2017年12月27日水曜日

手湿疹


ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

手湿疹とはどのような病気ですか
 日常生活の中で、私達は特に意識はしていなくても常に手を使っています。手を使うことで、さまざまな刺激を手に受けることになります。それによって手に起こる湿疹が「手湿疹」です。もっとも身近な皮膚疾患の一つといえます。
 手湿疹の症状は、指先や指腹、手のひらの乾燥、亀裂といった荒れ肌となるタイプ(進行性指掌角皮症)の頻度がもっとも高く、その他、かゆみの伴う小さい水泡が多発し、かさつきや皮がむけてくるタイプ(異汗性湿疹)、手や指の背側がかゆみを伴い湿ってジクジクするタイプ(貨幣状湿疹)などがあります。以上のタイプが混在する場合もあります。
 手湿疹の原因は多種多様ですが、原因の約7割を占めるのが物理的・化学的な刺激です。最も代表的なのは水仕事で、庭仕事や陶芸なども原因となります。見落とされがちですが、日常生活で使うパソコンのキーボードやゲーム機のコントローラー、スマホや楽器などの使用による刺激が原因となることも多いです。アトピー性皮膚炎をお持ちの方は、刺激に敏感で手湿疹を起こしやすく、また増悪しやすい傾向がありますので注意が必要です。また、化学物質などのアレルゲンに対するアレルギー反応が原因となる場合もあります。例えば、ゴムやビニール手袋、アクセサリーやスマホの金属部分、職業と関連するもので、パーマ液やヘアカラー(ヘアダイ)、食品に含まれるタンパク質などが手に触れた際に起こるアレルギー反応が原因となります。

治療と予防について教えてください。
 治療はステロイド外用薬の使用が基本になります。ステロイド外用薬には多種あり、薬効の強弱がありますので、症状の強さ、部位などを考え、使い分けます。また補助的な治療として、手の乾燥に対するヘパリン類似物質含有や尿素含有の保湿剤の併用、亀裂やジクジクに対する亜鉛化軟膏などの併用が効果的です。かゆみが強い場合は、抗アレルギー剤の内服なども併用されます。症状が長引く時は、原因を把握し取り除くことが大切です。
 空気の乾燥が進む冬は、かさつきやひび割れなど手荒れに悩まされる季節です。ゴム手袋の着用などで水や洗剤に触れる時間をなるべく短くして、水仕事や手洗いの後にハンドクリームなどでこまめに保湿することが一番の予防法です。

2017年12月20日水曜日

アニサキス症


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

アニサキス症とはどのような病気ですか。
 アニサキスは、本来海産哺乳類(クジラやイルカ)の消化管の中に生息する線虫です。海水中で卵が孵化し、オキアミに食べられて幼虫(第3期)となります。これを海産魚やイカが食べると幼虫のままですが、海産哺乳類が食べると体内で成虫となります。人間がカツオ、イワシ、サンマ、スルメイカなどを生で食べると、人間の体内はアニサキスにとって好適な環境でないため成虫にはならず、消化管の粘膜(胃壁や腸壁)にもぐり込みます。その結果、激しい腹痛をきたすアニサキス症を発症します。国内のアニサキス症の原因食品は、サバ類が最も多く、これ以外では北海道から東北ではサケ類、イカ類、サンマなど、関東や西日本ではイワシ類、カツオ類などが報告されています。
 アニサキスは、冷凍や加熱で死滅します。70℃以上では瞬時に死滅し、−20℃以下で24時間以上冷凍すると感染性を失います。しかし、酢には抵抗性があり、シメサバのように一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても死ぬことはありません。

アニサキス症の症状と治療について教えてください。
 典型的な症状は、アニサキスの感染している食品を食べた2〜8時間後に胃痛が起こることが多く、ひどい時は悪心嘔吐、吐下血、蕁麻疹やアナフィラキシー症状(急激な呼吸困難や血圧低下など)をきたすこともあります。
 近年、アニサキスに対するアレルギーが症状に関与していることがわかり、症状の強さで軽症(緩和)型と劇症型に分けられます。初感染の場合は異物反応にとどまるため、軽症で経過することが多いですが、過去に感染して感作されている人は、再感染で強い即時型過敏反応を起こして劇症型となります。初めてのアニサキス摂取では無症状でも、2回目以降から過敏反応を起こす可能性が高く、特に一度アニサキス症として過敏反応を起こしている人は要注意です。
 治療は、現在のところ本幼虫に対して効果的な駆除薬はなく、病歴・症状よりアニサキス症を疑い、内視鏡検査で虫体を発見し、鉗子で摘出するのが一般的です。その後も腹痛などの症状が持続する場合は、虫体の分泌物による局所のアレルギーが原因となっている可能性があるので、症状の程度に応じてステロイドの内服や点滴を行います。

2017年12月13日水曜日

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)


ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 副院長

下痢が長く続いている場合、どのような病気が考えられますか。
 下痢には「機能性」の原因と「炎症性」の原因があります。繰り返す下痢の原因として頻度が高いのは、ストレスなどによって腸の機能的な異常が生じる「過敏性腸症候群」です。腸に炎症は起こしておらず、血液検査や内視鏡検査でも正常で、入院や手術が必要になるほど重症化することはありません。一方、腸の炎症によって下痢や腹痛を起こす疾患を総称して「炎症性腸疾患」と呼んでいます。過敏性腸症候群と異なり、悪化すると血便、発熱、体重減少などをきたし、入院や手術が必要になることもあります。慢性的な下痢の要因となる炎症性腸疾患は「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」が代表です。いずれも免疫の異常で発症すると考えられていますが、はっきりとした原因は明らかになっておらず、完全に治癒させることが難しいため厚生労働省から難病に指定されています。患者数が年々増加しており、まれな病気ではなくなってきています。

潰瘍性大腸炎とクローン病について教えてください。
 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、粘膜がはがれたり(潰瘍)、ただれたり(びらん)します。粘液が混じった血便を伴うのが典型的です。重症化すると炎症は大腸全体に広がり、腹痛や血便が頻回になって入院治療を要することもあります。しかし、90%の患者さんは軽症・中等症で、適切な内服薬や座薬などによって外来で治療が可能です。炎症がおさまり症状が消失(寛解)しても、再び症状が発現(再燃)することが多く、寛解と再燃を繰り返すため、寛解期にも治療の継続が必要です。大腸がんを合併するリスクがあるため、定期的な内視鏡検査も必要です。
 クローン病は、口から肛門まですべての消化管に炎症が起こりえます。症状は病変の部位によってさまざまですが、初期症状で多いのは下痢と腹痛です。痔ろうなどの肛門病変が多いのも特徴です。炎症を繰り返し、腸に狭窄をきたしたり、穴があいたりすると手術が必要になることもあります。生物学的製剤という薬剤の開発などにより、治療は進歩していますが、潰瘍性大腸炎と比べ症状は重いことが多いです。潰瘍性大腸炎同様、寛解と再燃を繰り返します。
 下痢や腹痛が続く場合、特に血便や発熱がみられる場合には専門医による検査をお勧めします。

2017年12月6日水曜日

精神科における漢方薬の処方


医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

漢方薬と西洋薬の違いについて教えてください。
 西洋薬は原因のはっきりしない不定愁訴(しゅうそ)などに対応しづらいのですが、体全体を治すという発想の漢方薬なら有効なケースがよくあります。漢方薬は西洋薬に比べ、一般的に即効性は劣るものの副作用が少ない傾向にあります。ただし、まったく副作用がないわけではありません。また、漢方薬の持つ神秘的なイメージから、漢方薬だけで治療を望む方もいらっしゃいますが、効果の切れ味という点では、西洋薬に軍配があがることが多く、例えば、統合失調症や双極性感情障害(躁うつ病)、軽症以外のうつ病、てんかんについては西洋薬による治療を第一とするのが一般的です。
 つまり、漢方薬も西洋薬もそれぞれ長所と短所を併せ持っているわけです。両者は効果、副作用、治療期間などの特徴が異なるので、患者さんの状態によって使い分けたり、併用したりすることが大切です。

精神科ではどのような時に漢方薬を処方するのですか。
 高齢者に多い認知症の治療では、患者さんの家族を困らせる攻撃性、幻覚、妄想など周辺症状を和らげるために抑肝散(よくかんさん)という漢方薬が使われています。
 生理が近づくとイライラしたり気分が落ち込んだり心身ともに不調になってしまう、こんな悩みを持つ女性は多いです。月経前症候群というこうした症状や更年期障害などに使われるのが加味逍遙散(かみしょうようさん)です。イライラだけでなく、肩こりや不安感など多岐にわたる不調を和らげます。
 痛みやまひなど何らかの身体的な症状が出ているのに、検査をしても異常が見つからず、他の精神疾患もない病態を身体表現性障害と呼びます。ストレスや不安などの心理的な要因が作用して、身体症状があらわれると考えられています。代表的な症状の一つであるのどの異物感には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、胸苦しさには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが有効です。
 その他、トラウマによるフラッシュバックに有効な漢方薬の処方として四物湯(しもつとう)と桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の組み合わせがあります。また、発達障害の方や、敏感で繊細な方は、西洋薬は刺激が強すぎて飲めないことがあり、漢方薬を中心に対応するケースもあります。

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