2015年9月2日水曜日

認知症に伴う行動障害と精神症状(BPSD)


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義  副院長

BPSDとはどのような病気ですか。
 超高齢化社会の中で、誰しもが避けて通ることのできない重要な問題として、認知症に対する関心が高まっています。正常に発達した認知機能が持続的に低下、日常生活に支障を来すようになった状態を認知症といいます。認知症を引き起こす病気で、最も多いのはアルツハイマー型認知症に代表される神経変性疾患です。ほかに、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症などもこの神経変性疾患にあたります。続いて多いのが脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化で脳の機能が損なわれる脳血管性認知症です。
 認知症の症状は、脳の神経細胞が壊れることで起こる「中核症状」と、そこに不安や混乱、環境因子などが加わって起こる「周辺症状」とに分けられます。周辺症状のことを「認知症に伴う行動障害と精神症状」と呼びますが、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは周辺症状の英語略称です。
 認知症の中核症状とは、脳の萎縮や血管病変などによる、①記憶障害(新しいことを覚えられない、以前のことを思い出せない)②実行機能障害(段取りができない、計画が立てられない)③換語障害(物の名前が出てこない)④失行(服の着方や道具の使い方が分からない)⑤失認(品物を見ても何だか分からない)といった症状を指します。現在、日本には少なく見積もって250万人の認知症患者が存在すると推定されますが、そのほとんどが中核症状のみの患者です。
 報告により差はありますが、認知症患者の10〜30%にBPSDが存在するといわれています。BPSDの主な症状としては、物盗られ妄想(財布や通帳がないという)、夜間せん妄(夜中に急に落ち着きがなくなる)、心気症状(実際には何でもないのに過度に身体の具合を気にする)、不眠、抑うつ、徘徊(はいかい)、攻撃的言動、介護への抵抗などが挙げられます。

BPSDの治療法について教えてください。
 BPSDが存在すると患者のQOL(生活の質)の低下のみならず、介護する家族や医療スタッフがとても疲弊するケースが見受けられます。まずは、患者の夜間睡眠を確保し、日中は活動するという睡眠覚醒リズムの確立に努めましょう。患者自身が楽しいと感じられる運動や趣味などでの社会活動を定期的に行い、脳の活性化を図ることも大切です。また、患者の不安を受け止め、不適切な行動や言動にも頭ごなしで怒らないなど、接し方を工夫すると軽減できるケースもあります。
 これらを行っても症状の改善が得られない場合、薬物療法が有効なことがあります。残念ながら現代の医学水準では認知症の中核症状を元に戻すことは困難ですが、BPSDは適切な向精神薬を用いることで改善を認めることがあります。思い当たる症状があれば、まずは精神科、心療内科を受診して相談してみてください。

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