2014年1月29日水曜日

神経障害性疼痛


ゲスト/札幌宮の沢脳神経外科病院 村上 友宏 医師

神経障害性疼痛とはどのような病気ですか。
 打撲や炎症による痛みを侵害受容性疼痛といい、神経が障害されて起こる痛みを神経障害性疼痛といいます。代表的なものには、座骨神経痛、帯状疱疹(ほうしん)が治った後の痛み、糖尿病に伴う痛みやしびれなどがあります。あまり知られていませんが、脳卒中や脊髄損傷による痛みも含まれます。
 手足の指先や手のひら、足の裏などに、①針で刺したような②電気が走るような③正座をした後のような、痛みがある場合や、④衣類がすれたり、冷風に当たったりするだけで痛い、などのような症状がある場合は、神経障害性疼痛が疑われます。
 神経障害性疼痛には、通常の鎮痛薬はほとんど効果がないことが多いです。また、痛みは我慢を続けると慢性化し治りにくくなる恐れがあります。気になる痛みのある人は、慢性化してしまう前に、早期に原因を発見し適切な治療を行うことが大切です。

神経障害性疼痛の治療について教えてください。
 さまざまな薬剤を病態や症状に合わせて使い分ける薬物療法が中心です。その他、神経の周囲に局所麻酔薬を注射して、痛みを抑える神経ブロック療法や、運動療法、温熱療法などを組み合わせることもあります。
 薬や神経ブロックなどが効かない患者さんには、脊髄に弱い電気を流すことで、痛みの信号を脳に伝わりにくくする「脊髄刺激療法」という治療法もあります。先端に電極が付いたリードを、脊髄の外側にある硬膜外腔といわれる部分に挿入し、電気を流して疼痛部にトントンと、軽く叩くような心地よい電気刺激を感じるかどうかを確かめます。これをトライアルといい1週間ほどその効果を試します。痛みが半分以下になった場合、効果ありと判定し、電気信号を発生させる小型の装置を体内に埋め込む手術を行います。装置のオン・オフや、刺激の強さを患者さん自身が専用装置を使い体外から操作します。この治療で痛みがなくなるわけではありませんが、鎮痛薬を減らすことができる、不眠から開放されるなど生活の質の向上につながります。痛みに対し、さまざまな治療を行っても満足する効果が得られない人は、専門医に相談してみるといいでしょう。

2014年1月22日水曜日

歯科金属アレルギー


ゲスト/医療法人社団アスクトース 石丸歯科診療所 近藤 誉一郎院長

歯科金属アレルギーとはどのようなものですか。
 虫歯などで歯に詰めた金属が、アレルギーの原因になる場合があることが分かっています。これを歯科金属アレルギーといいます。歯の詰め物以外にも差し歯や金属の付いた入れ歯などあらゆる歯科材料で起こり得ます。
 アレルギーを引き起こしやすい金属には、ニッケル、水銀、パラジウム、コバルトなどがあります。金や銀などにも反応する人もいます。生体親和性の高い金属・チタンでもわずかにアレルギー発症の報告があります。
 実は、金属そのものがアレルギーの原因になることはありません。金属が唾液や皮膚などの生体成分に触れることでイオン化し、表皮や粘膜のタンパク質と結合、本来生体には存在しない異種タンパクが作られます。この異種タンパクに対する拒絶反応としてアレルギー反応を起こします。近年、口腔(こうくう)内に多種類の金属が認められるとイオン化の傾向が強くなり、アレルギー症状が出やすくなることも分かってきました。
 代表的な症状には、直接局部で起こる接触性皮膚炎と、接触しない部位に発症する全身性皮膚炎があります。口の中では、頬、下、口唇、歯肉の粘膜に白い斑点やレース状の病変として現れる扁平苔癬(へんぺいたいせん)や舌炎、歯肉炎、味覚異常などの病気があります。全身性のものでは、手のひらや足の裏の小さな水膨れ、顔、手、背中の湿疹のほか、アトピーに似た症状を示すものもあります。

歯科金属アレルギーが疑われる場合どうしたらいいでしょうか。
 まずはかかりつけ歯科医に相談をして、専門の医療機関を紹介してもらい金属アレルギーを調べるパッチテストを受けることが大切です。原因となっているアレルゲン(アレルギーを起こす物質)を突き止め、直接の原因となっている金属を取り除く治療を行います。除去した後は、金属アレルギーが比較的少ない金属に換えますが、種類によっては保険外となるので注意が必要です。
 近年では、保険適用の樹脂(コンポジットレジン)も以前より強度が上がり、使用できる範囲も広がっていますが、修復物の大きさや治療する部位によっては適応が難しいケースもあります。除去した後、そのままの状態にしておくわけにはいきませんので、事前にかかりつけ歯科医と十分に相談してから治療を受けることをお勧めします。

2014年1月15日水曜日

精神疾患からの復職


ゲスト/医療法人社団 正心会 岡本病院 岡本 呉賦 院長

精神疾患による休職者の職場復帰が大きな課題となっていますね。
 成果主義の広まりや長時間労働のストレスで、うつ病など心の病を訴える人が増えています。一方で、国は精神疾患の患者の雇用を義務化する動きを強めており、職場へのスムーズな復帰支援が大きな課題となっています。
 厚生労働省の研究では、病気が回復し、復職しても1年以内に約3〜5割が再発し、再休職したとのデータがあります。職場に復帰しても「みんなに迷惑を掛けた」「もっと頑張らないと」などと考え、自ら重圧をかけてしまったり、病気の回復レベルと職場が求める仕事レベルにギャップが生じ、頑張りすぎて心身ともに消耗したりで、再発や休職を繰り返すケースが目立ちます。
 近年、精神疾患の患者の職場復帰を支援する「リワーク」が広まっています。職場に見立てた疑似オフィスに患者が通い、復職訓練を行うものです。内科や外科の病気と同様、心の病にも復職前に一定のリハビリが必要です。長期間の療養中に体力が落ち、生活のリズムが崩れたり、従来の仕事をこなすために必要な集中力や記憶力が低下したりしているケースが多いからです。リハビリの内容は病気により異なりますが、復帰予定の業務に合わせた作業やコミュニケーションの訓練、体力回復のためのスポーツなどを通して、心と体を徐々に仕事に慣らしていきます。単に職場に戻るためだけではなく、再休職を防ぐのも大きな狙いです。

職場復帰にあたってのポイントを教えてください。
 復職や再発防止には、職場の理解と協力が欠かせません。職場の上司や人事担当者などに来院してもらい、患者と主治医、看護師や精神保健福祉士などのスタッフが同席し、病状の回復具合について情報共有を図る場を設け、じっくりと話し合うことが重要です。患者が何をどのようにできるところまで治ったのか、課題として残っているのはどんな部分かを会社側に説明し、慣らし出社やリハビリ勤務など復職後の働き方や、職場環境の調整などについて考えていきます。その上で、復職に向けたスケジュールを作成し、作業訓練などのリハビリをスタートさせます。
 心の病は誰もがかかり得る病気です。職場全体が精神疾患や心の健康について正しい知識を持ち、そうした人たちをそばで温かく見守り、支えていく仕組みを整備することも大切です。

2014年1月8日水曜日

視力検査で分かること


ゲスト/ふじた眼科クリニック 藤田 南都也 院長

視力検査について教えてください。 
 眼科では、さまざまな治療の折に視力検査を勧めます。視力に不安がないと断る人もいますが、視力検査からはいろいろなことが分かります。単に「視力」といっても裸眼の視力だけではなく、近視、遠視、乱視などの屈折異常や、矯正レンズを当てた状態で良好な視力を得られるかどうかの検査まで行います。
 例えば、小学生のお子さんの視力が0.8程度である場合、「授業に支障がなければ問題ない」と考える親御さんも多いかもしれません。しかし、強い遠視があるケースでは矯正レンズを当てても良好な視力を得られないことがあります。これは「弱視」という病気です。早期に弱視を発見し、適切な治療を受ければ視力回復につながりますが、小学校高学年以降になると治療は難しくなります。成人後も、日常生活や運転免許の取得に支障を来すこともあります。
 「見えづらい」原因が、近視・遠視のどちらによるものかを区別するのは難しく、学校の視力検査で不良を指摘されたら眼科での詳しい検査が必要です。

視力検査では、他にどんな病気が見つかりますか。
 成人の場合、高血圧の人に発生する網膜静脈閉塞(へいそく)症や、糖尿病網膜症などの、起こる部位によっては視力障害が出ます。
 ご年配の方の場合、白内障による視力低下と思い込んでいたのが、実は加齢黄斑変性症という別の病気による場合も少なくありません。普段両目で見ていると片目に異常があってもなかなか気付きにくいものです。眼科で片目ずつ視力を測定して初めて見つかるケースも多いです。
 強度近視の場合は、網膜が平均より薄く、網膜剥離(はくり)などの重大な病気を引き起こす可能性が高くなります。一定以上の近視と判明したら眼底の精密検査をお勧めします。
 中高年以降で、急に手元が見やすくなってきた場合には、白内障が始まり、水晶体の中心部が固くなって近視化を起こしている可能性があります。さらに白内障が進行すれば矯正視力も低下してきますが、裸眼視力の検査だけでは視力低下の原因をはっきりと判断できません。 
 視力検査が、目に隠れているさまざまな病気の早期発見につながるケースは珍しくありません。特別な症状がなくても、定期的に眼科を受診するようにしましょう。

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