2016年8月24日水曜日

好酸球性肺炎


ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

好酸球性肺炎とはどのような病気ですか。
 肺炎は文字通り肺が炎症を起こした状態を指します。日本人の病気による死因の第1位はがんですが、肺炎が3位であり油断できない病気です。一般的な肺炎は細菌やウイルスなどの病原体が、肺の奥にある小さな袋状の部分(肺胞)に感染して引き起こされる炎症です。原因となる病原体や、感染にいたった環境によっていくつかの種類に分けられ、症状や治療法もその種類によって異なります。好酸球性肺炎は、白血球の中の成分であり、アレルギーと関わりが深い好酸球によって引き起こされる特殊な肺炎です。タバコ、薬剤やある種のカビに対するアレルギー反応として発症したり、ぜんそく患者さんに併発したりすることがあります。
 症状は、細菌による一般的な肺炎とほぼ同様で数日から1〜2週間でせきや発熱、だるさなどが生じます。ぜんそくも悪化し、ヒューヒュー、ゼーゼーした音が生じることもあります。好酸球性肺炎は細菌によるものではないため抗生物質(抗菌薬)は効きません。せきや呼吸困難で病院を受診し、胸部X線検査や血液検査などで肺炎と診断され、抗生物質による治療でもよくならないため呼吸器の専門医に紹介されてくることがしばしばあります。

好酸球性肺炎の診断と治療について教えてください。
 検査では、胸部X線写真で肺炎像が確認されますが、一般的な肺炎とほとんど区別がつきません。胸部CTによる画像診断、血液検査や喀痰(かくたん)検査による好酸球の測定も行いますが、それでも確定診断にいたらない場合もあり、気管支鏡を用いて肺の中を洗浄して好酸球が増えているのを確認したり、肺の組織の一部を取る検査が必要になることがあります。このように、好酸球性肺炎は診断が難しい病気の一つです。
 治療は、原因物質が特定できる場合は、それらを除去・回避することによって自然に軽快します。原因物質が不明な場合にはステロイド薬による治療を行います。ただし細菌性の肺炎に対しては、ステロイド薬はかえって病状が悪化する可能性があるので、肺炎の鑑別による治療薬の選択が非常に重要です。ステロイドは一般的によく効きますが、薬の量を減らしていく過程で再発することもあり、数カ月間から数年間にわたるステロイド療法が必要となる場合もあります。

2016年8月17日水曜日

リウマチ治療〜『賢い患者』になるために〜


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

的確な治療を受けるために、上手な診察の受け方はありますか。
 リウマチの診断・治療は目覚ましい進歩を遂げています。特に関節リウマチの炎症や痛み、腫れ、関節破壊を引き起こす原因となる物質を抑える生物学的製剤が登場し、治療の目標は「寛解(症状が落ち着いて安定した状態)」を目指せるようになりました。現在では、患者さんが医師とともに目標をもって治療を進める「T2T(treat to target)」の時代となっています。ただそれでもリウマチの療養生活は長期戦です。患者さん自身もリウマチという病気とその治療法を理解して根気よく付き合い、「賢い患者」となり医療機関を上手に活用していかなければなりません。ここではリウマチ専門医としての立場から、賢い患者になるためのヒントを紹介します。
 受診する時は医師任せではなく、自分から症状を話し、どうしたいかを伝えることが重要です。医師に伝えたいことは事前にメモし、準備しておきましょう。“いつから”“どこが”“どのように”と症状や病状の変化を伝えるほか、治療中の病気など既往歴、おくすり手帳の服用履歴、健康診断の結果、不安や心配なこと、お願いしたいことなども患者さんから伝える大事な情報です。
 医師の説明が分からない時は、納得するまで質問することです。特に、検査や治療の“目的”“方法”“効果”“見通し”など大事な説明は、聞き間違いなどを防ぐために、メモを取りながら聞きましょう。医師に直接言いにくいことは、看護師に相談するのも手です。
 近年、患者さんから選ばれる病院を目指し、接遇力向上に力を入れる病院も増えています。私自身、知識や技術、経験だけでなく、不安を抱えている患者さんに寄り添う姿勢を忘れずに、一生のお付き合いができる関係づくりを大切にしています。患者さんも医師も人間同士。波長が合わない時もあるかもしれませんが、お互いが気持ちを通じ合わせる努力をすることも必要です。病気を治す目標に向けて二人三脚で歩む意欲を持ち、コミュニケーションを重ねていくことが、相互理解を深め信頼関係を強めるのです。
 一人で悩まないでだれかに相談することも大切です。不安や悩みを分かち合い、支え合うことのできる患者会やサポートグループへの参加はとても有意義です。患者さんやご家族の立場に沿った情報も得られ、病気に対する意識が高まり治療にも役立ちます。

2016年8月10日水曜日

甲状腺の病気


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

甲状腺の病気について教えてください。
 甲状腺は、首の前面、喉仏の下にあるチョウのような形の臓器です。甲状腺の最も重要な働きは、海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、甲状腺ホルモンをつくることです。甲状腺ホルモンは、人間の身体の基礎代謝の維持に必要なだけでなく、体の発育にも関係する大切なホルモンの一つで、子どもの成長促進にも欠かせません。
 甲状腺の病気は、大きくは三つのタイプに分けられます。一つは甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる甲状腺機能亢進(こうしん)症で、よく知られたバセドー病が大半です。これとは逆に、炎症が起きて機能が低下する病気もあり、代表的なものが橋本病(慢性甲状腺炎)です。三つめは甲状腺の腫瘍で、良性と悪性(がん)のものがあります。
 甲状腺の病気の多くは自己免疫疾患で、本来はウイルスなどの異物を撃退するための免疫系に何らかの異常が生じ、自分の体の組織の一部を抗原として認識してしまうために起きます。基本的には誰にでも起こりえる病気ですが、女性に多く、また、遺伝的な要因が大きく関係するとされています。

甲状腺の病気の検査、治療について教えてください。
 甲状腺ホルモンの分泌が多ければバセドー病の疑いが強まり、逆に少なければ、橋本病による甲状腺機能低下の可能性が高まります。甲状腺ホルモンやある種の抗体などを調べる血液検査、超音波検査やエックス線検査などを組み合わせて、正確な診断が可能になります。一方、腫瘍の診断は、触診、超音波検査、細胞診が三本柱です。
 バセドー病の治療は、抗甲状腺薬の服用が中心となりますが、手術や放射性ヨードの投与による方法もあります。橋本病には、甲状腺ホルモンの補充療法を行います。甲状腺腫瘍は、悪性の場合は進行度に応じた手術を選択します。良性の場合、基本的には経過観察を行いますが、腫瘍が大きい、圧迫などの症状がある、がんが否定しきれないなどのケースでは手術を行うこともあります。
 自覚症状がないことも多く、また症状が出てもほかの病気と間違われやすい甲状腺の病気ですが、早期に診断を確定して適切な治療を受ければ、健康な人と変わらない生活が送れます。家族に甲状腺の病気の方がいる場合は、症状がなくても定期検診をお勧めします。

2016年8月3日水曜日

働く人の心の健康


ゲスト/医療法人社団五稜会病院  中島 公博 理事長

ストレスチェック制度が始まり、働く人の心の健康づくりが求められています。働く人の心の健康の現状はどのようなものでしょうか。
 悲しいことですが、自殺者数が減った現在でも、毎日18.6人のサラリーマンが自ら命を絶っており、その多くに「うつ」があるといわれています。心の健康問題は、長期休職の理由として最も多くなっています。仕事を続けている状態でも、本来の能力を発揮できなくなっており、こうした生産性の低下による経済損失は、自死や休職による損失を大きく上回ると推定されています。また、平成27年は心の健康問題による労災申請が過去最多となりましたが、時間外労働時間別に労災が認められた件数を見ると20時間未満が最多となっていました。働く人の健康を守る上で時間外労働の削減は重要課題ですが、心の健康を守るためには、それだけでは十分ではないといえます。昨年12月から義務化されたストレスチェック制度は、働く人ひとりひとりが自分のストレスの状態を把握し、希望すれば医師に相談をする機会を得ることができます。また、会社は職場のストレスについて把握し、必要性や有効性を検討した上で対策を行うことができるようになります。働く人の心の健康を守るだけでなく、失われている生産性の回復につながるため、ストレスチェック制度は働く人と企業の双方に利益があると思います。

心の健康づくりのためにできることを教えてください。
 まず、心の健康も「つくれる」「予防できる」という認識を持つことが大切です。個人で取り組めることとしては、まずは健康的な生活を心がけることです。メンタルヘルス不調の多くは脳の機能不全が見られます。脳は身体の臓器の一つです。食事や運動、睡眠など一般的にいわれる健康習慣は、心の健康づくりでも基本です。その上で、ストレスチェックで自分の心の状態を確認し、ストレスが強い時には、迷わず専門家に相談すると予防につながります。医師以外でも、会社に保健師がいる場合やカウンセリング窓口がある場合は、そこに相談するのもよいと思います。会社としては、ストレスチェックの結果を踏まえ、心の健康づくりに計画的に取り組む必要があります。ただ、ストレスチェックの結果を活用するためには、専門的な知識が必要です。会社もうまく専門家を利用することが大切だと思います。

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