2015年9月24日木曜日

裂肛(れっこう)


ゲスト/札幌いしやま病院 西尾 昭彦 院長

裂肛とはどのような病気ですか。
 痔とは、肛門およびその周辺に起こる病気の総称です。肛門疾患で多いのは、痔核(じかく)、裂肛、痔瘻(じろう)の3つで、外来の約8割を占めます。痔核はイボ痔、裂肛は切れ痔、痔瘻はあな痔とも呼ばれます。
 便秘気味の若い女性に多くみられるのが、肛門内側の皮膚(肛門上皮)が切れる裂肛です。痔の中でも痛い病気の代表です。症状は排便時の痛みが主で、出血はないか、あっても少量です。一度裂けた傷は排便の度に延ばされるため治りにくく、痛みが続くようになります。痛みが嫌で排便を避けるようになると、便がますます硬くなり、症状を悪化させるという悪循環が生じます。
 繰り返し切れて慢性化すると、傷が深くえぐれて潰瘍化していきます。炎症性の肛門ポリープと呼ばれる突起物ができたり、傷の縁の皮膚が盛り上がって肛門が狭くなったりして、排便時の苦痛が増します。トイレの中で気が遠くなるという患者さんもいるほどです。

裂肛の治療について教えてください。
 裂肛の治療は、便を軟らかくして排便を楽にする内服薬や、排便時の痛みを抑えるための塗り薬、肛門に注入する座剤、軟こうなどの外用薬が中心です。
 傷の治療を行いながら、生活習慣を改善して便通を整えることも裂肛治療では大切です。朝食をきちんと取る、水分や食物繊維を十分に取る、便意を我慢しない、適度な運動をするなど、便秘を防ぎ、硬過ぎず軟らか過ぎない“質の良い便”を出す生活を心掛けてください。
 傷が深い、肛門が狭いなどの慢性化した裂肛になると、薬などの保存治療では治らず、外科治療が必要になります。肛門周囲の痛みだけが取れる硬膜外麻酔をして、硬く狭くなった肛門の括約筋を正常な状態になるまでマッサージをして引き延ばす治療です。マッサージの時間は10秒程度で、入院の必要もなく、翌日の排便から痛みがなくなるケースがほとんどです。
 さらに重症例になると、2~3日入院してマッサージに加えて潰瘍やポリープの切除が必要な場合もあります。
 恥ずかしさから受診をためらわれている方も多いようですが、切らずにすむ治療により、痛みのない快適な生活を取り戻せることが多いことを知ってほしいと思います。

2015年9月16日水曜日

アルコール依存症


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

アルコール依存症について教えてください。
 飲酒のコントロールが効かなくなる病気です。健康を損ね、家庭生活や仕事に支障を来しても、お酒をやめることができません。国内にはアルコール依存症の疑いのある人が約440万人いると推計されています。
 アルコール依存症は薬物依存症の一種です。個人の人格や意志の弱さが原因ではありません。繰り返し飲酒することで、お酒に含まれるエチルアルコールという依存性の薬物に対して、脳の神経細胞に耐性が生じ、飲酒量をコントロールできなくなるのです。つまり、お酒を飲む人であれば誰でもかかる可能性のある病気です。
 依存症になると、飲酒を原因とする多種の合併症が生じます。例えば、高血圧、高脂血症、アルコール性肝障害、肝硬変、認知症などが挙げられます。アルコール依存症とうつ病の合併も頻度が高く、お酒に頼る生活が自殺のリスクを高めることも明らかになっています。
 依存症は中高年の男性に多い印象がありますが、若年層や女性の患者も増加しています。特に、未成年の飲酒は発達途上の脳への障害が大きく、ほんの数年で依存症になってしまう危険性があります。飲酒に対し規制が緩やかな日本社会では、中高生からの酒害教育を行っていく必要があるでしょう。

依存症の診断と治療、予防について教えてください。
 依存症の判断基準はいろいろありますが、代表的なものとして「価値観の逆転」があります。大切にしていた家族や仕事、自分の健康より飲酒を優先させる状態のことです。依存症になってしまったら、自分一人の力で抜け出すのは非常に困難で、適切な治療を受けない限り、徐々に悪化していくケースがほとんどです。
 治療には、断酒が必要です。節酒では駄目で、きっぱりやめるしかありません。薬物療法や認知行動療法、断酒会への参加により、断酒につなげていきます。ほかの病気と同じように、軽いうちに治療を始めれば、早期の回復が可能です。重要なのは、病気だと自覚し、正しい知識を得て、有効なやめ方を知ることです。
 依存症の一番の予防は、お酒と病気について正しく知ること。依存症は人生が破綻し、周囲を傷つける進行性の深刻な病気であると理解することが大切です。また、お酒の持つ負の側面を十分に認識し、お酒と安全に付き合っていくことが大切です。

2015年9月9日水曜日

緊張型頭痛


ゲスト/西さっぽろ脳神経外科クリニック 笹森 孝道 院長

緊張型頭痛とはどのような病気ですか。
 「なぜ頭が痛くなるのか?」「何か悪い病気ではないのか?」と頭痛に悩んで受診される方が増えています。不安は痛みを増強させますので、頭痛に対する正しい理解を得ることが重要です。
 頭痛にはさまざまな種類がありますが、脳や体の異常を知らせるサインとしての痛みを「症候性頭痛」といいます。例えば、くも膜下出血、脳腫瘍(しゅよう)など恐ろしい病気の症状として現れます。われわれ医師は、頭痛を訴える患者さんを診るときは、まず他の重篤な病気が隠れていないかを調べるのに時間をかけます。
 頭痛持ちと呼ばれる方の多くは、脳に病気がないのに繰り返し症状が起こる「慢性頭痛」と考えられます。症候性頭痛と異なり、CTやMRIなどの画像検査でも異常は出ません。国内では4人に1人が慢性頭痛を患っているとされ、その数は約3000万人にも上ります。痛みの程度は人それぞれですが、寝込んでしまうほどの痛みなど、日常生活に支障を来す場合もあります。日本では、慢性頭痛が病気であるという認識が薄いため、周囲の理解が得られず、患者さんの苦しみがより大きくなることもあります。
 慢性頭痛の7〜8割を占めるのが「緊張型頭痛」です。首や肩の凝りを伴い、よく「鉢巻きを締められているような痛み」と表現されます。後頭部に圧迫感や頭重感があり、鈍い痛みが続きます。長時間同じ姿勢でいることや運動不足、精神的なストレスが背中から肩、首にかけての筋肉の緊張を引き起こし、頭を締め上げます。終日座りっぱなしのパソコン作業などは、緊張型頭痛の大きな原因で、まさに現代病の一つといえるでしょう。

緊張型頭痛の治療について教えてください。
 治療は、痛みの程度に応じて各種鎮静剤や筋肉を和らげる薬を使います。緊張型頭痛や頑固な筋肉のこわばりには、過度のストレスが関わっていることが多く、リラックスを心掛けることが治療の重要なポイントです。薬の治療に加えて、ストレッチ体操やヨガ、ゆっくりとお風呂に入って筋肉を温めるなどの方法も有効です。
 長時間同じ姿勢でいることを避ける、適度にストレスを発散させる、仕事の合間に外の空気を吸って気分転換をする、軽いストレッチをするなど、心と体のリフレッシュが治療効果を高めます。

2015年9月2日水曜日

認知症に伴う行動障害と精神症状(BPSD)


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 山中 啓義  副院長

BPSDとはどのような病気ですか。
 超高齢化社会の中で、誰しもが避けて通ることのできない重要な問題として、認知症に対する関心が高まっています。正常に発達した認知機能が持続的に低下、日常生活に支障を来すようになった状態を認知症といいます。認知症を引き起こす病気で、最も多いのはアルツハイマー型認知症に代表される神経変性疾患です。ほかに、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症などもこの神経変性疾患にあたります。続いて多いのが脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化で脳の機能が損なわれる脳血管性認知症です。
 認知症の症状は、脳の神経細胞が壊れることで起こる「中核症状」と、そこに不安や混乱、環境因子などが加わって起こる「周辺症状」とに分けられます。周辺症状のことを「認知症に伴う行動障害と精神症状」と呼びますが、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは周辺症状の英語略称です。
 認知症の中核症状とは、脳の萎縮や血管病変などによる、①記憶障害(新しいことを覚えられない、以前のことを思い出せない)②実行機能障害(段取りができない、計画が立てられない)③換語障害(物の名前が出てこない)④失行(服の着方や道具の使い方が分からない)⑤失認(品物を見ても何だか分からない)といった症状を指します。現在、日本には少なく見積もって250万人の認知症患者が存在すると推定されますが、そのほとんどが中核症状のみの患者です。
 報告により差はありますが、認知症患者の10〜30%にBPSDが存在するといわれています。BPSDの主な症状としては、物盗られ妄想(財布や通帳がないという)、夜間せん妄(夜中に急に落ち着きがなくなる)、心気症状(実際には何でもないのに過度に身体の具合を気にする)、不眠、抑うつ、徘徊(はいかい)、攻撃的言動、介護への抵抗などが挙げられます。

BPSDの治療法について教えてください。
 BPSDが存在すると患者のQOL(生活の質)の低下のみならず、介護する家族や医療スタッフがとても疲弊するケースが見受けられます。まずは、患者の夜間睡眠を確保し、日中は活動するという睡眠覚醒リズムの確立に努めましょう。患者自身が楽しいと感じられる運動や趣味などでの社会活動を定期的に行い、脳の活性化を図ることも大切です。また、患者の不安を受け止め、不適切な行動や言動にも頭ごなしで怒らないなど、接し方を工夫すると軽減できるケースもあります。
 これらを行っても症状の改善が得られない場合、薬物療法が有効なことがあります。残念ながら現代の医学水準では認知症の中核症状を元に戻すことは困難ですが、BPSDは適切な向精神薬を用いることで改善を認めることがあります。思い当たる症状があれば、まずは精神科、心療内科を受診して相談してみてください。