2013年9月25日水曜日

小児の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と顎(がく)変形症


ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

小児の睡眠時無呼吸症候群(SAS)について教えてください。
 先日、全国ネットの情報番組でも取り上げられていましたが、夜中にいびきをかいたり息が止まったりしてぐっすり眠れないSASが、子どもの間で増えています。子どものSAS患者の割合は海外で1〜3%と報告されていますが、診断されずに治療を受けないでいる潜在患者は相当数に上るといわれ、国内でも治療全般についての普及啓発活動が活発化しています。
 SASは、睡眠時に呼吸が止まるなどして深い睡眠が得られず、日中に耐え難い睡魔に襲われます。国内では2003年に新幹線の居眠り運転による事故で注目されました。子どもの場合、成人に多い居眠りより、注意散漫や粗暴な行動などの症状が見られ、生育の遅れを引き起こす要因にもなるといわれています。
 子どものSASは、扁桃(へんとう)肥大・アデノイドを原因とする症例が大多数を占めます。そのため、耳鼻咽喉科での治療が主体となるケースが多いのですが、いびきの原因として、下顎が小さいまたは後退している(小顎症、下顎後退症)など顎変形症が認められる場合、矯正歯科での矯正治療を検討する症例もあります。

顎変形症の矯正治療について教えてください。
 顎変形症には、反対咬(こう)合(受け口)、上顎前突(出っ歯)、開咬(上下の歯がかんでいない状態)、顎偏位(顔や顎が曲がった状態)などがあります。その中でもSASに深く関わる小顎症や下顎後退症は、横顔を見ると顎の部分が奥に引っ込んでいるのが特徴です。下顎が後ろにあるため気道が狭くなっていることが、SASの発症につながると考えられています。症例によって、また専門医のアプローチによって治療はさまざまですが、下顎の骨を前方に移動させる治療が基本となります。変形が大きい場合、外科手術を行うこともあります。
 顎変形症の傾向がある人は、子どものうちに治療する方が良い結果を得られる場合が多いです。成人してからでは、抜歯や手術を要するような症例でも、骨が軟らかい成長途中の子どものうちに治すことで、より自然に症状を改善できるからです。
 子どもの小顎症や下顎後退症は、反対咬合や上顎前突と比べると気付きにくいため、そのまま放置されているケースが多いです。SASの危険性を避けるためにも、ぜひ一度専門医の診察を受けることをお勧めします。

2013年9月18日水曜日

「脳梗塞(こうそく)」について


ゲスト/コスモ脳神経外科 小林 康雄 院長

脳梗塞について教えてください。
 脳梗塞は虚血性の脳卒中で、脳の血管が血栓などによって詰まったり、動脈硬化によって血管が狭くなるなどして起こる疾患です。その背景となるのは基本的には、メタボリック症候群です。内臓脂肪が過剰になると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすく、動脈硬化が急速に進行します。
 脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡などが挙げられます。突然起こる場合が多いのですが、場合によっては予兆となる症状があります。半身のしびれ、口のもつれなどで、このような症状が表れた場合は、迅速にかかりつけ医の指示をあおぐか、脳神経外科へ直行することをお薦めします。発症後3時間以内であれば、血栓や塞栓(そくせん)を溶かす薬を使って治療します。効果があれば、比較的後遺症が軽くすみます。投薬治療ができない場合は手術となりますが、この場合も治療までに要する時間が短いほど、後遺症を軽くすることができます。いかに迅速に治療を始めるかが、予後に大いに関係してきます。
 
脳梗塞を予防するにはどうすればいいですか。
 30代、40代で動脈硬化が始まりますから、会社などの健康診断でメタボリックシンドロームの兆候があれば、普段の生活習慣を見直しましょう。食事は塩分を控え日本食中心にし、適度な運動、禁煙、節酒を心掛ける。ストレスや寝不足などで疲労が蓄積しないように規則正しい生活を目指しましょう。
 また、健康診断で不安要素があったり、動脈硬化症の近親者がいる場合は、一度「脳ドック」を受けることをお薦めします。レントゲン検査で頭と首の健康状態を調べ、MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の断層写真を撮り、MRA(磁気共鳴血管造影)で血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)部分・脳動脈瘤(りゅう)の発見、動脈硬化の程度などを調べます。健康保険の適用外になりますが、1~2時間程度で受けられます。脳梗塞は一度発症すると命にかかわり、後遺症の影響も大きい疾患です。自分の健康・生活を守るためにも、予防を心掛けましょう。

2013年9月11日水曜日

アルコール依存症


ゲスト/医療法人 耕仁会 札幌太田病院  太田 健介 院長

アルコール依存症について教えてください。
 飲酒のコントロールが効かなくなる病気です。健康を損ね、家庭生活や仕事に支障を来しても、お酒をやめることができません。国内にはアルコール依存症の疑いのある人が約440万人いると推計されています。
 アルコール依存症は薬物依存症の一種です。個人の人格や意志の弱さが原因ではありません。繰り返し飲酒することで、お酒に含まれるエチルアルコールという依存性の薬物に対して、脳の神経細胞に耐性が生じ、飲酒量をコントロールできなくなるのです。つまり、お酒を飲む人であれば誰でもかかる可能性のある病気です。
 依存症になると、飲酒を原因とする多種の合併症が生じます。例えば、高血圧、高脂血症、アルコール性肝障害、肝硬変、認知症などが挙げられます。アルコール依存症とうつ病の合併も頻度が高く、お酒に頼る生活が自殺のリスクを高めることも明らかになっています。
 依存症は中高年の男性に多い印象がありますが、若年層や女性の患者も増加しています。特に、未成年の飲酒は発達途上の脳への障害が大きく、ほんの数年で依存症になってしまう危険性があります。飲酒に対し規制が緩やかな日本社会では、中高生からの酒害教育を行っていく必要があるでしょう。

依存症の診断と治療、予防について教えてください。
 依存症の判断基準はいろいろありますが、代表的なものとして「価値観の逆転」があります。大切にしていた家族や仕事、自分の健康より飲酒を優先させる状態のことです。依存症になってしまったら、自分一人の力で抜け出すのは非常に困難で、適切な治療を受けない限り、徐々に悪化していくケースがほとんどです。
 治療には、断酒が必要です。節酒では駄目で、きっぱりやめるしかありません。薬物療法や認知行動療法、断酒会への参加により、断酒につなげていきます。ほかの病気と同じように、軽いうちに治療を始めれば、早期の回復が可能です。重要なのは、病気だと自覚し、正しい知識を得て、有効なやめ方を知ることです。
 依存症の一番の予防は、お酒と病気について正しく知ること。依存症は人生が破綻し、周囲を傷つける進行性の深刻な病気であると理解することが大切です。また、お酒の持つ負の側面を十分に認識し、お酒と安全に付き合っていくことが大切です。

2013年9月4日水曜日

非結核性抗酸菌症


ゲスト/白石内科クリニック 干野 英明 医師

非結核性抗酸菌症とはどのような病気ですか。
 抗酸菌は大きく二つに分けられます。一つが結核菌です。これは人から人に感染します。結核菌以外の抗酸菌は非結核性抗酸菌と呼ばれ、人から人に感染しないのが特徴です。
 非結核性抗酸菌は約150種類ほどあり、そのうち人間に感染するのは約20種類です。この菌は水の中や土壌に存在するので、日常的に接する機会は多いですが、毒性が弱いため、一般的には感染することは少ないです。しかし、免疫力が低下している場合などに感染すると、気管支に炎症を起こし、咳(せき)、痰(たん)、発熱などの症状が現れます。
 非結核性抗酸菌のうち、最も多くみられるのは全体の約70%を占めるアビウム・コンプレックス菌で、通称マックと呼ばれます。中高年の女性に発症するケースが多く、レントゲンでは肺の中・下肺野(かはいや)を中心に病変が発見されます。マックに次いで多いのが、若い男性への感染が増加しているカンサシ菌で、全体の約20%を占めます。
 現在の日本では、以前に猛威を振るった結核は減っていますが、非結核性抗酸菌症は増加傾向にあり、特にマック症は急増しています。

非結核性抗酸菌症の診断、治療について教えてください。
 非結核性抗酸菌症は、比較的毒性が弱く、感染しても数年単位でゆっくりと悪化していくことが多いため、初期段階には自覚症状がない場合があります。レントゲンを撮って初めて、この病気を指摘されることも珍しくありません。レントゲンやCT(コンピューター断層撮影装置)で肺に病変がみられ、喀痰(かくたん)検査で菌が検出されると確定診断となります。ただし、1回の検出では不十分で、2回以上繰り返して菌を見つけることが必要です。
 この病気は、治療なしでも進行しない場合があり、菌が検出されて診断がついても、経過観察した上で治療の開始を判断することがあります。治療開始の基準としては、排菌量が多い、肺に空洞病変がある、血痰などの自覚症状が強いケースなどが挙げられます。
 治療は、抗生剤のクラリスロマイシンと抗結核剤のエタンブトール、リファンピシンなどを併用する薬物療法が中心です。治療は1年〜数年間という長期にわたることが多いですが、中断せずに薬を服用することが大切です。病巣が狭い範囲内に限られている場合には、外科的に切除することもあります。

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