2013年10月23日水曜日

糖尿病


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

糖尿病が怖いといわれるのはなぜですか。
 糖尿病の患者は推定で約890万人、予備軍も含めると約2210万人に上ります。そのうち90%以上が、すい臓から分泌されるインスリン量が低下するか、分泌されてもその作用が十分に働かない2型糖尿病です。
 糖尿病の多くは、ほとんど自覚症を現しません。ひどくなると、初めて「疲れやすい」「喉が異常にかわく」「多尿になった」などの症状を訴え、さまざまな合併症を引き起こします。糖尿病の怖さは糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害など全身に及ぶ合併症にあります。
 糖尿病網膜症は現在、年間4000人が失明する成人の失明原因の第2位です。糖尿病腎症が原因で腎不全に陥り、新たに人工透析治療を受ける患者は現在、年間1万6000人以上に達しています。また、手足にしびれや痛みの出る糖尿病神経障害は、患者にとって非常につらい合併症の一つです。さらに、糖尿病は全身の動脈硬化を早め、心疾患や脳梗塞、下肢動脈閉塞症など命に関わる病気を引き起こす大きな要因にもなります。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本です。過食や運動不足といった悪習慣を改善しても血糖値を十分にコントロールできない場合、薬物療法が行われます。
 糖尿病の治療薬にはいくつか種類がありますが、2009年に登場したインクレチン関連薬によって治療が新たな段階を迎えました。インクレチン関連薬は、血糖値が高いときだけ作用して正常なときには働かないため、従来薬に比べ、低血糖を起こしにくく、体重増加がないという特徴があります。比較的早期から血糖値を安定させ、合併症の予防にも高い効果が期待されています。
 飲み薬では十分な血糖コントロールが得られない場合は、インスリン注射の出番となります。即効性のインスリン注射を毎食前に打ち、さらに一日中効果が持続する持効型のインスリン注射を1回打つ、1日計4回注射の強化療法が広く行われています。一方、以前は飲み薬の効果が低下してから始めていたインスリン注射を、早期に始める治療も広がってきました。最近では、飲み薬と併用して、持効型のインスリンを1日1回だけ注射する治療法も普及しています。インスリン治療を始める人には簡便で、最も受け入れやすい方法です。

2013年10月21日月曜日

子どもの矯正歯科治療に最適な開始


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

子どもの矯正治療はいつから開始すればいいですか。
 他の先進諸国と比較して、日本人の歯並びに対する意識は低いといわれます。欧米では、子どもが矯正装置を付けているのは日常的な光景ですが、日本ではまだ矯正治療にネガティブなイメージを持っている人が少なくないようです。とはいえ、近年は歯並びやかみ合わせの重要性が徐々に理解され始め、「きれいな歯並びを」という親心で歯を矯正する子どもたちが増えているのは喜ばしいことです。
 「矯正はいつ始めればいいですか」と聞かれることがよくあります。矯正治療に年齢制限はありませんが、顎の骨が成長途中にある子どものうちに行うのがベストでしょう。成長する力を利用することで、正しくかめるように骨格を誘導し、スムーズに歯並びやかみ合わせを改善できるからです。将来の抜歯や手術を回避できる可能性も上がります。また、この時期の矯正治療は使用できる装置の選択肢が豊富で、それぞれの子どもに合った治療方法を選べるというメリットもあります。
 ただし、矯正治療の開始時期というのは、歯並びの現状、歯や骨の発育状況などによって変わってきます。まずは矯正歯科医で検査を受けることが第一歩です。

矯正歯科医で検査を受けるのに最適な時期はありますか。
 小学校の就学時、もしくは上下前歯が乳歯から永久歯に生え替わるタイミングで、一度矯正歯科医を受診し、歯並びやかみ合わせを点検することをお勧めします。この時期にかみ合わせを見ると将来の歯並びが予測できます。はっきりと外見から分かる症例だけでなく、一般の方の目にはほとんど分からない不正咬合(こうごう)の兆候も見ることができます。治療が必要かどうか、治療を始める時期はいつごろかなど、子どもの歯並びの現状と将来の見通しの説明を受けるチャンスと考え、気軽に相談してみてください。
 歯並びやかみ合わせが悪いと、よくかんで飲み込むという顎の機能がうまく育たない、発音が不明確になりやすいといった悪影響を及ぼします。呼吸や姿勢などの機能や全身の発育に影響するとの報告もあります。心理的にも口元の形の悪さがコンプレックスのもとにもなりかねません。子どもの口腔ケアには、保護者の協力が不可欠です。「子どもの将来の安心」につながることを理解いただき、歯と口の中のことも気に掛けてあげてください。

2013年10月9日水曜日

ストレス社会を生き抜くために


ゲスト/医療法人社団五稜会病院 千丈 雅徳 院長

ストレス社会を生き抜くために必要なことは何ですか。
 私たちが、ストレスあふれる現代社会を生き抜いていくために大切なのは「心の安全地帯」です。今日の出来事をみんなで一緒に喜び、あるいは泣いて、傷ついた心を癒し、スッキリとして、明日からまた新たな一歩を踏み出していけるような人間関係や場所。そんな「心の安全地帯」がどうしても必要です。
 誰もが皆、程度はさまざまですが、不安感を抱え、緊張感の中で生きています。しかし、それをそのまま受け取らないで、10倍にも100倍にも膨らませてしまう人もいます。また、現代社会では効率を重視するあまり、何事についても「早く、早く」とせかされる場面が多く、失敗は許されない、ペナルティーが待っているなどの不安をあおり立てられます。時間に追われると、焦ってしまい、冷静さを失い、できることにも手が付けられなくなります。不安が大きくなると、客観的に自分を見る力を失っていきます。
 「心の安全地帯」とは、不安感や強い緊張感に支配されても、いつでも逃げ込める場です。優しい言葉を掛けてくれる気心の知れた人がいて、ホッと一息つける場、痛みそうな心を癒やしてくれる場です。混乱した考えを整理することができ、「大丈夫、何とかなりそうだ」という気持ちにしてくれる場です。そして、世の荒波に立ち向かっていこうという勇気を与えてくれる場です。「頑張り過ぎない自分でいてもいいんだよ」と言ってもらえる「心の安全地帯」があってこそ、先の見えにくいこの社会の中でストレスを抱えながらも立っていることができるのです。
─「心の安全地帯」とは、具体的にはどのような人間関係や場所のことをいいますか。
 一言でいうなら、気の休まる人間関係や場所のことです。家族と一緒にいる時が最もリラックスできるという人もいれば、友人と遊んでいる時や一人で読書をしている時がストレスを発散できる、落ち着くという人もいるでしょう。また、自宅の居間、自分の部屋が一番癒やされると感じる人もいれば、お気に入りの喫茶店が一番ゆったりくつろげるという人もいます。
 「心の安全地帯」は、家族や友人、自宅や行きつけのお店以外でも、今日から、ここから広げていくことが可能です。例えばインターネットによるコミュニケーションもリスクは伴いますが、賢く利用することで、お互いの気持ちを受け止め合って、応援し合える仲間と出会うことができるかもしれません。
 ただし、「心の安全地帯」は特定の人やグループに限定しないことも大事です。いつも離れずにべったりとくっついている関係は、やがて息苦しいものになったり、予期せぬ負の感情(嫉妬やねたみ)が生じさせたりする可能性があるからです。また、あまりに多くの人と知り合って、かえって煩わしくなるのも考えものです。
 なかなか「心の安全地帯」を持てない場合は、心療内科や精神科でカウンセリングという形で行われる治療手段を利用するのも一案です。

2013年10月2日水曜日

バレット食道


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

バレット食道とはどのような病気ですか。
 食道は、体表の皮膚と類似した「扁平(へんぺい)上皮」という粘膜で覆われています。その扁平上皮の粘膜が、胃の粘膜に似た「円柱上皮」に置き換わった状態をバレット粘膜といい、その食道をバレット食道と呼んでいます。
 バレット食道は、食道腺がん(バレット腺がん)に移行すると考えられています。バレット粘膜からバレット腺がんへのがん化の原因は、円柱上皮への置換と遺伝子異常が関与しているとされますが、まだ十分には解明されていません。
 欧米では、食道がんの約半数はバレット食道から発生する腺がんであり、バレット食道は腺がんの発生母地(ぼち)として注目されています。日本では、食道がんの90%以上は扁平上皮から発生するがんなのですが、ライフスタイルの欧米化などにより、将来的にバレット腺がんの増加が危惧されています。
 欧米の定義によると、本来の食道胃接合部(食道壁と胃壁の境界部)から食道側への円柱上皮のはい上がりが3cm未満(ショートバレット食道:SSBE)と3cm以上(ロングバレット食道:LSBE)に分けて考えた場合、後者の方が食道がんの発生頻度が高いといわれています。欧米の報告ではLSBEが多くなっていますが、日本ではほとんどがSSBEで、LSBEまで進展する症例は少数です。

バレット食道の症状、治療について教えてください。
 症状としては、逆流性食道炎にみられる胸やけや苦い水が上がってくるなどを訴える人が多いのですが、まったく無症状の人も少なくありません。特にLSBEの症例では、酸逆流に対する知覚のメカニズムが荒廃している可能性があり、そのため無症状のままLSBEが継続し、がんが発生・進行して症状が出るまで気付かないというケースがあると推測されています。
 治療は、日本ではがんの発生頻度が低いことから、無治療あるいは酸分泌抑制薬の内服だけで経過を見ることが多くなっています。欧米では、発がん予防の観点からバレット食道に対する内視鏡的焼灼(しょうしゃく)術も試みられていますが、日本ではほとんど行われていません。
 近年の内視鏡技術の進歩により、極めて早期のがんを発見できるようになってきました。バレット食道と診断された場合、専門医を定期的に受診し(年1〜2回)、内視鏡検査を受けることをお勧めします。

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