2013年3月27日水曜日

適応障害


ゲスト/医療法人社団五稜会病院 千丈 雅徳 院長

適応障害について教えてください。
 精神科を受診される方々のお話を診察室で聞いただけで、「適応障害」と診断することは決して容易なことではありません。職場や生活環境が問題となり、多くは人間関係が絡みますので、患者さん本人だけの発言で診断を下すことは困難なことがあります。国際的に用いられている診断基準を大ざっぱに見ると、以下のようになっています。
 ①大きく・継続的で・反復的なストレスが発症の原因で、そのストレスを受けてから3カ月以内(あるいは1カ月以内)に情緒面、行動面で症状が発生する。 ②ストレス因子と接した時、非常な苦痛・仕事や生活に著しい障害が起きる。 ③不安障害や気分障害、うつ病などの既存の病気や死別反応が原因ではない。 ④ストレス因子が排除された場合、半年以内に寛解する。
 これらをみると分かるのは、自分の内面ではなく、自分の周囲が障害の原因となっていることです。精神疾患の区別の方法として、理由が明確ではない内因性、頭部のけがやホルモンバランスの乱れといった原因が明確な外因性、精神的ストレスが問題となる心因性の三つに分けられますが、この分類にしても、内因性は体質や遺伝によるかもしれないと考えることが多く、世界中の診断の流れとして、精神障害は自己の心を問題としない、精神障害の原因を外部に求める風潮が強くなっています。そして、治療の大原則は環境調整ということになります。病気の原因となっているストレス因子を除いたり、軽くしないことには症状が再発する可能性が高いので、医師から「適応障害」という診断が出ると、関係者はストレス状況そのものを改善する必要に迫られてきます。しかし、それをできるゆとりのない環境が多いのが現実です。
 このような社会の流れの中で私が一番大きな問題として感じているのは、現代社会では仕事が重視され、家族のだんらんは2番目以下になることです。職場に適応できないことはすぐに問題となりますが、職場に適応しすぎて私的生活の充実をおろそかにすることも問題につながります。社会に適応できるかできないか以前の問題として、自分が自分であるということが大切です。
 また、もっと根本的には、一人でいられないという問題があります。一人で一日中携帯をいじっているのは、一人でいることではありません。一人でいるということは、孤独になることです。そして、孤独のつらさを我慢する忍耐力を培うこと。例えばインドで活動した故マザー・テレサは多くの仲間がおり、尊敬に値することをしました。しかし、彼女は孤独の中で自らの非力を知りました。そして彼女は神にすがり、力を得ていたということです。
 私の患者さんの中にも、大きなストレスにさらされ、打ちのめされて病院を受診しますが、徐々に劣悪な環境に置かれたからこそ、自分の弱さが分かった、これからはささやかなことでも感謝して生きてゆこう、眼の前の小さな事を精一杯無我夢中になってやり遂げてゆこうとおっしゃる方がいます。そんなとき私は、精神科医の立場を超えて、素晴らしいと拍手を送りたくなるのです。

2013年3月21日木曜日

歯科治療とアンチエイジング


ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 院長

歯科治療におけるアンチエイジングとはどういったものですか。
 近年、アンチエイジング(抗加齢)という言葉をよく耳にするようになりました。化粧品や健康食品などに目立ちますが、単に「アンチエイジング=美容」ではありません。いつまでも若さと健康を保ちながら、生き生きと年齢を重ねていくという考え方を表しています。加齢による疾患を予防・治療するアンチエイジング医学という新しい分野の医療も普及しつつあります。
 現在、医療の最前線では口腔(こうくう)と全身の関係が重要視されていますが、それはアンチエイジングの観点からも同じように考えられます。口の健康が失われると、食事や会話など日常生活に支障を来たし、老化のスピードが早まるといわれています。例えば、しっかりかめないと、食べ物をおいしく味わうことができなくなり、食生活の質が低下します。また、口臭が気になったりして、対人関係に自信を持てなくなることもあります。
 厚生労働省と日本医師会では、80歳で自分の歯を20本保つことを目標にした「8020運動」というキャンペーンを展開しています。アンチエイジングに基づく歯科治療は、それをさらに一歩押し進めて、歯を含む口腔全体の若返りを図り、積極的に老化防止を実践しようというものです。

かみ合わせが悪いと口や体にどのような影響がありますか。
 かみ合わせが口腔の老化、全身の老化に与える影響は大きいです。かみ合わせの悪い状態が続くと、顔の特定の筋肉が疲労し、顔のゆがみや表情の不自然さ、口元のしわやたるみにつながります。首の筋肉や頭を支えるさまざまな筋肉にも負担がかかるので、肩こりや腰痛、耳鳴り、片頭痛といった、一見歯とは関係のなさそうな症状を引き起こす場合もあります。また、かみ合わせが乱れていると、歯磨きがしにくくなり、虫歯や歯周病になるリスクが高まります。さらに、よくかめなくなると、食べ物の消化を助ける唾液の分泌量が減るため、胃腸にも大きな負担をかけることになります。
 見た目の美しさだけではなく、機能の回復を目指すのが矯正治療です。「今からでは遅いのでは?」とおっしゃる方も多いですが、治療を始めるのに遅すぎることはありません。以前にも増して、成人の方やご年配の方が矯正を始められるケースが増えています。まずは専門医に気軽に相談してみてください。

2013年3月13日水曜日

大腸がんの予防


ゲスト/琴似駅前内科クリニック 高柳 典弘 院長

大腸がんの予防について教えてください。
 わが国における大腸がんの死亡者数・罹患(りかん)者数はがんの中でも上位にあります。女性のがん死亡原因の1位、男性の3位となっており、罹患者数は男女ともに2位です。
 国内外の研究結果などから、大腸がんの“確実”な危険因子(リスクファクター)として、以下のようなことが挙げられています。
 ①親や兄弟など直系の家族に大腸がんの人がいる(家族性大腸腺腫症、遺伝性非ポリポーシス性大腸がん)②肥満(特に男性の結腸がんリスクが高まる)③喫煙の習慣 ④大量飲酒の習慣 ⑤牛、豚、羊などの赤肉、ベーコン、ハム、ソーセージ、サラミなどの加工肉の過剰摂取 ⑥運動不足(特に男性の結腸がんリスクが高まる)
 一方、大腸がんの予防法として最近発表された複数の大規模な研究結果から、これまで“確実”とされていた野菜や、“可能性あり”とされていた果物の摂取については、予防的な関連が“認められない”“可能性を示唆する”という結果に変更され、“確実”な予防法は「運動」であるということが証明されています。また、大腸がんと診断された治療中や治療後の患者さんにおいても、運動が死亡率を低くすると報告されています。

具体的にはどのような運動が適していますか。
 歯を食いしばって頑張るのではなく、笑顔が保てる程度に無理なく体を動かす「ニコニコペースの有酸素運動」、やや早足で歩くかゆっくりとしたジョギングなどが勧められます。仕事中でもよく体を動かせば、がんのリスクは低下するので、それほど構えた運動である必要はありません。運動の種類より、むしろ運動する時間や運動を継続することが重要です。毎日1時間ぐらい元気に歩き、週に1度は汗が出るような適度な運動を行うのが効果的です。運動嫌いの人でも、家事や掃除、庭づくり、サイクリング、水泳など、何でも良いので、とにかく毎日1時間ぐらいは体を動かすよう心掛けてください。テレビや机の前に座って、一日中ほとんど体を動かさない、そういう生活がよくありません。
 大腸がんは早期発見・治療ができれば、治癒率が高いことが知られています。二次予防として40歳を過ぎたら、便潜血検査を中心とした大腸がん検診も定期的に(年に1回が目安)受けることも忘れないようにしましょう。

2013年3月6日水曜日

関節リウマチ患者の妊娠・出産


ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチ患者の妊娠・出産について教えてください。
 関節リウマチの患者さんの約3割は20〜30代に発症しています。女性に多い病気であるため、治療中の妊娠・出産は人生の重大な問題となります。
 関節リウマチは妊娠中に症状が軽くなり、産後に悪化する傾向があるため、かつては妊娠に否定的な見解も少なくありませんでした。しかし、近年の医療の進歩に伴い、治療薬の種類が増え、効果の高い薬も登場し、病気を上手にコントロールしながらの妊娠・出産が可能と考えられるようになってきました。
 患者さんのもう一つの大きな不安は、妊娠経過や胎児への薬の副作用です。関節リウマチの薬の中には、妊娠経過や胎児に悪い影響を与える可能性のある薬があります。しかし、そのような禁忌薬を避けたり、妊娠を希望する一定期間前に服用を中止することによって、妊娠・出産は十分に可能です。また、患者さんが妊娠に気付かずに禁忌薬を飲んでしまったケースでも、ただちに出産を諦める必要はありません。リスクの高低を確認できれば、科学的根拠に基づいた出産の助言もできますので、まずは主治医とよく相談してください。

関節リウマチの薬と妊娠について専門家と相談できる窓口はありますか。
 2005年10月に厚生労働省の事業としてスタートした「妊娠と薬情報センター」があります。専門の医師や薬剤師が、関節リウマチの薬以外にも、風邪やインフルエンザの薬、てんかんやうつ病などの薬、アレルギー薬など、妊娠中の女性の服薬に関する相談に当たっています。情報センターでは世界各地から論文を集め、寄せられた相談に対応。日本では妊婦への影響が検証されていない薬でも、過去にどのような事例が報告されているかなどの情報を提供しています。また、相談者から承諾が得られれば、妊娠中や出産後の状況などを報告してもらい、データの蓄積や分析を進めています。
 関節リウマチの治療を続けながら、妊娠・出産を迎えるためには、薬を上手に使うことが大切です。根拠のない不安で妊娠を諦めたり、使うべき薬を使わずに悪化させたりするのは最悪のケースといえます。悩みのある方は、情報センターに相談してみるのもいいでしょう。詳しくは情報センターのホームページhttp://www.ncchd.go.jp/kusuri/をご覧ください。

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