2017年2月22日水曜日

冬の頭部外傷〜慢性硬膜下(こうまくか)血腫〜


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

転倒で頭を強く打ち付けてしまった時の注意点を教えてください。
 冬道での転倒によるケガに注意が必要な季節です。横断歩道やバス停留所などツルツル路面での転倒による受傷が増えています。頭は高い位置にあるため、滑って転んで頭を打った場合は、かなりの衝撃が加わる危険性があります。
 頭を打った前後のことをよく覚えていないケースがありますが、外傷後の記憶が“飛んで”しまう「外傷後健忘」と、ぶつける前までさかのぼって記憶が無くなってしまう「逆行性健忘」の2種類あります。ともに、頭を強く打っていることが疑われますので、一刻も早く受診し、早急な検査が必要です。
 ケガをしてすぐの検査で異常が無かったのに、受傷してから1〜2カ月ほど経ってから徐々に頭の中に血液がたまってくる病気があります。慢性硬膜下血腫です。中高年に多くみられ、お酒をよく飲む方とか、肝臓の悪い方、治療のために血液をサラサラにする薬を飲んでいる方などがなりやすく、頭部の軽いけがの後でも起こる場合があるので注意が必要です。

慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。
 慢性硬膜下血腫の症状は、出血が少ない場合はほぼ無症状か、あっても頭痛程度です。出血量が多くなると、血液がたまって脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。強い頭痛を感じたり、頭が重くだるい状態が続いたりします。さらに圧迫が進むと、歩行障害や手足のまひなど、脳梗塞などの脳血管障害と似た症状を示すケースもあります。特に、足元がおぼつかなくなる症状が目立ちます。記憶障害、見当識障害、判断力の障害が起こることもあり、高齢者の場合、認知症と間違われていることも少なくありません。高齢者は頭痛を感じても訴えない方が多く、そのまま寝込んでしまうケースもあるので、周りの方が注意して見守ってあげることが大切です。
 無症状であれば、よほど脳への圧迫が強くない限りはそのまま経過観察をします。内服薬を使って様子をみる場合もあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する漢方薬を使うケースも増えています。圧迫が強い場合、上に挙げた症状が出ている場合は、手術治療が必要になります。
 転倒などで頭を強く打った時、1カ月ぐらい経ってから頭が痛くなってきたり、気になる症状が出たりしている場合は、我慢しないで専門医を受診してください。

2017年2月16日木曜日

電気けいれん療法


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 小澤 剛久 診療部長

電気けいれん療法について教えてください。
 電気けいれん療法は、全身麻酔下で専用の医療機器を用いて、脳に電気的刺激を与える治療法です。うつ病、統合失調症、躁うつ病等が適応となる疾患で、薬物治療の効果が少ない患者さん、薬物治療や精神療法を行えない患者さん、精神的あるいは身体的観点から症状の改善が急がれる患者さんなどが対象となります。
 電気けいれん療法がどの様な機序で有効性を示すのかはまだ未解明な部分がありますが、電気刺激を与えて脳内の神経伝達物質を活性化させて脳神経回路を再構築する事で、症状の改善が得られると考えられています。イメージとしては人為的に脳に電流を流すことで、いったん脳の状態(機能)をリセットし、脳内のバランスを整えることで精神症状を緩和する治療法です。
 一般の方には聞き慣れない名称ですし、「電気けいれん」という言葉に不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。確かに、聞こえはよくないのですが、症例によっては、これが劇的に効きます。薬物療法や精神療法と比べて治療効果が高く、即効性があるケースもあります。また、治療法としての歴史は長く、近年の治療技術の大幅な改善により、現在は麻酔科の協力を得て、痛みや苦しみのない安全性の高い治療法として確立しています。

治療の流れ、注意事項について教えてください。
 電気けいれん療法を安全に行うには全身麻酔をかけて行う必要があります。したがって実施可能な施設は限られています。当院では約1〜2カ月間入院していただき、基本的に週2回、合計12回の連続した治療を1コースとして行います。患者さんの状態によって異なりますが、平均4〜6回前後で治療効果が現れ始め、8〜10回で十分な効果を得られるケースが多いです。
 治療の流れは、大まかに次の通りです。①事前の検査/事前に数種類の検査を行い、全身状態をチェックします。治療前夜からは絶食となります。②全身麻酔/施術管理に必要なモニター(心電図や脳波)の準備をした後、麻酔科によって全身麻酔した上で、筋肉の緊張を起こしにくくする薬を使います。③治療/こめかみに付けた電極を通して、治療器から数秒間、電流を脳に流します。④自室で安静/治療に要する時間は約20分間です。施術後は病棟で安静にしていただき、状態を確認します。
 副作用として、一過性の筋肉痛や頭痛、吐き気などがあります。また、頻脈や血圧上昇、治療前後のことを思い出しにくくなる記憶障害が起こることがありますが、多くは自然に元に戻り、後遺症は残りません。
 電気けいれん療法に関心がある方はどなたでもお気軽にご相談ください。

2017年2月8日水曜日

肌のかゆみ


ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

肌のかゆみについて教えてください。
 今年は暖冬といわれていましたが、気温が低く雪が多い冬になりました。冬になると気になるのが体のかゆみです。肌に発疹や水泡など明らかな病変がなく、かゆみだけが認められる場合を皮膚掻痒(そうよう)症といいます。冬場に肌がかゆくなる人が多いのは、寒くなると血行が悪くなり、暖房の使用などで空気が乾燥することで皮膚の水分が失われ、かゆみを感じる神経が敏感になるためです。雪かきや入浴の後、就寝後など、体が温まること(寒暖差)によって、寒さで縮んでいた血管が急速に広がり、かゆくなることもあります。
 かゆみの原因は皮膚の乾燥以外にもあります。ストレス、精神的不安、疲労、怒り、緊張によって、かゆみを感じてかいたり、かゆみが悪化したりする場合があります。それが続くと無意識にかくことがクセのようになったり、症状をこじらせたりしてしまいます。耳がかゆく、ついガリガリと強めに耳掃除をして皮膚を傷つけ、それがかさぶたになりまたかゆくなる…という悪循環を繰り返す「外耳道炎」もそうです。
 女性の外陰部のかゆみは、婦人科の中でも比較的多い病気「カンジダ症」の可能性があります。もとから膣の中に持っている真菌(カビ)が、体が弱った際などに急速に増殖し発症すると考えられています。アレルギー反応、ホルモンバランスの崩れなどがかゆみを引き起こしている場合もあります。
 肛門(こうもん)あるいは肛門周囲も便や腸の粘液にさらされ、通気性も悪いため、かゆくなりやすいものです。痔、寄生虫、トイレットペーパーとの相性が悪い、温水洗浄(便座)の使い過ぎなども原因として考えられます。

かゆみの治療について教えてください。
 治療はかゆみを抑える塗り薬や飲み薬、炎症を抑えるステロイドや免疫を抑制する塗り薬、ストレスを減らすための飲み薬など薬物療法が中心です。肌を清潔に保ち、保湿する工夫をするなど日常生活でのスキンケアも大切です。
 強いかゆみで「寝ていられない」「仕事が手につかない」という場合には、別な病気を合併している可能性も疑われます。糖尿病、肝臓や腎臓など内臓の病気、悪性腫瘍もかゆみを伴うことがあります。症状が重い時には放置せず、かかりつけ医の診察を受けてみてはいかがでしょうか。

2017年2月1日水曜日

関節リウマチの敵〜喫煙と歯周病〜


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチ治療中の生活で何か気を付けることはありますか。
 関節リウマチは診断技術や治療法の進歩で「治る」時代に入りましたが、それでも一度発病したら、長く付き合っていかなければならない病気です。治療が順調で症状が軽くなっても、毎日の暮らしの中ではいくつかの注意が必要です。どういう生活を心掛ければよいのでしょうか。私が日々の診療から考える「関節リウマチの敵」は、正月やお盆などの行事やお客の接待、理解のない夫や孫の世話などの対人関係、庭仕事や冬囲いなどの家事や労働のほか、悪天候、ストレスなどさまざまです。ここでは、関節リウマチに大きく影響する環境因子(=関節リウマチの敵)として、喫煙と歯周病について触れます。
 最近の研究では、特定の遺伝子を持つグループの人たちは、喫煙により免疫の異常が誘発され、関節リウマチをより高頻度に発症することが分かってきました。また、リウマチ発症後もたばこを吸っている人は吸っていない人に比べて、より関節の破壊が進行することや、喫煙によりメトトレキサートや生物学的製剤の効き目が弱くなることも報告されています。リウマチを予防し、また効果的に治療を行うためにも、禁煙をお勧めします。

関節リウマチと歯周病の関係について教えてください。
 歯周病は、歯垢(プラーク)の中の細菌によって歯肉に炎症が起き、歯を支える歯茎や骨が壊されていく病気です。口の中には数百種類の細菌がおり、その中から10〜20種類の細菌が歯周病を引き起こすことが分かっています。それらは歯周病菌と呼ばれ、代表的なものがPg菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)です。Pg菌は、強い悪臭を放ち、歯肉のコラーゲン組織を分解したり、白血球が持つ殺菌作用を弱める酵素を持っています。また、歯を支える骨を溶かす毒素で、歯周病を重症化させます。近年、Pg菌が関節リウマチの発症にも関与していることが示されてきました。
 関節リウマチと歯周病には密な関連があり、2つの病気をお互いに悪くする双方向性があります。双方向性とは、関節リウマチがあると歯周病がさらに進行し、逆に歯周病があると関節リウマチに影響するということです。一方、歯周病を治療すると、関節リウマチが改善することも報告されています。
 関節リウマチを治すには、禁煙と歯周病の治療、口の中を清潔に保つケアも重要なポイントになります。

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