2017年11月22日水曜日

GERD(胃食道逆流症)


佐野内科医院 佐野 公昭 院長

GERDとはどのような病気ですか。
 GERD(「ガード」と読みます)は、胃食道逆流症の英語の頭文字をとった略語で、胃の内容物が食道に逆流して起こる病気の総称です。
 胃内容物の食道への逆流が頻繁に起こるようになると、胃液の中の酸や消化酵素のために、胸やけや口の中まで酸っぱい水が上がる感じの呑酸(どんさん)が起こります。また、胃酸のために食道粘膜がただれて食道炎が起こる場合もあります。内視鏡で食道炎が認められるものを「逆流性食道炎」、胸やけなどの症状があるものの内視鏡で食道炎が確認できないものを「非びらん性胃食道逆流症」(NERD「ナード」)といいます。
 逆流する主な原因は、食道と胃の間を閉じている下部食道括約筋の衰えです。年齢を重ねるにつれてこの筋肉が弱まって、食道と胃の間が開き、胃酸が逆流しやすくなります。加齢や腹圧の上昇などによって胃が食道側に飛び出す食道裂孔ヘルニアも原因の一つです。
 近年、アシッド・ポケットとよばれる酸性胃液の層が食後1時間ほど経ってから胃の上の方にできることが酸の逆流と関係していると考えられるなど、この分野の研究は著しく進歩しており、GERD診療もさらに発展していくことが期待されています。

GERDの治療について教えてください。
 第一の治療は生活習慣の改善です。脂肪の多い食事、甘いもの、柑橘類などの食べ過ぎは控えた方がいいでしょう。また、食後すぐに横になるのをやめ、就寝の少なくとも2時間前からはものを食べないようにします。就寝時は頭を高くしたり、体の左側を下にする姿勢にすると逆流しにくくなります。肥満やたばこもよくありません。減量や禁煙が望まれます。
 第二の治療は薬物療法です。胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、その強力な作用で症状を改善させる代表格です。2015年には従来のPPIより酸分泌抑制効果が強力なカルシウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)も登場しました。PPIが効きにくい患者さんの中には、飲み忘れがあったり、飲むタイミングが適切でない方も見受けられます。食後の服用が一般的ですが、効き目が悪ければ、食前の服用を勧めるケースもあります。ごく最近、一部のPPIで1日2回に分けて服用する方法が保険診療で認められ、以前の薬も工夫次第で効果が得られるようになりました。このほか、食道の粘膜を保護する薬や胃の動きをよくする薬、漢方薬なども使います。
 第三の治療は手術です。重症だったり、再発を繰り返す場合に行います。以前は開腹術が行われていましたが、最近は腹腔鏡を用いた手術や内視鏡的な治療も行われるようになってきています。

2017年11月15日水曜日

舌側矯正


宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。それによって歯列のでこぼこや、上顎(がく)前突、下顎前突、さらに顎の左右のズレを気にする方が増えてきました。
 先日、30代の女性から「長年、でごぼこの歯並びがコンプレックスです。矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談を受けました。この女性に限らず、同様の悩みを持つ人は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると装着の違和感などで劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及してきました。
 「STb」は、「ST」が大文字、「b」が小文字で表記されるのが正しく、「ST」は考案者2人の頭文字、「b」はブラケット(歯に付ける器具)の略です。「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、歯が早く動くともいわれており、より進化した次世代ブラケットといえます。
 「STb」の登場により、話すことが多い職業の人や舌の違和感に対する不安などの理由で、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、専門医に相談してみてください。

2017年11月8日水曜日

白内障手術の合併症


大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の手術について教えてください。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠くと近くの2カ所に焦点が合う多焦点眼内レンズや、従来の多焦点眼内レンズの弱点である夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする現象などを解消したレンズも使われています。これらは健康保険が適用されませんが、先進医療に該当するため、民間生命保険の先進医療特約の対象となることがあります。そのほか、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズなど、自由診療も含めて眼内レンズの選択肢は広がっており、患者のニーズに合ったものを選ぶことが可能です。

白内障の手術で合併症など注意すべき点はありますか。
 日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。患者への身体的な負担も少なく、基本的に安全性の高い治療法ですが、合併症の可能性はゼロではありません。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、また、水晶体の袋を支えるチン小帯が弱くなっているので、濁りが目の奥に落下することもあり、慎重な施術が要求されます。通常の症例に比べると手術時間が長くかかります。
 眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。大きな破嚢は、眼内レンズを挿入できないケースもあり、この場合には後日眼内レンズを目の中に縫い付ける方法で挿入します。
 重度の合併症としては、約4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースがあります。直ちに硝子体手術を行えば、視力を維持できる可能性が高まります。
 術後、数カ月から数年してまた物が見えにくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋が濁ってくるのが原因です。再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に取り除くことができます。外来でできる治療で、視力も翌日には回復します。

2017年11月1日水曜日

パニック障害


医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 丸尾 聖爾 医師

パニック障害はどのような病気ですか。
 パニック障害では、思い当たる原因がないのに突然、たとえようのない不安に襲われ、動悸(どうき)や呼吸困難、吐き気、めまい、手の震えなどの症状が現れます。本人は「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖感を感じることもあります。こうした発作(パニック発作)は繰り返し起こりますが、なぜ発作が起きたのか本人にもわからないため、「また激しい発作に襲われるのではないか」という「予期不安」に絶えず悩まされます。そうなると、電車、飛行機など逃げ場のない場所、デパートなどの人混み、病院や理髪店などのじっとしていなければならない場所を避けるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。
 原因はまだ十分に解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れて起こると考えられています。疫学調査では100人に1~2人が発症するといわれており、めずらしい病気ではありません。

診断や治療について教えてください。
 現在、広く用いられている診断基準(DSM-5/アメリカ精神医学会)に基づいて、発作の起きる状況や具体的な症状などを問診で確認して診断を行います。症状が似ている甲状腺の病気(甲状腺機能亢進症)や呼吸器疾患(ぜんそくなど)、心疾患(不整脈)などの内科の病気を除外する必要があります。
 治療法には薬物療法と認知行動療法があります。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と抗不安薬(ベンゾジアゼピン)という2種類の薬が有効で、併用して治療を行います。認知行動療法では、パニック発作について正しく理解して、発作が起こった際の対処法を学んでいただき、曝露療法によって不安場面に少しずつ慣らしていくなどの治療を行います。
 パニック障害は、決して本人の性格や気の持ちようなどで起きるのではなく、脳内の神経系の機能異常によって起きる病気です。そして、適切な治療を行えば良くなる病気です。パニック発作のような症状に悩まされている方は、出来るだけ早期に専門医を受診していただくことをお勧めします。

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