2010年11月24日水曜日

「網膜上膜」

ゲスト/札幌エルプラザ 阿部眼科 阿部 法夫 院長

網膜上膜とはどのような病気ですか。
 網膜上膜は、網膜の比較的中心部に膜が張って、物がゆがんで見えたり見づらくなったり、かすんで見えたりする病気です。セロハン黄斑症、網膜前膜、黄斑上膜、黄斑前膜などとも呼ばれ、これらはすべて同じ病気です。ポピュラーな眼疾患とはいえませんが、健康診断の眼底検査などで偶然に発見されることも珍しくありません。遠くのビルを眺める時、直線部分が波打っているように見えたり、テレビに映る人物の輪郭がゆがんで見えたり、また、文字を読む時も見誤りが多くなるなど、普段の生活にも不便を感じるようになります。ただし、両目で見ていると、良い方の目が優先され、見づらさを感じない場合があるので、片目ずつ確認する必要があります。
 加齢に伴い、眼の中の硝子体が縮むことが原因で、眼底の中心に近い網膜の上に膜が張り付いたような状態になります。それが収縮すると、しわが寄り、物がゆがんで見えづらくなるのです。発症の多くは40歳以降に見られますが、はっきりとした発生頻度は不明です。進行が早く、約1年で眼底に広がってしまうほど悪化するケースもあります。
 網膜上膜と同様の症状を呈する病気に、加齢黄斑変性や黄斑円孔など失明の危険性があるものもありますので、専門医による詳細な診断が必要です。

網膜上膜の治療について教えてください。
 点眼や内服薬で有効なものはありません。自覚症状が軽度の場合には経過観察をします。自然に治癒するケースもありますが、症状が進行し、ゆがみやかすみが強くなり、視力が低下すると硝子体手術を行います。長らく治療の困難な疾患でしたが、硝子体手術の進歩により手術が可能になりました。
 長寿社会の今日、完全な失明には至らないまでも、文字が読みづらくなるような“社会的失明”は避けなければならないリスクです。そのためには早期発見・早期治療が原則となります。眼疾患には自覚症状のないものも多いので、人間ドックや健康診断の眼底検査などを積極的に受診しましょう。若い人も眼鏡作成時の検査、コンタクトレンズの検査などをきちんと受ける習慣を付けることが大切です。また、定期的な検査を継続できるよう主治医を決めておくことをお勧めします。

2010年11月17日水曜日

「インフルエンザ」

ゲスト/医療法人社団 大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 院長

インフルエンザとはどのような病気ですか。
 インフルエンザは、毎年、冬から春先にかけて大きな流行を繰り返すインフルエンザウイルスによる感染症です。昨年は新型インフルエンザが猛威を振るい、社会も大混乱したことが記憶に新しいと思います。インフルエンザウイルスは患者さんの鼻汁や痰(たん)に潜んでいて、くしゃみや咳(せき)とともに空中に飛び出します。インフルエンザウイルスは温度が低く、湿度が低いほど長時間生存し、感染する力を保持します。そのため、寒く、乾燥するこれからの季節ほどまん延しやすいと考えられています。
 インフルエンザの症状は、ほかの風邪のウイルスに比べて、全身の症状が強いことが特徴です。高熱、頭痛、関節痛、全身のだるさなどが体を襲います。特に抵抗力の弱い乳幼児や高齢者が重症化しやすく、死亡する可能性もあります。昨年の新型インフルエンザでも、世界中で多くの人が犠牲になりましたが、日本の新型インフルエンザの死亡率は先進国の中では最低でした。これは日本の国民皆保険制度のおかげで、発症早期に病院を受診でき、また初期からタミフルやリレンザなどの抗ウイルス薬を使用できたことなどによります。

インフルエンザの予防と治療について教えてください。
 インフルエンザの予防にもっとも有効な対策はワクチンの接種です。今シーズンのインフルエンザワクチンは,昨年発生した新型インフルエンザと従来の季節性インフルエンザ(A香港型)とB型の3つの株が混合された3価ワクチンを使用して実施されています。
 昨年は約2000万人の方が新型インフルエンザに罹患しましたが、今年も再度,新型インフルエンザが流行する可能性は十分にあり、また昨年流行しなかったA香港型の流行も予想されますので、自分自身や家族を守るためにもワクチンの接種をお勧めします。
 誰にでも手軽にできるインフルエンザの予防法が手洗いとうがいです。手洗いは手指など体に付いたウイルスを除去するために有効であり、うがいは口の中を清浄にします。どちらも感染症予防の基本ですので,日ごろから徹底するように心掛けましょう。万一、38℃以上の高熱や関節痛などインフルエンザ症状がでてきたら、病院を受診してください。ウイルスの増殖を抑える薬を処方しますが、早いほど効果的です。

2010年11月10日水曜日

「最新の糖尿病治療薬」

ゲスト/医療法人社団 青木内科クリニック 青木 伸 院長

最新の糖尿病治療薬について教えてください。
 糖尿病治療薬の最近の進歩は目覚ましいものがあります。飲み薬では、高血糖の時にだけすい臓からインスリンを分泌させ、正常血糖へ下げる「DPP-4阻害薬」があります。この薬は理論的には低血糖を起こさず治療できる新薬です。糖尿病の平均血糖の指標であるHbA1cを下げる効力は1.0%前後。この薬と同じ系統の注射薬も登場し、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれています。この注射薬のHbA1cを下げる効力は1.6%前後。現在は1日1回の注射が必要ですが、将来的には1週間に1回で済む注射薬も出る予定です。この系統の注射薬は、すい臓のインスリンを出す細胞を保護し、インスリンの分泌を弱らせない作用も持ち合わせているといわれています。
 一方、インスリン注射薬に眼を向けると、「持効型インスリン(1回の注射で24時間効果を持続する長時間作用型インスリン)」があります。飲み薬の治療が効かなくなる症例でも、飲み薬をそのまま服用しながら、1日1回の持効型インスリンの注射を加えると血糖が改善する症例もあります。「混合型インスリン」は、持続型インスリンと超速効型インスリンの合剤ですが、超速効型インスリンの含有率が50%〜70%の製剤が最近使用できるようになりました。食後血糖の高い症例を治療するのに便利なインスリンです。

糖尿病の治療について教えてください。
 糖尿病の治療が良好といえる目安はHbA1cが6.5%以下になっている場合です。糖尿病の患者さんの約半数が高血圧と脂質異常症(高脂血症)を合併しているといわれています。糖尿病を合併した高血圧の治療はとても重要で、血圧の治療目標値は130/80mmHg以下です。自宅で簡易血圧測定器を使用して治療に役立てる方法もあります。この場合使用する測定器は、指先や手首に巻くタイプのものではなく、上腕に巻くタイプのものをお勧めします。脂質異常症の治療目標値は、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が120mg/dl以下です。以上のようなさまざまな基準値を長期間保てば、眼底出血(失明)、腎臓の悪化(透析)、足の潰瘍(かいよう)・壊疽(えそ)による足の切断など糖尿病に由来する重症の合併症にならなくて済みます。それ以外にも脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などの予防にもつながります。

2010年11月4日木曜日

「肺炎球菌とワクチン」

ゲスト/産科 婦人科 はしもとクリニック 橋本 昌樹 医師

肺炎球菌とはどのような菌ですか。
 肺炎球菌は細菌の一種で、その名の通り肺炎を引き起こす菌です。肺炎は高齢者に問題となっていますが、今回は子どもの病気についてお話します。生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんからもらった抗体による免疫で、さまざまな菌から身を守っていますが、肺炎球菌に対する抗体は生後3カ月程度でなくなってしまいます。その一方で、幼稚園・保育園で集団生活をしているほとんどの園児の、のどや鼻の粘膜から肺炎球菌が見つかっています。
 肺炎球菌が起こす病気には菌血症、肺炎、髄膜炎などがあり、また急性中耳炎の原因にもなっています。特に問題となるのは髄膜炎で、それは死に至ることのある疾患だからです。髄膜炎にかかると、発熱、授乳困難、嘔吐(おうと)、けいれんなどの症状が出ます。また大泉門(頭蓋(ずがい)骨の間にあるやわらかい部分)が炎症で隆起します。大人に比べて子どもでは症状の進行が早いため、とにかく速やかな治療が必要になってきます。
 治療には、細菌に有効な抗生物質を使います。しかし近年、耐性菌によって抗生物質が効かない菌も増えていますので、治療は難しくなっているのが現状です。

肺炎球菌の予防にはワクチンが効果的と聞きましたが。
 日本では毎年約1000人の子どもが細菌性の髄膜炎にかかるといわれており、肺炎球菌による髄膜炎の死亡率は10%、マヒや精神障害などの後遺症が残る率も30〜40%と非常に高くなっています。
 2007年に世界保健機構(WHO)は、肺炎球菌ワクチンの有効性と安全性を高く評価し、加盟各国に子どもたちへの定期接種を勧告しました。現在、世界100カ国以上でワクチンが承認され、45カ国以上で定期接種化されています。
 日本では、今年の2月に小児用の肺炎球菌ワクチンが初めて販売され、任意接種ですが使えるようになりました。このワクチンは、肺炎球菌の7種類のタイプに効果があることから「7価ワクチン」と呼ばれており、肺炎球菌の70〜80%に有効であるとされています。また、現在国内では、より多種類のタイプに効果のある新しいワクチンの開発も進んでいます。子どもたちにとって福音となる、これらのワクチンが社会に広く普及することが望まれます。

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