2013年4月24日水曜日

緑内障と近視


ゲスト/札幌エルプラザ 阿部眼科 阿部 法夫 院長

緑内障と近視の関係について教えてください。
 眼圧の上昇などに伴う視神経障害により、視野が狭くなる緑内障。その多くは痛みがなく、症状もゆっくりと進んでいくため異変に気付きにくいのが特徴です。40歳以上では17人に1人、70歳以上では10人に1人が発症し、中途失明の原因のトップにもなっています。今後、高齢化が進んでいくと、患者さんの数はさらに増えると予想されます。
 近視があると緑内障発症のリスクが2〜3倍になることが以前から知られていましたが、近年、緑内障と近視の関係が注目されるようになり、緑内障の危険因子が加齢、眼圧と近視であることが疫学調査でも明らかになってきました。
 近視は近くが見やすく遠くが見えにくい状態です。成人の眼球は直径約24ミリですが、近視が強い場合、目の前後の長さ(眼軸長)が延長し、約27〜30ミリとなります。眼軸長が長くなることで、視神経が集中する視神経乳頭が変形し、血液が流れにくくなることなどが緑内障の原因につながっていると考えられています。また、近視眼は眼圧に弱い構造であるとのデータも得られつつあります。

緑内障の診断と治療について教えてください。
 緑内障の検査には、眼球の内圧を測る眼圧検査、視神経の異常の有無を調べる眼底検査、視野に欠けている部分がないかを確認する視野検査があります。さらに、眼球の前方及び後方の断層画像を撮影できる検査機器「OCT(光干渉断層計)」を使い、緑内障の有無やその進行を調べるのが一般的です。
 近視眼緑内障では近視性視神経症、緑内障性視神経症との判別をしながら総合的な診断が必要になります。特に強度近視眼緑内障の場合は、OCTの画像解析が困難で、早期診断の難しさが指摘されています。
 治療は、点眼薬などで眼圧を下げて、症状の進行を食い止めることが主流となっています。最近よく「レーシック治療」と「IPS細胞」について質問されますが、レーシックは近視の治療であり、緑内障の治療にはなりません。また、IPS細胞を用いた網膜の再生治療ですが、実用化されるのはまだ先のことです。
 成人の眼科受診率は低く、中には一度も受診したことがない人もいるようです。40歳を過ぎたら自覚症状がなくても一度は、眼科で検診を受けることをお勧めします。

2013年4月17日水曜日

骨粗鬆症


ゲスト/札幌駅前アップルレディースクリニック 工藤 正史 院長

骨粗鬆(しょう)症について教えてください。
 「骨が折れやすくなる」「骨がスカスカになる」という骨粗鬆症は、日本では男女合わせて約1300万人ほどになっています。骨が折れやすくなった場合、くしゃみやせきをしただけでも、あばら骨が折れたりすることもあります。昔は高齢になると骨がもろくなり折れやすくなるのは当たり前と考えられてきましたが、現在では生存期間の延長だけでなく生活の質の維持向上が求められます。従って骨折の予防は重要で、骨粗鬆症治療の意義はここにあります。
 女性は閉経に伴う女性ホルモンの低下を契機に骨量が急激に減少します。女性の発症率は男性に比べ3~4倍も高くなっています。骨粗鬆症は痛みなどの自覚症状がありませんので定期的な検査が重要です。特に閉経後や、卵巣機能不全のある方、腰痛を訴える方、骨粗鬆症の家族歴のある方、やせている方、副腎皮質ステロイド内服、甲状腺機能異常のある方は積極的な骨密度測定が必要です。最小限必要な血液検査は血清カルシウム、リン、アルカリフォスファターゼです。
 骨粗鬆症の診断は数種類ありますが、DXA法(デキサ法)による腰椎と大腿骨頸部(けいぶ)の骨密度測定が重要です。X線で脆弱性骨折(小さな外力によって発生する骨折)があれば骨粗鬆症、骨折がなくても骨密度が若年女性平均(YAM)の70%未満なら骨粗鬆症、70~80%なら骨量減少となります。
 骨粗鬆症と診断された場合は、薬物治療にて骨量低下を防止し骨折を予防します。さらに生活習慣や食事療法含めたライフスタイルの改善が必要です。1日800mgを目標にカルシウムを摂取しましょう。タバコやアルコールなどの多量摂取や高塩分食などは避けましょう。適度な運動の継続は骨量低下や骨折の防止に対しては有効で、散歩や水泳、体操などで背筋の強化運動もお勧めです。
 若い人も骨粗鬆症にならないために骨量をしっかり蓄積することが大切です。女性の骨量は20歳頃に最大値となり、その後40歳頃まではほぼ一定ですが、その後は徐々に減少するからです。成長期の方も無理なダイエットを避けバランスのよい食事と運動、いつの時代も大切なことは一緒です。
 転んで手をついただけで骨折にならないようしっかりと予防して下さい。

2013年4月10日水曜日

大腸がん


ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

大腸がんが増えていると聞きましたが。
 厚生労働省の調査によると、日本の大腸がん患者はこの50年間で男性は約7倍、女性は約6倍に増加しています。2003年以降は、女性のがん死亡原因の第1位ともなっています。大腸がんは今後ますます増え、15年には胃がんと肺がんを抜き、部位別のがん死亡率でも首位になるのではないかと懸念されています。
 これまで欧米に多かった大腸がんが、日本でも増加した原因としては、食生活の欧米化により、動物性脂肪の摂取が増えたことなど、生活習慣の比重が大きいと考えられています。
 大腸の壁は内側から粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)に分かれます。がんは粘膜層で発生し、粘膜下層、固有筋層へと広がっていきますが、粘膜層にとどまるがんならほぼ100%治ります。また、進行したがんでも手術が可能な時期であれば、他臓器への転移が見られても完治の可能性があります。
 大腸がんの初期はほとんど自覚症状がなく、発見されにくいですが、胃がんや食道がんなど他の消化器がんと比べて進行が遅く、転移も少ないので、定期検査による早期発見が非常に有効ながんだといえます。

大腸がんの検査と治療について教えてください。
 代表的なのは健康診断などで行われる、便潜血検査です。肉眼では見えない出血も、この検査で分かります。陽性と判断されたら、バリウム検査(注腸造影検査)や大腸内視鏡検査を行います。近年は精度の高い内視鏡検査が主流となっています。検査器具も技術も進歩しているので、以前に比べ苦痛が軽減されてきています。症状の有無によらず、定期的な便潜血検査、内視鏡検査をお勧めします。
 治療は、内視鏡治療、外科治療(手術)、抗がん剤を使った化学治療などがあります。粘膜層にとどまる早期の大腸がんであれば、内視鏡による切除で治すことができます。内視鏡の先端に専用の器具を取り付け、がんを切り取ります。粘膜層を越えて広がったがんが見つかった場合は外科治療となります。一般的な開腹手術以外に、最近では腹腔(ふくくう)鏡を使ってカメラが映す画像を見ながら、手術器具を操作する腹腔鏡下手術が増えています。この手術は腹部の傷が小さいため、患者さんの体の負担が少なく、術後も傷が目立たないという利点があります。

2013年4月3日水曜日

ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)


ゲスト/佐野内科医院 佐野 公昭 院長

ピロリ菌について教えてください。
 ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)は胃の中にいる細菌です。1983年にオーストラリアの医師であるウォレンとマーシャルによって発見されました。彼らはこの功績により2005年にノーベル賞を受賞しています。
 胃には強い胃酸があるため、通常の菌は生息できません。しかし、ピロリ菌は特殊な酵素を利用し、周辺の胃酸を中和することによって身を守っています。
 日本では約3500万人がピロリ菌に感染していると推定されています。ピロリ菌の感染率は衛生環境と相関すると指摘され、若い世代の感染率は急速に低下しています。ピロリ菌の感染経路はまだはっきり解明されていませんが、経口感染が主な経路と考えられています。
 ピロリ菌に感染すると胃に炎症を起こして慢性(萎縮性)胃炎となったり、胃・十二指腸潰瘍を繰り返したりします。また、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病などの病気や胃がんの発生にも関係していることが分かってきました。

ピロリ菌の除菌について教えてください。
 ピロリ菌の除菌に関するガイドラインでは、ピロリ菌関連疾患の治療のため、全ての感染者に除菌を勧めています。除菌により潰瘍の症状の改善や再発の予防、胃がんの予防に効果が期待されているからです。
 除菌が保険適用となるのは、胃・十二指腸潰瘍などの病気にかかっている場合に限られますが、新たに「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」でも除菌できるようになりました。ピロリ菌に感染していること、内視鏡検査により慢性胃炎の所見があることの両方を確認することが条件になります。
 除菌は胃酸の分泌を抑える薬と二種類の抗生物質を、朝と夕の一日二回、一週間続けて服用して行います(一次除菌)。下痢や味覚異常などの副作用が出る場合もありますが、軽微なものがほとんどです。この方法で約80%の人が除菌に成功します。失敗した場合には抗生物質の種類を変えてもう一度治療(二次除菌)します。どちらも治療して4週間以上の期間をあけて除菌が成功したかどうかを確かめるための検査を行います。
 なお除菌に成功すると胃がんになる危険性は減りますが、リスクがゼロになるわけではありません。早期のがんが見つかることもありますので除菌後も定期的な検査は受けた方がよいでしょう。

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