分かりづらく、厚労省によると、発達障害の人は疑いを含めて約700万人に上ります。
 生まれつき、脳の働き方がほかの人と異なるために起こるもので、くわしいメカニズムは分かっていません。子育ての方法が悪いからではなく、また、心の病気とも違います。
 発達障害のある人は、家庭や学校や職場でさまざまな困難を抱えているケースが多いです。周囲からはやる気がないとか、いいかげんとか思われやすく、また、理解されにくく、誤解されやすく、孤立しやすく、“生きづらさ”を感じていることが多いです。また、発達障害はそれぞれの特性に合った支援や周囲の理解が得られないと、うつ病やパニック障害などを併発することもあります。発達障害に「ここから」という明確な境界線はありません。診断を受けるほどではないが、発達障害の傾向があり、日常生活に困っている人も多いと考えられます。

診療について教えてください。
 自身や家族、周囲の方の“生きづらさ”の原因が発達障害にあるのではないかと感じたら、ぜひ精神科など身近な専門機関に相談してほしいです。病名を恐れて診察を避けるのはマイナスです。例えば、子どもに発達障害がある場合、早い時期に適切な対応を開始することで、発達の偏り自体は変わらなくても、その人らしい成長を支え、不適応を軽減できることがわかってきました。
 大人になってから障害に気付く人もいます。本人や家族の声に丁寧に耳を傾けながら、“生きづらさ”を少しでも減らす努力と工夫を重ねていきます。周囲の協力も得ながら、仕事や対人コミュニケーションで、どうすればうまくやっていけるかを考えていきます。
 診療や対応の基本は「みんな違って、みんないい」です。発達障害の特徴をむしろ良さとして発揮している人も多いです。周囲の配慮により円滑に仕事をこなす人もいれば、興味ある分野で才能を伸ばす人もいます。