2017年12月27日水曜日

手湿疹


ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

手湿疹とはどのような病気ですか
 日常生活の中で、私達は特に意識はしていなくても常に手を使っています。手を使うことで、さまざまな刺激を手に受けることになります。それによって手に起こる湿疹が「手湿疹」です。もっとも身近な皮膚疾患の一つといえます。
 手湿疹の症状は、指先や指腹、手のひらの乾燥、亀裂といった荒れ肌となるタイプ(進行性指掌角皮症)の頻度がもっとも高く、その他、かゆみの伴う小さい水泡が多発し、かさつきや皮がむけてくるタイプ(異汗性湿疹)、手や指の背側がかゆみを伴い湿ってジクジクするタイプ(貨幣状湿疹)などがあります。以上のタイプが混在する場合もあります。
 手湿疹の原因は多種多様ですが、原因の約7割を占めるのが物理的・化学的な刺激です。最も代表的なのは水仕事で、庭仕事や陶芸なども原因となります。見落とされがちですが、日常生活で使うパソコンのキーボードやゲーム機のコントローラー、スマホや楽器などの使用による刺激が原因となることも多いです。アトピー性皮膚炎をお持ちの方は、刺激に敏感で手湿疹を起こしやすく、また増悪しやすい傾向がありますので注意が必要です。また、化学物質などのアレルゲンに対するアレルギー反応が原因となる場合もあります。例えば、ゴムやビニール手袋、アクセサリーやスマホの金属部分、職業と関連するもので、パーマ液やヘアカラー(ヘアダイ)、食品に含まれるタンパク質などが手に触れた際に起こるアレルギー反応が原因となります。

治療と予防について教えてください。
 治療はステロイド外用薬の使用が基本になります。ステロイド外用薬には多種あり、薬効の強弱がありますので、症状の強さ、部位などを考え、使い分けます。また補助的な治療として、手の乾燥に対するヘパリン類似物質含有や尿素含有の保湿剤の併用、亀裂やジクジクに対する亜鉛化軟膏などの併用が効果的です。かゆみが強い場合は、抗アレルギー剤の内服なども併用されます。症状が長引く時は、原因を把握し取り除くことが大切です。
 空気の乾燥が進む冬は、かさつきやひび割れなど手荒れに悩まされる季節です。ゴム手袋の着用などで水や洗剤に触れる時間をなるべく短くして、水仕事や手洗いの後にハンドクリームなどでこまめに保湿することが一番の予防法です。

2017年12月20日水曜日

アニサキス症


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

アニサキス症とはどのような病気ですか。
 アニサキスは、本来海産哺乳類(クジラやイルカ)の消化管の中に生息する線虫です。海水中で卵が孵化し、オキアミに食べられて幼虫(第3期)となります。これを海産魚やイカが食べると幼虫のままですが、海産哺乳類が食べると体内で成虫となります。人間がカツオ、イワシ、サンマ、スルメイカなどを生で食べると、人間の体内はアニサキスにとって好適な環境でないため成虫にはならず、消化管の粘膜(胃壁や腸壁)にもぐり込みます。その結果、激しい腹痛をきたすアニサキス症を発症します。国内のアニサキス症の原因食品は、サバ類が最も多く、これ以外では北海道から東北ではサケ類、イカ類、サンマなど、関東や西日本ではイワシ類、カツオ類などが報告されています。
 アニサキスは、冷凍や加熱で死滅します。70℃以上では瞬時に死滅し、−20℃以下で24時間以上冷凍すると感染性を失います。しかし、酢には抵抗性があり、シメサバのように一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても死ぬことはありません。

アニサキス症の症状と治療について教えてください。
 典型的な症状は、アニサキスの感染している食品を食べた2〜8時間後に胃痛が起こることが多く、ひどい時は悪心嘔吐、吐下血、蕁麻疹やアナフィラキシー症状(急激な呼吸困難や血圧低下など)をきたすこともあります。
 近年、アニサキスに対するアレルギーが症状に関与していることがわかり、症状の強さで軽症(緩和)型と劇症型に分けられます。初感染の場合は異物反応にとどまるため、軽症で経過することが多いですが、過去に感染して感作されている人は、再感染で強い即時型過敏反応を起こして劇症型となります。初めてのアニサキス摂取では無症状でも、2回目以降から過敏反応を起こす可能性が高く、特に一度アニサキス症として過敏反応を起こしている人は要注意です。
 治療は、現在のところ本幼虫に対して効果的な駆除薬はなく、病歴・症状よりアニサキス症を疑い、内視鏡検査で虫体を発見し、鉗子で摘出するのが一般的です。その後も腹痛などの症状が持続する場合は、虫体の分泌物による局所のアレルギーが原因となっている可能性があるので、症状の程度に応じてステロイドの内服や点滴を行います。

2017年12月13日水曜日

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)


ゲスト/福住内科クリニック 佐藤 康裕 副院長

下痢が長く続いている場合、どのような病気が考えられますか。
 下痢には「機能性」の原因と「炎症性」の原因があります。繰り返す下痢の原因として頻度が高いのは、ストレスなどによって腸の機能的な異常が生じる「過敏性腸症候群」です。腸に炎症は起こしておらず、血液検査や内視鏡検査でも正常で、入院や手術が必要になるほど重症化することはありません。一方、腸の炎症によって下痢や腹痛を起こす疾患を総称して「炎症性腸疾患」と呼んでいます。過敏性腸症候群と異なり、悪化すると血便、発熱、体重減少などをきたし、入院や手術が必要になることもあります。慢性的な下痢の要因となる炎症性腸疾患は「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」が代表です。いずれも免疫の異常で発症すると考えられていますが、はっきりとした原因は明らかになっておらず、完全に治癒させることが難しいため厚生労働省から難病に指定されています。患者数が年々増加しており、まれな病気ではなくなってきています。

潰瘍性大腸炎とクローン病について教えてください。
 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、粘膜がはがれたり(潰瘍)、ただれたり(びらん)します。粘液が混じった血便を伴うのが典型的です。重症化すると炎症は大腸全体に広がり、腹痛や血便が頻回になって入院治療を要することもあります。しかし、90%の患者さんは軽症・中等症で、適切な内服薬や座薬などによって外来で治療が可能です。炎症がおさまり症状が消失(寛解)しても、再び症状が発現(再燃)することが多く、寛解と再燃を繰り返すため、寛解期にも治療の継続が必要です。大腸がんを合併するリスクがあるため、定期的な内視鏡検査も必要です。
 クローン病は、口から肛門まですべての消化管に炎症が起こりえます。症状は病変の部位によってさまざまですが、初期症状で多いのは下痢と腹痛です。痔ろうなどの肛門病変が多いのも特徴です。炎症を繰り返し、腸に狭窄をきたしたり、穴があいたりすると手術が必要になることもあります。生物学的製剤という薬剤の開発などにより、治療は進歩していますが、潰瘍性大腸炎と比べ症状は重いことが多いです。潰瘍性大腸炎同様、寛解と再燃を繰り返します。
 下痢や腹痛が続く場合、特に血便や発熱がみられる場合には専門医による検査をお勧めします。

2017年12月6日水曜日

精神科における漢方薬の処方


医療法人社団 正心会 岡本病院 瀬川 隆之 医師

漢方薬と西洋薬の違いについて教えてください。
 西洋薬は原因のはっきりしない不定愁訴(しゅうそ)などに対応しづらいのですが、体全体を治すという発想の漢方薬なら有効なケースがよくあります。漢方薬は西洋薬に比べ、一般的に即効性は劣るものの副作用が少ない傾向にあります。ただし、まったく副作用がないわけではありません。また、漢方薬の持つ神秘的なイメージから、漢方薬だけで治療を望む方もいらっしゃいますが、効果の切れ味という点では、西洋薬に軍配があがることが多く、例えば、統合失調症や双極性感情障害(躁うつ病)、軽症以外のうつ病、てんかんについては西洋薬による治療を第一とするのが一般的です。
 つまり、漢方薬も西洋薬もそれぞれ長所と短所を併せ持っているわけです。両者は効果、副作用、治療期間などの特徴が異なるので、患者さんの状態によって使い分けたり、併用したりすることが大切です。

精神科ではどのような時に漢方薬を処方するのですか。
 高齢者に多い認知症の治療では、患者さんの家族を困らせる攻撃性、幻覚、妄想など周辺症状を和らげるために抑肝散(よくかんさん)という漢方薬が使われています。
 生理が近づくとイライラしたり気分が落ち込んだり心身ともに不調になってしまう、こんな悩みを持つ女性は多いです。月経前症候群というこうした症状や更年期障害などに使われるのが加味逍遙散(かみしょうようさん)です。イライラだけでなく、肩こりや不安感など多岐にわたる不調を和らげます。
 痛みやまひなど何らかの身体的な症状が出ているのに、検査をしても異常が見つからず、他の精神疾患もない病態を身体表現性障害と呼びます。ストレスや不安などの心理的な要因が作用して、身体症状があらわれると考えられています。代表的な症状の一つであるのどの異物感には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、胸苦しさには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが有効です。
 その他、トラウマによるフラッシュバックに有効な漢方薬の処方として四物湯(しもつとう)と桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の組み合わせがあります。また、発達障害の方や、敏感で繊細な方は、西洋薬は刺激が強すぎて飲めないことがあり、漢方薬を中心に対応するケースもあります。

2017年11月22日水曜日

GERD(胃食道逆流症)


佐野内科医院 佐野 公昭 院長

GERDとはどのような病気ですか。
 GERD(「ガード」と読みます)は、胃食道逆流症の英語の頭文字をとった略語で、胃の内容物が食道に逆流して起こる病気の総称です。
 胃内容物の食道への逆流が頻繁に起こるようになると、胃液の中の酸や消化酵素のために、胸やけや口の中まで酸っぱい水が上がる感じの呑酸(どんさん)が起こります。また、胃酸のために食道粘膜がただれて食道炎が起こる場合もあります。内視鏡で食道炎が認められるものを「逆流性食道炎」、胸やけなどの症状があるものの内視鏡で食道炎が確認できないものを「非びらん性胃食道逆流症」(NERD「ナード」)といいます。
 逆流する主な原因は、食道と胃の間を閉じている下部食道括約筋の衰えです。年齢を重ねるにつれてこの筋肉が弱まって、食道と胃の間が開き、胃酸が逆流しやすくなります。加齢や腹圧の上昇などによって胃が食道側に飛び出す食道裂孔ヘルニアも原因の一つです。
 近年、アシッド・ポケットとよばれる酸性胃液の層が食後1時間ほど経ってから胃の上の方にできることが酸の逆流と関係していると考えられるなど、この分野の研究は著しく進歩しており、GERD診療もさらに発展していくことが期待されています。

GERDの治療について教えてください。
 第一の治療は生活習慣の改善です。脂肪の多い食事、甘いもの、柑橘類などの食べ過ぎは控えた方がいいでしょう。また、食後すぐに横になるのをやめ、就寝の少なくとも2時間前からはものを食べないようにします。就寝時は頭を高くしたり、体の左側を下にする姿勢にすると逆流しにくくなります。肥満やたばこもよくありません。減量や禁煙が望まれます。
 第二の治療は薬物療法です。胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、その強力な作用で症状を改善させる代表格です。2015年には従来のPPIより酸分泌抑制効果が強力なカルシウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)も登場しました。PPIが効きにくい患者さんの中には、飲み忘れがあったり、飲むタイミングが適切でない方も見受けられます。食後の服用が一般的ですが、効き目が悪ければ、食前の服用を勧めるケースもあります。ごく最近、一部のPPIで1日2回に分けて服用する方法が保険診療で認められ、以前の薬も工夫次第で効果が得られるようになりました。このほか、食道の粘膜を保護する薬や胃の動きをよくする薬、漢方薬なども使います。
 第三の治療は手術です。重症だったり、再発を繰り返す場合に行います。以前は開腹術が行われていましたが、最近は腹腔鏡を用いた手術や内視鏡的な治療も行われるようになってきています。

2017年11月15日水曜日

舌側矯正


宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

矯正に対する最近の傾向について教えてください。
 全身の健康やQOL(生活の質)にとって、咬(か)み合わせが重要な役割を果たしていることが一般の方々にも認知されるようになりました。それによって歯列のでこぼこや、上顎(がく)前突、下顎前突、さらに顎の左右のズレを気にする方が増えてきました。
 先日、30代の女性から「長年、でごぼこの歯並びがコンプレックスです。矯正治療を考えていますが、装置を裏からにするか、表からにするか迷っています」と相談を受けました。この女性に限らず、同様の悩みを持つ人は多く、よくこのような相談を受けます。
 咬合(こうごう)の大切さを認識し、矯正治療を受けようとする前向きな姿勢を隠す必要はありませんが、人知れずに治療したいという気持ちも分かります。特に社会人で、接客業など日常的に多くの人に接する職業の人はそう考えるでしょう。また、思春期のお子さんが矯正装置を気にする心情も理解できます。そういう場合は、舌側矯正をお勧めしています。

舌側矯正について教えてください。
 舌側矯正は、歯の裏側に矯正装置を入れます。表からは装置が目に付かないので、見た目にはまったく違和感がありません。ただし、内側にあることから、表側からの矯正(唇側矯正)と比較すると装着の違和感などで劣る部分もありました。しかし、近年これらの問題点を改善した舌側矯正装置「STb」が普及してきました。
 「STb」は、「ST」が大文字、「b」が小文字で表記されるのが正しく、「ST」は考案者2人の頭文字、「b」はブラケット(歯に付ける器具)の略です。「STb」は、従来の裏側に用いていたブラケットと比べると装置が非常に薄く、そして小さくなりました。それにより「話しにくい」「食事がしづらい」「舌が痛い」「歯が磨きにくい」といった今までの舌側矯正の不快感が飛躍的に改善されました。また、歯の痛みもほとんどなく、歯が早く動くともいわれており、より進化した次世代ブラケットといえます。
 「STb」の登場により、話すことが多い職業の人や舌の違和感に対する不安などの理由で、舌側矯正に踏み切れなかった人も気軽に、そして快適に矯正治療が受けられるようになったと思います。ぜひ一度、専門医に相談してみてください。

2017年11月8日水曜日

白内障手術の合併症


大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の手術について教えてください。
 一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを取り除き、その袋の中に人工の眼内レンズを挿入するものです。従来、眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた単焦点眼内レンズが使われていましたが、最近では遠くと近くの2カ所に焦点が合う多焦点眼内レンズや、従来の多焦点眼内レンズの弱点である夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする現象などを解消したレンズも使われています。これらは健康保険が適用されませんが、先進医療に該当するため、民間生命保険の先進医療特約の対象となることがあります。そのほか、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う三焦点眼内レンズなど、自由診療も含めて眼内レンズの選択肢は広がっており、患者のニーズに合ったものを選ぶことが可能です。

白内障の手術で合併症など注意すべき点はありますか。
 日本白内障学会などによると、白内障手術は全国で年間140万件以上行われており、最も実施件数の多い外科手術の一つです。患者への身体的な負担も少なく、基本的に安全性の高い治療法ですが、合併症の可能性はゼロではありません。
 最も合併症が起きやすいのは、進行して褐色になった白内障です。濁りが固くなっているため取り除くのが難しく、また、水晶体の袋を支えるチン小帯が弱くなっているので、濁りが目の奥に落下することもあり、慎重な施術が要求されます。通常の症例に比べると手術時間が長くかかります。
 眼内レンズを支える膜が何らかの原因で手術中に破れることもあります。これを破嚢(はのう)といいます。大きな破嚢は、眼内レンズを挿入できないケースもあり、この場合には後日眼内レンズを目の中に縫い付ける方法で挿入します。
 重度の合併症としては、約4000人に1人というごくまれな状態ですが、術後に眼内で細菌が繁殖し、網膜の障害で失明に至るケースがあります。直ちに硝子体手術を行えば、視力を維持できる可能性が高まります。
 術後、数カ月から数年してまた物が見えにくくなってくることがあります。多くの場合、後発白内障によるものです。眼内レンズの入った、水晶体の袋が濁ってくるのが原因です。再手術の必要はなく、特殊なレーザーを使って簡単に取り除くことができます。外来でできる治療で、視力も翌日には回復します。

2017年11月1日水曜日

パニック障害


医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 丸尾 聖爾 医師

パニック障害はどのような病気ですか。
 パニック障害では、思い当たる原因がないのに突然、たとえようのない不安に襲われ、動悸(どうき)や呼吸困難、吐き気、めまい、手の震えなどの症状が現れます。本人は「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖感を感じることもあります。こうした発作(パニック発作)は繰り返し起こりますが、なぜ発作が起きたのか本人にもわからないため、「また激しい発作に襲われるのではないか」という「予期不安」に絶えず悩まされます。そうなると、電車、飛行機など逃げ場のない場所、デパートなどの人混み、病院や理髪店などのじっとしていなければならない場所を避けるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。
 原因はまだ十分に解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れて起こると考えられています。疫学調査では100人に1~2人が発症するといわれており、めずらしい病気ではありません。

診断や治療について教えてください。
 現在、広く用いられている診断基準(DSM-5/アメリカ精神医学会)に基づいて、発作の起きる状況や具体的な症状などを問診で確認して診断を行います。症状が似ている甲状腺の病気(甲状腺機能亢進症)や呼吸器疾患(ぜんそくなど)、心疾患(不整脈)などの内科の病気を除外する必要があります。
 治療法には薬物療法と認知行動療法があります。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と抗不安薬(ベンゾジアゼピン)という2種類の薬が有効で、併用して治療を行います。認知行動療法では、パニック発作について正しく理解して、発作が起こった際の対処法を学んでいただき、曝露療法によって不安場面に少しずつ慣らしていくなどの治療を行います。
 パニック障害は、決して本人の性格や気の持ちようなどで起きるのではなく、脳内の神経系の機能異常によって起きる病気です。そして、適切な治療を行えば良くなる病気です。パニック発作のような症状に悩まされている方は、出来るだけ早期に専門医を受診していただくことをお勧めします。

2017年10月25日水曜日

認知症の早期診断・治療の重要性


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院  丹羽 潤 先生

ほかの病気と同じように、認知症も早期診断・治療は重要ですか。
 認知症についても早期受診、早期診断、早期治療は非常に重要です。
 認知症と分類される病気は70以上あるといわれ、代表的なものはアルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症の4つです。頻度は少ないですが、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下など、適切な治療をすれば「治る認知症」もあります。ただし、治すためには早期発見が大原則となります。
 認知症で最も多いアルツハイマー病は少しずつ進行していきますが、早い時期に薬を使い始めれば、良い状態を長く維持することができます。本人が病気を理解できる時点で受診することで、将来自分はこうしたいという意思を示すことができるのも、早期診断の意義です。 
 病院では、問診、神経心理検査、MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影)、脳血流を調べるSPECTなどの画像検査を行い、認知症か正常の生理的な老化か、治る認知症か否か、原因の病気は何かなどを調べます。アルツハイマー病は、アミロイドβやタウたんぱくという物質が脳に蓄積していき、脳を萎縮させることで起こります。最近は、アミロイドβやタウたんぱくを検出できるPET検査も登場しています。これらの検査法が確立されれば、今よりもっと早期の診断が可能になります。

認知症予備軍の増加も問題になっていますね。
 専門用語では軽度認知障害(MCI)といいます。MCIは1年間に十数%の割合で認知症に移行し、6年で約80%が認知症に至ると報告されています。つまりMCIにはアルツハイマー病へ移行するタイプと移行しないタイプが存在するのです。
 現時点で両者を明確に鑑別する簡便な基準はありませんが、神経心理検査(コグニスタット認知機能検査)と脳血流SPECT検査により移行の予測因子を探る臨床研究を進めている病院もあります。今後は、アルツハイマー病へ移行するMCIか否かを早期に診断し、移行が推測される場合には早期から治療を開始するといった対策も必要でしょう。
 診断が早期であればあるほど治療は有効です。物事への興味や意欲の低下、手の込んだ料理を作れないなど、今までとは違う「変化」があったり、「もしかして…」と思ったら、躊躇(ちゅうちょ)せず身近な医療機関(脳外科、神経内科、精神科など)に相談することが大切です。

2017年10月18日水曜日

歯科矯正治療の基本のきほん


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

歯科矯正治療のことをいろいろ教えてください。
 反対咬合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(歯がかみ合わない)、叢生(乱ぐい歯・凸凹)などの歯のふぞろいや、上下の顎の歯並びがかみ合わない状態を専門的には「不正咬合」といいます。
 不正咬合により、食べ物がよくかめない、虫歯や歯周病になりやすい、顎関節に負担がかかる、発音が不明瞭になる、肩こりや頭痛、腰痛といった体の症状を引き起こすなどの問題が生じてきます。また、こうした健康面での影響のほかに、歯並びが悪いことを気にして、心理的なコンプレックスを持つ場合もあります。
 矯正歯科は歯並びをきれいに治すところというイメージがあるかもしれませんが、矯正治療の本来の目的は、このような不正咬合を正しいかみ合わせに治して、健康な心身を取り戻すことにあります。歯並びの美しさはかむ機能を追求した結果、得られるものだということを、皆さんにはまず知ってもらいたいです。
 矯正治療の開始年齢は、お子さんの場合は顎の骨の成長を利用した治療ができるので、年齢の低い方が有利な場合が多いです。開始年齢が早いと治療法の選択肢も広がります。早く治療をした方がいいケースと最適な時期を待っていても大丈夫なケースがあるので、やみくもに早く始める必要はありません。ただ、矯正歯科に相談する時期は「永久歯が生えてから」と思っている親御さんがいらっしゃるかもしれませんが、それではタイミングを逃してしまう場合があるので、お子さんの就学時にまず一度は受診してみることをお勧めします。
 すでに成長が止まった成人でも矯正治療は十分に可能です。子どもの矯正と比べ、治療の選択肢は狭まりますが、どんな方でも何歳になってもできます(若くても虫歯や歯周病など歯の状態が悪ければできないこともあります)。遅すぎるということはありません。歯並びやかみ合わせがよくなって人生観が変わり、元気になっていく方を私は何人も見ています。大人の矯正は「治したい」と思った時がチャンスだと考えてもらいたいです。
 矯正治療を専門とする開業医らでつくる日本臨床矯正歯科医会の調査で、転院や再治療で来院する小児患者の約56%が、前医院で納得のいく治療を受けられなかったという報告がありました。矯正治療は、期間が長くかかることもあり、患者さんの中には、複数の歯科医院で相談された上で治療先を決められる方も珍しくありません。大きなところでの違いはありませんが、まずは矯正相談に行かれて、その医院の治療方針や治療方法について納得のいく医院で治療されることが良いと思います。

2017年10月11日水曜日

最新の糖尿病治療


ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖値へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖値を下げると同時に体重も減らします。最近の研究データによる結果では、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖値が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧計を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。糖尿病に重症の虚血性心疾患を合併している場合には、LDL-コレステロールは70mg/dl以下と治療の基準値が厳しくなりました。
 以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2017年10月4日水曜日

可逆性認知症


ゲスト/特定医療法人北仁会  いしばし病院 内田 啓仁 医師

可逆性認知症について教えてください。
 認知症の原因にはさまざまなものがあり、アルツハイマー型認知症や血管性認知症といった認知機能の低下が回復しない(不可逆性)のものとは異なり、適切な治療を施すことで治る(可逆性)ものもあります。認知症の治療において最初に行われるのが、可逆性認知症と不可逆性認知症の鑑別診断です。
 可逆性認知症の一つに「薬剤性認知症」といって、薬の種類や量が増えると、副作用で認知機能の低下を誘発するなどの症状が出るものがあります。
 抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗がん剤、降圧薬・鎮痛剤・胃薬の一部などで認知障害を来たすことがあります。多剤・多量服用を始めてから、物忘れが多くなったなど異常を感じることがあれば、かかりつけの医師に相談してください。薬剤を適切な量、処方に調整することで症状は治まります。
 初期の認知症を疑われた人の中には、うつ病が原因で集中力や判断力の低下、物忘れといった認知症のような症状が起こっている「仮性認知症」である場合もあります。これはうつ病の症状の一つなので、うつ病の治療をしてうつ病が治れば、認知機能も改善します。高齢者のうつ病と認知症の見極めは医師でも難しいケースが多く、本人や家族が見分けることは困難です。おかしいと思う症状が見られたらすぐに専門医を受診することをおすすめします。

ほかにはどのような可逆性認知症がありますか。
 「突発性正常圧水頭症」です。これは脳の中でつくられる脳脊髄液という液体が頭にたまり、脳が圧迫を受けることで生じます。症状は物忘れ、歩行障害、尿失禁などです。症状だけをみればアルツハイマー型認知症と似ていますが、外科手術で脳にたまった脳脊髄液を取り除けば治癒は可能です。
 「慢性硬膜下血腫」も治る認知症です。脳を包む硬膜の下にできる血腫で、頭部打撲から数週間で発生します。頭痛や吐き気、ふらつきのほか、日時が分からない、お金の計算ができない、手足に力が入らないなどの症状が出ることがあります。この場合も、たまった血腫を取り除く外科手術などで治癒が望めます。
 突発性正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫ともに診断は、CTまたはMRIで行います。可逆性といえども診断が遅すぎると治療は難しくなります。手遅れにならないよう、早めに診てもらうことが大切です。

2017年9月27日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 動悸、汗かき、食べるのにやせる…。或いは無気力、むくみ、冷え症…。これらは「体質だから」とすませがちな症状ですが、もしかしたら甲状腺が原因かもしれません。
 甲状腺は、喉仏の下にあり、すぐ後ろの器官を取り囲んでいるような形の小さな臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンを作ることです。甲状腺ホルモンは、人間の基礎代謝の維持に必要であり、さらに体の発育や成長にも関与しています。
 甲状腺の病気は女性に多いことが特徴ですが、大きく三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られた「バセドー病」が主なものです。二つ目はこれとは逆に甲状腺ホルモンが低下する病気であり、代表的なものが「橋本病」です。そして三つ目は甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。

バセドー病と橋本病について教えてください。
 バセドー病は眼球が飛び出る病気だと思っている方も多いようですが、眼の症状が現れる人は3割ほどで、むしろ甲状腺の腫れや多汗、動悸、手のふるえ、やせの大食いなどの症状をきっかけに受診される方がほとんどです。バセドー病の治療の主流は、内服薬によって過剰な甲状腺のホルモンの量を正常にコントロールするもので、症状がなくなり、健康な方と変わらない日常生活を送ることができます。ただし甲状腺機能亢進症の中には急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎などバセドー病と区別しなければならない疾患があり、治療法が異なり注意が必要です。
 橋本病では、甲状腺ホルモンの低下のため無気力、むくみ、皮膚乾燥などの症状が現れ甲状腺の腫大が認められます。橋本病であっても甲状腺ホルモンが正常なケースもあり、特に治療はせず経過観察となります。甲状腺の機能が低下しているケースでは、甲状腺ホルモンを補うための薬物治療が行われます。橋本病と診断されても、適切な治療をすれば日常生活に支障はありません。
 ひと言でバセドー病、橋本病といっても病態や症状は非常に多様です。原因不明の長引く不調や、治療を受けても症状がよくならない場合などは、甲状腺の病気を疑ってみる必要があります。

2017年9月20日水曜日

子どものおしりの病気


ゲスト/札幌いしやま病院 河野 由紀子 医師

肛門科を受診する子どもの比較的よくみられる病気について教えてください。
 新生児から乳児期によくみられるのが、おしり(肛門)の周囲の皮膚炎です。オムツの部位に一致して赤みや湿疹、ただれが生じます(オムツかぶれ)。尿や便に含まれるアンモニアや酵素などが原因となって起こる炎症です。対策としては、オムツを長時間つけたままにせず、頻繁(ひんぱん)に交換して清潔を保つことが基本です。炎症部位はこすったりしないよう、ぬるま湯に浸したコットンなどで汚れを取り除きます。それでも症状が治らない時は専門医に診てもらうのがいいでしょう。
 痔(じ)は大人の病気と思われがちですが、実は子どもの痔も珍しくありません。0歳から幼稚園・小学校低学年の時期までによく見られるのが裂肛(切れ痔)で、特に女児に多い傾向があります。排便習慣が確立していない子どもの場合、入園や入学で環境が変化すると自宅以外でトイレを我慢してしまい、便秘がちとなって硬い便がおしりを傷つけます。また、この年代は食事の好き嫌いが顕著になるので、食物繊維の摂取不足からも便秘になりやすいです。裂肛になり排便時に痛むと、さらに排便を我慢するようになり、便が硬くなって、よりおしりを傷つけやすくなる悪循環に陥ってしまいます。
 裂肛の治療は、座薬や軟こうで痛みを和らげながら、根本の原因である便秘の解消を図るのがポイントになります。野菜や海藻、寒天など繊維質の多い食材を取ること、朝起きて、朝食を取り、トイレに行くという生活のリズムを作ることなど、生活習慣の見直しをアドバイスしていきます。便秘の改善のために下剤を処方する場合もありますが、おなか(腸)に刺激を与えずに便性を整える薬から用います。
 生後1カ月から1歳までの乳児、特に男児に多いのが乳児痔瘻(じろう)です。肛門の内側から入った細菌が感染を起こし、肛門周囲の皮膚の下にうみがたまります。症状は肛門周辺の左右どちらかの側方が、赤く腫れて痛むなどです。大人の痔瘻は手術が必要ですが、乳児は成長とともに自然に治るケースが多く、うみを抜く処置をすれば痛みはなくなります。
 肛門科と聞くと、手術されるのか不安で、子どもを受診させるのをためらう人もいますが、子どもの痔の検査・治療は「手術をしない」「痛くない」ものがほとんどです(成人の検査・治療もほぼ同様です)。子どものおしりのことで悩んだら、気軽に相談してください。

2017年9月13日水曜日

COPD(慢性閉塞性肺疾患)


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

COPDの世界的な治療ガイドライン(GOLD)が改定されたと聞きましたが。
 COPDは、タバコや有毒なガスの吸入によって引き起こされる気管支・肺の病気で、せき、たん、息切れなどの症状を呈します。2010年において、世界に3億8千4百万人の患者がいるとされ、年間約300万人がこの病気で亡くなっています。今後、さらに増え続けると予測されます。
 症状は、感冒の後もせきやたんがなかなか治らない、かぜの症状が長引いている、階段を上る時や冬季の除雪作業の際に息切れするなどから始まります。進行すると、常にせきやたんが出て、息切れが続くようになります。高齢者の場合、これらの症状のために外出を控えがちなり、それにより全身の筋力が衰え、さらに動きたくなくなり、寝たきりにつながる可能性のある病気です。
 かぜなどの感染症をきっかけに症状が重症化(急性増悪)することもあり注意が必要です。急激に肺機能が低下し、呼吸困難まで引き起こすケースもあります。

COPDの診断と治療について教えてください。
 COPDによって壊れた肺の組織は元に戻りませんが、進行を食い止めることはできます。年を取っても元気な生活を送れるよう、早期に発見し、すぐに治療に入ることが重要です。まずはたばこをやめることです。
 COPDの診断の基準として、肺機能検査の測定結果が用いられます。大きく息を吸って,一気に吐き出した時の最初の1秒間の息の量(1秒量と言います)が、努力して最後まで吐いた時の「肺活量」の70%以下だとCOPDと診断されます。
 主な治療法は、狭くなった気管支を広げ、呼吸を楽にする気管支拡張薬を使うことです。霧状または粉末状の薬を息と一緒に吸い込み、肺や気管支に直接、薬を届けられる吸入薬が主流です。気管支拡張薬には、長時間作用性抗コリン剤(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)などいくつかの種類があります。近年は、強力に気管支を広げる新薬が増え、選択肢が広がっています。また、効果の異なるLAMAとLABAを一つにまとめた合剤も登場し、その有効性が確認されています。
 今年改定された治療ガイドラインでは症状が強い場合、合剤を積極的に使うことも提案されています。薬物療法を積極的に行い、急性増悪を防ぐこと。そして、適度に体を動かすなど、引きこもりがちにならないよう、活動の範囲を広げ、寝たきりを予防することが推奨されています。

2017年9月6日水曜日

高齢者のうつ病


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

高齢者のうつ病について教えてください。
 うつ病は、環境の大きな変化が発病の引き金になるケースが多く、初老期以降は定年退職や配偶者の死亡といったさまざまな喪失体験、一人暮らしの寂しさ、体力の衰えや健康への不安などうつ病にかかりやすい条件が重なります。高齢者人口の増加に伴い、患者数は増加傾向にあります。
 高齢者のうつ病には特徴的な症状があります。まず、気分の落ち込みなど心の不調よりも、頭痛や腹痛、めまい、排尿困難など身体症状を多く訴えます。内科などで検査を受けても原因が見当たらず、精神科や心療内科を受診してみたらうつ病と診断されたというケースもあります。
 また、皮膚を針やナイフで刺されるといった、身体にあるはずのない異常を感じる「体感幻覚」や、現実ではないことを現実だと思ってしまう「妄想」も、この年齢層に多い精神病性うつ病の特徴の一つです。妄想には、自分は不治の病にかかってしまったと思い込む「心気妄想」、周りに迷惑をかけていると強く思う「罪業妄想」、お金がなくて生きていけないと思い込む「貧困妄想」などがあります。

診断と治療について教えてください。
 うつ病は、心疾患や脳血管疾患、甲状腺機能低下症のような身体的な病気が原因で現れることもあります。アルコールやステロイドなど、薬物の副作用によるうつ状態も考えられます。一見、認知症かと思われる言動がうつ病の症状であったり(仮性認知症)、うつ状態が認知症の前駆症状であることもあります。このように、うつ状態は、うつ病以外にも多くの病気で現れるので、問診で症状を詳しく聞き、場合によっては別の病気が隠れていないか調べる検査(MRIやCTなどの画像検査、認知症検査など)を行います。
 治療の柱になるのは薬物療法です。高齢者の治療では副作用の観点から、薬は少量から始め、必要に応じて増やしていきます。これに併せて、休養が必要な方では、ゆっくり休めるような環境をつくること、居場所や相談相手をつくることなど環境調整や、認知行動療法などの心理療法、運動を行います。精神病性うつ病など薬物療法の効果が少ないケースでは、修正型電気けいれん療法が有効な場合も多いです。
 高齢者のうつ病は、本人も周囲の人も年齢のせいだろうと見過ごしてしまい、受診が遅れがちです。異変に気付いたら、すぐに専門的な診察を受けることが大切です。

2017年8月30日水曜日

手足のしびれ


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

手足のしびれについて教えてください。 
 手足のしびれが気になり、脳神経外科を受診する患者さんが増えています。「脳梗塞などの脳血管疾患の症状ではないか?」「どこかの血流が悪くなっているのではないか?」と心配される方が多いようです。
 しびれが長く続く場合や、症状がだんだん悪くなるようであれば、すぐに専門医を受診した方がいいでしょう。また、急にしびれが起こって持続する場合も、脳や脊髄の病気が考えられるので、早めに受診してください。
 脳の病気によるしびれには、脳梗塞などの脳血管疾患があります。急にしびれが起こって、その後しびれが持続するのが特徴です。片側の手と口周囲のしびれが同時に起こる場合もあります。これは手口感覚症候群といい、脳の中の視床という部位の病気で起こります。脳梗塞の好発部位でもあるので、手口感覚症候群がみられたら、手足のまひやろれつが回らないなどの症状がなくても、すぐに専門医を受診しましょう。

手足のしびれは、ほかにどんな原因が考えられますか。
 頸椎症や椎間板ヘルニアなどによる頸髄性のしびれが考えられます。この場合には、しびれの部位が脊髄神経の分布に重なることが多いため、診察により障害部位を推定することができます。しびれだけにとどまらず、筋力の低下などがみられるようになると、手術による治療が必要なケースもあります。頸椎病変に対しては、従来のレントゲン撮影に加えてコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などによる画像検査で、椎間板の変形や神経の圧迫などが、より正確に診断できるようになってきました。
 下肢のしびれには、腰椎疾患や下肢の閉塞性動脈硬化症があります。閉塞性動脈硬化症では、歩行時にしびれや痛みが起こり、しばらく休むと軽快します。これを間欠性跛行(はこう)といいます。血管の動脈硬化による病気なので、症状が悪化すると血管外科での治療が必要になります。腰部脊柱管狭窄症も間欠性跛行を症状とする病気ですが、立っている姿勢が辛く、前かがみになったりしゃがんだりすると症状が楽になるという特徴があります。
 頸椎や腰椎などが原因で起こる慢性的なしびれや疼痛に対しては、安静、薬物療法、マッサージなどの保存的治療を行うのが一般的ですが、手術が必要なケースもあります。治療に関しては、かかりつけの先生と相談されることをお勧めします。

2017年8月23日水曜日

夏バテ


ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

夏バテについて教えてください
 記録破りの暑さが続く今年の夏。こうなると深刻なのが夏バテです。仕事や家事が辛くなり、体がだるく、頭はボーッ。疲れも取れず、無気力になったり、逆にイライラしたり。めまいや立ちくらみを伴うこともあります。また、夏バテで食欲不振や脱水症状が続くと、下痢やむくみ、微熱、吐き気などの体調不良を引き起こします。さらに体力、免疫力が落ちることでカゼをひきやすくなったり、脱水による熱中症につながったりする危険もあります。
 最近はエアコンが整備され、外気と室内との温度差が激しいことも熱中症の一因となっています。気温差に体がついていけず、自律神経のバランスが崩れ、体の不調が出てくるのです。
 暑さがピークを迎える時期に夏バテしなかった人も油断はできません。夏休みで親戚が遊びにきたり、孫の世話をしたり、お墓参りなどで外出が多くなったり、夏の疲れがどっと噴き出すのは、お盆過ぎというケースも多いです。

夏バテを防ぐためのポイントを教えてください。
 夏バテを予防・改善するポイントは、栄養バランスの良い食事をとること、不足しがちな水分をしっかり補給すること、適度な運動で発汗能力を上げること、ぐっすり眠って体を休めること、外気温との差が大きくならないように室内温度を調整することです。
 水を早めに、こまめに飲むことが第一です。喉が渇いたと思った時にはすでに脱水が始まっているので、少ない量でもこまめに水分をとるようにしてください。喉の渇きを感じるまでに時間がかかる高齢者や、体温の調整機能が未熟な子どもは特に注意が必要です。大量の汗をかいて塩分も多く失う時は、真水ではなく、ひとつまみの塩を入れた食塩水やレモンの絞り汁で味付けした水、アイスキューブを入れた氷水の方が水分補給に適しています。スポーツドリンクを活用するのもいいでしょう。
 ただ、夏バテと思っていたら別の病気ということもあります。例えば、全身の倦怠感を症状とする病気には、甲状腺疾患、肝臓疾患、低タンパク血症、がんなどが挙げられます。夏バテと思って見過ごさないよう注意が必要です。夏バテと思っていたものが改善しない場合には、これらを疑ってみます。

2017年8月9日水曜日

関節鏡下の膝の靭帯再建術と半月板手術


ゲスト/医療法人知仁会 八木整形外科病院 安田 和則 名誉院長

日常特によくみられるスポーツ外傷について教えてください。
 さまざまなスポーツ外傷がありますが、その中でも最も頻度が高く、競技者にとって重大な外傷は、前十字靭帯をはじめとする膝関節の靭帯損傷と半月板損傷です。
 膝の中央にある前十字靭帯は、ジャンプをして着地する際などに痛めやすく、バレーやバスケット、スキーなど膝に負担の大きいスポーツ競技者に多いケガです。症状は膝がガクッとなったり、外れた感じがします。これらは一般的に「膝崩れ現象」と呼ばれます。靭帯は一度伸びると元には戻らないので、競技を続けると膝崩れ現象が頻繁に起き、今度は関節のクッション役を担う半月板にダメージを与えます。これが重なり半月板損傷に発展すると、膝をひねると痛い、引っかかる、まっすぐ伸びないなどの症状が生じます。前十字靭帯損傷と半月板損傷を併発しているケースも多く、放置すると関節軟骨の破壊や変形性関節症を引き起こす原因となります。

前十字靭帯損傷、半月板損傷の治療について教えてください。
 前十字靭帯損傷は、ギプス固定や手術的な縫合では治癒しないので、競技者として復帰を望む場合は靭帯再建術が必要です。当院では、「解剖学的二束前十字靭帯再建術」という関節鏡手術を行います。前十字靭帯は2つの繊維束から構成されています。この手術は、2本の移植腱(けん)を用いて前十字靭帯を本来の形状通りに再建する方法です。1本の移植腱を使う従来の術式に比べ、身体への負担が少なく、膝の安定性を高められることが科学的な研究により証明されており、ほとんどのケースで靭帯機能が正常に再建できます。
 半月板は損傷した部位が血行の良い場所にある場合は、関節鏡手術で縫合して治すことができます。また、縫合では治癒が見込めない部位の損傷でも、傷ついた箇所のみを切除し、健常な部分は温存する低侵襲な関節鏡手術を行っています。
 靭帯再建術の術後は、関節の負担を軽減するために用いる器具(ブレース)を装着し、すぐに段階的な歩行訓練(部分荷重歩行)が可能です。1週間後から膝可動域の訓練を行い、2〜4週間で退院できるのが一般的です。また、半月板縫合術の術後はブレースを装着し、1週間後から部分荷重歩行を、2週間後から膝可動域の訓練を始めます。半月板切除術は、術後すぐに部分荷重歩行が可能で、入院期間は約1週間です。

2017年8月2日水曜日

ADHD(注意欠如・多動症)


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 鈴木 悠史 医師

ADHDとはどのような病気ですか。
 ADHDは、日本語で「注意欠如・多動症」と呼ばれる発達障害の一つです。自分をコントロールする力が弱く、それが行動面の問題となって現れてきます。ADHDでは「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの症状が特徴的です。
 集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽい、時間管理が苦手、片付けが苦手などの「不注意」。じっとしていることが苦手、落ち着きがない、貧乏ゆすりなど目的のない動きがみられる「多動性」。衝動買いなど、思いついたことを即座に行動に移してしまう「衝動性」が主な症状です。
 現在、広く用いられている診断基準(DSM-5/アメリカ精神医学会)では、12歳になる前から上記のような症状がみられるものとされています。有病率は、子どものADHDは、中学生以下の子どもの人口の約5%(DSM-5報告)とされ、わが国の文科省の調査では3.1%と報告されています。また、大人のADHDは、成人の人口の約2.5%(DSM-5報告)とされ、世界保健機関(WHO)が行った多国間共同調査では国によってばらつきはみられますが、全体では3.4%と報告されています。

ADHDの治療について教えてくだい。
 治療は、対人関係能力や社会性を身につける心理社会的治療(環境調整、ペアレントトレーニング、ソーシャル・スキル・トレーニング)と薬物療法を組み合わせて行います。
 薬物療法では、現在それぞれ特徴が異なる3つの薬があり、患者さんによって選択できます。薬物療法により症状の改善が期待できる場合もありますが、治療の目標は、本人が自分の行動特性を理解し、受け入れ、その行動特性を是正するために立ち向かう勇気を持たせることにあります。
 ADHDはしつけや道徳心の問題だと誤解され、他の発達障害と比べて周囲からなかなか理解されにくい傾向があります。そのため、しかられたり批判され続けることで自尊心が傷つき、いじけたり投げやりになる悪循環に陥りやすいです。心理社会的治療などでうまく生活する知恵やコツを身につけ、自信を持って自分の特性と折り合うこと、それによって家庭や学校、職場での悪循環を断ち切り、充実した社会生活を送れるようになることが最大の目標となります。

2017年7月26日水曜日

抗リウマチ薬『メトトレキサート』と残薬の問題について


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

メトトレキサートとはどのような薬なのでしょうか。
 リウマチと診断されたら、なるべく早期に「抗リウマチ薬」で治療をはじめます。抗リウマチ薬には、大きく分けて経口剤のメトトレキサートをはじめとする「従来型合成抗リウマチ薬」と注射製剤の「生物学的製剤」があり、これらを組み合わせて治療します。
 メトトレキサートは、世界的に最もよく使用されている抗リウマチ薬で、多くの患者さんではじめに使われる薬剤(第1選択薬)です。ほかの抗リウマチ薬と組み合わせて使うときの基本薬でもあり、リウマチ治療の中心となる重要な薬です。約7割の患者さんに、関節の痛みや腫れが軽くなる効果がみられ、最終的には3〜4割くらいの患者さんは、ほぼ完全に痛みや腫れがなくなる「寛解」という状態になります。有効率や長く継続できる患者さんの割合は、抗リウマチ薬の中では最も高い薬剤です。また、症状が良くなるのに加えて、関節の軟骨や骨の破壊を抑えることも分かっています。
 間質性肺炎、血球減少症、肝機能障害、感染症などの副作用がありますが、定期的な検査と自覚症状から、リウマチ専門医であれば診断は可能です。また、軽度な副作用の大部分は、葉酸製剤の服用で抑えることができます。

リウマチ治療薬の「飲み残し」「使い残し」が問題になっていると聞きました。
 リウマチ治療薬に限らず、薬の飲み残しは「残薬」といわれ、治療が狙い通りに進まないリスクをはらむだけでなく、医療費の圧迫要因にもなっています。薬を飲み残してしまう理由や状況はさまざまですが、リウマチ治療薬については、メトトレキサートやステロイド薬、骨粗しょう症薬、葉酸製剤などは毎日服用するタイプの薬ではなく、1週間のうち数日だけ服用するなどの「飲み方が複雑」なタイプの薬が多いことが原因と考えられます。
 残薬を少なくするための工夫としては、「薬の一包化(一度に飲む複数の薬を一つの袋や包みに入れること)」や、日付ごとに薬を入れられるポケットが付いた「お薬カレンダー」を用いることなどが挙げられます。また、「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」を上手に利用することも大切です。別の薬局で同じ薬をもらったことに気づかず、飲み切れずに余らせたり、薬同士の飲み合わせが悪くて体に有害な副作用が起きたりといった問題を防ぐことができます。

2017年7月12日水曜日

ストレスって何だろう?


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

ストレスという言葉を毎日のように新聞やテレビで目や耳にしますが、ストレスとはどのようなものなのですか。
 私たちの周りにはいろいろなストレスがあります。仕事のストレス、家事や育児のストレス、上司や同僚、友人、家族との人間関係で感じるストレスもあるでしょう。お金がなかったり、体の調子が悪かったりしてもストレスになりますし、まぶしかったり、うるさかったり、暑かったり、寒かったりするのもストレスです。
 ストレスを感じると、私たちの体は胸がドキドキしたり、血圧が上がったり、変化が起こります。また、イライラした気分になったり、不安になったりもします。こうした変化は確かに不快なものですが、見方を変えれば、例えば胸がドキドキするのは、心臓が筋肉にたくさんの血を送って体を動かしやすくし、「不快さを解消するための行動」を起こしやすくしているとも考えられます。
 このように、私たちはストレスを感じることで自分の持っている力を発揮し、ストレスになっている出来事や問題に対応していきます。そして、それらを解決することで達成感や満足感を感じ、自分自身が進歩・成長する機会にもなっているのです。
 社会生活の中でストレスは避けられないものです。ストレスを感じるということは、社会の中で生活をしている証拠でもあると思います。ストレスを進歩・成長のチャンスと考え、ストレスと上手に付き合っていくことが大切です。

ストレスと上手に付き合うコツを教えてください。
 自分では解決が難しいストレスや強いストレスが長く続くと、心身の調子が悪くなり、自分の力を十分に発揮できなくなってしまう場合もあります。そうなると、ストレスに上手に対応することもできなくなります。
 ストレスと上手に付き合うには、自分の周りにあるストレスがどのようなものか整理したり、ストレスの影響がどの程度出ているかをチェックしたりするのが役に立つと思います。現在、企業で行われているストレスチェック制度もそのための仕組みです。
 自分一人では解決が難しいストレスがある場合は、周りの人の力を借りたり、専門家に相談したりするのも積極的な問題解決の方法です。心身に激しいストレスがかかっていると感じる時は、まず心身の調子を整え、本来の力を回復させることが問題解決の近道になることもあります。医療機関も上手に利用するといいでしょう。

2017年7月5日水曜日

オーラル・フレイル


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

最近「オーラル・フレイル」という言葉を耳にしますが、どういう意味なのでしょうか。
 「人は足から老いる」とよくいわれますが、最近では「人は口から老いる」ともいわれるようになってきました。「フレイル」とは「虚弱」を意味します。滑舌の悪さや食べこぼし、飲み物にむせるといった口周りのトラブルが、実は高齢者の体が弱っていく最も早いサインであり、そうした不調をまとめて「オーラル・フレイル=口腔機能の虚弱・低下」と呼んでいます。日本歯科医師会では、全身の虚弱を予防するために、できるだけ早い段階でオーラル・フレイルに対処することを国民運動にしようと提唱しています。
 歯・口の健康状態が悪いと、かむ力や舌の動きも悪くなり、食べ物をおいしく味わえなくなります。また、滑舌が悪くなったり、口もとの「見た目」に自信が持てなくなったりすると、家に閉じこもりがちになり、さらなる老化につながるケースもあります。
 最近の研究では、「残っている歯の本数が多いこと」や「歯がなくなったら、入れ歯やブリッジなどの義歯治療を行うこと」が、認知症発症リスクや転倒リスクを減らすのに関連することが明らかになっています。また、日本人の死亡原因では肺炎が増え、第3位となっていますが、食べ物やだ液が誤って気管から入って起きる「誤嚥性肺炎」にもオーラル・フレイルが関与しているといわれています。口腔の健康が、全身の健康と寿命に大きく影響していることが分かっているのです。

オーラル・フレイルを予防するにはどうしたらいいですか。
 オーラル・フレイルのはじまりは、硬いものが食べにくい、液体でむせる、口が乾くなど、ほんのささいな症状です。自分がしっかり食べ物をかめているか、また、食卓を囲む時、家族にオーラル・フレイルの兆候がみられていないか、注意してみることです。
 歯や歯茎に異常がなくても、半年〜1年に一度は歯科医院で定期検診を受けることも重要です。かかりつけの歯科医であれば、患者さんの歯や歯茎だけでなく、口腔機能の変化にもすぐに気付くはずです。軽微な症状のうちに対処すれば、元に戻したり、機能を維持したりできる可能性は高いです。
 オーラル・フレイルの研究は現在も進んでいますので、今後も注目してみてください。しっかりかみ、しっかり食べ、しっかり動き、しっかり社会参加して、いつまでも健康に長生きしましょう。

2017年6月28日水曜日

過敏性腸症候群と腸内細菌のかかわり


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

過敏性腸症候群とはどのような病気ですか。
 過敏性腸症候群は、腸に原因となる異常が見当たらないのに腹痛や腹部の不快感、下痢、便秘といった便通異常が起こるのが特徴です。命にかかわる病気ではありませんが、日常生活の質を著しく低下させます。消化器科を受診する人の3割がこの病気という報告もあり、消化器の分野では「21世紀に遺された病気」として病態の解明と治療法の確立が課題とされています。
 最近の研究から、腸内細菌のバランスの乱れが原因の一つではないかと考えられるようになってきました。腸内に悪玉菌が増えると腹痛や腹部の不快感といった知覚過敏が起きやすくなること、また、抗生物質が治療に有効であることなどが報告されています。
 腸と脳とは密接な関連があります。脳の中枢神経は、腸の運動や分泌、免疫機能、血液の流れなどを調節し、腸からも脳にさまざまな情報が伝達されています。私たちがストレスを感じると、脳から腸にその情報が伝えられ、腸の運動を亢進させるだけでなく、腸内細菌のバランスにも影響を及ぼすのです。

過敏性腸症候群の治療について教えてください。
 過敏性腸症候群は、下痢症状が多いタイプ、便秘症状が多いタイプ、下痢と便秘の症状を繰り返すタイプなどに分けられます。治療の第1ステップは、食事の指導と生活習慣の改善です。昼夜逆転や夜型の生活スタイル、不規則な食生活、睡眠不足は腸に悪影響を与え症状を増悪させるからです。症状によっては、便を適度な硬さに調整したり、腸のぜん動運動を起こしやすくしたりする薬剤を用いることもあります。
 腸の健康を保つには、善玉菌が増える環境を整えてあげることが重要なポイントです。ヨーグルトや乳酸菌飲料を摂取すれば大丈夫と思いがちですが、口から摂取して腸にたどり着ける乳酸菌の数は限られますので、野菜や芋、豆、海藻類、果物など食物繊維を多く含んだ食品をとることも心掛けるなど、乳酸菌など善玉菌の働きを促進させるような環境をつくってあげることも必要です。
 過敏性腸症候群は、ストレスや生活のリズム・腸内細菌の乱れなどが微妙に関わり合いながら発症します。おなかの不調を感じたら、ストレスと上手に向き合いながら、まず普段の食事内容やバランス、食事時間などを見直してみましょう。

2017年6月21日水曜日

帯状疱疹


ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 院長

帯状疱疹とはどのような病気ですか。
 現在では定期予防接種の一つとなっていますが、水ぼうそうに子供の頃かかったことがある人は多いと思います。水ぼうそうが治っても、その原因ウイルスは体内から消えることはなく体の神経節に残って潜伏しています。疲れやストレスなどで免疫力が低下すると、その潜伏していたウイルスが再び活動を開始し、痛みや発赤、水ぶくれを伴った皮疹が出現します。これが「帯状疱疹」です。主に帯状に皮疹が出ることが多いので「帯状疱疹」と言われていますが、顔や頭に出現した場合など、一概に帯状とは言えないことも多く判断が難しく注意が必要です。日常よく見られる皮膚疾患の一つですが、老若男女だれでもかかる可能性があります。また加齢により免疫力が低下するため、高齢化社会の進行に伴い患者数は増加傾向にあります。
 通常は前駆症状として、体の左右どちらか一方に局所的にチクチク、ピリピリとした痛みや違和感が出現し、その後しばらくしてその部位に、赤くむくんだ水ぶくれを伴う皮疹が現れてきます。このような皮疹は体の神経の走行に沿って現れます。顔や頭に出現すると、眼球の角膜炎やめまい、顔面神経の麻痺を起こすこともあり注意が必要です。
 皮疹や痛みなどの症状の程度が強く、神経への障害が大きかった場合、皮膚症状が治まった後も後遺症として痛みが残ってしまうことがあります。これを「帯状疱疹後神経痛」といいます。60歳以上の高齢者に起こりやすい傾向があります。また帯状疱疹の治療が速やかに行われなかった場合に生じやすいとされています。

治療について教えてください。
 治療は、帯状疱疹の原因であるヘルペスウイルスの増殖を抑える薬(抗ウイルス薬)を使用します。内服薬の使用が一般的です。通常1週間内服します。飲み始めて2~3日で効果が現れてきます。痛みや皮疹などの皮膚症状は、治療開始後1~2週間をピークに徐々に快方に向かいます。高齢者は治るのに時間がかかる傾向があります。
 皮疹部の保護や細菌などによる二次感染を防ぐために塗り薬を、痛みと炎症を抑えるために消炎鎮痛薬を併用することが多いです。また、痛みが激しいなど症状が重篤の場合、入院治療が必要になることもあります。
 帯状疱疹後神経痛を防ぐためにも、発症後できるだけ早期の治療が望まれます。帯状疱疹を疑ったら早めに医療機関を受診することが大切です。

2017年6月14日水曜日

統合失調症に対する注射剤による治療


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 岡本 呉賦 院長

統合失調症とその治療について教えてください。
 統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続き、幻覚や妄想といった症状を伴う精神疾患です。厚生労働省の推計では、国内の患者数は約71万人。発症頻度は100人に1人弱で、決して特殊な病気ではありません。
 症状を抑える抗精神病薬の服用が治療の重要な柱です。現在の主流は1990年代以降登場した「第2世代(非定型)」と呼ばれる薬です。以前の薬「第1世代(定型)」より手の震え、筋肉の硬直などの副作用が少ないという特徴があります。そのほか、抗不安薬や睡眠薬、抗パーキンソン病薬など別の種類の薬を、症状の調整のために併用するケースもあります。ただ、一般的に統合失調症の治療は、薬を何種類も併用するのではなくなるべく少ない種類・量にとどめることが望ましいとされています。
 抗精神病薬には同じ成分の薬でも異なった剤形があります。従来、飲み薬による投与が一般的でしたが、最近はより一歩進んだ治療として薬の効果が長く続く注射剤が注目されています。

薬の効果が長く続く注射剤とはどのようなものですか。
 持続性注射剤といい、1回の注射で2〜4週間効果が持続します。注射剤と聞くと、飲み薬より古い治療法というイメージを持たれる方もいるかもしれません。確かに、以前は特に症状の激しい急性期など、効果を早く得たいときや内服が難しいときに半ば強制的に注射剤を用いるケースなどもありましたが、持続性注射剤はそういった使い方の注射剤とは異なります。
 持続性注射剤を使うメリットとしては、よく薬を飲み忘れる人や毎日の服薬にわずらわしさを感じている人の助けになります。また、飲み薬の種類を減らせるケースが多く、私が診ている患者さんでは、持続性注射剤1剤だけで体調を保っている方も珍しくありません。結果、副作用が少なくなり精神症状が安定することも多く、患者さんの生活の質を高め、社会復帰を後押しする効果もあるといえます。
 持続性注射剤の適正な使い方が広がり、有効な治療の選択肢となることを期待していますが、必ずしも全員に効くわけではありません。従来のような服薬中心の治療が適した患者さんもいます。医師とコミュニケーションをとりながら、自分に最適な薬物療法を見つけることが何よりも重要です。

2017年6月7日水曜日

子どもの歯科矯正治療


ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 院長

子どもの矯正治療について教えてください。
 お子さんの歯並びに矯正が必要かどうか迷う人も多いのではないでしょうか。歯並びを確かめる方法の一つとして、お子さんの口元を顔の正面から観察してみてください。上下の前歯の真ん中の位置が一致していれば安心ですが、ずれている場合は、矯正の必要があると考えられます。出っ歯や受け口など、上下の顎が前後に大き過ぎたり小さ過ぎたりという骨格的な問題は、一般の方でも気付きやすいですが、左右のずれは発見しにくいものです。
 前後あるいは左右にずれが認められる場合は、顎骨(がっこつ)の成長コントロールが可能な9〜11歳までに矯正治療を行うのが理想的です。就寝時にバイオネーターと呼ばれる機能的顎(がく)矯正装置を装着し、寝ている間にずれた顎の骨を中央に移動させます。子どもの成長の力を利用して、無理なく自然にバランスのよい骨格をつくれます。痛みはほとんどなく、日中は装着の必要がありません。ずれの程度にもよりますが、装着期間は半年〜1年が平均で、経過観察のための通院は、1〜3カ月に一度が目安となります。
 ずれの原因はさまざまですが、歯そのものがずれているケースもあり、永久歯がはえそろってからでも治療は可能です。その場合、抜歯する可能性は高くなりますが、きれいに治療できるケースがほとんどです。矯正治療をいつ始めるべきかという判断は非常に難しいので、一度専門医にご相談ください。

家庭でチェックするための別の方法はありますか。
 頬づえやかみ癖、就寝時の姿勢が左右どちらかに大幅に偏っている場合などは、左右のずれを引き起こす原因になることがあります。上下の前歯の位置を確認したら、次は鼻の先端を基準に、鼻の中央に前歯の中心が沿っているかを見てください。ずれの原因は一見して分かるものではなく、万が一、骨格のずれを歯のずれと勘違いして放っておくと、矯正に最適な成長時期を逃してしまうので注意が必要です。
 子どものうちの悪い歯並びやかみ合わせを放置していると、成長に伴い虫歯や歯周病の原因となったり、顎関節にも悪影響を及ぼす恐れがあります。また、大人になってから心理的なストレスの原因となる場合もあります。少しでもおかしいと感じたら、早めに専門医に相談することをお勧めします。

2017年5月31日水曜日

多焦点眼内レンズによる白内障治療(眼科領域の先進医療)


ゲスト/大橋眼科 大橋 勉 院長

白内障の治療について教えてください。
 白内障は、瞳の後ろにある水晶体が濁るために起きる視力障害です。治療には点眼薬が投与されますが、最終的には手術が必要です。一般的な手術法は、水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波で細くして取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入するものです。安全性の高い手術ですが、それぞれの目によって症状、程度、状況が異なるため、同じ白内障の手術でも難易度に差があります。
 眼内レンズは1つの距離に焦点を合わせた「単焦点眼内レンズ」が使われていますが、近年では、遠距離と近距離の2点に焦点が合うように設計された「多焦点眼内レンズ」も一般的になってきました。─多焦点眼内レンズによる白内障手術について教えてください。
 自由にピントを変えられるような見え方とは異なりますが、遠くにも近くにもメガネなしで焦点が合いやすくなります。場合によってはメガネを必要とするケースもありますが、頻繁に掛け外しをする煩わしさからは解放されます。夜間の光をまぶしく感じたり、暗い場所ではくっきり感が落ちたりするなどの弱点もあるので、どちらのレンズにするかは医師と話し合い、ライフスタイルを考慮して選択することをお勧めします。
 多焦点眼内レンズは2007年に厚労省に認可され、08年に先進医療として承認されました。先進医療とは、厚生労働大臣が保険適用外の先端的な医療技術と保険診療との併用を、一定条件を満たした施設のみに認める医療制度です。先進医療施設に認定された医療機関で、多焦点眼内レンズによる白内障治療を受ける場合、術前術後の診察などに保険が適用となります。また、民間の生命保険の先進医療特約の対象ともなり、先進医療に係る費用が全額給付されるケースもあります。
 14年5月から、厚労省の認可を受け、乱視矯正機能を持たせた多焦点眼内レンズも発売されています。従来の眼内レンズでは矯正不可能であった乱視も、白内障手術と同時に治すことができるようになりました。また、保険外診療となりますが、遠近に加えて中間距離にも焦点の合う「三焦点眼内レンズ」も登場しています。眼内レンズの進化に伴い、白内障手術も視力の質をより一層重視する新しい時代に入ってきました。

2017年5月24日水曜日

帯状疱疹予防のワクチン


ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 院長

帯状疱疹とはどのような病気ですか。
 帯状疱疹は、主に子どもの頃に水痘(水ぼうそう)にかかった時に、脊髄の神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化することによって引き起こされます。水ぶくれを伴う赤い発疹が、神経の分布領域に沿って体の左右どちらかに帯状に出ます。強い痛みを伴うことが多く、症状は3〜4週間ぐらい続きます。
 日本の成人の9割以上が体内にこのウイルスを持っていると考えられており、ほとんどの人が帯状疱疹になる可能性があるといえます。帯状疱疹は加齢や病気、疲労、ストレスなどで体の免疫力が低下した時に発症します。発症率は50歳代から高くなり、50歳以上の割合が全体の約7割を占めています。日本では、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹になるといわれています。
 皮膚症状が治った後も、何カ月も辛い痛みが残ってしまうケースもあります。これは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれ、50歳以上の患者さんの約2割にみられる症状で、年齢が上がるほどなりやすくなります。その痛みは「焼けるような痛み」「刺されるような痛み」としばしば表現されます。また、まれに目や耳などに合併症が生じ、障害や後遺症を残す場合もあります。

帯状疱疹の予防法はありますか。
 帯状疱疹にならないためには、日ごろから体調管理を心掛け免疫力を低下させないことが大切ですが、予防のためのワクチンもあります。これは、小児が接種する水痘ワクチンに帯状疱疹の予防効果が認められたもので、帯状疱疹の予防目的で接種できるようになりました。対象は50歳以上で、過去に帯状疱疹になった人でも接種できます。海外のデータですが、このワクチンの接種により帯状疱疹の発症率が約半分に低下しました。また、痛みなどの症状が軽減される効果もみられ、帯状疱疹後神経痛が起きにくくなることも分かっています。ワクチン接種後は5年間の発症予防効果の持続が確認されています。
 他のワクチンとの接種間隔については、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの不活化ワクチンの接種後は6日以上、はしかや風疹などの生ワクチンの接種後は27日以上の間隔をあける必要があります。また、帯状疱疹予防のワクチンの接種後に他のワクチンを接種する場合は27日以上の間隔が必要です。詳しくは、医療機関にお問い合わせください。

2017年5月17日水曜日

好酸球性食道炎


ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

好酸球性食道炎とはどのような病気ですか。
 好酸球性食道炎は、アレルギーと関係の深い白血球の一種・好酸球が食道の粘膜に集まり慢性的な炎症を起こし、食道の機能障害や食道が狭くなること(狭窄といいます)などを引き起こす病気です。日本では比較的まれですが、小児から成人まで幅広い年齢層で発症しています。男性に多く、近年患者数が増加しています。
 症状は年齢により異なり、乳幼児では哺乳障害、幼児から学童では嘔吐、学童から成人では腹痛や嚥下障害(食べ物が飲み込みにくい)、食べ物のつかえなどがあります。
 原因はまだ明らかになっていませんが、食物などに含まれる物質に対するアレルギー反応が関係していると考えられています。気管支ぜん息などアレルギー疾患を合併する頻度も高いです。
 一方、好酸球が食道ではなく、胃や小腸、大腸の粘膜内に集まる、好酸球性胃腸炎という病気もあります。主な症状は食欲不振、嘔吐や腹痛などです。好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎を合わせて好酸球性消化管疾患といい、厚生労働省の指定難病になっています。

診断と治療について教えてください。
 症状の似ている逆流性食道炎との鑑別が大事になりますが、診断の決め手となるのは、食道機能の障害を示す症状があることに加えて、病理組織学的検査で粘膜の中に一定数以上の好酸球が確認されることです。このためには内視鏡検査が必要です。内視鏡検査では特徴的な縦走する溝や白斑、狭窄がみられますが、まったく異常のない場合もあります。血液検査で好酸球の増加やアレルギー反応に関する抗体の有無、CT検査で食道壁の肥厚を認めるか、なども参考にします。
 治療は、アレルギーを起こす物質(アレルゲンといいます)が分かる場合には、そうした物質を除いた食事療法が有効です。アレルゲンになりやすい食品には、小麦製品、牛乳、大豆、ナッツ類、卵、海産物などがありますが、原因食物を摂取してもすぐに症状が出るとは限らないので、特定が難しいケースも多いです。このため、成分栄養食やアレルゲンとなりやすい既定の食材を取り除いた既定除去食を試みることもあります。
 薬物療法として、まず胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬を用います。効果がない場合には、好酸球による炎症を抑えることを目的に、副作用の少ない局所作用ステロイド薬を用います。治療に難渋する場合には全身性ステロイド薬や免疫抑制薬などを用いることもありますが、副作用が出たりするので専門医療機関での治療が必要になります。薬物療法ではありませんが狭窄のため食物がつかえる場合には、特殊なバルーン(風船)を用いた拡張術が行われることもあります。

2017年5月10日水曜日

アルコール依存症(アルコール使用障害)


ゲスト/特定医療法人北仁会  いしばし病院 白坂 知信 院長

アルコール依存症、アルコール使用障害について教えてください。
 アルコール依存症とは、家庭や仕事、健康より飲酒をはるかに優先させる状態のことです。
 アルコール依存症は、いわゆる“アル中”のイメージが強く、意志の弱い人や生活のだらしない人がかかるものと思われがちです。しかし、これは誤った認識です。アルコール依存症は、お酒を飲む人なら誰しもかかる可能性のある「生活習慣病」の一つです。決して特別な病気ではないのです。このことを理解するのが、予防や治療の大切な第一歩です。
 2014年からアルコール依存症は、差別意識や不快感を生まないよう「アルコール使用障害」という病名に変わりました。依存症までには至らなくても、飲酒によって身体的・精神的に何らかの障害を生じ、社会生活に支障をきたしている状態も含むアルコール使用障害の患者は、国内に約500万人いるとされます。

治療について教えてください。
 アルコール使用障害と病名が変わり、治療も入院中心の医療から外来での治療を重視する方向に変わりました。治療目的も「断酒」一辺倒から、「節酒」の選択も可能になってきました。はじめから「一生、断酒が必要」と無理強いするより、本人が納得するまで節酒に挑戦してもらい、どうしても減らせないならやめるしかないと自覚を促していく方が治療効果は大きいです。急がば回れです。
 治療には、薬物療法、カウンセリング、集団精神療法、断酒会への参加などがありますが、画一的な治療は難しいです。患者さん一人一人の状態、状況に応じ、いくつかの治療を組み合わせ、飲酒習慣の改善を目指します。「一度、依存症になると治らない」というのも大きな誤解です。適切な治療を続けることで、必ず回復・社会復帰できる病気です。
 予防も治療と同様、自分の飲酒に問題がないか意識することから始まります。飲酒習慣をセルフチェックできるテストは何種類かありますが、その一つがAUDIT(オーディット)です。10の設問に答え、回答の点数を合計すると、問題のある飲酒かどうかを確認できます。また、3週間、アルコールを一切飲まないでいられるかどうかも、アルコール使用障害を判別する一つの目安となります。
 飲酒について少しでも問題を感じていたら、どうか気軽に医師相談してください。

2017年4月26日水曜日

矯正治療と部活動との両立


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

子どもの矯正治療は、いつ頃から始めるのがいいのですか。
 子どもは成長過程にあるため、矯正治療を始める適切な時期があります。成長する力を利用することで、正しくかめるように骨格を誘導し、スムーズに歯並びやかみ合わせを改善できるからです。早く治療した方がいいケース、最適な時期を待った方がいいケースなど、“最適な時期”は人それぞれ違うので、永久歯が生える小学校入学時、大人の顔つきに変わる中学校入学時など、節目ごとに矯正専門医の診察を受け、歯並びやかみ合わせの点検をしてもらいたいと思います。適切な時期の治療は、使用できる矯正装置の選択肢が豊富で、一人一人に合った治療法を選べるというメリットもあります。

矯正治療と学校の部活動を両立させることは可能ですか。
 球技でボールが顔に当たったりするなどして、矯正装置がずれたり、壊れたり、矯正装置が口の中を傷つけたりしないか、スポーツでの衝撃を心配されているケースが多いです。端的にいって、ほとんどの部活動において不都合はありません。野球、サッカーなど多くのプロスポーツ選手が矯正装置を付けながらプレーしていることからも問題はないといえるでしょう。ただ、極端にボディーコンタクトの激しいスポーツ、例えば柔道やボクシングなどの格闘技では、マウスピースを装着するなど注意が必要です。
 前歯がいわゆる出っ歯の状態だと、スポーツ時の外傷リスクは高くなりますが、矯正装置を付けていたために、スポーツ中の外傷から歯を守れたというケースもあります。矯正装置があったばかりにケガがひどくなるというのはまれです。正しい歯並びでしっかりかめるようになることで、集中力や持続力、筋力や動体視力の向上につながることが、さまざまな研究で明らかになっている現在、スポーツをする上では、矯正治療を進めた方が良い場合が多いです。
 気を付けなければならないのは、実は運動系ではなく、吹奏楽部の場合です。矯正装置を付けていることで、まったく吹けなくなるということはないのですが、音に影響が出るからと矯正治療をあまりすすめない学校もあるので、事前に確認が必要です。矯正治療との両立を選択するなら、例えば、取り外しのできる矯正装置を使うなど、少しでも演奏に負担がかからないような治療方針を検討することも可能なのでご相談ください。

2017年4月19日水曜日

最新の糖尿病治療


ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけ、すい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は、理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬で、糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1c値を1.0%前後下げます。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬はHbA1c値を1.6%前後下げます。1日1回の注射が必要ですが、現在は1週間に1回で済む注射薬も出ました。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。従来まで体重を減少させる糖尿病薬がありませんでしたが、「SGLT-2阻害薬」が登場し、この薬剤は血糖を下げると同時に体重を減らします。最近の研究データによる結果では、この種の薬剤は、心血管系の心不全の出現を抑える働きと糖尿病性腎臓病を良くする働きを持ち合わせていることが判明してきています。
 一方、インスリン注射に目を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は従来まで濁った製剤でしたが、透明な製剤が登場し、10回以上振って混合しなくても済むようになりました。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療状況が良好といえる目安は、HbA1cが7.0%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が、高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は125/75mmHg以下です。自宅で測定できる血圧針を治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍・壊疽(えそ)による足の切断など、糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2017年4月12日水曜日

認知機能低下と運転免許更新


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院  松村 茂樹 院長

今年3月、高齢ドライバーの認知機能のチェックを厳しくする改正道路交通法が施行されましたが、改正のポイントについて教えてください。
 2017(平成29)年3月12日から新たな改正道路交通法が施行され、加齢による認知機能の低下に着目した「臨時認知機能検査制度」や「臨時高齢者講習制度」の新設が行われました。
 改正前は3年に1度の免許証更新の時だけ受けることとされていた認知機能検査でしたが、今度からは75歳以上の運転者に一定の違反行為があれば、3年を待たずに臨時認知機能検査を受けなければなりません。一定の違反行為には信号無視、通行禁止違反、合図不履行など18の基準行為が決められています。
 また、75歳以上の方が免許証の更新時の認知機能検査で“認知症のおそれがある”と判定された場合には、これまでとは異なり、違反の有無にかかわらず、医療機関で認知症かどうかの診断を受け、診断書を提出する必要があります。もしも認知症と判断された場合には、運転免許取り消しなどの対象になります。警察庁の試算では、改正法施行後は15年の10倍以上の年間約5万人が医師の診断を受け、約1万5千人(15年は1472人)が免許取り消しや停止になる見通しです。

今後の課題について教えてください。
 各地で高齢者の重大事故が相次ぎ、危険防止の対策が急スピードで進められています。今回の道交法改正で認知機能のチェックを厳格化したように、個人の運転能力を知ることは、個人の安全のみならず社会全体の交通安全の確保のためにも重要なことです。同時に、運転免許の自主返納を促す取り組みも進んでいます。
 ただ、道内の札幌圏以外など公共交通網に乏しい地域では、マイカーが「生活の足」という現実があり、地域での高齢者の生活に自動車が欠かせない場合もあります。高齢化が進む中、代替手段の確保が大きな課題といえるでしょう。また、孫の送り迎えなど運転を生きがいや楽しみ、自立の象徴と考えている高齢者も多く、免許がなくなることが辛い決断になることを周囲が理解し、精神的にケアすることも大切です。軽度の認知機能低下の場合は運転能力に問題がない方もいますので、認知症であればすぐに免許取り消しということに関しても問題点を指摘する意見があります。
 将来的には運転能力を評価する運転シミュレーターや、路上運転の客観的な評価方法の開発なども必要と思われます。

2017年4月5日水曜日

適応障害


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 本谷 方克 医師

適応障害とはどのような病気ですか。
 適応障害は、仕事や人間関係がうまくいかないなどのストレスによって、
落ち込んだり、不安感やイライラが続いたりするなど、うつ病とまではいきませんがそれに似たような症状を起こします。頭が痛い、眠れない、全身の倦怠感などの身体症状が出たりする場合もあります。適応障害は、あらゆる精神疾患の初期症状のような側面があり、誰もがかかりうる身近な心の不調です。近年、適応障害が急増している背景には、超ストレス社会の到来に加え、うつ病など精神疾患に対する社会の認知が進み、精神科・心療内科の敷居が低くなったことも挙げられます。
 この適応障害、言葉の印象からは、生活や環境の変化にうまく適応できないこと、もしくは適応力が低いことを想像しがちですが、あくまで特定の環境や状況などがその人にとって耐え難いストレスに感じられているということです。その結果、気分や行動に症状が現れるのです。つまり、適応障害はストレスによる心の正常な反応の延長線上にあると言えます。
 診断のポイントは、症状を引き起こしているストレスがはっきりとしていることで、本人も自覚している場合が多いです。適応障害の特徴として、ストレスの原因となっているものから離れると、症状が改善するケースが多くみられます。ただ、適応障害による抑うつ状態であっても、放置しているとうつ病などに発展する可能性もあり、適応障害とうつ病の関係は複雑です。

治療について教えてください。
 うつ病では薬物療法、精神療法などの治療が中心となりますが、適応障害では、原因となっているストレスから離れること、ストレスを減らすことが何よりも優先されます。治療法は千差万別で一人一人違いますが、基本的にはストレスとなっている環境を変えること。つまり、ストレスとなる空間、場所、人間関係から離れる方法を考えていきます。ストレスが一過性のものであれば自然に軽快します。新しい状況には、必ず新しいストレスがあります。社会生活を送っていく上でも、自分のストレスの感じ方に気づき、考え方を変えるなどストレスとうまく付き合っていく方法を身に付けることが大切です。補助療法として、抗不安薬や睡眠薬など少量の薬物療法を併用するケースもあります。

2017年3月22日水曜日

便秘


ゲスト/札幌いしやま病院 石山 元太郎 理事長

便秘について教えてください。
 食生活の欧米化と、高齢化で悩む人が多いのが便秘です。日本人の約15〜20%が罹患(りかん)していると考えられ、近年、増加傾向にあります。性別では女性に多いですが、年齢とともに男性の割合が増え、80歳以上では男性の方が多くなります。
 便秘の定義はあいまいですが、基本的には3日以上排便のない状態で、排便回数の減少、排便困難感、残便感などの不快な症状が出現し、日常生活に支障をきたしている状態を指すのが一般的です。
 便秘は、大きく二つに分けられます。原因がはっきりしている「続発性便秘」と、原因の分からない「原発性便秘」です。続発性便秘には、抗うつ薬や抗不安薬など、腸管のぜん動運動を妨げるような薬剤を長期間服用することによる「薬剤性便秘」や、糖尿病や神経疾患などの内科的疾患による「症候性便秘」があります。特に注意が必要なのは、「器質性便秘」と呼ばれているもので、その代表例は大腸がんです。
 大腸がんは、血便や便が細くなるといった症状が出ることで知られていますが、当院で大腸がんが見つかったケースでは、約15%の方に「急に便秘になった」という訴えがありました。最近、便の出方が変わったという時は、単なる便秘と自己判断せずに、一度、大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。

便秘薬などについて教えてください。
 市販薬に多い刺激性下剤は、大腸を刺激して排便を促しますが、習慣性があるため、以前効果のあった量を飲んでも効きづらくなることがあります。また、市販薬を漫然と使い続けると、大腸の粘膜が黒く変色し、大腸の筋力が低下した「大腸黒皮症」という状態になることもあります。これが大腸がんの発生に関与しているという報告もあるので、服薬の管理が必要です。
 近年、注目されているのが「便排出障害型便秘」です。これは、肛門の近くまで便がきているのにそこから排出できないというタイプの便秘です。加齢による排便反射の低下や、女性では直腸ポケットと呼ばれる直腸と膣の間の壁が弱くなってできる“便だまり”が邪魔をして便秘となっている場合が多いです。その他にも便秘にはさまざまなタイプがあるので、まず専門医に相談し、正確な診断を受けることです。適切な方法で、便秘の解消に努めてください。

2017年3月15日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 甲状腺は、首の前面、喉仏の下にあるチョウのような形の臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンをつくることです。甲状腺ホルモンは、人間の身体の基礎代謝の維持に必要なだけでなく、体の発育にも関係する大切なホルモンの一つで、子どもの成長促進にも欠かせません。
 甲状腺の病気は、大きく三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られたバセドー病が大半です。これとは逆に、炎症が起きて機能が低下する病気もあり、代表的なものが橋本病(慢性甲状腺炎)です。三つめは甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。
 甲状腺の病気の多くは自己免疫疾患で、本来はウイルスなどの異物を撃退するための免疫系に何らかの異常が生じ、自分の体の組織の一部を抗原として認識してしまうために起きます。基本的には誰にでも起こりえる病気ですが、女性に多く、また、遺伝的な要因が大きく関係するとされています。

甲状腺の病気の検査、治療について教えてください。
 甲状腺ホルモンの分泌が多ければバセドー病の疑いが強まり、逆に少なければ、橋本病による甲状腺機能低下の可能性が高まります。甲状腺ホルモンやある種の抗体などを調べる血液検査、超音波検査やエックス線検査などを組み合わせて、正確な診断が可能になります。一方、腫瘍の診断は、触診、超音波検査、細胞診が三本柱です。
 バセドー病の治療は、抗甲状腺薬の服用が中心となりますが、手術や放射性ヨードの投与による方法もあります。橋本病には、甲状腺ホルモンの補充療法を行います。甲状腺腫瘍は、悪性の場合は進行度に応じた手術を選択します。良性の場合、基本的には経過観察を行いますが、腫瘍が大きい、圧迫などの症状がある、がんが否定しきれないなどのケースでは手術を行うこともあります。
 自覚症状がないことも多く、また症状が出てもほかの病気と間違われやすい甲状腺の病気ですが、早期に診断を確定して適切な治療を受ければ、健康な人と変わらない生活が送れます。家族に甲状腺の病気の方がいる場合は、症状がなくても定期検診をお勧めします。

2017年3月8日水曜日

非結核性抗酸菌症


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

非結核性抗酸菌症とはどのような病気ですか。
 非結核性抗酸菌症とは、近年日本で中高年を中心に患者数が増えている肺の病気です。非結核性抗酸菌症は1975年には年間10万人に1人だったのが2007年には年間10万人に約6人にまで達しています。
 非結核性抗酸菌症は感染の初期は自覚症状のない場合がほとんどです。症状の進行も5年から10年と遅く、病気が進行してから、せきや痰(たん)・血痰、微熱、倦怠(けんたい)感などが現れます。
 原因となる菌=非結核性抗酸菌は、代表的なものが「アビウムコンプレックス菌」と「カンサシ菌」で、合わせて全体の90%を占めます。土中やほこり、水回りなど身近な環境に生息し、菌を含んだ粉じんや水しぶきを吸い込むなどで体内に侵入しますが、誰もが発病するわけではありません。発症には遺伝的な要因が関与していると考えられていますが、詳しくはまだわかっていません。アビウムコンプレックス菌による発症は中高年女性に多く、カンサシ菌による発症は若い男性に多い傾向があります。
 非結核性抗酸菌は、毒性が比較的弱いことから、結核やかぜ、インフルエンザなどと異なり、人から人へは感染しません。

検査・診断、治療について教えてください。
 まず、胸のレントゲン検査を行い、肺に影があればCT検査により詳しく診断します。最近では健康診断で胸部写真で異常な陰影を指摘され、病院で精密検査をして初めて非結核性抗酸菌症を疑われる患者さんが多く見られます。診断には痰を採取して調べることで、非結核性抗酸菌症の診断と、非結核性抗酸菌の種類を特定します。
 治療の基本は薬物療法となります。「クラリスロマイシン」という抗菌薬と、結核の治療でも使われる「リファンピシン」「エタンブトール」という2種類の薬の併用が中心となります。ただ、薬の効きが弱いのに加え、菌が検出されなくなっても、1年は薬を飲み続けなくてはならず、治療は長期に及ぶケースが多いようです。体力がある若い人などで、菌に侵されている部分(病巣)が一部にまとまっている場合には、病巣を取り除く外科的手術を行うこともあります。一方で、病気が進行せずに数年経過することもまれではありません。自覚症状があればすぐに治療を始めますが、なければ定期的に経過を観察する場合もあります。
 非結核性抗酸菌症では、日常生活を改善することによって、身体の抵抗力や自然治癒力を高めることが重要になります。治療中は、規則正しい生活、栄養バランスのとれた食事、ストレスや疲労をためないことを心掛けましょう。

2017年3月1日水曜日

うつ病


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

うつ病について詳しく教えてください。
 うつ病とは、ある程度強い「うつ状態」が長く続き、日常生活に支障をきたす病気です。うつ病がなぜ起こるのかという、原因や発症メカニズムについては、まだ解明されていません。そのため、患者さんの症状をうかがい診断します。
 うつ病の診断基準として現在よく用いられているものに、米国精神医学会が作成した「精神障害の診断と統計のマニュアル第5版(DSM-5)」があります。うつ病はDSM-5の診断では「大うつ病性障害」と呼ばれ、その診断基準を短くまとめると、まず「抑うつ気分(悲しみや空虚感、絶望など)」「興味または喜びの喪失」のうち、少なくとも一つを認めること。そして、「食欲や体重変化」「睡眠障害」「精神運動焦燥(イライラや焦りなど)または制止(意欲や自発性を失うなど)」「疲労感や気力の減退」「無価値観や罪責感」「思考力や集中力の減退」「自殺念慮(死にたいという強い気持ち)や自殺企図(自殺未遂行動)」など全9項目の症状のうち、5つ以上が2週間以上、ほとんど1日中、毎日みられることです。
 うつ病は、さらに「メランコリー型」「非定型」「季節性」「精神病性」など幾つかのタイプに分けられ、症状や経過が異なります。

うつ病の診察について教えてください。
 うつ状態は、うつ病以外にも多くの病気で現れます。うつ状態を示す他の精神障害として「気分変調症」「躁うつ病」「統合失調症」「適応障害」などがあります。問診で症状を詳しく聞き、場合によっては別の病気が隠れていないか調べる検査をします。
 また、うつ状態は、心疾患や脳血管疾患、甲状腺機能低下症のような身体的な病気が原因で現れることもあります。アルコール、ステロイドやインターフェロン製剤など、薬物の副作用によるうつ状態も考えられます。一見、認知症かと思われる言動がうつ病の症状であったり、うつ状態が認知症の前駆症状であることもあります。患者さんの症状の原因をはっきりさせるために、身体的な検査が行われることもあります。
 うつ病かどうか、うつ病であればどのようなタイプなのか。正しい診断と治療を受けるには、精神科や心療内科で専門的な診察を受けることが大切です。

2017年2月22日水曜日

冬の頭部外傷〜慢性硬膜下(こうまくか)血腫〜


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

転倒で頭を強く打ち付けてしまった時の注意点を教えてください。
 冬道での転倒によるケガに注意が必要な季節です。横断歩道やバス停留所などツルツル路面での転倒による受傷が増えています。頭は高い位置にあるため、滑って転んで頭を打った場合は、かなりの衝撃が加わる危険性があります。
 頭を打った前後のことをよく覚えていないケースがありますが、外傷後の記憶が“飛んで”しまう「外傷後健忘」と、ぶつける前までさかのぼって記憶が無くなってしまう「逆行性健忘」の2種類あります。ともに、頭を強く打っていることが疑われますので、一刻も早く受診し、早急な検査が必要です。
 ケガをしてすぐの検査で異常が無かったのに、受傷してから1〜2カ月ほど経ってから徐々に頭の中に血液がたまってくる病気があります。慢性硬膜下血腫です。中高年に多くみられ、お酒をよく飲む方とか、肝臓の悪い方、治療のために血液をサラサラにする薬を飲んでいる方などがなりやすく、頭部の軽いけがの後でも起こる場合があるので注意が必要です。

慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか。
 慢性硬膜下血腫の症状は、出血が少ない場合はほぼ無症状か、あっても頭痛程度です。出血量が多くなると、血液がたまって脳を圧迫し、さまざまな症状が出てきます。強い頭痛を感じたり、頭が重くだるい状態が続いたりします。さらに圧迫が進むと、歩行障害や手足のまひなど、脳梗塞などの脳血管障害と似た症状を示すケースもあります。特に、足元がおぼつかなくなる症状が目立ちます。記憶障害、見当識障害、判断力の障害が起こることもあり、高齢者の場合、認知症と間違われていることも少なくありません。高齢者は頭痛を感じても訴えない方が多く、そのまま寝込んでしまうケースもあるので、周りの方が注意して見守ってあげることが大切です。
 無症状であれば、よほど脳への圧迫が強くない限りはそのまま経過観察をします。内服薬を使って様子をみる場合もあります。ここ最近では、血腫の治癒を促進する漢方薬を使うケースも増えています。圧迫が強い場合、上に挙げた症状が出ている場合は、手術治療が必要になります。
 転倒などで頭を強く打った時、1カ月ぐらい経ってから頭が痛くなってきたり、気になる症状が出たりしている場合は、我慢しないで専門医を受診してください。

2017年2月16日木曜日

電気けいれん療法


ゲスト/医療法人五風会 さっぽろ香雪病院 小澤 剛久 診療部長

電気けいれん療法について教えてください。
 電気けいれん療法は、全身麻酔下で専用の医療機器を用いて、脳に電気的刺激を与える治療法です。うつ病、統合失調症、躁うつ病等が適応となる疾患で、薬物治療の効果が少ない患者さん、薬物治療や精神療法を行えない患者さん、精神的あるいは身体的観点から症状の改善が急がれる患者さんなどが対象となります。
 電気けいれん療法がどの様な機序で有効性を示すのかはまだ未解明な部分がありますが、電気刺激を与えて脳内の神経伝達物質を活性化させて脳神経回路を再構築する事で、症状の改善が得られると考えられています。イメージとしては人為的に脳に電流を流すことで、いったん脳の状態(機能)をリセットし、脳内のバランスを整えることで精神症状を緩和する治療法です。
 一般の方には聞き慣れない名称ですし、「電気けいれん」という言葉に不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。確かに、聞こえはよくないのですが、症例によっては、これが劇的に効きます。薬物療法や精神療法と比べて治療効果が高く、即効性があるケースもあります。また、治療法としての歴史は長く、近年の治療技術の大幅な改善により、現在は麻酔科の協力を得て、痛みや苦しみのない安全性の高い治療法として確立しています。

治療の流れ、注意事項について教えてください。
 電気けいれん療法を安全に行うには全身麻酔をかけて行う必要があります。したがって実施可能な施設は限られています。当院では約1〜2カ月間入院していただき、基本的に週2回、合計12回の連続した治療を1コースとして行います。患者さんの状態によって異なりますが、平均4〜6回前後で治療効果が現れ始め、8〜10回で十分な効果を得られるケースが多いです。
 治療の流れは、大まかに次の通りです。①事前の検査/事前に数種類の検査を行い、全身状態をチェックします。治療前夜からは絶食となります。②全身麻酔/施術管理に必要なモニター(心電図や脳波)の準備をした後、麻酔科によって全身麻酔した上で、筋肉の緊張を起こしにくくする薬を使います。③治療/こめかみに付けた電極を通して、治療器から数秒間、電流を脳に流します。④自室で安静/治療に要する時間は約20分間です。施術後は病棟で安静にしていただき、状態を確認します。
 副作用として、一過性の筋肉痛や頭痛、吐き気などがあります。また、頻脈や血圧上昇、治療前後のことを思い出しにくくなる記憶障害が起こることがありますが、多くは自然に元に戻り、後遺症は残りません。
 電気けいれん療法に関心がある方はどなたでもお気軽にご相談ください。

2017年2月8日水曜日

肌のかゆみ


ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 院長

肌のかゆみについて教えてください。
 今年は暖冬といわれていましたが、気温が低く雪が多い冬になりました。冬になると気になるのが体のかゆみです。肌に発疹や水泡など明らかな病変がなく、かゆみだけが認められる場合を皮膚掻痒(そうよう)症といいます。冬場に肌がかゆくなる人が多いのは、寒くなると血行が悪くなり、暖房の使用などで空気が乾燥することで皮膚の水分が失われ、かゆみを感じる神経が敏感になるためです。雪かきや入浴の後、就寝後など、体が温まること(寒暖差)によって、寒さで縮んでいた血管が急速に広がり、かゆくなることもあります。
 かゆみの原因は皮膚の乾燥以外にもあります。ストレス、精神的不安、疲労、怒り、緊張によって、かゆみを感じてかいたり、かゆみが悪化したりする場合があります。それが続くと無意識にかくことがクセのようになったり、症状をこじらせたりしてしまいます。耳がかゆく、ついガリガリと強めに耳掃除をして皮膚を傷つけ、それがかさぶたになりまたかゆくなる…という悪循環を繰り返す「外耳道炎」もそうです。
 女性の外陰部のかゆみは、婦人科の中でも比較的多い病気「カンジダ症」の可能性があります。もとから膣の中に持っている真菌(カビ)が、体が弱った際などに急速に増殖し発症すると考えられています。アレルギー反応、ホルモンバランスの崩れなどがかゆみを引き起こしている場合もあります。
 肛門(こうもん)あるいは肛門周囲も便や腸の粘液にさらされ、通気性も悪いため、かゆくなりやすいものです。痔、寄生虫、トイレットペーパーとの相性が悪い、温水洗浄(便座)の使い過ぎなども原因として考えられます。

かゆみの治療について教えてください。
 治療はかゆみを抑える塗り薬や飲み薬、炎症を抑えるステロイドや免疫を抑制する塗り薬、ストレスを減らすための飲み薬など薬物療法が中心です。肌を清潔に保ち、保湿する工夫をするなど日常生活でのスキンケアも大切です。
 強いかゆみで「寝ていられない」「仕事が手につかない」という場合には、別な病気を合併している可能性も疑われます。糖尿病、肝臓や腎臓など内臓の病気、悪性腫瘍もかゆみを伴うことがあります。症状が重い時には放置せず、かかりつけ医の診察を受けてみてはいかがでしょうか。

2017年2月1日水曜日

関節リウマチの敵〜喫煙と歯周病〜


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチ治療中の生活で何か気を付けることはありますか。
 関節リウマチは診断技術や治療法の進歩で「治る」時代に入りましたが、それでも一度発病したら、長く付き合っていかなければならない病気です。治療が順調で症状が軽くなっても、毎日の暮らしの中ではいくつかの注意が必要です。どういう生活を心掛ければよいのでしょうか。私が日々の診療から考える「関節リウマチの敵」は、正月やお盆などの行事やお客の接待、理解のない夫や孫の世話などの対人関係、庭仕事や冬囲いなどの家事や労働のほか、悪天候、ストレスなどさまざまです。ここでは、関節リウマチに大きく影響する環境因子(=関節リウマチの敵)として、喫煙と歯周病について触れます。
 最近の研究では、特定の遺伝子を持つグループの人たちは、喫煙により免疫の異常が誘発され、関節リウマチをより高頻度に発症することが分かってきました。また、リウマチ発症後もたばこを吸っている人は吸っていない人に比べて、より関節の破壊が進行することや、喫煙によりメトトレキサートや生物学的製剤の効き目が弱くなることも報告されています。リウマチを予防し、また効果的に治療を行うためにも、禁煙をお勧めします。

関節リウマチと歯周病の関係について教えてください。
 歯周病は、歯垢(プラーク)の中の細菌によって歯肉に炎症が起き、歯を支える歯茎や骨が壊されていく病気です。口の中には数百種類の細菌がおり、その中から10〜20種類の細菌が歯周病を引き起こすことが分かっています。それらは歯周病菌と呼ばれ、代表的なものがPg菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)です。Pg菌は、強い悪臭を放ち、歯肉のコラーゲン組織を分解したり、白血球が持つ殺菌作用を弱める酵素を持っています。また、歯を支える骨を溶かす毒素で、歯周病を重症化させます。近年、Pg菌が関節リウマチの発症にも関与していることが示されてきました。
 関節リウマチと歯周病には密な関連があり、2つの病気をお互いに悪くする双方向性があります。双方向性とは、関節リウマチがあると歯周病がさらに進行し、逆に歯周病があると関節リウマチに影響するということです。一方、歯周病を治療すると、関節リウマチが改善することも報告されています。
 関節リウマチを治すには、禁煙と歯周病の治療、口の中を清潔に保つケアも重要なポイントになります。

2017年1月25日水曜日

思春期の子どもの心と不登校


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

思春期の子どもの心理について教えてください。
 いわゆる思春期とは、個人差もありますが小学校高学年(12〜13歳)から高校生(17〜18歳)ぐらいまでの期間を指します。思春期にある子どもは心身とも変化が著しく、非常に多感で繊細です。それらの変化をうまくコントロールすることができず、漠然とした不安感やイライラ感が現れたり、親からの自立と依存という背反するテーマをめぐって葛藤したりする時期であり、こうした気持ちが高まると、不登校や問題行動が生じることもあります。また、学校生活で嫌な思いをしていたり、家族関係がよくなかったり、子どもが自らを取り巻く環境に苦しさを抱えていることもあります。さらに、朝食抜きや夜更かしなど不規則な生活習慣が続いたりし、強いストレスがかかっている場合も多いです。
 ご両親がしっかりお子さんに向き合い、子どもたちの悩みや不安を受け止めてあげることが何よりも大切です。

不登校について教えてください。
 全国の不登校は毎年10万人を超えています。不登校の理由は百人百様です。まずは、ご両親がお子さんの気持ちを知ることが重要です。学校生活で何か問題があったのか、どんな心境の変化があったのか、お子さん自身が話してくれるのが一番ですが、口を閉ざしているようなら担任やクラスメートから情報を集め、現状について話し合うべきです。理由や原因が分かれば、対処法も見えてきます。
 もし学校でいじめにあっていたり、授業についていけなくなっていたりするのなら、無理に学校に行かせようとすることは、お子さんを追いつめることになってしまいます。また、単なる不登校ではなく、うつ病や発達障害といった病気を発症している場合は、早めに精神科・心療内科を受診する必要があります。
 札幌市では、心の悩みを抱える子どもに対する支援を強化しようと「さっぽろ子どもの心の診療ネットワーク事業」の運用を始めています。これは、当院を含む「コンシェルジュ」役の医療機関が、子どもの症状に応じて、適切な治療を受けられる専門の医療機関を案内するものです。また、治療を終えた子どもを一般の小児科や福祉・教育機関につなぐこともできます。不登校などさまざまな子どもの心の問題で、どのような相談先を選べばよいのか迷った時には、ぜひご活用ください。

2017年1月18日水曜日

抗VEGF療法


ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

抗VEGF療法とはどのような治療法ですか。 
 眼科の治療は年々進化しています。近年始まった新しい治療法の一つが、抗VEGF療法です。新生血管(正常ではない新しい血管)の発生を促す物質VEGF(血管内皮増殖因子)を阻害する薬を使い、新生血管の増殖を抑える治療法です。治療は、眼球に直接抗VEGF薬を投与します。投与の回数は病気の状態によりさまざまですが、約1〜数カ月ごとに1回の治療を継続的に行い、効果をみながら間隔をあけていくのが一般的です。
 日本では2008年から保険適用になり、現在数社から治療薬が発売されています。これまで目の中にレーザーを当てて治療する(光凝固術)必要があった病態や、治療法のなかった疾患に対し、より長く視力を保てるケースや、病状の進行を食い止められるケースが増えるなど、高い治療成績を上げています。

主にどんな疾患に、どのような治療効果が期待できますか。
 加齢黄斑変性に対する代表的な治療法ですが、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫にも適用されます。
 加齢黄斑変性は、眼球の奥で光を感知する網膜の中心・黄斑部の下に、加齢で老廃物がたまることで発症します。見たいところが見えず、読みたい文字が読めないという不便な状態になり、放置すると失明の恐れもあります。新生血管の増殖を食い止める抗VEGF療法が有効です。視力の維持のみならず、早期なら視力の回復できる例もあり、現在、第一選択の治療法になっています。
 長期にわたる高血糖により、黄斑部に水が溜まる、浮腫などを起こす糖尿病網膜症。従来、網膜にレーザーを照射する光凝固術が標準的治療でしたが、正常な網膜の一部にもダメージを与えてしまうデメリットもありました。抗VEGF療法の登場で、患者さんの体への負担を少なく、黄斑浮腫を軽減できるようになりました。高血圧や動脈硬化に伴って起こる網膜静脈閉塞症。血管新生の予防や浮腫の軽減に効果を発揮します。
 これらの診断や治療効果の判定には、眼球の断面図を鮮明に見られるOCT(光干渉断層計)を使った検査が有用です。
 治療をあきらめていた患者さんには、抗VEGF療法は新たな選択肢の一つになるかもしれません。まずは十分医師と相談してほしいと思います。

2017年1月11日水曜日

機能性ディスペプシア


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

機能性ディスペプシアとはどのような病気ですか。
 機能性ディスペプシア(FD)とは、胃の機能(動き)が悪くなることで不快な症状が生じる病気です。FDの患者さんの数は極めて多いと推定されており、健診受診者の約15%、上腹部症状で医療機関を受診した患者さんの約50%、全国民の10~20%であるといわれています。男性より女性に多く、高齢者より若い人に多い傾向があります。世界的な診断基準(Roma Ⅲ)では、辛いと感じる食後のもたれ感、早期の膨満感、心窩(か)部(みぞおちのあたり)の痛み・灼熱感(焼けるような感覚)の症状のうち1つ以上があり、上部内視鏡検査(胃カメラ)などで器質的疾患が確認されない、また6カ月以上前から症状があり3カ月以上続いている、という基準を満たしていることが条件になっています。2016年に改定された新たな診断基準(Roma Ⅳ)では、生活の質が低下するほど辛いと感じる“厄介な症状”であることが、FDと診断されるための必要条件となりました。

機能性ディスペプシアの症状、原因について教えてください。
 FDは症状の起こり方により、「食後愁訴症候群」と「心窩部痛症候群」の2つに分かれます。前者は、週に数回以上普通の量の食事でも辛いと感じるもたれ感や、早期満腹感のため食べられなくなるという症状が主体です。上腹部の張った感じ、食後のむかつきなどを伴います。後者は、みぞおちのあたりに痛みや焼ける感じが週に1回以上起こります。一定の間隔をおいて症状が起こったりやんだりし、排便や放屁により軽快しないのが特徴です。これらは、症状が重なって起こったり、日によって感じる症状が変わったりすることもあります。また、FDの合併症として慢性便秘が約15%、胃食道逆流症が約25%、過敏性腸症候群が約50%存在するとされています。
 FDは、胃の運動機能障害、消化管の知覚過敏や生活上のストレスなど心理的・社会的要因が原因で症状が起こると考えられています。そのほかアルコール、喫煙、不眠、食生活の乱れとの関係も指摘されています。また、ピロリ菌に感染しているFDの患者さんに除菌療法を行うと、FDの症状が改善するという研究報告があり、「ピロリ菌関連ディスペプシア」という独立した疾患概念も新たな診断基準で認められるようになりました。

2017年1月4日水曜日

喫煙と口腔の健康


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

喫煙習慣は、口腔の健康にも悪影響を及ぼしますか。
 喫煙は、各種がんや循環器・呼吸器疾患、妊娠・出産異常などさまざまな健康被害に関連していることが明らかになっていますが、当然ながら口腔の健康にも大きく影響します。
 まず煙に含まれる発がん性物質に口が直接さらされ、口腔がんを発生する危険性があります。また、タバコを吸うことで歯周組織の免疫機能が弱められるため、歯周病が発症しやすくなります。そのほか、虫歯の進行、歯の黄ばみ・歯肉の黒ずみ、味覚障害、口臭の発生などが挙げられます。また、喫煙者は歯周病や虫歯の治療を始めても、たばこを吸わない人よりも治療の経過がよくない(治りにくい)ことが分かっています。たばこを吸う人は、吸わない人に比べ、歯周病に約5倍かかりやすく、歯の寿命は約10年短くなるという統計データも報告されています。
 他の人のつけたたばこの先から出る副流煙にも有害物質が含まれています。他人の副流煙を吸わされてしまう受動喫煙も問題です。世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(IARC)は、受動喫煙もがんの危険性を高めることが確実だとしています。よく「子どもの周りでたばこを吸わないで」といいますが、受動喫煙によって、乳幼児突然死症候群や子どもの歯周病、虫歯などが発症するリスクを高めるという調査結果もあります。

意思が強くないと、禁煙は無理ですか。
 以前は、タバコは嗜好(しこう)品で、喫煙は本人の意思の問題であるとみなされていました。しかし、現在では、喫煙者の多くは「ニコチン依存症」という病気であることが認識されています。禁煙治療に保険が適用される条件は、1日の喫煙本数と喫煙年数を掛け合わせた指数が200以上などと決まっていますが、医療機関での禁煙治療への関心は、今後ますます高まっていくでしょう。
 ご存知の方も多いと思いますが、5月31日は世界禁煙デーです。しかし、1年に1回の特別な日だけでなく、もう少し身近に喫煙の害と禁煙の大切さを考える機会として、毎月22日が「禁煙の日」に制定されています。22を2羽の白鳥(スワン)が寄り添う姿に見立て、スワンスワン(吸わん吸わん)で、禁煙の日というわけです。自分、そして大切な家族のために、禁煙を始めてみませんか。